映画レビューでやす

年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

2018年 邦画ベスト(個人賞)

★【総括】

 実際は監督賞も脚本賞も是枝監督が1位だと思うが、あえて外した結果、監督はやはり一大ブームを確かな実力と地道な努力で積み上げた上田監督に、脚本は原作を超えた世界観でシネフィルとしても圧倒的な完成度の濱口監督になった。

その他、中堅の白石監督や吉田監督はそれぞれ2作品ともに挑戦的かつエンタメとして優れていた、一方で新世代の三宅監督「きみの鳥は」や関根監督「生きてるだけ」も新しいセンスを感じさせてくれた。全作品外れなしの吉田玲子の脚本はどこまで続くのか?

俳優では、2世ながら確かな実力を確立した柄本佑安藤サクラ夫婦や趣里、ベテランながらキャリアベストの岸部一徳木野花原日出子、異なる2作品ながら新人離れした木竜麻衣、子役たたき上げ天才コンビの松岡茉優伊藤沙莉 に唸らされた。

 

 

【監督賞】


上田慎一郎カメラを止めるな!

誰が見ても笑える分かりやすさと細かい伏線回収を畳み掛けるカタルシスの構成・脚本。映画の制作過程そのもの、役者・スタッフ全員の熱意を作品とリンクさせた上で、完全なエンターテインメント作品として仕上た才能は末恐ろしい。 

三谷幸喜と内田けんじが嫉妬しているはず。

 

吉田恵輔愛しのアイリーン」「犬猿

両作ともに完成度の高さ、作家性とエンタメのバランスが良く、笑いと怖さとブラックさの成立、剥き出しの人間の醜さとか、裏腹に根源的なコミュニケーション不全みたいなものも描かれていて最高。

江上、筧、イアン、木野など女性キャスティングのセンスと結果も完璧。

 

濱口竜介寝ても覚めても

商業デビューも気負うことなく、意表を突く予測不可能な展開、物語に抑揚をもたらす技巧的な撮影、要所にユーモアを交えながら登場人物の心の揺らぎを瑞々しく紡ぎ出す洗練された語り口など新しい恋愛人間ドラマの傑作。

濱口メソッドを確立し、間違いなく日本を代表し世界で賞を獲れる期待大。

 

(次点)

白石和彌孤狼の血」「止められるか、俺たちを

一番ヤバい映画を撮る男として両作とも挑戦/刺激的かつエンタメな良作だが、惜しむは「サニー/32」で減点、同様に瀬々監督も「有罪」で減点。

山田尚子リズと青い鳥

 こだわり抜いたカメラ位置やキャラクターの動き全てを、感情の機微と言葉、音楽や効果音とシンクロさせたり意図的にズラしたり、緻密な設計に感嘆。

 

 

脚本賞


濱口竜介田中幸子寝ても覚めても

原作の持つ魅力を120%引き出してオリジナリティを加え、言葉や動きの連動性・つながりすべてのプロットが緻密に論理的に計算されている。

ある種の生々しさとフィクション、それを超えたファンタジーが奇跡のように融合し、前作5時間越えのハッピーアワーでやったことを見事2時間に集約している。

 

②吉田玲子「リズと青い鳥」「若おかみは小学生!

両作ともにキレキレ、物語の芯を伝えるために最低限のエッセンスのみ抽出した無駄のない省略により、寧ろ更に面白くなるという超絶技巧。

説教臭くない絶妙なバランスで語られる職業観と死生観、根本たる部分を丁寧に感動的に描き、大人は号泣、子供が飽きないよう90分強でまとめる手腕。

 

③野尻克己「鈴木家の嘘」

実体験だけに説得力はもちろん、所々笑えるネタを入れ、現在と過去を行き来しながら、主題の重さを分散させている。

人間の持つ愚直な思いやりや愛憎・怒り、家族の絆を表現しながら、自殺した謎の答えを探し求めるミステリー要素も巧みに織り込み、引きつけられた。

 

(次点)

小泉徳宏ちはやふる-結び-」

2時間強の中で新たな登場人物やカルタ紹介、2つの運命歌とアニメ挿入の意味を的確に連動させながら、前2作を踏まえたカタルシスまで見事に集約。


吉田恵輔犬猿」「愛しのアイリーン

セリフと雰囲気だけで観る側に十分に想像させ入り込ませる手腕は一級、様々な状況の外面と内面の矛盾やブラックな笑いを描かせたらいま日本一。

 

 

【主演男優賞】


役所広司孤狼の血

頭のネジが飛んでる時の演技はホントに怖いし、最期の姿まできちんと演じている。

その奥に何を考えているのか分からない深さを内包しながらの振り切りは見事で、見終わった後に正義って何?って考えさせられる。殿堂入りでもよい。

 

柄本佑きみの鳥はうたえる」「素敵なダイナマイトスキャンダル」「ポルトの恋人たち~時の記憶」

"僕"のキャラは完全に一致していて、ダメな奴ながらときどき覗かせる素の優しさ、不安を享楽でごまかす臆病さなど人間くささをリアル感たっぷりに、感情移入できないと思わせるざらついた演技がベスト。他の2作も自然体で味わい深い。

 

東出昌大寝ても覚めても」「菊とギロチン

人の好い部分と得体の知れない部分を活かし、外見はそっくりだが中身はまったく異なる人格をニュアンス豊かに見事に演じ分けている。

菊ではちゃらんぽらんさとカリスマ性を見事に体現(上滑りも役にハマってる)

 

(次点)

安田顕愛しのアイリーン

原作とは見た目は異なるが、難しい人物像をベストな形でオーバーアクトとは質の違う佇まいの自然さ、本能欲求を哀しくも可笑しく体現する目が素晴らしい。

 

山崎努モリのいる場所

力むことを一切しない仙人役者同志である樹木希林との初共演にて最後を堪能、くせ者芸術家を杖の使い方や食べる仕草などリアルに人間的に演じた。

 

 

【主演女優賞】


安藤サクラ万引き家族

複雑な背景を背負った内面をグラデーションのように母性による変化と連動していく、尋問室でのやりとりと声にならない泣きの演技は異次元レベル。

「捨てたんじゃない、拾ったの」、希林さんからの継承とも考えると感慨深い。。

 
②木竜麻生「菊とギロチン」「鈴木家の嘘」

新人賞は総ナメ当然、菊の体当たり役もいいが、鈴木家の想いを抑える姿、耐えきれず吐き出される時、特にワンカット長回しで兄に対して手紙を読むシーンは圧巻。

間違いなく今後日本を代表する女優になるはず。

 

趣里「生きてるだけで、愛」

何をしてもメンヘラクズ女にしか見えない、虚ろな瞳からの絶望している心境、虚構と現実の境界線が曖昧に本音をぶつけあいから暴走していく様、身体のすべてを使い切った一世一代の演技に参った。

 

(次点)

黒木華日日是好日」「来る」

日日は20歳から40代までの自然な精神的成長を(横顔儚すぎ綺麗すぎ)、来るは段々と歪みながらの闇落ち笑顔で人間が一番怖いことを表現。


南沙良蒔田彩珠志乃ちゃんは自分の名前が言えない

思春期特有の緻密で繊細なセリフまわし、ふっとした時にでる言葉の美しさ、歌も泣き顔も魂の慟哭も素晴らしかった、今後が楽しみ。

 

 

助演男優賞


松坂桃李孤狼の血

観客と一体となって変貌していく悲壮感や狂気はかなり見応えあり。役所広司に一歩も引かない目線のやりとりや、最後の覚醒して死人のような眼差しと表情で殴り続けるシーンは圧巻。他にも主演だが「娼年」「不能犯」でのエロさ・色気・危うさなど幅広さも見事。

 

②渋川清彦「菊とギロチン」「止められるか、俺たちを」「泣き虫しょったんの奇跡」「パンク侍、斬られて候」 榎田貿易堂

欠かせないバイプレイヤーとして様々な作品で飛躍、飄々としつつ一貫して女力士達を守り続けるオイシイ役、定番の危ない役も含め存在感・安定感は抜群。

 

岸部一徳「鈴木家の嘘」「空飛ぶタイヤ」「北の桜守

味のある優しいおっさんも腹黒悪役もならでは、鈴木家のソー〇のシーン含め、大きな表情や動き無しでの可笑しみと背中で語る哀しみの表現は見事。

 

(次点)

塚本晋也「斬、」

一線を越え愉楽に身を委ね続ける浪人の変態さ、逝った表情の危なさが見事。出演、製作、脚本、撮影、編集、監督と1人で6役は凄すぎる。


染谷将太きみの鳥はうたえる」「泣き虫しょったんの奇跡」「パンク侍、斬られて候

一秒黙ったり、カラオケで人の歌を一緒に口ずさんだり、日常の何てことないニュアンスの表現、彼特有の寂し気・切ない目線は泣きそうになった。

 

 

助演女優賞

 

殿堂:樹木希林万引き家族」「日日是好日」「モリのいる場所

海辺での最後のシーンと聞こえないセリフが現実とリンクして涙。徐々に老けゆく感じ、深みを感じる所作、普遍的な言葉を話しているのに重みが違う。

自然体を超えた極地に達した唯一無二の存在でした、まだまだ見ていたかった。。

 

松岡茉優万引き家族」「blank13」「ちはやふる-結び-」

新境地での魅せる更なる飛躍、希林さんとの絡みや、きちんと見せるエロや風俗店での一連のやりとりシーンは素晴らしい。

居場所を求める一人違った寂しさを安定のセリフ回し・天才的な間の取り方や眼の動き・表情で表現。

 

木野花愛しのアイリーン」「母さんがどんなに僕を嫌いでも」「十年 Ten Years Japan」

同率1位でもいい、執念・情念・憎念の凄みと愛し過ぎる狂気とその裏側に隠されたものをここまでやるかというほど鬼婆役を超えていた、圧巻の一言。

 

江上敬子犬猿

お笑いコンビのニッチェとして飛び道具以上に役そのもの演技が上手くてビックリ、コメディ要素を引き受けながら、間合いや喜怒哀楽の表現が見事。

 

(次点)

原日出子「鈴木家の嘘」

今までの母役の中でもキャリアベスト、行き過ぎた動物的な母性の感じ、のほほんとしながら深い秘めた愛情・狂気のシーンの入り込みは心震えた。


伊藤沙莉寝ても覚めても」「blank13」「パンとバスと2度目のハツコイ」「榎田貿易堂

どんな作品でも周りの俳優と化学反応を起こしながら自在に作品に溶け込み、伊藤沙莉ならではのキャラクター造形で作品に奥行きを与える天才助優。