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2018年 洋画ベスト(個人賞)

 ★【総括】

監督は、ひたすら異形・多様性への愛をテーマに描き続き、ようやく時代が追いついたのかアカデミー賞を獲得できたデル・トロに、脚本は見終わってあまりの完成度に呆然とし一度でいいからこんな脚本を書いてみたいだろうなあと思わせたマーティン・マクドナーになった。

その他、新世代の監督ルカ・グァダニーノデヴィッド・ロバート・ミッチェルショーン・ベイカーはチャレンジ精神旺盛な意欲作で、次作が楽しみで仕方ない。

また、テイラー・シェリダンヨルゴス・ランティモスの脚本は安定の完成度。

 

俳優は、ベテラン勢では引退表明しているダニエル・デイ・ルイス、成り切りゲイリー・オールドマンや新機軸のウィレム・デフォーダイアン・クルーガーはキャリアベスト。中でもフランシス・マクドーマンドサム・ロックウェルにはまさに魂が震えた。

若手では、美しき演技派のティモシー・シャラメや自然体過ぎる天才子役のブルックリン・プリンスに圧倒された。

 

 

【監督賞】

 

ギレルモ・デル・トロシェイプ・オブ・ウォーター

ホラーやヒューマンドラマやファンタジー、ラブストーリー全てが詰まったキャリアの集大成。

映画的なカメラワーク、照明、美術、世界観の構築や官能的・情熱的・叙情的な演出が素晴らしく、ずっと深い海の中にいるかのような感覚。ギリシャ神話へのオマージュも考察するほど深い。

ずっと愛を注いできた怪獣で(エログロも描いて)アカデミー賞を獲って価値観の多様性を認められたのには勇気をもらった。

 

マーティン・マクドナースリー・ビルボード

田舎町の閉鎖空間の中で、復讐の連鎖の鎖を焼き切り、ふと訪れた和解や許しの地平へ抜け出そうとする姿。

「怒りは怒りを呼ぶ」だけど「赦しも赦しを呼んでくれる」罪と許しのメッセージ性・テーマ性を全面に出して描写すると説教臭いチープな作品になるところを、思い通りにいかない現実と、善人と悪人をステレオタイプに描かず、各登場人物を多面性を持つリアルな人間の本質を描くことで説得力ある作品にした。

 

ルカ・グァダニーノ君の名前で僕を呼んで

北イタリアの陽気、木漏れ日、光と影、果物や色の鮮やかさ、水、サングラス、自転車。1カットが長くどれもが美しい風景絵画のようで印象的。

カメラワークのリズムとペースもよく、夏に始まり冬に終わる(色彩の変化も合わせて)描写と表情で人の心の中を映し出す。

最後の父の言葉は人間の根源的な美しさについて沁み入る感動。「自分の人生は自分だけのもの」「感情を抑えずに生きていくことが生きる事の喜び」

 

(次点)

 

デヴィッド・ロバート・ミッチェルアンダー・ザ・シルバーレイク

手の込んだ演出やストーリーは訳が分からないの連続だが、次の展開をどんどん期待させ、観客に謎を解かせる要素を残しておく、不気味さの中にポップでアートな感覚が散りばめられてて、心地よい映画体験をもたらしてくれる。

色んな映画・音楽からの引用が多くて、その選び方がセンス抜群で秀逸!引用元を理解するとより面白さが次々と増していく(特にリンチとヒッチコック)、ヤバい監督には違いない、次何を撮るのか楽しみ。

 

ショーン・ベイカーフロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

前作はiPhone撮影、今回はSNSで素人を探してキャスティング、カメラアングルも工夫し子供の目線の高さから観客に気づかせていく、実験的でも作品として成功しているのがすごい。

フロリダという土地柄をカラフルでPOPな色使いで表現しつつ、社会問題の貧困層生活をテーマに人物の繊細な感情とアート的な部分を社会メッセージにうまく落とし込んでいる

 

 

脚本賞

 

①マーチン・マクドナー「スリー・ビルボード

登場人物を善悪で割り切れないよう様々な角度から描写し、キリスト教(3の数字、野生の鹿、馬小屋など)、ミシシッピーやアメリカの政治や文化的背景・闇を様々なメタファーで散りばめて伏線も完璧に回収、ラストの余韻(終わりを説明しちゃいけない映画)に繋げる。

これをエンターテイメント作品として2時間で収めるのは凄すぎる神レベルの脚本、アカデミー脚本賞取れなかった理由が全く分からない。

 

ジアド・ドゥエイリ判決、ふたつの希望

人種や宗教など違いを認めつつも相手を一人の人間として受け入れる、いま世界が直面する問題を誰もが共感できるドラマで描いている。

会話がドラマを運んでいく感覚で、主人公2人の争いがまるで身近に起こっているように感じられる、法廷シーンでのやりとり含め緊迫感が全編に漂い、社会派のテーマながらエンタメ的な興奮と感動は巧みな脚本や演出によるもの。

 

アリ・アスター「ヘレディタリー 継承」

全く展開が読めず、何を見せられているのかの感覚、クラシックな伝統を継承しつつ、オープニングの見せ方や光での悪魔の表し方など斬新さを加えて、こんな邪悪な物語を思いつくとは恐ろしや。

各登場人物の設定が緻密に計算され家族のしがらみ・心のすれ違いを深くえぐり、破綻することなく全てのセリフ・話が最後の伏線に繋がっていき、説得力のある最高の恐怖の連続を生み出している。

 

(次点)

 

テイラー・シェリダンウインド・リバー」「ボーダーライン ソルジャーズ・デイ」

極限状態の均衡が続く中、変えられるものと変わらないものの狭間で何をするのか境界線を引くような問いかけ、主人公の言葉一つ一つが終わりが近づくと共に心に突き刺さってくる。

娯楽性と社会性の両面から心を揺さぶり、その事実を知る人を少しでも増やしていきたい熱い思いが伝わる脚本。ドアの開閉~回想シーンからラストへの展開の演出は神。

 

ヨルゴス・ランティモス「聖なる鹿殺し」

先が読めない不条理な物語は不協和音を奏で不気味さを増していき神聖にさえ見えてくる。次から次へと移り変わる支配権、死の恐怖を前に迫られる選択の数々を通し、正義の本質や推し量ることのできない人の業・命の重みを描いた脚本。

史上最狂のどれにしようかなの戦慄、ラストも実は暗示されていて導かれていたような、まだ終わらないはず。

 

 

【主演男優賞】

 

ティモシー・シャラメ君の名前で僕を呼んで

とにかくラストシーンの長回しが圧巻、永遠に続くかのような世界にたった1人残された空間で燃え続ける焚き火に、悲しみ・怒り・安堵・不安など感情の移り変わりを表情だけで語っていく。

彫刻のような顔と体の美しさ、若さと肌感、あの年頃の男の子特有の不器用さや気怠さ、思春期の脆さやエネルギーを繊細な演技でどこまでも深い余韻を残した。

 

ラミ・マレックボヘミアン・ラプソディ

最初は確かにこの人がフレディ?と思ったが、人懐っこい瞳、立ち方や手の仕草から寂しさ、悲しさ、儚さなど複雑な内面まで見事に表現しきっていて、いつの間にか本人にしか見えなくなってくる。

単なるモノマネでなく、マイクの握り方やライブの圧倒的なパフォーマンスの魅せ方はもちろん、完コピにいたる努力と計算し尽くされた演技に賛辞を送りたい。

 

ダニエル・デイ・ルイスファントム・スレッド

これで引退を表明しているキャリア最後のエレガントな演技。

天才的な仕立ての所作や手つきなどの技術だけでなく、完璧な母に育てられた完璧な緻密さ、神経質(なのに他人に対しては無神経)な感じを何とも繊細に表現し、観るものに嫌悪感すら感じさせる。

妻アルマとの不調和により自身の綻びが生じていく均衡のバランス表現がさすがの素晴らしさ。

 

(次点)

 

ゲイリー・オールドマン「ウインストン・チャーチル

メーキャップの力を除いても本人と全く分からない、チャーチルになることの凄まじさを見せつけてくれる。

実在の人物にもう一度息を吹き込み、史実だけではなく、型破りだが時にかわいらしさや弱さを見せたりどこか憎めない生身の人間味あふれるチャーチル像を作り上げ、どんどん引き込まれた。演説シーンの迫力・再現度は見事。

 

ホアキン・フェニックスビューティフル・デイ

作品のたびに変わる顔や体格、過去にトラウマを抱えた男を真実味と人間味をもっては演じるのはお手のもの。

今回は脂肪や筋肉も蓄えた髭面の中年男性という哀愁をもって、過去の記憶・PTSDに苦悩する繊細さ、荒廃した心と傷の深さ、残忍さの一方で失われていない優しさなどを、セリフ以外の細かい演技によって見事に表現している。

 

 

【主演女優賞】

 

フランシス・マクドーマンドスリー・ビルボード

暴力的で無鉄砲でありながら、観る側の感情に訴えてかけてくる人間的で深みのあるパフォーマンスは圧巻、新しい西部劇のようなハードボイルド・ヒロインの誕生! 

変人・奇人ぶりの中に垣間見える娘への後悔の念や弱さ・素の部分、不器用な力強さが諸刃の剣のような絶妙な感情表現のバランス、最早当て書きされたとしか思えないハマりぶりが素晴らしかった。

 

サリー・ホーキンスシェイプ・オブ・ウォーター」「しあわせの絵の具」「パディントン2」

序盤は40代という年齢でありながら無垢な少女を感じさせるチャーミングさ、物語が進むにつれ心の変化に合わせながら表情やいでたちに絶対的な強さと美しさが宿っていく。

言葉が話せない設定がより演技の良さを引き出して、繊細な目や表情の動き・身振り手振りだけで本当に豊かな感情を表現し、この人でしか出せない独自の魅力を発揮している。

 

ダイアン・クルーガー女は二度決断する

ほぼすっぴんで絶望にのた打ち回る姿はあまりにも壮絶、彼女の悲痛さがスクリーンからビンビンに伝わってきて、感情移入し過ぎて観ているのが辛くなってくる。

粗暴な中にも凛とした美しさで、悲しみ、怒り、戸惑い、様々な感情に翻弄されながら絶望から決断に至るまでを、人間らしさ・脆さや弱さをもって見事に演じていてキャリアベストアクト。

 

(次点)

 

マーゴット・ロビー「アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル」

今までの美しい・可愛い存在からの飛躍、プロデューサーも兼ねており意気込みが違う。

衣装や髪型、表情、スケーティング、フォーム、決めポーズを完璧に再現しており、徹底したトレーニングと集中力、見事な演技力で、憎たらしいが何故か嫌いになれない人間味あふれるトーニャ・ハーディングになりきった。イカれたヤンキー女の役をやらせたらNO.1

 

シアーシャ・ローナンレディ・バード

前作「ブルックリン」と同様、慣れ親しんだ環境から一歩外に出て、新たな世界に飛び込むヒロイン。

彼女が持つきれいな青い瞳の奥にある聡明さと強い意志、染まっていない透明感をベースに、観客それぞれが歩んできた個々の人生と共鳴し「私も同じ気持ち・経験をしたなあ」と青春を振り返させられるのが魅力であり強み。

 

 

助演男優賞

 

サム・ロックウェルスリー・ビルボード

序盤あそこまダメダメ感と嫌悪感を抱かせて、後半の周辺や行動に伴って変化していく表情や仕草などは完全に別人と思わせる変貌ぶり。目線のやり方でどこか強がっている様子や、不安、自信のなさみたいなのを表現している。

観客の心証がガラッと変わるだろう瞬間や大火傷した後のタバコの火の付け方とか演技のディテールが凄い。助演には収まりきれない存在の大きさ、完全に裏主人公だった。

 

ウィレム・デフォーフロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

史上最もウィレム・デフォーらしくないウィレム・デフォーとして最高。たかが管理人で何もできない中、子どもたちの危険を取り除き、トラウマを抱えないように騒動から引き離すだけ。

終始ポーカーフェイスでやる気のなさそうな管理人、でも時折溢れる背負ってきた哀愁の顔と背中、厳しくも奥底の優しい目を観ると泣けてくる。

万引き家族」でもそうだが、自分だったら何ができるのだろうか?

 

ウディ・ハレルソンスリー・ビルボード

街の人や部下に慕われていて家族思いの良いお父さんの裏側にある人間らしい弱さ・複雑な感情を見事に表現しきって、もはや顔芸とも言える不安に歪んで行く目元の表現は引き込まれた。

後半への重要なキーとなる、怒りを怒りで返すことはせず、彼なりの彼女への協力と、ディクソンへの手紙と、家族への愛の残し方が泣ける。

 

(次点)

 

リチャード・ジェンキンスシェイプ・オブ・ウォーター

この人の優しいモノローグの声から話が幕を開け、失業したゲイの哀愁漂うおじさんとして、主人公と生きにくい者同士寄り添いながら優しさと弱さを垣間見せる。

ヅラを被り歳をごまかし容姿も中身も必死でコンプレックスを隠そうとする姿が笑いと共感を呼び、友を見捨てられずヒーローを買って出る見事な演技で作品を成立させている。

 

アーミー・ハマー君の名前で僕を呼んで

典型的なアメリカ人らしさ、シンプルさ、乾いてそばかすっぽ、毎度短パンで足長過ぎ。

好意に気づいてしまった心の中の葛藤と思わせぶりで本音をあえて出さない繊細な演技、大人として一歩現実的な選択をせざるを得なかった苦悩を見事に表現。

 

 

助演女優賞

 

アリソン・ジャニー「アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル」

素顔と役で顔変わり過ぎで人間離れした雰囲気も怖いが、本人とそっくりで衝撃、さらに肩に乗るインコまで実話とはビックリ。

冒頭からこれはヤバいと思わせるスパルタぶりが最後まで徹底して続く、こんなに嫌に思われる鬼畜母役を演じられるのは見事。

愛情か虐待か娘の夢のためか自分の金儲けのためか、愛情表現が下手すぎるだけと思いたいが、最後の一番分かりにくいところで母の愛を期待させるところも面白い。

 

トニ・コレット、ミリー・シャピロ「ヘレディタリー 継承」

二人とも平成最後の?顔面力として記憶に残るはず、もはや顔芸。

母親はどんどん異常な事態に襲われ、絶叫するたび違うバージョン顔で怖いのだが、極め付けの精神崩壊の瞬間の表情変化は神がかっていて、本人自体がぶっ壊れたんじゃないかと思わせる怪演ぶり。

娘も画面に映るだけで怖い系で、あの顔で睨まれたら首を差し出さざるを得ない、よくこんな子いたなCGかと思って検索したら本人はとても可愛い子で少し安心した。。

 

③ブルックリン・プリンス「フロリダ・プロジェクト」

ドキュメンタリーかと思うほど、笑ったり泣いたり怒ったり全部偽りのない自然体の表情でこれまた天才子役、名前まで何もかも可愛い。

子供たちの無邪気な普段のシーンが本当に良くて、「あの人そろそろ泣くよ。私、大人が泣く時分かるんだ」というセリフなんか本当にうまい。

最後にきて泣くシーンはそれまでの色んな感情や状況が重なって、あまりにも自然だから感情移入して泣いてしまった。

 

(次点)

 

・オクタビア・スペンサー「シェイプ・オブ・ウォーター

キャリアの積み重ねもありお得意の彼女らしいキャラクターで、ファンタジー独特の世界観を現実に引き戻してくれる。

おしゃべりで世話焼きのどこにでもいるようなおばちゃんを自然体で演じているが、一方で、驚き、哀しみ、苦しみ、恐れと感情の振れ幅もすごい。クライマックスへの怒涛の盛り上がりは、この人の存在なしでは考えられなかった。

 

レスリー・マンビル「ファントム・スレッド

3人の中では実はまともな方だったのが不思議なくらい、最初は仕事と弟を溺愛する規律正しさに嫌な感じを醸し出していたが、徐々に母親代わりにはなれない哀しさと、凛とした佇まいと達観してるような感じが素敵に思えてきた。

ベテランらしく作品に合わせたエレガントさと完璧主義者ぶりが見事。