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「THE GUILTY ギルティ」★★★☆ 3.9

◆こめかみのアップと電話の音だけで、持続する緊張感と観客の想像力をフルに掻き立てる見事な脚本・演出。本当の「guiity」とは?

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88分のこの映画の7割が主人公のこめかみのアップで、全編に渡って緊急通報指令室のみで物語が展開し、「電話の音だけで誘拐事件を解決していく」というワンシチュエーション映画。

ひたすら、姿の見えない相手とのやり取りを見せ続けるため、観ている方は主人公が受ける電話のみで想像力をフル稼働して状況を把握しなければならない(観客一人ひとり違う想像・絵が浮かんでいるはず)。だんだん状況が分かってきたと思ったら覆される展開もあり、主人公の演技力と見事な脚本・演出で緊張感をキープしつつ凄く引き込まれ全然飽きることもなかった。

顔しか映ってないならラジオドラマでも十分では?とも思ったが、表情の僅かな変化、部屋内の移動や照明の変化などで、巧みに主人公の心情の変化を表していて映画ならではの良さが際立っている。

物事には複数の側面があり、様々な角度から見ないと全貌は分からない、緊迫した状況で聴覚のみに頼るしかない場合、最悪なケースを想像しがちで冷静な判断が出来なくなる。改めて、間違った正義感の怖さ、思い込みや断片的な情報だけで偏見的・感情的になることの危険さを感じさせられた。

もちろん音響の徹底したこだわりは凄くて、電話から聞こえるほんのわずかな音、声色やノイズ、自然・環境音の違いなど全てに演出の意図が込められている(アスガーが事件にのめり込んでいくほどに電話以外の周りの音が消えていく)。更に、狭い指令室の空間や構図の使い方、ライティングの切り分け、主人公アスガーの顔の映し方、カメラワークも見事に緊張感を持続させている。この映画の試写会では、観客全員に高性能ヘッドフォンを配ってよりリアルな環境で体験させたらしく、行ってみたかった・・

電話を使って事件を解決しようとするワンシチュエーションものは、他にはトム・ハーディの「オン・ザ・ハイウェイ その夜86分」やハル・ベリーの「ザ・コール 緊急通報司令室」、キム・ベイシンガーの「セルラー」、コリン・ファレルの「フォーン・ブース」、スペインの「リミット」などもおススメ。昨年だと、終始PC画面のみで展開される「search サーチ」(こちらは視覚・画面がメイン)も面白かったが、この手の映画はいかに短い時間で感情移入させ緊張感を保ちつつ最後までまとめきれるかが重要。

この「THE GUILT/ギルティ」は、ジェイク・ギレンホール主演(これは合ってる)で米リメイク決定済とのこと、ハリウッド版だと余計なモノを入れそうで、果たして北欧版ならではの静けさや暗さ・緊張感を出せるかどうか? 

 

※ここからネタばれ注意

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【(ネタばれ)ラスト・考察】

事前に期待し過ぎたせいもあるが、惜しむはオチが少し弱いかな。正直、見ている途中で何となく分かってしまい予想通り進んだので、個人的にはもうひと捻り欲しかったところ(オチが重要ではないのも分かっているが)。あと、主人公の過去の「guilty」と誘拐事件とのつなぎ方が少し唐突すぎて強引だった印象もあり、そこに至る必然性や丁寧な心理描写がもっと欲しかった。

この映画は基本はサスペンスでありながら、一人の男が罪と向き合うまで「ギルティ」になることを描いている。

アスガーは自分の犯した罪の自覚を無いものとしていたが、今回彼女を救うために自分の過ちを口に出し、初めて向き合い、そして本当の正義とは何かにようやく気付いた。ギルティとは罪の意識が存在すること、犯した過ちから目を逸らし別の誰かを救おうとしても結局それは埋め合わせでしかなく罪は贖えない。彼の独善的な正義感が更なる過ちを引き起こし、彼が再び罪を犯す寸前で、運命の巡り合わせが止める。他者を救済することで、自らも贖罪という自身の救済に至っていく流れは良かった。

最後も電話で締めるのも見事、彼が最後に電話をかけたのは誰だったのか、パトリシア?、冒頭の記者?、観る人によって答えが分かれそうだが、職場を去るアスガーの背中から感じられる人生と向き合う決意、彼に当たる光が扉の向こうの希望を表している。