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「天国でまた会おう」★★★★ 4.1

アーティスティックで絵本のような仮面舞踏会への招待、仮面の奥に秘められたものとは?「ya ya ya ya ya ya tear(破る・涙)♪」

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戦争で顔の半分を失った金持ちの息子エドゥアールと、同じく戦争で仕事も恋人も失った戦友アルベールが国家を敵に壮大な詐欺を行う物語で、いかにもフランス映画らしいエスプリの効いた可笑しくも悲しく美しい反戦映画。戦争で儲けたエスタブリッシュ層に対する復讐と同時に、エドゥアールの自分を拒絶した大物の父親との葛藤でもあり家族の愛を結びつける2つのストーリー。

原作者であるフランスの人気ミステリー作家ピエール・ルメートルが自ら脚本を書き、アルベール役のアルベール・デュポンテルが監督と共同脚本を担当していて、有名な原作をよくこんなに綺麗にまとめて映像化したなあと感心。(最初予告を見た時はジャン=ピエール・ジュネ監督の新作かと思った)。

一筋縄ではいかない重たい物語展開をコミカルな描写とユーモアあふれるセンスで、軽快なテンポとゴージャスな音楽で編み上げていて、フランス映画が好きな方には確実におススメ。フランスのアカデミー賞にあたるセザール賞で13部門ノミネート、5部門受賞の大ヒット作品なのに、日本ではあまり知られていないのが残念なくらい心に深く染みる人間ドラマとして一級品。

 

第一次世界大戦塹壕戦から始まるが、前半の戦争描写が予想以上に本格的にリアルに描かれていて痛々しい。その痛々しさが、後半の展開や登場人物の個性を際立たせている。戦争に参加させられ全てを失った人間が苦しい生活を強いられ、逆に戦争を推し進めた本来罰せられるべき人間が贅沢な暮らしをしているのはなぜなのか? 

そんな戦争の持つ愚かさや残虐性、理不尽さへの皮肉であふれていて、平和を掲げながら通りに将軍の名が付けられたり、凱旋門に刻まれる名が全て戦争を進めた軍人であることの矛盾を社会的メッセージとして訴えかけている。

 

もともと人間は「他人からよく思われたい」ために様々な仮面を被る生き物であり、体裁のために仮面をなかなか脱げず、ありのままの自分を出すことが出来ない。終盤で展開される親子のドラマは、”仮面”を外して本音で向き合っているからこそ、その衝撃的な結末含めて心に響く。

時代や社会に翻弄されながらも、他の誰かと傷付けあったり優しくしあったり影響し合いながら寄り添って生きていく、複数の主題テーマを前半に張られた数々の伏線が後半からラストにかけて巧妙に回収される見事な構成だった。

 

衣装や美術も素晴らしく映画全体が芸術品のような作り、特に奇想天外で様々な種類の仮面が美しく、その一つ一つのデザインの意味が深い。次々と切り替わる仮面が、言葉にできないエドゥアールの心情を見事に表現していて、後半になるに従い仮面もいよいよ人間らしいものから遠ざかってゆく。人物の顔、マスクとその奥にある眼だけに注目しても物語が分かるのが凄い。

縦横無尽のカメラワークはテンポも良く、少し間延びしそうなシーンも一切退屈せずに画面に釘付け。加えて自然光の使い方など照明関連も美しく、クラシック・ジャズの音楽含めて物語を彩り語る。エドゥアールの描く絵が、ほぼエゴン・シーレなのは何か意図があるのだろうか?

 

役者は、エドゥアールを演じたナウエル・ペレ・ビスカヤー(「BPM」の時もエイズ患者という難しい役柄を見事に演じていた)の仮面から覗く瞳と繊細かつ大胆な演技が素晴らしい。ほぼ仮面を被っている中、目だけで、悲しみ、怒り、怨み、愛、様々な感情が読み取れる。彼のエメラルドグリーンの瞳は本当に美しく、終盤で涙を流した瞳の美しさはこの世のモノとは思えない。

エドゥアールの通訳になる少女役のエロイーズ・バルステールも映画初出演ながら自然な演技で愛くるしい。プラデル中尉の徹底したゲスっぷりも良かった。おかげで戦争、不条理な社会への怒りが一層駆り立てられ、因果応報の結末の納得感が十分に感じられた。

 

※ここからネタばれ注意

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【(ネタばれ)ラスト・考察】

復讐劇としてはバランスも良く、多くが因果応報と思えるくらい腑に落ちる結末を迎えるので、切なくてもすっきりと納得できるのでは。

アルベールと新天地へ行くために落ち合う約束をしていたのに、バルコニーから身を投げるエドュアール。最後に父と再会し理解し合えて(父からの言葉「お前が正しかった。人は自由だ」)、今までの様々な呪縛から解放されたように美しいラストだった。違う人生を歩んで離れていても、言葉や態度で通じ合えなくても、親子のつながりは切れず、そこから始まってまたそこへ帰っていく。最後の仮面は永遠・不死の象徴でもある孔雀、過去からもモルヒネからも自由になって夜のパリを永遠に羽ばたいていく。

そして、冒頭のアルベールの軍法会議シーンへのつながりの展開も見事。最後の取り調べのシーンからの旅立ちも、未来への希望が託されていて、「天国でまた会おう」・・最後にタイトルに結びつくと改めてこの邦題タイトルも素晴らしいと感じた。。