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「アリータ:バトルエンジェル」 ★★★ 3.3

◆「アリータ/スター誕生」とにかくアリータの可愛さ・無双さにやられる、CGと実写の融合の到達点

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木城ゆきとによる日本のSF漫画「銃夢(ガンム)」、長年にわたり映画化を熱望していたジェームズ・キャメロンの脚本・製作により、ハリウッドで実写映画化したアクション大作。「天使の顔に戦士の体」記憶を無くしたサイボーグ少女が命を懸けて戦うことをきっかけに徐々に過去そして宿命を思いだしていく...とにかく主人公アリータが最高に可愛くて最高に強い、その魅力が全ての1点突破型映画。

原作のコアなサイバーパンクさはやや緩和され、少女のアイデンティティ確立をメインに据えながらも、本格的なバトルシーンは原作同様ゴア描写もなかなかなので苦手な人は注意した方が良いかも。ザレム、アイアンシティの都市やモーターボールの熱戦、そしてアクション映像は特に必見の価値あり。

アリータの表情ひとつひとつの動きがCGなのに滑らか過ぎて、本物の人間だと思ってしまう。アリータの瞳の大きさの違和感は誰もが思うだろうが、物語に入り込めば全く気にならず。むしろ肌や髪質、表情のあまりの自然な表現技術に感動する。
キャラクターも純粋に初めての世界を楽しんだり、怒ったり暴走する様は人間らしさをとても強く感じる。アクションも単なる力技ではなくしなやかで流れるような美しさで、複雑な動きをしているのにスローモーションも効果的に使い分かりやすい描写にしているのは見事。

演者(ローサ・サラザール)の演技をキャプチャーして、一から作り上げたというアリータの造形美、実在感は圧倒的。あまりにも自然で、CGならではの異物感、浮いてる感じが全く無く生身の人間と並んでも同じ人間そのものとしか見えない。ワザと瞳を大きくしてアニメっぽくする事で、人間との違いを明確に示しながら、似すぎても気持ち悪い、いわゆるAIの【不気味の谷】を起こしていない。
ベッドで目覚めてあくびをしたり、初めて食べる物を「美味しい!」と喜んだり、豊かな表情が愛嬌となって、人間よりも人間らしく描かれていて役者より感情移入してしまった。演技や所作が素晴らしければ「顔」という要素はなくても成立するのが証明された、猿の惑星でもあったようにモーキャプ役者が増えていくかもしれない。

 

映像が素晴らしいだけに、脚本が少し粗かった点が残念。後半の展開は途端に大雑把になってしまい、登場人物の心情を誰一人として理解出来ないまま、なし崩し的に終わってしまった。個人的には人物の心理描写、苦悩や葛藤が見えてこなくて人間感情の機微を描くのが弱すぎかと・・せっかく演技力のある助演陣は存在感と経験で何とか補足してはいるがどうも印象が薄い。特にアリータの恋心や元奥さんの心変わりもさらっとしすぎて感情移入しづらい、アリータとヒューゴなんて「都会に初めて出てきたウブな女の子が今まで会ったことのないヤンキータイプに惹かれてしまう」展開で、見るからにダメそうな男に心臓を取り出して捧げたのには苦笑い。。結局ヒューゴは関係する出来事全てに余計に邪魔で何も役立ってないという・・そして最後の落下していく様がまさにタイタニックだったのは更に笑い(キャメロン狙ったのか?)。

調べたらどうもキャメロンが本来書き上げていた脚本が、監督のロバート・ロドリゲスに60ページ程削られたらしい(元々3時間)。ロドリゲスと言えば面白そうな要素をてんこ盛りにして、それが取っ散らかったまま勢いだけで最後まで突っ走るのが特徴だが、今回は超大作なのでまとめて置きに行こうっていう感じが出てしまったのかも。続編ありきのシナリオなのかもしれないが、もう少し丁寧に世界観を構築させて終盤の盛り上がりが欲しかったところ。
本作は北米では大コケだったが、中国を筆頭に他ではヒットとなり息を吹き返したもよう。続編を作るなら中国マネーしかないか、また次はいつになることやら。。せっかくなのでシリーズ化も期待したいが、原作はかなり壮大かつ哲学的になっていくらしいので心配でもあり。


【演出】

何より美術が細かいところまで本当に素晴らしい、アイアンシティーの実在感が凄く、奥行きや上下に至るまで美しい。そしてバトルシーンは「機甲術」(パンツァークンスト)という武術で敵たちをを真っ向からスクラップにしていくバーファイトはキレキレでカッコよい!!涙を刀で切るところもたまらない。モーターボールでのバトルは「レディ・プレイヤー1」と比較してしまうと見劣りするかな・・

「ボディのアップグレード」という形で少女から成熟した女性の姿に変貌するシークエンスは、ガチガチのフルメタルボディのビジュアル含め興奮させられた。

下の世界と上の世界が見える景色は美しくも退廃的だが、そこに想いを馳せるような説明はなく、そこに行きたがる人たちの気持ちに共感しにくかった。敵も言ってたように下の世界もそれなりに楽しくやっていけそうだし。

悪役に全く魅力がないのも残念、特にグリュシカ?中ボスレベルの同じ敵と何回も戦うのは飽きられる。

R15指定の映画か?と思うようなノリで頭部や四肢が胴体から引き離されていく。機械なので血は一切出ないし、そこまでグロい雰囲気もないけど、結構エグい攻撃している。みんな身体を機械に改造するのが当たり前の世界なので命の価値がとても低いのか? サイボーグだからこそ派手に破壊してしまえ的な勢いは良かった。

20世紀FOXのロゴが26th century foxとはじめに遠い未来の話だと分からせるのも粋。
 

【役者】

アカデミー賞助演男優賞コンビの共演は贅沢。クリストフ・ヴァルツはアリータを大切に思う過保護ぶりから、娘の自立を受け入れる事を学び、彼女を外の世界へ送り出す決心をする変化を絶妙に表現していた。
マハーシャラ・アリはラスボス的なポジションかと思いきや、実際には交換機のハコみたいなもので、彼特有の切なさなどの心理表現も必要なくムダ遣いとする意見も納得。ノヴァ(エドワードノートンの登場の仕方はずるい!)が乗り移った時の演技はさすがだったが。あとは久々に見たジェニファー・コネリーが相変わらず佇まい含めて美しかった。ちなみにアリータの吹き替えは上白石萌音らしい(君の名は)
 

「時代が変わる、映画が変える。」というコピーはさすがに言い過ぎか。正直「スパイダーマン:スパイダーバース」の方がふさわしい。。CGと実写の融合という意味では極限に到達しているとは思うが、そこまでの驚きと感動は無かった。そんな現時点での評価を覆す「本当に時代が変わる」と思わせるような続編を期待したい。