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「響 HIBIKI」 ★★★☆ 3.5

◆平手の平手による平手のための映画として平手打ちが響く「君は君らしく生きていく自由があるんだ、大人たちに支配されるな♪」

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突如として文学界に現れた現役女子高生作家が、圧倒的な才能で業界を揺るがしていく様を描いた物語、「平手友梨奈」の初主演作としてはこれ以上もう無いというくらい完璧。繊細さと脆さを見せながら天才とかカリスマとかいう言葉だけでは表現しきれない魅力を持っている「平手友梨奈」という存在が、この響というキャラクターと本質部分でも見事にマッチングしている。

この作品の魅力は、響というキャラクターが全てなので、演じる役者が合わないと作品全体が成り立たない。今回はあまり面には感情を出さず抑揚をつけない喋り方などをしながら、特に眼!全てを見透かして射抜くような鋭い眼光が大人たちの世界を翻弄していく見事な演技だった。

今回は響という役と平手友梨奈というアイドルのイメージが結構近かったようにも感じられて、女優としての真価が問われるのは次の作品だろう。明るいキラキラした役を演じるのか、もっとドロドロした執念の女を演じるのか、ある意味楽しみではある。

平手自身「(今後の女優としての活動は)何でもかんでもやっていくことはない、自分で決めたものは面白くするまで徹底的に納得して追い求めていく」と語っているが、乃木坂として人気がある旬のうちに評価を得られるかどうか・・

 

主人公のキャラ設定は少しやり過ぎと感じなくもないが、マンガ通りらしい。暴力は当たり前、不法侵入、器物損壊、会話の空気読めず、平手のビジュアルだから許されるような気もする・・(まあ普通の男がやったら即逮捕レベル)

なぜあそこまで暴力に頼るのかは(そもそも強すぎる)?だが、正当性を主張するなら、言葉には言葉で返すべき。ここまで天才的な文才・言葉の力を持っているなら、言葉で戦って論破も出来るのでは?と思いつつ・・

「本人には謝罪したのに、なぜ世間にも謝罪しなければいけないの?」など、純粋で大人が忘れてしまっている正直さを、暴力とともに突きつけてくるからこそ気持ちいい面もあるのも確か。

 

ストーリーとしては、全体的に漫画のダイジェストを紹介しただけで描写が足りず、脇役があまり活きてないので勿体ない。映画よりもドラマの方がより楽しめたような気もする。映画の構成が、彼女に寄りすぎてしまっている感じが否めない、もっと小栗旬柳楽優弥のキャラクターが描かれていれば良かった。

天才に生まれついた者、天才になれなかった者、それでもなお何かを創作し続けようとする者。「響」という孤高の天才は葛藤もなくひたすら突き進み、「響」になれなかった者たちは決して追いつくことは出来ない。

生粋の天才は自分が天才という自覚もなく、死ぬような努力もせずに才能があふれ出す。凡人は少しの才能はあっても、自分と天才との圧倒的な差を突き付けられ、自分の範囲を見極めながらもがいていく残酷さ。それでも、ほとんどが凡人以下で成り立っている社会だからこそ面白くもあるのだろう。

 

役者としては、アヤカ・ウィルソンパコと魔法の絵本が懐かしい)がすっかり大人になっていて親の七光りと自分の才能の現実、響への嫉妬と分かり合えた友達を大切にしたい揺れる気持ちを上手く表現していた(パパがまさかの吉田栄作!)。北川景子はあまりハマってなくて空回り感があったかな。鬼島役の北村有紀哉と矢野役の野間口徹のイヤ〜な感じはさすがのバイプレイヤー。

あとは、小栗旬の執筆での鬼気迫る表情、賞の発表を待つ間の天国と地獄の間で揺れ動く心情は痛いくらい伝わってきた。柳楽優弥もタバコでの一言など存在感と安定感はさすが。この二人のキャラがいなければ、ただのアイドル青春ものに近くなってたかも。

 

どんなに優れた作品(小説に限らず映画や音楽、絵画、漫画など)であっても、作者に問題があったら、その人格と切り離して作品を評価できるか? その人の作品を手に取りたいと思うか? まさにクスリなどで逮捕される役者やアーティストの作品をどう捉えるかは、やはり個人個人の判断に任せるしかないのだろうか・・

響はあらゆる作品について、面白い、面白くない、好き、つまらない、と思った通りに率直に感想を述べる。彼女は一度も作者自身の否定や上から目線で意見を言うことはしない。すべて彼女がその作品と誠心誠意向き合った上での感想である。

実際に自分の目で見たり読んだり感じることの大切さ、その上での批評をすべきだと、レビューを書いている身としても改めて深く思わされた(どんな作品でも最後まできちんと見ることは心掛けている)。

ろくに見もしないで周りの意見や先入観・イメージだけで文句を言うヤツは、平手に平手打ちされるべし!