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「ハナレイ・ベイ」 ★★★☆ 3.6

◆10年かけて受け入れるということ、ハワイの美しい風景と波の音を感じる静かな心象風景が頭からハナレイ・ナイ

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村上春樹の2005年の短編小説集「東京奇譚集」に収録された小説を「トイレのピエタ」の松永大司監督が映画化。村上春樹言語化された心情を映像に変換する試みは成功しているのでは(比較的分かりやすい作品だが)

息子をハワイの海で亡くした母・サチが偶然出会った息子ぐらいの歳の日本人サーファーと接しながら、息子の死を受け入れていく物語。

ハナレイ湾の優美な風景、人と生活の雰囲気、自然や波の音を感じながら、シーンの合間に少しずつ挟まれる息子タカシとの回想から、母と息子の関係性を拾っていく。必要最低限のセリフや描写から読み取る、話にもこれといった起伏がないので、ハマらない人には眠くなってしまうかも。

身近な誰かを失った経験を持つ人でなければ、本当の意味では理解しづらい感情だと思うし、自分も実感できた瞬間を確実に思い出してしまった。

人が亡くなってしまうことで一番辛いことは、もう二度と会えない話せないということ。その受け入れがたい事実を受け入れることは、自分ではどうしようもなく、簡単に決められるものではない。あくまでも自然に、時の流れなのか、何をきっかけにするのか?

 

繊細な心情と風景描写の変化をカメラワークで上手く表現しているなと思い、調べてみたら、桐島や万引き家族を手掛けてるカメラマンだった。自然の美しさが際立つ撮り方をしていて、逆に自然の摂理で失われた命を強調させているようにも思えた。

音楽は、イギーポップのパッセンジャーをあえてここで流すか、センス良くてカッコよかった。

女の子にモテる3つの条件は「黙って話を聞くこと、着ている洋服を褒めること、美味しいご飯を食べさせること」うーん、ベタ過ぎる気もする・・

気になったのは、現在と10年後の感じがあまり変わってないように感じられ、メイクとか髪型とか、もう少し時間の流れを感じさせないと。

 

役者は、やはり吉田羊の繊細な演技がすごく良かった、虚無感と喪失感の大きさから、息子への感情を無意識に閉ざしていたところから、自身の内面と向き合い、次第に悲しみを受け入れていく姿が秀逸。そして、英語も堪能な村上虹郎が持つ独特の声と存在感もさすがで、どんどんいい役者になってきている。

旦那がまさかの栗原類とは衝撃、リアルに近いのか?と思うくらいある意味ハマってはいた。息子タカシ役は、知らなかったがEXILEの人らしく佐野玲於.、うーん役柄も合ったのかもしれないが抑揚の無さ、全体的にぎこちなく違和感があり、演じてる感がありありだった。EXILE好きの女子たちに、この映画の良さは伝わっているのだろうか?

 

※ここからネタばれ注意

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【(ネタばれ)ラスト・考察】

「私は息子が嫌いでした。でも、愛していました。」この言葉にこの映画の全てが詰まっているように感じた。そして、最後の「あなたに会いたい」、すべてはこの一言を言わせるための前フリだったかのようで、表情がとても美しいラストショットは素晴らしい。ようやく息子の死を受け入れたことで、彼女にも片足の幽霊が見えて微笑んだのだろう、海に近づくことでの再生、希望が眩しい光に照らされていた。

「ただ自然の循環に還っていった(just returned)」。10年という時の流れの中で、サチの内面に染み込んでいった。「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」と。

 

ちなみに、映画館で見た人には入場者特典として「映画鑑賞後にお開けください」とだけ書かれた封筒が配られたらしい。中身は「タカシのWピースした写真」のよう・・物語的に分からなくもないが、現物もらってもEXILEファン以外は困るのでは・・