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「ハンターキラー 潜航せよ」 ★★★☆ 3.8

◆「潜水艦ものにハズレなし」安定のバトラー漢エンタメ、キャプテン同士の信頼感「目と目で通じ合う、かすかにnn-友っぽい♩」

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平成終わりのこの時代にまさかの米国vsロシアの潜水艦アクション大作、タイトルからしても正直観る前はB級に近いかなと思ってたけど、これは掘り出し物。さすがワイルドスピード制作陣、最高にハラハラドキドキ楽しめる一級のエンタメ娯楽作で単純に面白かった(映画館で見るべき)。

ロシアの国防大臣がクーデターを起こし大統領を人質にとり緊張が高まる中、アメリカが潜水艦とシールズの海陸からロシア大統領を救出しクーデターを阻止しようとする…という荒唐無稽なストーリー。まあ突っ込みどころ満載なのだが、突き抜けた豪快さが気持ちよく、潜水艦特有の静と動の対比と陸上で同時進行する特殊部隊の戦いが、テンポ良く一切退屈することなく2時間があっという間だった。

潜水艦映画のド定番、暗い海の真ん中で音だけを頼りに戦う怖さ、敵艦との対峙、魚雷攻撃のかわし、水圧で水漏れ、機雷スレスレ潜航、船内爆発、艦長と副長の軋轢などがきっちり盛り込まれていて、この狭い密室空間で息が詰まりそうになると地上の開けたアクションに移行するところが良い。

特に陸でのネイビーシールズの圧倒的不利な状況での銃撃戦、救出劇が凄くて「ローンサバイバー」を彷彿とさせた。チーム力あふれる隊長の男気や新人マルティネリのここぞの痺れる狙撃、特殊部隊の4人だけでもう一本映画が作れるレベル。

アメリカとロシアの艦長同士だけが共有できる無言の信頼感もカッコよすぎ、捕虜としてではなく海の男同志として会話する姿に相手への尊敬、部下からの絶対的信頼を感じた。各々が国の為、己のプライドをかけた仕事を全うする姿はまさにプロフェッショナル!

主役だけにスポットライトを当てず、登場人物たち全員がそれぞれ活躍する場面を設けてキャラ立ちさせて群像劇としても楽しませる、また、ロシア側の一部を味方にして一緒に敵を倒すことでいつものアメリカ万歳!だけになってないところも見事。

ここまでいろんな要素を詰め込みながらも、最後はきっちり着地させる脚本は秀逸、「ザ・漢たちの熱き友情」とかなり男臭いので、女性受けするかは?だが、ミリタリー好きも含め、この手の映画が好きな方は絶対に楽しめるのでおススメ(過度な血や残酷描写も無かった)。

 

【演出】

意外と冒頭の主人公登場シーンが上手い、雪山で狩りをしていて牡鹿に狙いを定めたが、後ろから母親と子どもの姿を見て弓を降ろす。この一連の動きだけで艦長としての資質・考え方を表している。

潜水艦が急速潜航する時に、隊員たちが斜め立ち(逆スムースクリミナル状態)となるのが新発見、なるほどこういう感じで重心を保って潜水していくのか。。

リアルを追求しているのも魅力で、元々の原作小説が原子力潜水艦の元艦長とジャーナリストとの共同執筆。さらに今作ではペンタゴンと米海軍の全面協力の下、最新鋭のヴァージニア級攻撃型原潜の実物を一部撮影できたり、海軍顧問のアドバイスで艦内の様子を細部までセットで再現した、とのこと。

潜水艦の過去の名作、「眼下の敵」「Uボート」「レッド・オクトーバーを追え!」「クリムゾンタイド」「U-571」「K-19」等があるが、これらと比べると重厚感や密室感が薄く、海中での攻防が少なく感じるのは仕方ないが惜しいところ。また、沈黙の艦隊のような頭脳戦や戦術で切り抜ける要素も少ないので、そこを期待する人には物足りないかも。

タイトルがB級っぽいのが残念、ハンターキラー(攻撃型潜水艦)潜航せよ、って、そのまんまだし・・

キャッチコピー「そこは音だけが《見える》戦場」は合ってないような、単なる潜水艦映画でなく地上戦も多くそこまで密室劇でもないので。

全体的に突っ込みどころは多すぎるが・・

両国ともに大統領のカリスマ性が弱すぎ、ロシアは大統領の側近・SPが少なすぎ・乗っ取りが簡単すぎ。アメリカはせっかく女性大統領なのに存在感なさすぎ(ゲイリーの印象が強すぎ)。敵であるロシアの国防大臣がクーデターの割に詰めが甘すぎ、基地の守りがザルすぎてロシア大統領救出がユルかった。ロシアの大統領と国防相、ロシア駆逐艦の乗員みんなが普通に英語で話している・・。ロシア大統領あんな血まみれになって瀕死に近いのにいつの間にかかなり復活してた・・などあるが、面白さを損ねるほどではない。

日本では評価は悪くないが、アメリカ本国では大コケなのには驚いた。いずれ午後のロードショーで確実に1年に1回は放映されそう(笑)。

 

【役者】

役者としては、ジェラルド・バトラー演じるジョー・グラスがとにかく男臭くて最高に格好良い船長で、今回は自らのアクションや殺しは無かったが、「エンド・オブ・〇〇シリーズ」に近く、何とかしてくれそうな頼れる感じでハマり役。

一瞬分からなかったが、アメリカ参謀役でゲイリー・オールドマンも出ていて、無駄遣い感がありあり(もしや黒幕なのかと思わせて、ただのキレてるだけのあおり役だった・・)。ポスターでは準主役みたいになってるが脇役ですよ。あの「ウインストン・チャーチル」の後の役とは思えないがいつものゲイリーの安心感はあり。

ロシア艦長役のミカエル・ニクヴィストは今作が遺作となってしまった、「ミレニアム・シリーズ」や「M:I ゴースト・プロトコル」などを含め、ザ・ロシアって感じの台詞は少ないけど顔で語る存在感のある役者だったので、もう見れないと思うと寂しい。実際にもいろいろと後輩たちに影響を与えてきたので、映画でマイク越しに自分の育てた部下たちの名前を呼ぶシーンにはグッときた。

 

※ここからネタばれ注意 

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【(ネタばれ)ラスト・考察】

最後は、ミサイルを撃ち込まれて反撃するかしないかドキドキの瀬戸際(反撃すればロシアと開戦と見なされる)で、結局はロシア艦隊が撃墜してくれて逆にミサイルを撃ち込んで敵側は一瞬にて壊滅。。乗組員大勢の命を背負いながら「助けてくれると信じて願っていた」の賭けは、さすがにありえねーと思いながら、痛快・爽快感はあった(ちょっとあっけなすぎたけど。。)

そして、潜水艦映画のラストと言えば鉄板の「海に浮かび上がった艦上の外に出ての握手」シーンでエンディング。

 

改めてリーダの在り方として見事だった、現場の叩き上げで潜水艦の全てを知り尽くした彼が、常に冷静に俯瞰的な視点から命がけギリギリの判断を瞬時に行う。かつ部下みんなから絶対的な信頼も得ていき、組織としてキビキビと動く姿は素晴らしく、最高の上司として見習っていきたくなる(副艦長はハラハラ中間管理職の立場だが)。最後の賭けも、こういうリーダの人間性だからこそ、運を運んでくるのだろう。

当たり前だが、現在拡大している国と国との不信間も、こういうリーダのもと地道に愚直に信頼関係を構築していくプロセスが大事であり、自国の立場を超えた想いや絆が、新しいミライを作っていくのだろう。