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年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「億男」 ★★ 2.2

◆キャラは濃いが話はお札のように薄っぺらいカード会社のCMレベル、一円玉と一万円札は同じ1g、お金や幸せの価値とは?「プライスレス」

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映画プロデューサー・川村元気の同名ベストセラー小説(未読)を「るろうに剣心」の大友啓史監督が映画化。

兄が残した3000万円の借金返済に追われる一男(佐藤健)が宝くじ3億円当選したが、不安になって億万長者の大学時代の親友・九十九(高橋一生)に相談するも、翌朝九十九は3億円とともに姿を消していて。。ミステリーというよりブラックコメディに近いかな。

コミカルで壮大な予告編だったので、3億当てた男が親友にお金を盗まれて取り返す話だと思っていたら・・お金とは何か?定義によって行動の判断基準も見える世界も変わる、いろいろな人と出会いお金よりも大切なものを見つけた、という至って普通の話だった。

つまらなくは無かったが、展開・ラスト含めて結局ふーん、まあそうだよね・・程度の感想しか出てこない、劇場でヒットしなかったのも納得(川村元気原作×佐藤健×東宝だと「世界から猫が消えたなら」も微妙だったしなあ)。

設定も悪くないしキャストも豪華で映像も良いのにどこか中途半端に感じられて残念、もう少しエンタメ度を高くして深みのある展開にしないと・・

(正直お金なら「闇金・ウシジマくん」の方がよほどエンタメしていて訴えかけてくるものも大きい。。)

 

本作には落語の「芝浜」が出てくるが、結局ストーリーとしては「芝浜」のまんまなので、結末も分かってしまう(そういう意味だと落語に詳しくない方がいいのか?知ってた方が楽しめるのか?)。何か捻りがあるのかと思いきや、特に唸らされることもなく・・

創業メンバーの九十九とキャラの強い3人の関係性の描写が薄いため、それぞれ金と引き換えに得た代償としての喪失が感じられず、説得力が足りない。

この3人は後半ほとんど活きてこないし、「この世に絶対のものは無く、お金の価値はシチュエーションによって、人によって、場所によって違う」と改めて言われても新鮮味がない。幸せの価値とお金の価値のバランスが大事なのは分かるが、現実問題として余裕のある金持ちや成功者に言われてもあまり響いてこないなあ・・

映画代としては1800円だが、映画の価値としては1円しか払わない人もいれば、1万円を払える人もいるだろう(この映画はいくら?)。

 

【演出】

お金は人を変える怖さを知っている九十九、お金は実態のないものとして遊ぶように使う百瀬、お金は全人類が入信する宗教と同じで搾り取る千住、お金を貯めて持っておくことに意味がある万佐子、お金に執着しない十和子、そしてお金に翻弄され揺れ動く一男、名前の数とともに表してるのは面白い。

映像的にモロッコは本当にキレイで行きたくなること間違いなしだが、そのモロッコでなければいけない意味を感じられず。旅番組のように長いし、みんなで行きたかっただけ?全体的に安っぽいのは、このモロッコ滞在撮影にお金かけすぎなのか?

 

佐藤健は、モッサい感じをうまく出してはいるが、やはりカッコいいし爽やかに見えてしまう所もあり、主役感がないので彼ならではの意味が感じられず(大友監督だから使いやすいだけ?)。ただ、この年は「いぬやしき」の悪役学生、「半分、青い。」の好青年、「義母と娘のブルース」の適当男、など幅広く演じていて凄い!

高橋一生は、吃音キャラは合っていて上手いし、周りに普通に居そうな感じが良く出ていた。2人の間に流れてる固い絆や友情感、信頼感や距離感も良い(ゲイのカップルみたいに見えなくもないが)。個人的には、この2人を逆にした版も見てみたい。

そして藤原竜也は、お金絡みもあってさすがのカイジ感が凄い。なんであんなに太った体型にしたのかは?だが、怪し過ぎるインチキセミナーは実際にもああいう雰囲気で騙されていくのだろうと思わされる。タダでもらった0円の1万円を価値がないので破りなさいっていうところは印象的(結局、客が破り捨てた分もすべて回収して貼り直してるのには笑った)。

北村一輝は、最初誰だか分からなかった、ヒゲデブおじさんのやりすぎ感が凄い。競馬はあれだけ盛り上げておいて実際には金かけてなかったのはやられた・・

この2人は完璧に強烈なキャラ立ちしているので、エンタメ的にはこの2人のサイドストーリーの方が見たいと思わせられた。

 

※ここからネタばれ注意 

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【(ネタばれ)ラスト・考察】

一男の乗った電車に突如、九十九が3億入ったカバンを持って返しに来たが、本当にお金の価値を考えさせるためだけにこんなに回りくどいやり方が必要だったのかは? かなり運まかせで、どこまでが計画通りなのか? お互いを信じ合ってるのは良いが、全てのタイミングといい、電車の車両ピンポイントで乗り込むなど、ずっとストーカーをしていないと不可能なのだが・・

 

そして、ラストシーンでは、一男が娘のために買った自転車が置いてあった。一男はお金さえあれば、家族と愛を取り戻せると思っていたが、現実には不可能だった。娘のバレエ教室をはじめ全てのものがお金最優先で借金を早く返すことしか考えていなかったからだが(実際3千万も背負ったら普通はそうなるのでは)、ようやく家族や愛は値段がつけられない・価値を図ることが出来ないものだと気付くことが出来た。

自転車自体は安いものだが、娘にとっては何よりも価値のあるものであり、その想いを共有することが幸せなことなのだ。いつもの牛丼を少し豪華にしたような日常にささやかな幸せを感じ取ることの積み重ねが人生なのだ。

 

1円玉と1万円札の重さは同じ1gなのに価値の差は1万倍!なぜみんな1gのために必死になるのか? この紙切れに価値があると多くの人が共通認識を持っているというだけのこと。本質は価値の交換をしているだけなので、お金で交換できない価値は何なのかをよく考えて生きていかないといけない(0から増えたものが0に戻っただけ、お金自体が価値でなく使った内容の価値が大事)。1万円の価値を軽くするのも重くするのも使う人しだい、想いや願いはお金があったら本当に叶うものなのか想像すること。

 

「お金が人を変えるんじゃなくて、人がお金の使い方を変えるんだよ」のセリフが響くように、お金を追いかけたり、お金に追いかけられたり、お金はあくまでも手段であり目的にしてはいけないのだ。誰か1人にでも信頼されること、必要とされること、守りたいと思うこと、そういうことに必要な分だけを使える人になっていかねば。。

 

お金とは、幸せとは何か? お金や社会の仕組み(貧富の発生やお金が回る構造、借金など)については、小さいころから理解しておくべきなので、義務教育化しても良いと思うが・・ これからは電子マネーや仮想通貨などお金の概念も変化していく中、無知であることの恐怖を実感すべき。でも、税金のためには多少は無知の方がいいだろうし、無知でいてもらった方が国や社会にとっては好都合なところもあるのも事実、自分のお金は自分で守っていく覚悟でいかねば。。。