映画レビューでやす

年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「不滅の女」 ★★★★ 4.2

◆「ブッ飛んでイスタンブール♪」異国情緒を彷徨う壮大なかくれんぼ、追いかけても追いかけてもこぼれ落ちていく・・女は永久に不滅です!

f:id:yasutai2:20190509214852j:plain

20 世紀の世界文学を揺るがした革命的なムーヴメント<ヌーヴォー・ロマン>の旗手として知られる、アラン・ロブ=グリエの映画監督作品を集めた特集上映「アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティヴ」を早稲田松竹2本立てにて4作品を鑑賞。共通して横滑りカメラと徹底した反復の繰り返し、アバンギャルドな作品となっていて今なお鮮烈な衝撃を与えられるのは凄い。

先ずは監督デビュー作「不滅の女」から、複雑な構造のモノクロ映画だが、物語としては他の作品に比べるとエロ・ヌード要素も少なく(これは残念?)、比較的観やすい作品だった。

 

イスタンブールで休暇を過ごし始めた教師の男は、陽気だがどこか謎めいた若い女と出会い逢瀬を重ねるうち、男は彼女のミステリアスさに妄想をかき立てられていく・・といったファム・ファタールノワールもの。エキゾチックな迷宮夢のような街で、彼女は無数にいると同時にどこにもいない、つかみどころのない中で、繰り返される前衛的で倒錯的なイメージの反復、そんな自由で刺激的で悦楽的な感覚を呼び起こさせてくれる。

 

実はこの作品は脚本を担当した「去年マリエンバートで」の前から進められていたのが、トルコの政情不安で一時中断する間に先に「去年マリエンバートで」が公開されたとのこと。そのせいか、光と影の使い方や映像美で似ているところが多い。川沿いの広場にたたずむ群衆のロングショットなど(全体的にはマリエンバードの方が好きかな)。

 

モノクロ映画だが、イスタンブールの全体風景と街並み、観光地のモスクの美しい建築とその裏で廃墟に近い木造建築とのGAP、一度入ったら抜け出せなくなりそうな感じに惹かれる。時間も空間もバラバラで現実と妄想との区別はつかず、人物の服装や髪形も急に変わり、更にフランス語と分からないトルコ語のやりとりが幻想世界に入った異邦人になった気分になる。

人形のように静止した役者たち、不可解な視線の交錯、記憶の不確実性と妄想、性的な媒体としての女たち、徐々に取り込まれ振り回される男と同様に観客側も混乱していく。女は元からいないのか、事故で死んだのか、それとも二人とも死んでいるのか、進んでいるのか循環しているのか分からず、テンポの遅い展開についていけない人も多いだろう。

 

【演出】

冒頭から視線をゆっくりと動かすのに合わせた横滑りカメラ移動、カットの切り替えで瞬間移動したかのような人物配置、マネキンのように無表情で動かずにじっと見つめる人たち、といった演出がより奇妙な世界を際立たせている。特に女の後ろにいつも映っている真っ黒なサングラスの男が気になって探してしまった(結局何者なのか?)

そのまま写真集になりそうな計算し尽くされた絵画的な構図、奥行きのある建物や塔、海に浮かぶ船などの配置、光と影を交互に当てる照明の見せ方、鏡や階段の使い方、ワンカットの中の入れ替わり、編集モンタージュのやり方など細かいこだわりが本当に素晴らしい(ビデオで繰り返し見たい)。ルネ・マグリットの絵画の影響を指摘されているが、どちらかというとジョルジョ・デ・キリコエッシャーに近いものを感じた。

音もBGMではなく、虫の音や船の汽笛の音、建物を修復する鉄槌で叩く音、アラブっぽい音楽の反復が不安感や緊張感とともにトリップ感もあって気持ちよかった。メインテーマ?が「一年中~」と聞こえて仕方なかったが(空耳アワーに投稿したくなった)。

 

全体的に雰囲気としては「暗殺のオペラ」や「アンダー・ザ・シルバーレイク」が思い出され、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーデヴィッド・リンチらにも大きな影響を与えたというのも納得。

 

※ここからネタばれ注意 

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

 

【(ネタばれ)ラスト・考察】

追い続けては消える彼女、やっと見つけ出すが、彼女は運転する車が事故をおこしあっけなく死んでしまう。死を受け入れられない男は、彼女の修理された車を探し出し、自分が運転するうちに、同じ場所で事故をおこし彼も死ぬ。真っ暗な夜道の運転の怖さがスクリーン全体から伝わってきて、自分が事故を起こしたような感覚になった。あと、犬を轢き飛ばすところと死骸の目の剥き方はエグいので犬好きは注意。。

このように序盤にあったカットが繰り返され、全く同じ運命・悲劇が再現されるシーンでスパッと終わるのは良かった。

結局、どこからどこまでが妄想で、何が本当なのかは分からないまま、「不滅の女」としてイスタンブールの風景の中のオブジェの一部として、永遠に閉じ込められたものなのだろう。

 

どんなに探して追いかけて追いついても逃げられてしまう、、男性によって女性はやはり永久に不滅の存在なのか・・