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「ヨーロッパ横断特急」 ★★★☆ 3.8

◆映画内映画のメタ構造、現実と虚構に揺れながら3つの視点から観客も監督となって楽しめる「最も成功した、理解しやすい実験映画」

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「アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティヴ」の2作目、麻薬の運び屋をしている主人公が列車のコンパートメントで映画関係者の三人と遭遇、三人は咄嗟にイマジネーションを働かせて次作のアイデアを目の前の男から捻りだすというメタ構造のコメディ風サスペンス映画。

「最も成功した、理解しやすい実験映画」と言われており、映画監督とその助手がストーリーを語る、そのまさに同じ車両で映画のストーリーが繰り広げられるという構造。主人公が常に複数の視点で動きながらご都合主義的な展開を何度も修正していく、現実と虚構が入り混じながらメタなツッコミやコミカルな描写が面白く見られた。

 

この映画は冒頭から、アラン・ロブ=グリエ自身がジャンと呼ばれる映画監督役で登場し、「ヨーロッパ横断特急(TEE)」に乗り込み、助手・スクリプター(監督の実の奥さんでツッコミを入れるのが笑える)たちと映画の構想を練る場面で始まる。

そして枠組みとなる映画と、映画内映画とが交錯しながら進んでいく、設定上は麻薬密輸を題材とするサスペンス映画だが、最初から虚構であるため緊張感はない。合わせて主人公エリアスとヒロイン娼婦エヴァとの「SMプレイ」が繰り広げられ(完全に監督の嗜好を反映)、強烈な快楽も交差しながら進んでいく。

途中、整合性は何度も失敗し語り直していくので、物語がどうなるのかちゃんと終わるのか、登場人物、監督、観客それぞれの目線で気になりながら楽しめる。

監督の語りで主人公エリアスの運命が次々と変わっていくのを目の前で見られるのだが、エリアスが自分の存在を実感できるのは、いたるところにある鏡に映る姿を見た時だけ。彼も観客もどこからが現実でどこまでがフィクションなのか、鏡の中に映り込んだもう一人の自分がまたもう一人の自分を眺めてと永遠のループから抜け出せない。

ただそこに在るものとして、映画の中で一緒になって組み立てていく映画として感じるままに見るしかないのだ。男の恋が本物なのかただの変態趣味なのか、女の方も本当はスパイなのか明確には分からない。

(ただ確実に言えるのは、ブツを運ぶ合間に拘束・首絞めプレイを挟んでいく主人公が羨ましい、どんなに危険な立場になろうともSMプレイを最優先するのは男らしい・・ということ)

 

【演出】

屋外ロケ (ゲリラ?) 撮影が多いためか、演出も即興的に見受けられた(台本は役者の個性を反映させて自由にやらせていたらしい)。

映画の「構想中の」物語なので、シーンのつながりは弱いが、画角やショットのふとした美しさ、顔アップやカメラ目線の連続、畳み掛けるようなカットバック、女の悶えと走る線路のモンタージュなどは見事。ヒッチコック鈴木清順っぽさも感じられた。

主演はジャン=ルイ・トランティニャン、「男と女」と違って庶民的キャラでいい味を出している。

ヒロインのマリー・フランス・ピジェは目を含めアンナ・カリーナに似ているところもあって、ゴダールっぽさもあった。

 

※ここからネタばれ注意 

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【(ネタばれ)ラスト・考察】

最後は目的地に着いた三人が駅に降り立つと、雑踏の中で熱いキスを交わすエリアスとヒロインが写し出されて終わる。そして新聞記事では男女は死亡したということになっていた。。社会的には死んだことになっているが、現実の物語は勝手に進んでいる??

たしか、主人公の結末を観て「本当にあることを映画にするのは面白くない」と言ってたので、まだ映画は終わっていないということなのか??