映画レビューでやす

年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「快楽の漸進的横滑り」 ★★★★ 4.0

◆快楽の国のアリスに誰もが翻弄され続ける”すべらない話”、前衛アートに近い不条理劇に迷い込むも「最初から全部やり直しだ」

 f:id:yasutai2:20190509214628j:plain

「アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティヴ」の4作目、その過激なエロ描写含め先進的すぎる表現が公衆道徳に反すると物議を醸し各国で上映禁止、フィルムが焼かれるまで発展した問題作(裸体や殺人より聖職者の表現の方が問題だったのかな)。

「快楽の漸進的横滑り」というタイトルが凄く印象的で記憶に残る(実際は訳したままなのだが)。基本は殺人事件の捜査というミステリーで進むが、前衛アートとして裸もあれば流血もある、謎は謎として機能せず、物語にならない物語は、繋がっては消えて反復されるイメージの中、次第にアリスの快楽遊戯へと横滑りや脱線を繰り返していく。

 

割れるビン、ハサミ、青い靴、白い床に広がる真っ赤な血(強調された絵の具感)、それと混じり合う卵の黄身、浜辺に打ち寄せる波、砂浜に埋まった鉄製のベッド(アリスのベッドと同じ)、拷問にかけられた血まみれのマネキン人形(ノラなどの死体のコピー)、マネキンの真似をするノラ、岩に落ちて死んだ彼女の乳房と口に接吻するアリス(ネクロフィリア)などのイメージの反復が、現在と過去、現実と妄想の境界を曖昧にして横滑りしていく。

刑事や判事、修道女たちは、アリスの魔力に操られるように職務を忘れ、性的な欲望をかき立てられ生贄され姿を消していく(魔女と魔女狩りの対立)。建て前と本音の世界を真っ向からぶち壊していくアリスのファムファタール感が素晴らしい。

 

【演出】

お得意のSMは虚構の人工的な世界の中では、美少女の裸や殺された女も豊胸シリコン入り乳とエロさは感じられず絵画のよう。

赤色が効果的に使われており、白い壁やガラスの破片への反射、女性の裸体と融合することでより艶めかしくなっている。

魚拓ならぬ裸拓や生卵プレイはちょっとやってみたくなった。。

アリス役のアニセー・アルヴィナの無邪気ながらインモラルで倒錯的な小悪魔ぶりには男性全員やられるはず。

若かりし頃のジャンルイ・トランティニャンやイザベル・ユペールが出ていてビックリ。

 

※ここからネタばれ注意 

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

 

【(ネタばれ)ラスト・考察】

ラスト、刑事のセリフ「最初から全部やり直しだ」とあるように、映画としても物語としても横滑りから反復・円環の繰り返し。

最初はアリスとルームメイトのノラがベッドに縛って体を傷つける遊びをしているうちにノラが何者かに殺されてしまう。疑われたアリスは修道院の監獄に収容されるが、修道女たちや警部や神父たちもアリスの魅力に狂ってしまう。最後はノラに瓜二つの女弁護士と最初の殺害を「再現」するごっこゲームをするうちにビンの破片で手首を切って死んでしまう、というように話は「最初にもどる」。

結局、最初も最後もアリスが殺した決定的な証拠はなく、「女の子は死刑にならないもの」ともあるように、これからも小悪魔に翻弄され続けていくのだろう。現実でも同じなのかもしれない。。

 

「あなた少し遊びすぎよ、類似、繰り返し、置き換え、模倣もう沢山」と女弁護士がメタ的に言うように、さすがにロブ=グリエを4本も続けて鑑賞すると全くもって同感せざるを得ない・・