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「十二人の死にたい子どもたち」 ☆ 0.8

◆【酷評注意】「十二分に死にたい大人たち」観ている方が死にたくなる茶番劇・・子供向けTV番組「コナンの探偵ごっこ」&「Eテレ10しゃべり場、人をバカにした嘘のクソマーケティングは止めて! 

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ベストセラー作家・冲方丁のミステリー小説を堤幸彦監督が若手の人気俳優陣を集めて映画化。12人の少女&少年が自ら安楽死を願い集まった廃屋の病院で見たものは13人目の死体、その謎と犯人をめぐり疑心暗鬼の中、各自の死にたい背景・理由がえぐられていく・・

堤幸彦はすっかり商業向け監督になって基本的に合わなくて、前作「人魚の眠る家」で若干持ち直した感もあったのだが・・今作は事前の明らかに若者向けのマーケティング展開から嫌な予感はしていた通り、つまらない作品だった。

題名通りオマージュ元は有名な法廷劇であり、12人のディスカッションが中心、人生や死・自殺という重いテーマに対して真面目に深い踏み込んだ議論が展開されると思いきや、ただのコナンの探偵ごっこを兼ねた薄いお子様ドラマでがっかり。たいした駆け引きも騙し合いもなく、参加者に潜んでいた犯人?が勝手にベラベラ語り出すという茶番劇、これなら「世にも奇妙な物語」で15分くらいでも十分の内容。

 

とにかく、事前の煽りや予告編がクソ。「未体験リアルタイム型・密室ゲームがスタート!」、恐怖を駆り立てるナレーション「死にたいから殺さないで!」という密室殺人事件、サイコスリラー仕立て。単純に見れば自殺サークル12人の内、誰かが全員を殺そうとするシリアルキラーなのか?

誰もが「ソリッドシチュエーション」の"恐怖"や"スリル"、「ワンシチュエーション」の"謎解き"や"どんでん返し"を期待してしまうが、これが完全なミスリード。「バトルロワイヤル」「インシテミル」的な映画だと思いきや「コナンの探偵ごっこ」「Eテレの真剣10代しゃべり場」的な映画。

実際にはリアルタイム(型って何?)でもないし、密室だけでなくトリックは外に出て建物全体の方が多いし、殺さないで!とか一切言わないし、殺される雰囲気・展開も無い。中高生の若者がターゲットにしているので、若手有名俳優陣を集めたり配役を小出しに発表していくマーケティング戦略は話題性としても分かるが、ストーリーの事前刷り込みをわざと間違った方向に誘導するのは許せない。

死について議論する地味な話より殺される派手なスリラーの方が食いつきが良く観客を呼べるのは間違いないが、せっかく久しぶりに見た映画に騙されたとがっかりさせる危険性も多い(やはり映画に1000円も払う価値はない、タピオカ飲んだ方がマシとか思われる)。現実に豪華キャストと話題性だけで興行的には大ヒットしたけど、やはりレビューや評価はかなり低い(思ってたんと違う・・)。

未来の貴重な映画好きになるかもしれない若者たちに嘘をつくのは止めて下さい、今回いまが良くても将来的に自分たちの首を絞めていくだけです。宣伝担当とそれを許可した全関係者のみなさん、ちゃんと誠実に映画の良さを伝えて下さい。映画好きとして社会人として本当に怒り心頭です。

 

※ここからネタばれ注意 

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【(ネタばれ)演出・考察】

そもそも各キャラクターの死ぬ動機自体が全く共感できないし、本気で死ぬ気が無さすぎてイライラさせられる。主に虐待、いじめ、復讐、大切な人の死などが動機だけど、そこまで突き動かす闇を抱えているようには見えず。

10代の自殺は至って感覚的で直感的なのだろうが、このように死にたい理由を簡単にセリフで説明するだけで他人のやたら細かいことを気にしたり、本当に自ら死を願うほどに追い詰められている切迫感が全く感じられない。そんな状態で、自殺を実行するかどうかグダグダと討論(にすらなっていない)する姿を見せられても何も面白くない。

終盤に各人物がさまざまな決断をするけど、心理描写が薄いので何故その決断に至ったのか分からず、当て推理に何の葛藤もなく自白していくという支離滅裂さ(そもそも12人それぞれを描くにはさすがに多過ぎて無理がある)。12人で議論して結論を出していく中で、それぞれの変わっていく心情変化やパワーバランスがキモなのに、採決する回数が最初と最後の2回しかなく、最後もみんな余りにもあっさり止める結論になるとか全く説得力がない。

明らかに何も解決していない人もいて、心変わりしそうな人は数人のように思えるし、一番強硬派だった子も急にあっさり変わるのも信じられない、単に同調圧力に負けただけにしか見えない。結局、何しに来たのか、かまって欲しいのか、自己承認欲求が強いのか、本気で死にたい人・安楽死について考えている人たちに失礼なくらい安易な選択・行動にしか見えなかった。

若者だからそういうものなのか?本当に10代の中高生が共感できて面白いと感じるのか?子供や若者をバカにしていないか?自分がおっさんなだけなのか? 10代を経験してきた大人にしか分からない点もあるし、1度でも本気で死にたいと思って実行一歩手前までいった人なら見方や評価は変わるのかもしれないが。

 

そしてその討論の話だけでは弱いので、謎の13人目の男の正体を探るミステリー要素を入れてきたのだろうが、単なる仕掛けでしかなく有機的に結びついてこない。原作の通りなのでトリック自体はしっかり理路整然と組み立てられていて普通にミステリー単体としては楽しめると思うが、この映画の展開の中では単に矛盾がないように辻褄合わせしてるだけ、謎解きの様々なアイテムや時系列など真相が解明されても「だから何、それで?」ぐらいの感情しか想起させない。

伏線の張り方がいかにも伏線って分かりやすぎで、そもそもそんなに面白い謎解きでも感心するほどのトリックでもない上に、予告編などで殺人ゲームなどの変な先入観を植え付けてしまっているのも大きな要因かと。

淡々と一人で、名探偵コナンばりの推理をする真剣佑にも終始苦笑いで、バラバラだったパズルのピースを組み合わせるような伏線回収ではなく、順番に丁寧にアイテムなどを回収していくだけの分かりやすさ。なので、ハラハラドキドキする恐怖感や緊張感、謎が明かされた時の爽快感や達成感も全然漂ってこない。

そして、エンドロールでは、ご丁寧に時系列で犯行シーン、ネタバレを再現してくれるという・・自信が無いのか、若者をバカにしているのか、こんなに良く出来ていたと自慢していのか・・映画として無意味・無駄!、バックでかかっているエンディングソングはthe royal concept の「on my way」と明るく前向きな曲でお気楽モードだし・・

 

タイトルが意識しているように、シドニー・ルメット監督「十二人の怒れる男」、三谷幸喜監督「12人の優しい日本人」へのオマージュが強く、密室会話劇としたいのだろう(事件の真相が個性的な人物の価値観とともに議論しながらコロコロと変わっていく展開の面白さ!)。が、これらの傑作と同じ並びで名前を出すのも憚れるほど一緒にしないでもらいたい(少なくとも原作は面白いのだろうが)。

でも、今作がこの2本を見るきっかけになればまだ価値はあるか。同じ集団自殺をテーマにした群像劇なら、最近だと加藤悦生監督「三尺魂」の方がまだテーマ・メッセージ・脚本がしっかり出来ていた。

 

【役者】

公開前の12人のキャスト発表の話題性に力を入れすぎ、人気の若手俳優の売り出しアピールと大げさな宣伝に金をかけすぎ、最初から回収する気マンマンで冷めた目で見ていた。

高杉真宙北村匠海新田真剣佑、橋本環奈、杉咲花ら若手の人気俳優が出ていて豪華なのは間違いないが、やはり「子どもたち」には見えないので、見た目と話している内容とのGAPに違和感あり。いっそのこと新人でもいいから実年齢の高校生を使ったら全然違った作品になったんだろうが(観客呼べないけど)。

この内容や演出での生きてないセリフなので、残念ながらみんな演技が上手いとは思えなかった。杉咲花は良い女優でさすがの存在感だったけど、キャラとセリフがワザとらし過ぎて響いてこず、真剣佑はあのガタイでの病人設定と全てを言い当てる予知能力的推理は無理があり過ぎた。高杉真宙はただの進行役で本人でなくてもいいくらい、橋本環奈は本人役なのでそのままだけど(PG規制を避けるためタバコ吸うシーンは直接見せないのね、重要アイテムなのに)ほとんど活躍なし。古川琴音(ゴスロリの子)が声を荒げたときに急に方言になる演出は意味不明(笑いをとりたかった?)。

唯一良かったのは、北村匠海がおでこから出血しながらも橋本環奈を見て「あぁ、びっくりするほどかわいいね」っていうシーン(確かに目の前に現れたらそう言うわな)。

 

 

【(ネタばれ)ラスト・考察】

十三人目の死体であるゼロ番は「実は生きていた!」、実は植物人間状態であり12番がその妹だった・・いや、最初は寝てるかと思ってちゃんと死んだの確認してたよね、そんな大事なところ簡単に確認不足って、あれだけの予知能力推理の真剣佑が見落とすって・・どういうこと?

12番は、自転車の二人乗りで兄のマフラーを引っ張って起きた事故(普通ふざけても引っ張らないだろうが)のせいで、兄が植物人間状態になった自責の念で自殺したいとのことだった。

ゴメン、最初から12番が「それ、植物状態の私の兄で一緒に死にたい」と素直に告白すれば、全員一致ですぐに終わる話だったのでは・・映画にならないけど。しかし、この兄も悲惨すぎないか・・この妹のせいで植物状態になり、勝手に妹に巻き込まれて安楽死の会に参加させられ、病院引きずりまわされ、死人扱いにされ、結局植物状態のまま生き続けることになるという。。この植物状態での安楽死というのが本来なら一番議論すべきテーマなのに最後に出てきてスルーされるとは、せっかく「人魚の眠る家」で堤監督なりに必死に取り組んだテーマなのに。。

そして、許せないのが、この植物状態を目の前にして「寝てただけか、生きててよかった」とか、真剣佑が「ゼロ番が生きていることを知って、みんなも生きたいって思ったはずだ!」とか簡単に平気で言うところ。君たちの若気の死にたい理由と本人しか分からない植物状態を一緒にして、勝手に生きたいとか安楽死を気軽に語らないで、本当に不愉快極まりない。しょせん若者向けのエンタメ映画だからヒットすればいいわけじゃなくて、だからこそ誠実に扱って考えるきっかけにして欲しかった。。

 

発起人の高杉真宙から、実はこの集まりは3回目で毎回話し合いで自殺回避という結果になっていると言うのも何だかなあ・・今回は部外者のゼロ番がいたから最初に反対が一人いたけど、普通はわざわざ死ぬ覚悟で集まってきてるのだから、話し合いも反対も無くすぐに決行するでしょ。今までの2回も何か話し合わせるためのネタを仕込んでいたということ?、それは自分の主旨にも反するし、みんなへの裏切り行為だよね。

最後に杉咲花が「今度は高杉真宙も自殺できるようにまた参加する」との捨てセリフ、さっき全員で反対したばかりなのだが・・完全にこの集まりをゲームか何か、死を軽いものとしか考えてないのか。。「結局彼らは傷の舐めあいをしたいだけ」なのか?

こういうSNSを通じて集まる自殺サークル的な話はあっても実態は分からないが、本気で自殺しようとする人は本当は誰とも話しもせずに一人で病んでいるので、こういう集まりに参加しないのかもしれない。だから、本気の一歩手前の話を聞いて欲しいだけ、痛みを共有したい人の方が実際には多いのだろうか?、いずれにせよ、本人にとっては大問題でも視野を広げることで死ぬ価値もないと気付いたり、ある出会いがきっかけで考えが変わるのなら完全に否定は出来ない。

 

ラストカットでは、みんなが晴れ晴れとした笑顔で連絡先を交換したり話しながら解散していくが、本当にこれはハッピーエンドなのだろうか?

この瞬間は忘れられても、家に帰って日常に戻れば過酷な現実とまた向き合わなければいけない、彼らを取り巻く状況は何1つ変わっていないのだから(ヘルペスや一部の人は少しは気持ちは楽にはなっただろうが)。人によっては、死ぬより辛いことが待っているかもしれず、今回死ななかったことを後悔する人も出てくるかもしれない。

結局、「子どもたち」だけで出した答えに過ぎず、「大人」や「現実」にこそ根本要因があるのなら、それと対峙して乗り越えていくことでしか解決しないのでは。人によってその要因や大きさも違うけど、世の中には自分と同じような人、それ以上に辛い人たちが大勢いるし、それでも必死で生きている人の方が多いのだ。

例えば先日見た映画「存在のない子供たち」(大傑作!)の「子どもたち」を見て感じて欲しい、この世界の現実を見ても死にたくなるのか?って話。そういう意味では、映画も世界の視野を広げてくれる・変えるきっかけとなるはず、だからこそ映画の力を信じて、嘘をつかない誠実な作品作り・プロモーションをして下さい、改めて本当によろしくお願いします!