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年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「存在のない子供たち」 ★★★★★ 5.0

◆「この世界の片隅で・誰も知らない」少年の瞳を通して訴えかける衝撃の大傑作!、子供が笑っている社会のために先ずは観て考えること

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今年度ベスト級きた!、予想以上に衝撃作でフィクションを超えて何の涙か分からない涙が溢れてきてしばし動けず・・ひたすら重くて辛いけど和みや笑いもあり、本物の素人難民たちのリアルさと映画の力に圧倒されるはず。上映館は少ないが、感動とか泣けるとか面白いとか気軽な言葉では語れない、心や魂を揺さぶられる絶対に観るべき大傑作。

ナディーン・ラバナー監督が3年かけてリサーチした執念のレバノン映画。わずか12歳で自分の両親に対して、「僕を産んだ罪」で裁判を起こした少年ゼイン、出生届も出さず存在していない彼を待つ過酷な現実とは・・ほとんどドキュメンタリーみたいなフィクションでお涙頂戴は一切なし、ただありのままを突きつけられて打ちのめされる覚悟は必要。

主人公ゼインがあまりにも魅力的でこのキャスティングが出来たことは奇跡的、その他ほとんどのキャストが演技経験のない人々で、実際の難民・移民だったり市場の人たち。重い内容ではあるけれど希望も感じられる、プロパガンダ映画と違って誰かを糾弾するわけでもなく、ただ今起きている事実を明らかにすることで、何が今できるのか考えさせる作品、遠い国の話のようで身近な物語にも感じさせる普遍的な問いかけが素晴らしい。

第71回カンヌ国際映画祭で審査員賞とエキュメニカル審査員賞、アカデミー外国語映画賞(この年は全作品傑作すぎる)など受賞多数は当然。映画としては、「万引き家族」の論理性、「ROMA」や「Cold War」の芸術性などは弱いが、理屈を超えて何としてでも物語を伝えるという強烈な意思の強さが圧倒的。

 

レバノンは、内戦の絶えないシリアやパレスチナから100万人規模の大量の難民が流入していて、人口の1/6が難民という世界一の難民国。レバノン映画と言えば、昨年も「判決、ふたつの希望」という難民を絡めた傑作があったが、こういう国の実情だからこそ作りたいという意欲、少しでも多くの人に伝えたいという強い信念が生まれてくるのだろう。

この世界の小さな片隅で必死に生きてる少年が、「自分が生まれてきた意味」を探しながら、中東の貧困や移民・難民問題のリアルを突きつけてくる。主人公ゼインの目をそらさず向き合うあの瞳が、利発さも愛情も怒りも悲しみも全て含んでいる。
ネグレクトの親を糾弾するのは簡単だけど、その背景にある一筋縄ではいかない暗い暗い現実を見るのが辛い。子供を売った親を非難する気持ちの一方で、幼い赤ちゃんのためにその決断も受け入れなければいけないゼインの引き裂かれる心情に、見ている心も引き裂かれる。

今作に出てくる人は誰もが生きるために仕方なく悪い事をしてる。大人は身勝手だけど彼らもまた「存在のない子供たち」だったのも事実、この地獄の環境で誰もが真っ当には生きられはしないし、親がそうだから自分も仕方なく同じ人生を受け入れるしかなくなる。
11歳の少女が嫁ぐのはこの地域では代々周りを含めやってきたことだから当たり前だと思うことが、どんなに残酷なことなのか気付いていない人たち、もしかしたら親たちも最初は反対したかもしれない、が長く続く絶望と諦めから結局同じように生きていくことになる。誰もが生まれながら人を愛する・子供を守る本能は持っているが、環境がそれを奪ってしまうのか・・でもゼインをはじめ心優しき人たちも出てくるので、100%環境のせいにも出来ない。

 

貧乏なほど娯楽が少ないほど子供は多くなる傾向があるのは事実だし、自分が同じ環境で生まれたら?、同じように生きていくしかないと思うと・・あれだけの親に対しても正直心底恨めないのがまた苦しい。大人が諦めるのは勝手だが、子供に諦めさせるのは罪だ。親が悪いのか?貧困が悪いのか?環境?政治?国?原因が何かなんて単純には分からない、社会的構造からの負の連鎖は簡単には変えることのできない現実。

道端に飢えて転がる子供の姿が日常風景のリアルも救いがないし、途中に出てくるMCUのヒーローおじさん(スパイダーマンの親戚のゴキブリマン)にも頼らず、助けてくれるヒーローなんていないという現実を受け入れてしまっているゼインの絶望も深い。観ようによっては全編に渡ってMCUへの皮肉も多い(ズボンのキャラやミニオンなどのおもちゃ、自分がヒーローになるしかない)。

それでもゼインは、大切なものを守るため世間の流れや親の意向から背き、必死にもがく。大人たちの「これが社会だから仕方ない」との諦めに対し、「人生を勝手に諦めるな」「こんな社会が許されるのはおかしい変えるしかない!」と何度も立ち上がる。普通ならすぐに諦めるか信じられない大人の助けを求めてしまうだろうが、彼には聡明さと勇気と知恵があった・・様々な困難に対処できる機転の良さや親を訴える勇気、誰よりも人間らしく生きる活力に溢れ、疑問を持って理不尽・不条理に正攻法で立ち向かうカッコよさと愛に誰もが勇気やエネルギーをもらえることだろう。

多くの人が自分の知らない世界の現実を知ること、簡単に世界は変えられないけれど、変えたいと思うきっかけを作ること、それができる映画の力と監督の信念・情熱が本当に素晴らしく、心を打たれる。

出来るだけ多くの人に先入観なく見てもらいたく、出来たら少しでも興味のある方は、以下のネタバレを読まないで先ずは映画を見て感じて欲しい。。

 

※ここからネタばれ注意 

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【(ネタばれ)コメント・考察】

◆ヨナスの世話

最愛の妹まで金のため家主に嫁がされてしまう(初潮が来たことを必死で隠したり逃げようとしたが敵わず)。ゼインは家出し、遊園地で働くラヒル親子と知り合い息子ヨナスの面倒を見る代わりに一緒に暮らすようになる。貧しくて閉じ込められた生活だったが、今まで感じたことのない家族のぬくもりもあった。しかし、そのラヒルも不法滞在で捕まって拘留されてしまい、家に戻ることはなく二人きりとなっていまう。。

ほぼ全編つらい状況の中、赤ちゃんのヨナスの汚れ一つ無い無垢な瞳と仕草一つ一つに癒される(助演男優賞あげたい)、人間はみんな無垢な天使で産まれるんだと改めて気付く。あの親、ロリ親父、ブローカーたちも生まれたときはこうだったのに・・違うのは育つ環境だけでもないのか、どこで変わってしまうのだろうか?

 

本当のお兄ちゃんのようにヨナスに接するゼイン、これは紛れもなく深い愛。自分が受けた事のない愛を自分より幼い赤ちゃんに注ぐゼイン、生まれつき持っている母性なのか、自分が守り切れなかった妹の代わりに今度こそは最後まで守るぞという強い意志なのか。。とにかく自分のことよりも、ヨナスを優先に考える、なけなしのお金で迷うことなく先ずおむつとミルクを優先して買うところが泣ける。。

自分自身、そして自分が守らなければならないもののために泣いてる暇さえない現実、もう涙すら乾ききって出ないのか、ゼインは泣くことはない。周りでイスラム教の人たちがお祈りをしている中、宗教や神様の存在すら知らない・助けてと頼ったり信じることすら考えない。そして素晴らしいのは、この状況になっても簡単に施しを受けないところ、自分なりに一人の人間としての尊厳を守っている。
ギリギリの状況なりの創意工夫にも感心させられる、鏡の反射を使ってヨナスにテレビを見せたり、大きな鍋をベビーカー代わりにして移動したり、シリア人になりすまして救援物資をもらったり、蛇口から出る濁りきった水でミルクも作れないので、粉だけで食べさせる、氷に砂糖をかけて食べたり、何とか生きるすべを見出していく。

それでも、途中で万策が尽きたとき、ゼインは親がやっている生き方をマネせざるを得なくなる。最初に機能していない親を表現していた「足かせを着せる」こと、苦渋の決断でヨナスの足を紐で縛り路上に捨てようとして思いとどまるシーン、あの親以下にはなりたくないという葛藤があまりにも辛すぎる。そして違法な薬を作って売ったり…自身の親と同じことをしてでも、彼は目の前にある小さな命を守ろうとした。まだまだ親に守ってもらうべきその小さな身体で、更に小さな命を守るために・・そして自分の限界を超えたときの葛藤・諦め・覚悟、ブローカーに騙されていると分かっているだけに最後の別れがあまりにも切ない。それでも二人ともが生きていくために、何よりも大切にすべきものを失わないために・・観ているだけで何も出来ないのが本当にやるせなくなる。

ゼインは「優しい、みんなに尊敬される、立派な大人になりたかった」と言ったが、すでに誰よりも優しく尊敬される立派な人だし、こんな世界を変えていける大人になれるよ、と言ってあげたくなった。
 

◆裁判の過程

ゼインの存在が初めて認められるのは、罪を犯して捕まった時、裁判で存在しないことが証明される時、というのがすごい皮肉。拘留・刑務所にいる時の方が衣食住足りて安心できるという事実。

裁判中のゼインの心からの叫び「僕を産んだ罪」「僕は地獄の中にいる」「世話できないなら産むな」「これを繰り返すなんて心がないのか」といった言葉たち。子どもの存在は何かということを考えさせられる、国も時代も越えた普遍的な問題を突きつけられる。

子供を産む事を投資のようにしか考えず、愛も与えず学校も行かせず働かせて、金を生ませる道具としか見ていない。金のために嫁がせた幼い娘が理不尽に死んでも、涙が乾く・悲しむ暇もなく嬉しそうに次の子供が代わりになると言う親、そしてその子どもに同じ名前をつけようとする意味の分からなさ・・ゼインが叫ぶ「心がないのか!」には観ている誰もが同じように叫んでしまう。神様からの許し、生まれ変わりとか思っているのか、命を何だと思っているのか、あまりの衝撃にただ言葉を失う。

貧困、移民問題の犠牲となるゼインのような子供らに残酷に突き付けられる命の価値。環境は変えられないけど、産むことは選択ができるのに 厳しいはずの環境であるほど子どもは多く産まれ、現日本のような環境の方が出生率は減少する。

そして「世話できないなら産むな…」12歳の子供が裁判で親に突きつけるセリフ、ずっと彼の経緯を見てきただけに、こんなにも説得力のある言葉の力は聞いたことが無い。同じように貧しい地域で何人も子供を産む親に疑問を感じてはいたが、今作のゼインの両親を見て、この人たちの根本的な背景・考え方を変える難しさを改めて実感させられた。母親がゼインの弁護士に向って「私たちの苦しさなんてあなたには分からないでしょう!」と涙ながらに訴えるシーン、これはゆっくり冷房の効いた映画館で飲み物を飲みながら観ている我々観客に対する訴えでもある。この叫びをぶつけられている弁護士を演じているのは監督自身であり、作品を作るだけではなく自分への戒めとして言い聞かせているのも素晴らしい。

 

また、社会的な存在証明となる戸籍などの証明書類たった一枚の紙がないだけで、考えられない絶望があることも見せられた。責任の所在が不明なため、普通の仕事が出来ず非合法・不衛生な仕事や犯罪で金を稼ぐしかない、格差どころか生きるか死ぬかの問題なのだ。同じ人間として一つの命であることは変わらないのに、証明書がないだけで基本的人権も無く世界に存在しなくなる・・証明書は同じ人間が発行しているというのに。。

無責任に子供を産むことは罪だが、一方で貧困や難民というだけで子供の存在を認めたり育てられないという状況、根本的な社会構造システムを国が変えていかなければ永遠に解決しないのが事実。その国を動かすために個人として出来ることは何かを、この映画を見て考えるきっかけになればいいなと強く願う。

 

【演出】

カメラの視点も低めに設定していて、常にゼインたち子供の目線から見た大人や社会の見え方を体感させられ、息苦しさや監督が作品で訴えたいことを感じられるようになっている。子供との距離感は是枝監督と近いものがあるが、ここまで素人の人たちを自然にリアルに捉えられるものなのか?・・その場にたまたまカメラマンがいるかのようで本当にどうやって撮ったのか?、映画でもなくドキュメンタリーでもない感じのバランスが素晴らしい。基本的にゼインに寄り添う視点だけど、途中ドローンで撮った俯瞰の映像を挟んだりして、観客を一歩引かせて見せるのも上手い。

メッセージを主役にするためのストーリー構成、少年たちの表情の掬い取り、視点の巧みな切り替えなど、見事な手法や演出の説得力を持って現実を超えてくる・・そしていつのまにか監督の伝えたいことが重く苦しいながらも心地よい共感を持って迎えられる。冒頭の裁判の訴えの理由や背景を裁判を盛り込みながら徐々に紐解いていく、サスペンス要素を含めちゃんとエンタメ映画としての完成度も本当に高い。

是枝監督の「誰も知らない」や「万引き家族」とつい比較してしまうが、そもそも国として平和な日本で起こることと、難民・違法滞在を抱えたインフラの弱い国で起こること・子供の悲惨さは比較対象にならないかも。ちなみに今作を見た後で「天気の子」を見ると、家出少年やラストの世界とか完全に冷めてしまう可能性が高いので、今作より先に見た方が良いかも(そもそもファンタジー映画のセカイ系なので別物だけど)。

監督の旦那さん(プロデューサーも兼任)が作った劇中音楽も素晴らしく、セリフがないシーンを見事に音楽で説明している。

原題は「Capharnaüm」、フランス語で「混沌・修羅場」の意味合いで使われる。

 

【役者】

とにかく驚くことに主人公ゼインを始め、メインに出て来たキャストは全員、監督自ら実際に同じような境遇にいる一般の人たちから選抜したとのこと。なのでリアリティが凄いのはもちろんだが、普通に演技としてもめちゃくちゃ上手く、セリフまわしや動きも自然で素人っぽさを全く感じない。

脚本を与えず自分の体験からの言葉を紡がせたと監督は言っているが、なるほど納得する一方で、それでも全員このクオリティの高さには驚愕してしまう。完全に映画の中で自分の人生を演じている。

更にホームページやパンフレットで出演者たちのプロフィール欄を読んで、フィクションを上回るリアルさに胸が詰まってしまう。今も困難な状況で生きている人、撮影中に実際に逮捕された人もいたり、過酷な状況は映画の中だけでは終わらず今も続いていると思うと言葉もない・・が、この映画に出演したことで、助かったり希望が持てた人も多いので、今作が世界中でヒットして存在を知られることの重要さを感じる。

※ゼイン:本名もゼイン、子役を超えて怒りと悲しみの表現力が圧倒的で、空虚な諦めと絶望の目が強烈で忘れられない。現実は、レバノンに逃れた元シリア難民で、本当に身分証明書がなく、10歳の頃から家計を助けるために仕事をしていたとのこと。そんな経験を踏まえたゼインの瞳に宿る様々な感情は、物語を見ていることを忘れるほどリアルに訴えかけてくるし、ふと見せる濁りのない無垢な表情にも揺さぶられる。

撮影に当たって「こんなに人間らしく扱ってもらえたことが嬉しい」との答えも胸に迫る。「誰も知らない」の時の柳楽優弥を想い出すが、大人になったゼインに会ってみたいし、ぜひ役者を続けて欲しいとも思う。ゼインの一家は撮影後、ノルウェーへの移住が認められたそう。

※ヨナス(赤ちゃん):赤ちゃんなのに表情や仕草、タイミングも全てが完璧すぎて、ゼインとのコンビ芸には泣いたり笑ったり胸が張り裂けそうだった。一挙手一動の可愛いらしさ、場を和ませる名アクションの連続・・おっぱい求めてゼインの服をめくったり、いつもと違うミルクに泣いたり、ダンシングベイビーとしての音感やリズムの取り方は天才的で、CGを使っているのかと思うくらい。

現実は、本名トレジャーちゃん、本作の撮影途中に両親が逮捕されてしまったが、家族は2018年に国外退去。母親とケニアに戻ったが父親とは離れ離れになっているそう。

※ラヒル(ヨナスの母親):現実は、エチオピアの難民キャンプ出身の出稼ぎ労働者で、撮影中に不法就労で逮捕されて拘束されてしまったが、何とか監督が保証人となることで釈放されたそう。

 

【(ネタばれ)ラスト・考察】

ゼインが逮捕された理由は、妹が嫁いだ先で妊娠中に理不尽に死んでしまったことを聞かされ、今までの想いが爆発してそのロリ地主を刺してしまったこと。そのあと刑務所の中でふと見たテレビ番組に電話をかけ、両親を訴えることを展開し、マスコミも注目する冒頭の裁判となったのだった。ラストは判決詳細は分からないが、ゼインには証明書が発行されることになり写真を撮るシーンで終わる。また、ニュースではブローカーが逮捕され、ラヒルやヨナスも無事に解放され再会を果たすことが出来た・・

刺してしまう感情も共感できるのだが、もし教育を受けられていたら彼の世界は広がって変わっていたと思うし、他人に怒りをぶつけてしまう前に誰かが止めたり救ってくれたりしたかもしれない。でも逮捕されて裁判にならなければ何も変わらないままだったことを思うと、是非はともかく彼の信念ある行動が運や結果を呼び込んだのだろう。

ラスト、終始諦めたような物悲しい瞳をしていたゼインが、最後の最後で見せる子供らしい笑顔が忘れられない。固い感じに見えるのは笑い方を忘れていただけで、決して作り笑顔ではないはず。どうしても笑えない中、担当者の「死亡証明書じゃないんだから!」の一言は気が利いて素晴らしかった。いずれにせよ、この写真でようやく存在は認められたが、すべてが解決されたわけでなく、これからの人生まだまだ困難が待ち構えているはず(現実では、この映画自体が彼の存在の証明となった)。

映画は2時間で終わるけど彼らの現実は続いていて、何よりも彼ら以外にもたくさん同じ状況・それ以上に追い込まれた子供たちが世界中にまだまだ溢れているのだ・・


この長いストップモーションのゼインの笑顔、なぜだろう、嗚咽を抑えたいのもあったが、完全には直視できなかった。そのままエンドロールを見ながら、ずっとずっとお前はどう生きるのか?いま自分に何ができるのか、どうしていくのか、問いかけられている気もして・・そのくらい何かを訴えかける力があった。

ハッピーエンドと取れるラストだが、晴れやかな幸せそうな顔で映画館を出れる人は誰一人いないはず。子供が可哀想だね、酷い親だね、あの国は大変だね、救いようのない物語だね、などという他人事の感想なんかで終わらせてたまるかと、彼らが歩む未来が本当の笑顔で満ちたものになるためにどうするべきかと、みんなが考えながら帰っていくことを願う。

自分もゼインの笑顔と複雑な気持ちを余韻に、急いで家に帰り、子供たちの笑顔を見てギュッと抱きしめてこっそり泣いた。
その後、ニュースを見ると、トップで吉本の闇営業問題をやっていた・・そして日韓関係問題、何やってるんだろう・・また涙が出てきた。。

 

最後に、これは日本から遠い国が舞台となっていて、日本で普通に生まれ普通に暮らしていたら想像が難しい世界の話だけど、確実に日本にも侵食し始めているのも事実。

近い将来、必ず日本もドイツと同じように移民を受け入れざるを得なく、日本の路地でゼインの様な子を目にするかもしれない・・人権のない技能実習生、SNSなどで違法に流通する偽造カードなど。そして、はるかに恵まれた環境にいながら、今も日常的に起こっている親が子を虐待する・見捨てるといったネグレクト話も、ますます増えていくことだろう。理由は様々だが日本にも戸籍のない無戸籍者が1万人以上いるとも言われている(民法上の嫡出推定が多いのだが)。そんな時「育てられないなら産むな!」「生まれてこなければ良かった」と、子どもに絶対に言わせないように今から個人も国も真剣に考えていかねばならない。

監督は「無関心でいることはそれに加担しているのと同じ、子供たちがそんな世界に生きなければならない状況を私たちは作っている、その状況に適応してしまってはいけない」と言っている。

シネスイッチ銀座で見たので、比較的高齢者が多かったのだが、本当は若者や地方の人たちなど一人でも多くの人に見て考えて欲しいと思う(見るべき対象の人たちほど、こういう映画を見ないのも事実なのが歯がゆい)。今作はPG-12(一部のシーンで仕方ない)だけど、ゼインと同じ12歳の子たちが学校の授業などで見て議論するのもいいし、いずれ普通にテレビ放送もして欲しい・・某2〇時間テレビの感動ポルノより遥かに響くし、真実の愛は地球を救うのだが。。

全国の上映館が増えることを祈りつつ、このレビューでも広めていけたらなあと強く願いつつ・・久しぶりに心の底から魂を揺さぶられた素晴らしいこの映画に感謝!