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「ゴーストランドの惨劇」 ★★★★ 4.4

◆美少女人形地獄!最高に怖くて辛くて面白い期待通りの胸糞トラウマホラー、ロジェ監督印の劇的ツイストから顔面・精神ボッコボコ・・耐えたその向こう側にあるものとは?

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あの極限の痛みと絶望を哲学的に描いたトラウマ鬼畜ホラー「マーターズ」、このホラー新時代の大傑作を手掛けたフランスの鬼才・パスカル・ロジェ監督。前作「トールマン」はヒューマン・ミステリーの秀作だったが、それから6年ぶりホラーファン必見の最新作は、その2作を更に多面的にしたロジェ監督にしか作れない不快・深い傑作だった。

90分間一瞬たりとも目が離せない展開、ひたすらトラウマ級の恐怖と嫌悪感に襲われながら、張り巡らされた伏線に翻弄され、怒涛の結末に向けて一気に回収していく。ストーリーや手法は特別真新しさはなく古典的な展開やジャンプスケアの連続、隔離された古い屋敷、閉ざされた地下室、不気味な人形、精神的に狂った犯人など王道のホラー設定と、名作へのオマージュがあちこちに詰め込まれている。

そして今作もロジェ監督らしく、どんでん返しというより劇的なツイスト(転調)があり、その仕掛けから狂気の向こう側に連れていかれ、その先にある何かを見せてくれる。

 

ただやはり軽い気持ちで薦められる作品ではなく、ロジェ監督の変態性癖である女の子への暴力シーン満載(血は少なめ)で生理的嫌悪感は半端なく、美人姉妹の顔面が一切容赦なくボッコボコになるので耐性がないと厳しい・・ジャック・ケッチャムの世界、自分も娘を思うと辛すぎて目を背けた(体調の悪い時やデートでは止めておくべき)。

完膚なきまでに非情に絶望へと突き落とされるが、最後に向けてこれらを耐えた人にだけ見せてくれる景色・愛が本当に素晴らしく感動的で、完璧な演出と脚本に改めて唸らされる。「マーターズ」ほどの残虐さ、エグさ、胸糞さは無いが、精神的にもこのくらいがベストだろう。

昨年の「ヘレディタリー 継承」に続き、今年のベストホラー候補は間違いなしの傑作、普通のホラーを超えたヒューマン・ミステリードラマとして騙されたと思って是非!(ネタバレ厳禁なので出来るだけ情報は入れないで)。

ラブクラフト怪奇小説の第一人者)が重要なモチーフになるので、どんな作家なのか事前に調べておくとより楽しめるはず。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・考察】

ネタバレしないとレビューが苦しいため、中盤のツイスト(転調)の真実から・・

現実では母は犯人に殺されて死体のまま家に放置され、姉妹2人は犯人に監禁されて毎日のように酷い暴行を受けていた。妹ベスはその現実を受け入れられず自分が作り上げた幸せな幻想の世界に生きていたのだった・・前半の話すべて現実逃避のための妄想(夫やテレビの司会者が現実の部屋の中にあった写真やポスターだったのが「ユージュアル・サスペクト」へのオマージュか)。

トラウマから解放されるプロセスをメタホラー的に描いていて、なぜ妄想するのか、なぜ妄想だけしていてはいけないのか・・空想や妄想、物語が人々にとってなぜ必要なのかというテーマにも直結している。改めて思い返すと妄想パートと現実パートが比較的分かりやすく表現されていた。

冒頭、引っ越し車中での会話に姉妹の関係性や性格がきっちりと描かれていて後半のギャップにつながる、場面転換も巧妙で伏線と思われる何かが散りばめられているのに騙されていることにすぐには気づけない。脚本の構造は凄くしっかりしていて、前半部分で敢えて観客に違和感を抱かせたり、重要と思われる台詞を散りばめたり、ミスリードさせたり丁寧に積み重ねている。

正直なところ物語自体のプロットやトリックは既視感があり、勘の良い人なら展開は読めてしまうが、その転調における心理描写の起伏の差やトラウマの克服・成長を見事に昇華していくところが素晴らしい。

恐怖演出は伝統的な手法が多く、先ずこの建物自体の存在感、部屋の構造、仕掛け鏡などを事前に認識させてからの後半の目まぐるしい展開。人形を使った間接的な表現によって描かれるグロテスクな変態行為(ライターで手首を溶かすシーンはガクブル)、顔面ボコボコについてはカット数を多くして直接の暴力シーンや出血シーンの表現は出来るだけ抑えつつ、ちゃんと平手でなく拳で殴ったり、叩き付けたり、あの大男のパワーにふさわしいリアルさを表現していた。女優さん二人とも美人なのにすごい体張ってたし、メイクもいい仕事していた。

 

ベスの現実逃避は自分を守るための最終手段だったのだろうが、そこの境地に入り込むまでどれだけの絶望を繰り返したかと思うと辛すぎる。。それでも永遠に逃避し続けさせてはいけないと、現実主義で同じ絶望にひたすら耐えてきた姉のヴェラが引き戻して救う展開は泣ける。

やっと屋敷を抜け出すことができ、夜明けの大草原を二人で駆け抜けてるシーンは美しく、警察官に見つけてもらえてハッピーエンドかと思いきや・・ロジェ監督がそこで終わるはずもなく再び捕まってトラックで運ばれていく・・見てる側も二人と同じくらい絶望のドン底に落とされる(絶対にキャンディトラックに向かって親指立ててファッ〇ユーするのは止めようと誓う)。

ベスは再び現実逃避の世界に戻ってしまう、そりゃ現実を諦めて夢に逃げたくもなるだろう、でも本当に夢を叶えるには立ち向かうしかない。

そこでラブクラフト(現実でも神のごとき存在)と母に出会う場面はとても感動的。彼女が憧れるラブクラフトは未来の自分でもありイマジナリーフレンド、そんな彼が登場して「この作品は完璧だ、書き直すところはない」と言って後押ししてくれる・・「自分が書くはずの今体験している物語」から勇気をもらうのだ。

また、もう二度と戻ってこない母が「あっちはつらいことだらけよ」と言って優しく見送ってくれるシーンも泣けてくる。そして、鏡(自分の心の殻)を突き破り、自分のため姉のため母のために、再び辛くて過酷な現実と戦う決意をする・・その立ち向かう勇気、乗り越える強さに今作も不思議な恍惚感を感じてしまった。

パンズ・ラビリンス」のようにあまりにも悲惨な現実から空想世界に逃げることを教えてくれる映画もあるが、今作は空想が現実世界に戻る勇気を与えてくれる・・空想世界を作り上げ、それを空想だと認識した上で、イマジナリーフレンドが現実を生きる力を与えてくれる。

 

悪役2人のキャラや造形のキモさもたまらない、ホラー定番の頭のイカれた大男と息子を溺愛する母親のコンビなのだが、大男の圧倒的パワーと俊敏な動きの絶対勝てない感(あの狭い空間でのカメラワークの速さ)、母親の性別年齢不詳の魔女感(最終的にズラがとれておっさんだったが)。

特に、逆さまに持ち上げ失禁したベラの股間のシミの臭いをかいだり、首筋の汗にむしゃぶりつくシーンは、完全にロジェ監督の変態性癖でこれが撮りたいだけだろうという潔さ?が感じられた(まさか冒頭のオシッコ話すら伏線になっていたとは驚いた)。

彼らが少女を人形として扱うのは、物言わぬ言うことを聞く永遠の少女としてとどめておきたいのか(ベスが引っ越し初日に初潮を迎えて大人になるのも象徴的)、とにかく同列に並ぶ人形の種類の多様さと怖さもキツかった・・アナベルやチャッキーもいないか探してしまった。最後に酷く扱われてきた人形としての復讐なのか、まさか機械仕掛け人形が最後のピンチを救ってくれるとは思わなかった。

 

名作ホラー映画のオマージュが多く、「激突」、「悪魔のいけにえ」、「エクソシスト」、「シャイニング」、「サスペリア2」、「アザーズ」など、「何がジェーンに起こったか?」がプロットの展開、姉妹設定で1人は売れっ子で精神病者、白塗りのメイクなどで共通点が多いかな。

ありとあらゆるホラー表現を上手く取り入れて、クラシックホラーを思わせるような美しいショットやいろいろな定型が散りばめながら、新しい独自性を出そうとしているのも良かった。「ゴーストランドの惨劇」というタイトルでイメージするのは「幽霊」だが、敢えてこのミスリードを仕掛けているのもさすが。

 

【(ネタバレ)ラスト・考察】

最後の救急車の中でベスが目を見開くシーンで終わるが、このラストまでも妄想だった・・とは誰もが思いたくない、妄想でなく現実に助かったのだと心の底から願う。。

ラストのセリフ「物語を書くのが得意なの」は、現実として今後どんな恐怖や不幸が訪れようとも書くことを糧に創造していくという決意の表れのはず。自ら体験したこの地獄の出来事をもとに小説を書くことで、カウンセリング的に過去を乗り越える。現実でも「ゴーストランドの惨劇」を出版・大ヒットさせて、良き夫を横にしてラブクラフトからお墨付きをもらっているのだろう! その小説を映画化したのが、この映画だったというメタメタ構造になっていて、エンディングに出るタイトルが、また、オープニングとタイトルバックにつながっていくのだ・・お見事!

 

ロジェ監督は、ホラー映画は自分自身について知ることができるジャンルだと語っていたが、なるほど彼の映画にはその説得力があり、考えさせられるものが多い。「マーターズ」で描かれた"人の欲望・絶望"の先・その向こう側にあるものとは?・・その答えのヒントがこの映画にあるのかもしれない。

 

たまには現実逃避したくなる時もある、今このレビューを書いているのは妄想の世界なのかもしれない・・あれ、誰かが叫んでいる声がする・・