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「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」 ★★★★ 4.2

◆エンドゲーム後の喪失感を吹き飛ばす見事な青春成長観光映画、親愛なる隣人から本当のスーパーヒーローへ、衝撃のラストは続けられるのか?ムズムズ・・

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あの「アベンジャーズ/エンドゲーム」に続くMCUの第23作にして「『スパイダーマン:ホームカミング」の続編。

フェーズ3を締めくくる完結編の今作は、エンドゲーム後の世界でピーター・パーカーが高校生とヒーローの狭間で苦しみながら、トニー=アイアンマンからの意思を引き継ぐ物語となっている。究極の11年間の集大成の直後だけに正直かなり不安だったが、実際はスーパーヒーローを描いたアクション映画としても、瑞々しいティーンの青春映画としても、洗練されていて非の打ち所がない出来で最高に面白かった!、いい意味で期待を裏切られた感じ。

「エンドゲーム」ではヒーローたちの現実離れ化・ファンタジー化・神格化が進み過ぎて完全に市井の人々は関係のない話になっていたが、今作ではヒーローを見てきた一般市民からの視点にフォーカスしていて観客とリンクするような作りになっていた。

壮大なフィナーレを経て手の届かないところに行ってしまった巨大なヒーロー映画シリーズを、ピーター・パーカーという等身大の青年の視点から再解釈する、「インフィニティサーガ」を神話へと昇華させ、物語を次なるサーガへと導く壮大なヒーロービギンズ映画としても完璧。

また、スパイダーマンの肝心な要素の一つである成長ストーリーも、前作より恋愛・友情・青春関連の成長が多くて、ヒーローとしての成長は少なめだが(目覚めから覚悟まで)、十代なりの様々な葛藤や胸キュンは誰もが共感できるはず。

 

監督はジョン・ワッツ(個人的に「COP CAR/コップ・カー」が大好き)で前作に引き続き同じスタッフが多い、尋常ではないプレッシャーの中、これだけの作品を出してくるとは嬉しい誤算だった。。エンドゲームで回収され尽くしたと思っていた伏線がまだ残っていたのも凄い。

サブタイトルにもある「ファーフロムホーム Far From Home」、直訳すると「故郷を遠く離れて」となるが・・ 科学旅行でホームであるアメリカを離れヨーロッパへ旅する物語、「ホーム」に根差したヒーローからはるか遠く世界を股にかけたヒーローになる物語、インフィニティサーガ完結として原点から11年間を振り返る物語、というように心の拠り所として、このサブタイトルに由来する部分も多いのではないか。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・考察】

■ピーター・パーカーの青春・成長

スーパーヒーローとしての活動と学生生活での青春活動は「何者かになる」ための模索する日々という意味では同じはず。ただ、トニー=アイアンマンの後継者としての責任・重圧は16歳にはあまりにも重かった・・

夏休みの楽しいヨーロッパ旅行、気になるMJにどうにか近づいて付き合いたいという想いが頭がいっぱいの中、行く先々でアイアンマンの巨大な看板が世界を救った英雄として飾られている(キャプテンアメリカが無いのは寂しいぞ)・・

分かってはいるけどそう簡単に同じくヒーローとして世界を救え!と大人たちに急かされても、まだ自分のアイデンティティを確立できてないのに普通に無理だろう。だから、簡単に大人で頼りになるミステリオを信じて騙されるし、よりふさわしいヒーローとしてその重圧を押しつけ、自分は普通の学生生活を優先させようとするあたりの展開は上手い。純粋/迷走のピーター・パーカー VS 虚構/権力に満ちた大人たち・・それでもピーターは自ら選んで少しずつ成長していく(大いなる力には大いなる責任を負う)

ハッピーと共にジェット機の中でスパイダーマンのスーツを自らカスタマイズしているシーンは熱盛!、ハッピーはピーターにトニーの背中を見たのだろうか、ハッピーが「音楽はまかせろ」と言ったところでアイアンマンのテーマソング、AC/DCの「Back in black」が流れた時は最高潮の興奮と涙は間違いなし! 前作同様、ラモーンズやゴーゴーズ、ツェッペリンスペシャルズなど選曲の妙も素晴らしかった。

 

戦闘シーンの映像や規模感もすごくて、エレメンタルズ戦の迫力はもちろん、最終決戦でのドローンVSスパイダーマンも今までにない組み合わせで、結局はまさかのヒーローVS人という。左腕に盾を、右手にムジョルニアのような形をした爆弾を抱えたピーターはエンドゲームのキャプテン・アメリカを彷彿とさせ、ハッピーがドローンに向かって盾投げつけるも失敗した時に「キャプテンはやっぱりすごいなあ」と漏らしたのにも笑ってしまった。途中特急にぶつかったときはさすがに死ぬだろうと思ったが・・

主演のトム・ホランド、今までのトビー・マグワイアアンドリュー・ガーフィールドのイメージを完全に払拭したかなというぐらい、完全に「トム・ホランド=ピーター・パーカー」になったのでは。

今作のMJ=ゼンテイヤも最初はクールな紅一点だったが、徐々に地が出てきて重要なヒントを見つけるなど知的かつ足の半端ない長さのカッコよさに惚れた。ネッドの恋物語も面白かったし、何よりも登場から11年でようやく運命の人?(まさかのメイおばさん!)に出会えた本当のハッピーが最高だった。

 

■新しいタイプのヴィラン・ミステリオ

サノスという超巨大なヴィランの後、全く別の現代らしいヴィラン・ミステリオを作り上げて登場させたのは素晴らしい。何よりもジェイク・ギレンホールの高い演技力の贅沢な無駄使い、まあ配役された時点で誰もが絶対に何か裏があると怪しんでヴィランだと思うはず。

ミステリオの見せる幻覚が、最先端のドローンとプロジェクションマッピングで見せてくるという演出も見事、まさか何もかもがホログラムで見せているとは思わなかったので普通に騙された。。虚像である映画の中で虚像を見せる、そしてピーターがスパイダーマンを虚像とするか本物のヒーローとするか悩むと言うメタメタ構造にもなっているのか。特に中盤でのベルリンでのシーンは何が虚像で何が現実なのか分からず頭がクラクラしてきて、USJのアトラクションに乗っている気分にもなった。

また、ミステリオは現代のネット社会を風刺しているのか、切り取り方次第では善にも悪にもなり得る「動画」を使った翻弄の仕方が新しい、本人しか信じないと思っていてもその本人すら本物なのか分からないという。結局、多元宇宙、マルチバースから来たというのも嘘で、ミステリオはただの人間だった・・普通の人間でも最先端の技術を使いこなせば、これだけのヴィランになれてしまうという怖さを改めて実感させられた。

それでも、いま一つ手段と目的の部分が弱く、この方法でアイアンマンに変わるヒーローになったとして、いずれバレるはずだし、本物の強敵が出てきた時にどう戦うつもりだったのかが謎すぎて。。スパイダーマンもこれだけ最先端のスターク製スーツなら見破れそうなものだが。。

 

【(ネタバレ)ラスト・考察】

ミステリオはスターク社の社員で自身が開発したツール(BARFシステム)の手柄をトニーに横取りされ、クビにされたことに対する復讐だった(そもそもトニー=アイアンマンの敵が多過ぎ、あとどれだけ残処理案件が出てくるのやら?)。

ラストのロンドンでの最終決戦、一度ベルリンで敗れたピーターが最後の力を振り絞り、スパイダームズムズ(=スパイダーセンス)をモノにしてミステリオの幻覚にも惑わされることなく打ち破って勝利。そして、ピーターはMJからの逆告白からのキスという最高の瞬間を迎え、最後にマンハッタンのビル群をウェブスイングして、本物のヒーロー・スパイダーマン になったことを感じさせる(ウェブスイングはサム・ライミ版のスパイダーマンのオマージュが入っている)。前作と違って、ヒーローとしての人生と普通の学生としての人生を両立させたラストだった。

 

そして、マーベルお決まりのロールエンディング前後の映像・・今回はかなり衝撃的で誰もが驚いたはず。

・ミステリオが死ぬ直前に残した独白映像が街中に流され、「世界を救おうとしたミステリオを殺害したヴィランスパイダーマンで、その正体はピーター・パーカー」とまさかの正体バラし・・ミステリオも完全に死んだとも限らないし、今後はMJやネッド、メイ叔母さんが狙われる可能性も出てくるので、果たしてどうするのか?

・今回のフューリー長官はあっさりとミステリオに騙されていて何だかなあと思っていたら・・ラストにビックリ!、実はニック・フューリーの正体は「キャプテン・マーベル」のスクラル人リーダーのタロスだった・・マリアの正体はタロスの妻(本物のニックならミステリオの嘘を見抜けていたのでは)。本物のニックは夏休みなのか?、宇宙のどこかでスクラル人たちを従えて何かプロジェクト?をやっている様子だった(ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3に関係してくるのかも?)。

・一番驚きだったのはデイリー社の編集長であるJK・シモンズの登場、このサム・ライミスパイダーマンのキャラが登場したことで、マルチバースが本当に存在していて、次回トビー・マグワイアスパイダーマンと共演する可能性もゼロではないということか?・・

これら衝撃のラストには色々な可能性を感じさせられ、フェイズ4への期待が膨らんで、ますます楽しみになってきた。あのエンドゲームでの達成感と喪失感は当分引きずるのかと思いきや、こんなに早くワクワクさせてくれるとは、MCU凄すぎる!

 

と言いたいところだが、なんとスパイダーマンMCU離脱のニュースが入ってきた・・ソニーとディズニーの交渉決裂ということで、今作が実質最後のMCUスパイダーマンとなってしまうのか?、今後はトニーの後継者でもなく、フューリーやハッピーとかアベンジャーズとの一切の絡みは無くなってしまうのか?、大人の事情は分からなくはないが、子供たちの夢を壊すのがディズニーなのか?・・

「大いなる力には大いなる利権が伴う」と何かの記事で見たが上手い!と言ってる場合でなくて・・このニュースがミステリオが見せた虚像であるように、ピーターのように自社の利益と子供たちの夢を両立させられるように、スーパーヒーローとしての役割を果たしてくれることを祈って。。