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「青の帰り道」 ★★★★ 4.1

愛という名のもとに」誰もが共感するであろう「若者のすべてTommorow Never Knows あの頃に戻れる青春への帰り道、藤井監督と横浜流星のブレイク前夜祭

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地方都市(群馬)と東京を舞台に、高校時代の仲良しグループ男女7人の、卒業後10年間を描く青春群像劇、地元に残った者たち、夢を持って上京した者たち、過去の思いとリンクさせながら成長する姿を描く。この爽やかなポスターを含めありきたりな若者向けスイーツ系青春映画だと思って見ると痛い目にあうはず、設定自体は珍しくはないが、予想以上にシビアに描いていてかなり突き刺さってくる。

監督は今年の顔と言える「デイアンドナイト」「新聞記者」と傑作続きの藤井道人監督、訳あって公開が遅れた前年度の作品。

今作は20168月、7割ほどを撮り終えた時点で、出演者の一人(高畑裕〇)が不祥事で逮捕され、撮影中止を余儀なくされたが、戸塚純貴を代役として2017年夏からの再撮影を無事に終え、ようやく201812月公開となった経緯あり。

この紆余曲折の道を乗り越えた経緯が作品の内容とも合った上に、藤井監督の新作ヒットと横浜流星のブレイクが重なって、今回もう一度たくさんの人に注目して見てもらえるのは結果として良かったと言うべきか。

 

普通の幸せを掴むもの、夢を追うもの、成功するもの、挫折するもの・・社会の厳しさ、愛、裏切り、生、死、絶望、希望など、理想と現実のギャップにもがきながらも"こんなはずじゃなかった"感はエグいくらいに重く描かれている。未来を大きく夢見た分だけ現実に打ちのめされ、乗り越えれない若さが痛くて、あの時に戻りたいと願っても今の世界で折り合いをつけながら生きていかねばならないのが現実。

学生の時はみんな同じラインに立っている気がしたけど、社会に出るとみんな違う環境で揉まれながら、いつのまにか差がついてしまう、それを目の当たりにした嫉妬や葛藤。大人になる前の不安定さをリアルに表現していて、登場人物の誰かには共感できるのでは。

 

青の帰り道、ラストの唄が染みる・・amazarashi「たられば」♩

「もしも僕が神様だったなら 喜怒哀楽の怒と哀を無くす 喜と楽だけで笑って生きていて それはきっと贅沢な事じゃない」

「もしも僕が生まれ変われるなら もう一度だけ僕をやってみる 失敗も後悔もしないように でもそれは果たして僕なんだろうか?」

 

【演出】

7人それぞれ役に応じてバランス良く描き、複雑に錯綜したストーリーを2時間の群像劇として破綻なく収斂させた脚本と演出は見事。藤井監督らしい映像の色合いとか、光の捉え方、光と影の対比もさすが。

都会と田舎の対比を軸にあらゆる場面で対比が描かれている、夢・理想と現実、善良と悪、こだわりと妥協、若者と大人、親と子、仲間と孤独、生と死・・これら人生の優しさと残酷さ、生きる喜びと苦しさなど対立する中に深い溝があり、7人の若者たちは、その溝の中で揺さぶられ、翻弄される。

自分だけ取り残されたような焦り、嫉妬、不安感、平気で騙したり利用する大人たち、自由だけど厳しい社会の中で自分で責任をとること、特に田舎から夢を持って東京に出てきた人に共感できるところも多いだろう。

みんなそれぞれに傷ついて追い詰められていくが、追い詰められ方がリアルで見ていて辛すぎる・・DVSNS、ドラッグ、オレオレ詐欺、自殺など様々な社会問題を描写しているが、さすがに盛り込み過ぎで、みんな自己肯定感が低くてイライラさせられもする。もっと周りには優しくて良い人たちもいるはずだし、東京はそんなに怖いところではないはず・・それを冷静に客観的に見れないのが若さゆえなのだろうが。。

 

全体的に90年代の青春ドラマ「愛という名のもとに」や「若者のすべて」のような空気感を感じて懐かしい気持ちにさせられた、あの頃に戻る青春の帰り道なのか。

個人的に好きなシーンは、東京から実家に戻ったキリと母親が商店街を歩きながら会話するところ「夢破れたってわけね」「でも東京で5年も頑張ったんでしょ、自信を持ちなさい!」、この母役の工藤夕貴が素晴らしい、女優としていい年の取り方をしている。

あと、卒業して田舎で早々にできちゃった婚した2人(コウタとマリコ)が、結局大きな挫折もなく一番幸せそうだったのが印象的(別れたり子供に何かあったりしないかヒヤヒヤしたけど)、実際に無理して上京しなくても田舎でシンプルな家庭を築く人たちの方が多いのだから、何をもって人生の成功・幸せなのかは一概には計れない。

 

【役者】

デイアンドナイト」や「新聞記者」でも思ったが、藤井監督のキャスティングが上手くハマっている。

真野恵里菜(カナ):彼女の代表作と言っていい熱演で落ちていく振れ幅がすごい。「逃げ恥」のマイルドヤンキーだったり、「新宿スワン」のメンヘラなソープ嬢だったり、コッチ系が板についてきたのか・・元ハロプロのバリバリアイドルなのに・・久々に彼女の歌も聞けたが、NirvanaAC/DCRamonesTシャツ着ている割に全然ロックじゃないのはご愛嬌なのか。。いずれにせよ柴崎が羨ましい。

・清水くるみ(キリ):桐島に続き、イケてるヒロイン的存在の隣に憧れを抱きながらいる地味な子の役だが(全然キレイだけど)、東京で社会や男に翻弄されて耐える姿は良かった、もう少し出演作が増えてもいいのに。

横浜流星(リョウ):当時撮っている誰もがこんなに人気出るとは予想してなかったのでは。まだブレイク前で、作品によって顔が変わるけどチャラいヤンキー役もなかなか(まつ毛で超ワルには見えないが)、これだけの犯罪やってるのに周りが甘いのはご愛嬌なのか。。そして一番言ってはダメな奴(オマエが言うか)に最終的にド正論を言わせる露骨なアンチテーゼも良かった。

森永悠希タツオ):さすがの安定感で真野恵里菜と釣り合わない感じもちょうど良く、周りは進んでるのに自分だけ見えない先と楽しかった過去にすがるしかない感じ、最後の電話での決心の表情は見事だった。部屋に貼ってあったカート・コバーン尾崎豊T-REXガス・ヴァン・サント「ラストデイズ」、キューブリック「時計仕掛けのオレンジ」はいかにも典型的すぎたけど・・

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)ラスト・考察】

ラスト、卒業から10年目、タツオの誕生日に合わせて集合した6人は、タツオの墓参りをした後いつもの帰り道で、自転車に乗った高校生グループとすれ違う。10年前の自分たちと重なり合い、彼等の中に笑顔のタツオが見えた、決して居なくなったわけではなく忘れない限りこれからもずっと心の中に生き続けるのだ。

夢と希望に溢れていた青春時代には戻れないが、あの時を共有した仲間たちとこの道を一緒に歩くことは出来る、これからも様々な苦労や困難が道を塞ぐかもしれないが、彼らなら自分の道を切り開いていけるだろう。

オープニングとラストの帰り道のシーンが対になってリンクするのが見事、印象的だったこの一本道はどこまでも真っ直ぐに伸びているかのようだが、実社会では平坦な道などなく時に躓いたり止まったり遠回りをしたりしながら進んでいくしかない、人生の道は続いていくのだ。

「人生に正解なんて、私はないと思うんだ、そりゃ失敗ばかりの人生かもしれないけどさ、それはそれでいいんじゃないの。生きていれば、いいこともあるよね。」

田舎に帰って青の頃の仲間たちに会いたくなった、SNSではなく面と向かってバカ話しながら、自分たちの歩いてきた道を確かめてみたい。