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「ラストワルツ」 ★★★☆ 3.9

THIS FILM SHOULD BE PLAYED LOUD!ロックの過去、現在、未来を凝縮した一夜の記録、本物のカッコよさが響き渡る・・さあ、彼らと一緒に最後のワルツを踊ろう!

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8月に早稲田松竹で観た「ラストワルツ」、アメリカ・時代が変わる時〜というテーマでベトナム戦争直後のアメリカを反映した「ディア・ハンター」との2本立て。昔ビデオでは見ていたが、「この映画は大音量で上映すること」この有名なオープニングの通り、今回40周年記念リマスター版の映像と音響が映画館で観ることができて最高だった(もっと爆音の方が良かったけど劇場的に仕方なし)。

内容はマーティン・スコセッシ監督によるザ・バンドの解散ライブである伝説の一夜を追ったドキュメンタリー映画。映画というよりライブを観ている感覚で冒頭から圧巻のパフォーマンスの連続、とにかく新旧問わずロックが好きな人は見るべし。

 

バンドメンバーのロビー・ロバートソンがスコセッシ作品の音楽センスに惚れ込み映像化を依頼、二人の入念な計画により映画的な演出を盛り込んでドラマチックに編集した作品で、完全なドキュメンタリーではない。ロビー・ロバートソン以外のメンバーはこの企画に乗り気では無かったらしいが、ゲストにメンバーの憧れであるマディ・ウォーターズを呼ぶことにより無理矢理納得させたらしい。 

スコセッシ監督初のアーティスト作品となる今作は1つの指標になったようで、これ以降、若き日のボブ・ディランを描いた「No Direction home」、ローリング・ストーンズのライヴ映像伝記「Shine a Light」など、多くの傑作ドキュメンタリーを生み出していくことになる。

 

個人的にザ・バンドの音楽は、リアルタイムでもなく熱血ファンではないが、60~70年代のアメリカのロックを語る上では避けて通れないバンドとして、1stアルバム「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」は素晴らしいと思っている。元はボブ・ディランのバックバンドとして登場したが、この作品は当時のサイケデリックブームとは距離を置き、フォークやカントリー、ブルーズ、ジャズ、ゴスペルといったルーツミュージックを改めてロックに取り入れた歴史的名盤。エリック・クラプトンも人生を変えた作品と断言するほどで正にアメリカ音楽そのものとして「ロックの殿堂」入りもしている偉大なロックバンド。

 

その彼らの解散コンサートとして、一つの時代やサイクルが変わる節目となった伝説的コンサートで、ベトナム戦争でのヒッピーカルチャーの衰退とも重なる貴重なフィルム。鑑賞していくにつれてファンのように熱狂し解散という事実に寂しさを感じる、改めてアーティストたちも含めてすごく愛されていたバンドで、リズム感をはじめ本当に上手いバンドだったんだなあと実感させられた。

まあ、奇跡のようなアーティストたち、これだけの共演者が揃うことも時代的なタイミングだったのだと思う(ゲスト参加アーティストが当日まで非公開だったらしい)。今では絶対に聞けないセッションに興奮させられること間違いなし!

ボブ・ディランニール・ヤングエリック・クラプトンマディ・ウォーターズヴァン・モリソンドクター・ジョンジョニ・ミッチェル、ボビー・チャールズ、ロン・ウッドリンゴ・スター、ロニー・ホーキンズ、ポール・バターフィールド、ニール・ダイアモンド・・・

 

先ずライブに入る前の最初のワルツからして最高。メンバーたちもインタビュー中にラリってるのが微笑ましい。

主役のザ・バンドの曲がメインで多いのだが、様々なゲストを引き立てる独特のライブスタイルで、お互いを尊重しあうさり気ない仕草まで映し出している、言うまでもなく演奏の上手さ・安定感は素人が聞いても分かるくらいで、メンバー全員ボーカルも上手い。中でもやはりロビー・ロバートソンの見せ場が多いのは当然か(独特のピッキングハーモニクスとヴィブラートのギターソロ)。

 

ゲストで印象的だったのは、エリック・クラプトンのギターはやはり別格の上手さで見とれる、途中ギターストラップが外れるというアクシデント発生もロビー・ロバートソンが援護演奏を始めカバーしたのはさすが。マディー・ウオーターズの存在感は誰よりも突出していて登場時のカット割りも渋くて良い。長年共に過ごしてきたボブ・ディランとは、目線だけで会話をしながら見事に音を紡いでいくのも聞き惚れた。

個人的に一番好きなのはニール・ヤング、普段着のような小汚い?服でステージに登場し、軽やかに楽しそうに「ヘルプレス」などを演奏していくが、どう見てもコカインをキメてる感じがビンビン伝わってきて良かった(最後に全員で歌う時も後ろの方で楽しそうに歌っていた)。

リンゴ・スターロン・ウッドも出ていたが演奏シーンがほとんど無かったのは残念。

そして、最後の曲「アイ・シャル・ビー・リリースド」は出演者全員で大合唱・・ロビー・ロバートソンが「ツアーで人生を終えることは不可能だ」と語るように、これ以上活動を続けていたら死に至るというコメント映像をいくつか伏線で散りばめて、最後に監獄のような所から解放され自由になることを願っている、という曲を全員で歌って終わらせるのはズルいけど泣かされるはず。(その後、数年後にザ・バンドは再結成したり、リチャードの自殺があったりと物語は続いていく)

改めて、アメリカン・ルーツ・ミュージックの良心を感じさせる演奏は、EDMとヒップホップ全盛の今の音楽シーンからは遠く離れているけど、こういう音楽にも是非触れて欲しいと願う。

 

【演出】

デジタルリマスター化されて鮮明になった音と映像は一見の価値あり、ブルーレイ化されるかは分からないけど、やはり映画館の大画面・大音量で見るのがベスト。

タクシードライバー」の2年後、「レイジング・ブル」の2年前の作品ということでスコセッシのフィルモグラフィ的にも重要な位置づけ。

スコセッシの音楽ドキュメンタリーは沢山あるけどウッドストックフェスティバルの撮影編集を手掛けただけあって、編集の上手さによる映画のグルーヴ感はさすが。撮影は「タクシードライバー」の実力派カメラマンだけに、臨場感は見事(演奏は差し替えられてるものもあるようだが)。

300ページに及ぶ台本を用意しスコセッシとメンバーが綿密な打ち合わせをして、7人ものカメラマンで撮ったらしいが、曲の展開やパート割りにぴったり合わせてフォローするカメラワークも見事。俯瞰のショットよりも顔や手元をクローズアップするショットが多く、ロックのカッコ良いパフォーマンスを抜き出してくれている。

音楽ドキュメンタリーだが、特に今作はメンツ的にも出来るだけ演奏を見たい人が多いだろうから、インタビューは合間合間にタイミングよくサラッと切ってくれたので良かった。曲の部分は歌詞に字幕がないので詳細は分からないが、インタビュー内容とうまく連動して意味のある展開になっているのだろうと思う。

 「何だ、まだいたのかい?じゃあ、もう一曲やろうか」、粋なセリフと共に、始まりと終わりのラストワルツを踊り続けようか・・