映画レビューでやす

年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「クソ野郎と美しき世界」 ★★ 2.2

逃走→喪失→再生、現実と映画が入り混じる世にも奇妙な3人の人生物語、映画としてはクソ野郎だが「新しい地図」の決意表明を兼ねた自主製作PVとしては美しき世界

f:id:yasutai2:20190925003845j:plain

SMAP新しい地図」の3人がチャレンジした再始動オムニバス映画、園子温山内ケンジ太田光の監督陣とサブカル臭に惹かれてAmazon Primeで丁度やっていたので鑑賞(劇場では2週間限定上映だったらしい)。

各監督のクセの強さもありつつ(誰が撮ったのか一目で分かる)、役名も本人の名前のままでそれぞれの特性をよく活かしたシュールな作品となっているが、残念ながら正直、商業映画としてもファンムービーとしてもかなり中途半端な出来で映画としてはつまらなかった。

おそらくスポンサーも厳しく(大手企業なし)、短編で時間も短く短期間で制作されたらしいので、ある意味で製作者の意図通りなのかもしれないが、今の3人ならではの表現として反体制的(ジャ〇ーズ批判的)な要素がもっと欲しかった。

それでも、三つのストーリーに流れる「自己を上手く表現出来なくなった人」というテーマが3人の現実とリンクしていて、ジャ〇ーズの窮屈さから解放され様々なことを乗り越えて辿り着いた姿には、ファンならずとも応援したくなるはず。ようやく公取委から指摘が入った腐った芸能界の最低なクソ野郎たちを見返して、これからは自分たちが最高のクソ野郎になって美しき世界を魅せていって欲しい。

 

※ここからネタバレ注意 

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

 

【(ネタバレ)各章・考察】

 

①「ピアニストを撃つな!」:園子温 監督、稲垣吾郎 主演

園子温お馴染みの作風だけど昔のように何か観るものを惹きつけるパワーは感じられず、近年の状況から期待値を下げて観たけど残念ながらそれも下回る出来栄え。15分程度では十分に表現できないのも分かるが、あの園子温の世界にどっぷりハマり込む稲垣吾郎を見て見たかった・・本格的復活を望む(ニコラス・ケイジとの作品どうなるのかな)。

画面は彩り豊かで躍動感も溢れていて、変態ピアニスト役はナルシスト的にもピッタリだったけど、肝心のストーリーと演出がダメダメ。ヒロインの馬場ふみかは抜群の可愛さとスタイルなのに、おっぱいの強調のみでファムファタール的な魅力が全く感じられず、最後に3人が叫ぶ「愛してる!」というセリフも虚しく響くのみ。

好き勝手に暴れてる浅野忠信(マッドマックスのベインや殺し屋1の垣原みたい)や満島真之介(ヴァンパイアホテルみたい)に比べると(スプツニ子!が美人博士役)、稲垣吾郎は霞んでしまっているので、やはり「十三人の刺客」の時のような完全なサイコパスや悪役の方が光ると思う。

 

②「慎吾ちゃんと歌喰いの巻」:山内ケンジ 監督、香取慎吾 主演

歌喰いによって歌を奪われるがウンコを食べれば戻れるという設定はなかなかシュールで斬新(世にも奇妙な物語っぽい)、歌うことが出来なくなったSMAPと重ならせるのを上手く笑いで穏やかに描いているのはさすが。何よりも歌喰い役で逸材っぷりを垣間見せる中島セナの存在感はすごい、「レオン」のマチルダっぽくもあり、このあと「リトル・ゾンビーズ」にも出て更にブレイク間違いなし。

肩の力を抜き切った香取慎吾は次作の「凪待ち」につながっていく演技だし、安定の古館寛治もさすが(なぜ尾崎紀世彦?)。あと警察官やマネージャーの下り・言葉の応酬にはクスクス笑わせてもらった(女性刑事は某マネージャーを意識しているのか?)、このあたりの細かい人物描写はいかにも山内ケンジ監督らしくて、今作の中ではこの短編が一番好みかな。

 

③「光へ、航る」:太田光 監督、草彅剛 主演

太田光の初監督作品ということだが、今作の中では一番真面目に頑張って撮った感があり、短い時間の中で映画として見やすく成立していてそれなりに感動するのでは。芝居は激情的でセリフや展開も気負い過ぎていて、あざといくらい狙い過ぎな構図にも若さや照れを感じるが、松本人志の一連の失敗以降、芸人監督として太田光なら可能性ありかなと思わされた(長編を見てみたい、さすがに北野武レベルは無理だろうが)。

草彅剛はやはりアウトロー的な演技は上手く、表情をはじめ引き込まれる、このあと「台風家族」でも夫婦役になる尾野真千子も良かった。新井浩文が皮肉にも警察官の役で出演していたのには苦笑。。

 

④「新しい詩」:児玉裕一 監督、クソ野郎★ALL STARS 出演

最後はダンスホールKUSO universeで集約される、大団円としていちおう3つの作品のモヤモヤが解決されて人物たちが交わるが、唸るようなつながりも必然性もほとんど無い。先ず主題歌をベースに3つの短編を作り、最後につなぎ合わせて強引にミュージカル風にしている感じ。

監督が椎名林檎MVをよく作る児玉裕一(ダンナ)なので、いかにもCMディレクター出身らしい作り(冒頭のラップは寒いし、グレイテストショーマンのオマージュだろうが厳しい)。

ただ、すべての色のウンコを食べて復活して、楽しそうに歌って踊る香取慎吾を含め3人がスクリーンでキラキラしているのを見ると、やはりスーパーアイドルたるものを感じて今後の自由な活躍を応援していきたくなる。