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「ビール・ストリートの恋人たち」 ★★★★ 4.1

◆もしストリートが話せたら、もし黒人ではなかったら、人間の違いは母親が違うだけ・・ロマンチックな全ての愛の美しさと力強さで理不尽な差別社会を乗り越える 

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ジェームズ・ボールドウィン(「わたしはあなたのニグロではない」も良かった)の原作を、バリー・ジェンキンス監督が惚れ込んで本人の同意を得る前に脚本を書いていたという念願の映画化。前作「ムーンライト」でオスカーを獲った監督だけに期待も大きかったが、相変わらずため息が出るほど美しい映像と音楽、繊細な演出が相まって、黒人差別モノの辛い内容ながら淡く柔らかい印象の絶妙なバランスに仕上がっている。

黒人のレガシー、ニューオリンズのビールストリート、かなり当時のアメリカを訴えかける内容で、前作「ムーンライト」と地続きとなっていて、過酷な状況や環境にも腐らず屈せず、普通に恋愛をしてささやかな家庭を作り生き抜いてきた、名も無き多くの黒人たちに捧げられた作品となっている。

流麗なジャズと鮮やかで華やかな70年代のファッション、ゆったりと流れる会話と間で静かに進むストーリーの中、随所に挿入される理不尽な現実とラストも含めシビアな展開に好みは分かれるだろう。

 

子供の頃から自然に惹かれ合い、気づけば愛し合う存在だったファニーとティッシュの2人。彼らの見つめ合い愛し合い求め合う一つ一つのシーンが本当に画としても美しく、若さゆえの無垢さを見事に映像化していて、ロマンチックな青春映画としても楽しめる。

が、そんな純愛を簡単に引き離してしまう権力と社会背景、白人警官との理不尽なやり取り、レイプ被害者とのやり場のないやり取りなど、正義も真実もどんな切実な訴えも何も通じない世界・・社会全体から見れば三面記事にもならないありふれたものとなる理不尽さの中、愛する者をそれぞれが守ろうとする姿が切なくも悲しいまでに美しい。

 

「If Beale Street Could Talk」この原題の通り、“もしビールストリートが話せたら” 恋人たちは普通に幸せに暮らせただろうに・・虚偽の証言や長引く裁判もなくなり、どれだけ多くの冤罪をなくせただろう、どれだけ理不尽に人生を奪われた人たちを救えただろう。。 

安直な邦題は、恋愛映画としてカジュアルな印象を与えてしまいそうで好きではないけど、何となく雰囲気に釣られて観た人の心を響かせることが出来るなら良しとするか・・

 

【演出】

時系列を混ぜながら話を展開することで、逮捕される前の幸せと現状の厳しさとの落差がより際立ち、より物語の辛さが身に沁みる。ゆったりと独特の間がありつつ小気味の良いテンポで観客の注意を引き付けていて、言葉だけではない表情でその場の空気感や感情がヒシヒシと伝わってくる描写が見事。

音楽の使い方や構図・画もクラシックとモダンの良いところを引き出し、前作は青色が印象的だったが、今作は暖かみのある橙色の光が全体のトーンを柔らかくしていた。二人の愛を描く場面では鮮やかな色や暖かい色で満たし、辛い場面では徐々に暗い色合いにトーンを落としていく、最後でまた少し鮮やかさが戻ってきていた。

そういった計算された画面、衣装の色彩配置などによって登場人物の心情を巧みに表現していて実に映画的、あとファニーがタバコを吸いながら創作物を製作するシーンでの漂っていく煙りの動きのまあ美しいこと。。

映像は光の中で浮かぶ人物が美しく、どんな言葉よりも正面から撮る顔の力強さが訴えかける、今作でも「目」の表現が印象的であり、合わせて指や口の動きと男女の身体の魅せ方がとてつもなく芸術的。前作でも感じた黒人の肌を美しく撮ることを優先しているようで、「Black is Beautiful」が際立つ。

 

二人で家を借りるのにも黒人だからという理由で差別される中、ようやく何もないだだっ広いだけの廃倉庫を借りるシーンは良かった(優しく助けてくれた人たちの多くがユダヤ人など結局マイノリティ側であるのも差別問題の根の深さを感じる)。みんなで冷蔵庫を運び入れる真似をして部屋の配置を考えていく、何もなくても二人一緒なら楽しくやっていけるという多幸感。

一番好きなシーンは序盤の妊娠して二人の家族が家に集まって勃発する修羅場、それぞれのキャラや考え方が良く分かり(宗教的な対立もあり)会話のテンポや切り替えまで見事な完成度だった(あんな姑と小姑は絶対嫌だけど)。

そんな中、ママが頑張ってプエルトリコまで行って被害者に嘘の証言を覆すよう嘆願するシーンも絶品、「あなたはレイプされたことがないから分からないのよ」と触れられるだけで発狂してしまうレイプされた被害者本人の苦しみ・想い出したくもないというどうしようもない現実・・それに直面しての「しくじったわ」までの演技、ママ役のレジーナ・キングアカデミー賞助演女優賞を受賞したのも納得の演技。 

他にも意味深と思われるシーンがあるが回収されこともなく終わるので、意図的なのだろうが少しモヤモヤが残る。前作「ムーンライト」とは別の形で社会問題をあぶり出しているが、前作ほどは胸に響いてこなかった。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)ラスト・考察】

ラスト、これが現実、救われない結末が生々しい・・白人だけでなく警察や司法までが根っからの差別主義であり、どう足掻いても勝ち目のない悲劇・・結局は減刑要求だけで精一杯として受け入れていくしかないという現実が重く突き付けられるラスト。

あえて淡々とあっさりと見せるのは、実際にはドラマのように劇的なことは起こりえないこと、この1件だけでなく、他にも数多くの罪もない黒人たちが捕らえられたこと(死刑になった人も多いだろう)、当時の当たり前のこととして反映させているのだろう。

ただ、純粋に愛し合っただけの若者たち、状況は絶望的に思えるけれど、息子が天使のような笑顔でパパの幸せと家族の幸せを祈るシーンには希望を感じる。不正は正せなくとも心までは屈しないと立ち直ったファニーの生気ある表情、ティッシュも少女からしっかりとした母親の表情となっていて凛とした力強さに溢れていた。

過酷な状況、不条理な世界だからこそより一層輝く二人が貫く愛の美しさと乗り越える力強さ、絶対にあの新居で家族で穏やかに暮らす生活が待っているはず。

安易にハッピーエンドを見せなかったことは今作のメッセージでもあり、この物語は続いているということなのだろう。劇中の「人間の違いは母親が違うだけ」というセリフがいつまでも忘れられない・・