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「バジュランギおじさんと、小さな迷子」 ★★★★☆ 4.6

正直者がバカを見る現代の大きな迷子たちへ、可愛い天使とおじさんからの「愛」は国境も宗教も歴史も越えて人は分かり合える「信じることさ、必ず最後に愛は勝つ♪」

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インドで迷子になった喋れない可愛すぎる女の子シャヒーダーが優しすぎるおじさんパワンと共に故郷を探す王道のロードムービー。途中でパキスタン出身と分かってからの宗教対立、根深い国家間の対立も加わり、おじさんの馬鹿正直なコメディ、派手なミュージカルにアクション、泣きどころも含め全てがインドらしさ全開のエンターテイメントとなっている。

インドでは歴代3位の興行収入という記録に違わぬ傑作で、2時間39分もあるが飽きることなく引き込まれて、観る人の善性を喚起するような万人にオススメの素晴らしい映画。

 

インドとパキスタンは隣国でありながら宗教も文化も違い戦争し敵対心の残る国(思ってる以上に根深く激しい対立)、ビンドゥ教やイスラム教、対立の歴史や内容などの知識があればもっと深く楽しめて感動できるはず。まあ無くても根底に説得力もあり十分に笑って泣けるいつも通りのインド映画となっているのはさすが。道中インドとパキスタンそれぞれで善い人も悪い人もいて一方的に描いていないのも良い。

特におじさんパワンの真っ直ぐすぎる信仰心と嘘のつけない人柄にドキドキさせられっぱなし、国境を越えるシーンなんか本当なら3回は死んでいるのでは・・正直ものは馬鹿を見るけれど、ここまで突き抜けている彼の一途で勇気ある行動に周りの人々はどんどん惹きつけられ力を貸して行く。そして、口のきけない6才の少女シャヒーダーはパワンと出会うべくして導かれた国や宗派を超えたまさに天使であろう。

二人はこの世の中の型にはめられたルールに愛と素直さで立ち向かっていく、そしてバジュランギの愛に触れた人たちは本当の愛を想い出していく。

 

そんな中で、「愛」より「憎しみ」を報道して増幅させるマスコミたち、一部だけを切り取って悪意をもって伝えて民衆を煽る、それが偏見を生む構図となっていく(どの国も同じか)。テレビだけでなく、我々が情報の発信者となるネット・SNSでは、自らが当事者になることも忘れてはいけない。「憎しみを断ち切りましょう。憎しみではなく、愛を子供たちに教えましょう‥」

隣国との関係が不安定な日本も学ぶ事は多い、国という単位では受け入れられない事もあるだろうが、人という単位では仲良くもできるし協力することも出来るはず。たった1人の男の「誰かを救いたい」という強い想いが多く人々の心に響き、国を越えた人間同士の大きな力になる・・国の違いも宗教も血の繋がりも関係ない、人を助ける理由なんて愛さえあれば十分なのだ!

 

【演出】

画面に映る街や風景が光の加減や色合いを含めて本当に美しい、特にパキスタンへ向かう道中の豊かな自然と山の風景や夜の砂漠などがキレイだった。

インド映画と言えばのダンスシーンもストーリーに合わせて歌い、踊る必然性もはっきりしている、そして曲と連動する形で心情が変わっていく(歌う境地、踊る境地にまで心が達している)。ただ、エモーショナルなシーンになると途端にテンポが冗長になり、全体的にスローモーションが多過ぎ長すぎる(ドラマチックではあるが)、カメラワークも思ったよりワンパターンで・・少し残念だったかな。

劇中で何度か出てくる聖典「バカヴァット・ギーター」を国家・宗教問題に当てはめていて、それぞれ否定することなく普遍的な善悪を描いてく構成が見事。ハヌマーンとバジュランギおじさんを重ね合わせて、マハーバーラタラーマーヤナなどの神話が根付いているだけに皆が神様を信じて敬っていること、大事なのは体面だけの慣習や掟ではないこと、を伝えてくる。

異文化の二人が故郷を目指す過程は「ライオン」を思い出し、今作も誰が見ても一定の感動をもたらす素晴らしい作品だけど、個人的にはやはり「きっと、うまくいく」や「PK」の方が映画としての到達度は上かなと思う。

 

【役者】

主人公パワン役のサルマーン・カーンは、見た目から漂う絶対に良い人すぎる感がぴったりで、意外にゴリゴリマッチョな体型なのも良い。

何よりもシャヒーダー役のハルシャーリー・マルホートラちゃんのエグいくらいの圧倒的な可愛さには誰もがノックアウトされるだろう。子供がしゃべらずにこんなに感情を出した演技が出来るのかと感心しつつ、おでこに手を当てる「アイタタター」の仕草がたまらなく愛くるしく、最高の癒し。パワンに付いていこうという人を見る目ありすぎ(変な人にさらわれなくて良かった)だが、手癖の悪さとすぐ勝手にいなくなるのはいかがなものか。

記者のチャンド役のナワーズッディーン・シッディーキーの熱意と優しさ、そして男泣きは心打たれた(この人がいなかったら帰れなかったし逮捕されたままだったろう)。パワンの婚約者役のラスィーカは見覚えあるなあと思ったら「きっと、うまくいく」の女優さんだった。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)ラスト・考察】

ラストは予想通りというか、そうなって欲しいと思いながら感動必死、オチはある程度分かってても誰もが泣いてしまうはず・・紛争地域である国境のカシミール大自然をバックに雪山の麓、モーゼの十戒のように人波が割れて聖人のごとき現れるパワン(エキストラの数も圧巻)、対立していた2つの国の民衆が一体になるシーンは大勢の願いが込められていて壮大で美しく感動的。そして最後の最後にパワンへの想いで声が溢れ出るシャヒーダーにはズルいと思いつつ涙腺崩壊。。両国の未来を感じさせる素晴らしいラストだった。

誰しもが自分のことで精一杯で、他人を思いやる余裕なんてない世の中だけど、誰かが注いだ少しの愛が伝播して、みんなが誰かに少しだけ優しくなれたら、もっと住みやすい平和な世の中になっていくはず(国境を越えてインターネットのように)。

国境も宗教も超えた愛、自分と似てる人も違う人も寛容と優しさで、人として正しい方向を向いて互いに認め合えれば争いも不条理もきっとなくなるはず。現実はこんなに上手くいかないだろうし、無宗教の自分には完全に理解できないが、本当の宗教や信仰というものは、全てのものを愛し差別なく受け入れ救うものなのだろうとは感じられた。「迷ったら、正しさではなく親切な方を選択をする」という言葉を実行に移せたら、正直者がバカを見ない世の中になるのかな。。