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「クロール −凶暴領域−」 ★★★ 3.3

ワンシチュエーションでのリアル「ワニワニパニック」最強捕食者、新たなB級ワニ映画の金字塔、午後のロードショー定番作品になるはず「See You Later Alligator

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かなりB級感漂うポスターだが、88分余分なシーンが無く分かりやすく最後までハラハラドキドキさせられる正統派のパニック映画で、掘り出し物の良作。「ハリケーンとワニ」という組み合わせはありそうでなかったプロットで絶望的な足し算だった・・

容赦なく押し寄せる自然の脅威と露骨に襲ってくるワニの恐怖、登場人物と舞台が限られていて低予算感は否めないがそこを逆手にとった作劇は見事。ジェットコースター的な展開と適度にグロいシーンもあり、モンスターパニックものが好きな人ならドハマりすること間違いなし。

監督は「ミラーズ」や「ピラニ3D」のホラーで有名なアレクサンドラ・アジャ監督、プロデューサーはあのサム・ライミということで、このジャンルではさすがの完成度。

最近の日本の一連の台風災害を考えると辛い気持ちにもなるが映画は映画として楽しむべし(よく公開できたなあ、上映館も少ないマニアック作品ならではか・・)。

 

避難指示が出ているのに別居中の父と連絡が取れず、実家へ父を探しに行くと浸水した地下室にワニが出現するというプロット。

アメリカの片田舎とか湿地帯の国などでは実際にワニに襲われる事態に巻き込まれるケースは割とあるらしいが、今作も台風で洪水が街を襲い、そんな水害に乗じてワニ園からワニが脱走!、家の地下で最初の湿地レベルから徐々に床下浸水して、閉じ込められる怖さとワニの得意なフィールドに近づいていくスリリングさがハンパない(水陸両用でサメよりも小回りが効く)。

かなり狭く限られたシュチュエーションだが、人物の移動と合わせてカメラワークで物件の間取りを把握させる説明臭さを省いたスマートな作り、限定的な空間で、どこから襲ってくるか分からないワニの攻撃にビクビクさせられる。そして外に出てからは天地を超えた自然の猛威のスリルも加わって見事な展開となっている(伊豆のバナナワニ園あたりが浸水したらと想像してしまった)。

 

また、多少強引さはあるが、絶対に諦めない父と娘のドラマもグッとくる、疎遠だった2人がかつての水泳大会の時のように一緒に戦っていく姿は、ベタだけど美しい親子愛を感じた。登場時から重傷であまり動けない父親、父親の根拠なき「お前ならできる」根性論や、それを信じる娘が振り回される展開に苦笑しつつ(父親との思い出を懐かしむ余裕もあり?)・・

ワニに太ももなど3箇所くらい噛まれて出血しながら、ワニよりも速く泳いだり動けたりするのは突っ込んだら負け、とにかくたくましい二人を楽しむだけ。何度か助けに来てくれる人たちは警察も含め出てきた途端すぐやられてしまうのも割り切って。

シリアスに展開する中で、犬のシュガーが出てくると少し癒される、ずぶ濡れで泳がせられたり大変そうだったけど、どうかワンちゃんだけは助かりますようにとずっと祈ってた。。

 

役者は娘がカヤ・スコデラリオ、父がバリー・ペッパーということで、二人とも「メイズ・ランナー」に出演していたコンビ。登場人物が少ないだけに、エンドロールに流れる人物も少なすぎてあっという間。何よりエンドロールで「See You Later, Alligator」と流れたのは衝()撃だった。。

CRAWL」というタイトルは、這う、水泳のクロール(もちろん劇中でもクロールで泳いでいた)の他に、 (ワニの)生け簀、(ワニに)覆われる、ゾッとするなど複数の意味を持つので、そのまんまだった。

 

【ラスト】

父親の「お前は誰よりも速い!行け!」からの「私が最強捕食者よ!」の流れは最高、噛まれたケガを物ともせずタフで強かった。ラストは何とか二人で沈みゆく家の屋根の上に乗り、ギリギリ発煙筒でヘリコプターに救出される。

たくさんのワニを倒す方のカタルシスが無かったのは残念だったが、二人の沈んで息苦しくもがいていた生き方から、二人で乗り越えて外に解放されて上に上がっていく・・過去・家に縛られていたのをいったん破壊して再生に向けて一緒に生きていく。おそらくまた二人で水泳をやることから始めるのだろう。

想い出の我が家が壊れたことを嘆く父親に娘が言う言葉「私たち家族がいる場所が家よ!」には、キレイごとながら少しだけ勇気をもらえたかもしれない。今回の災害を含め今後も発生するであろう自然の猛威に対して、それでも人間にある想像力や団結力、経験や知恵や信念を信じて行きたいと思う。。