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「愛なき森で叫べ」 ★★★☆ 3.7

◆シン・園子温に向けた過去作品の解体オマージュで減点復帰か、洗脳か死か選ぶ道はGO TO HELL、NETFLIX・映画の世界なら何だって自由にできる、人生はジョーク!

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NETFLIX配信オリジナルで、良い意味でも悪い意味でも「ザ・園子温映画」、最近は商業映画ばかり撮らされて?大病も挟んでようやく原点復帰に向けて再始動と言っていいのか・・相変わらずのテンションの高さやクサイ言い回し、感情爆発のカオスぶりで矛盾をねじ伏せる力技、終始気持ち悪く胸糞でグロいとこはひたすらグロい、今まで通りダメな人は絶対ダメな作品となっている。

今作は、実在の事件をベースに監督の過去の作品を断片的につぎはぎして薄めた印象、全体的にどこかで見たことのあるシーンのオンパレードで新鮮味は無く既視感バリバリ。とりあえず、一般映画では出来ない描写でNetflixだから出来たであろう、思いつくままにやりたい放題撮らせてもらって楽しそうで何より・・

だが、女子高生・洗脳・キリスト教・連続殺人・解体・映画製作など得意の要素どれも中途半端な描き方で、深く掘れば様々な考察はできるけど真に突き刺さってくるまでのものは無く。不快感は続くけど、てんこ盛り過ぎて飽きてくるし、何となくの怖さとグロさが強調されてしまい、物語自体は正直そこまで面白くはなかった(配信限定ならもっと突き抜けてはっちゃけたやつを見たかった)。それでも園子温好きには十分に楽しめるはずだし「お帰りなさい」とエールを送りたくなることは間違いなし。

 

今作は実際に起きた「北九州監禁殺人事件」に着想を得た作品らしいが、詳細を調べてみたらやってることは近いが、事実はもっと酷く悲惨過ぎるもので、より一層気分が悪くなるので注意が必要。後半はメンタルよりもスプラッター感が強いので鬱にはならないだろうが、グロいシーンよりも村田の言葉と暴力によってマインドコントロールされ、次第に正常な判断が出来なくなっていく様子は実際の事件と重ねると本当に恐ろしくなる。同じ事件を題材にしている映画は「闇金ウシジマくん」や「クリーピー 偽りの隣人」があるけど、今作はリアルな洗脳よりインパクトを重視したエンタメ要素が強かった。

ただ、やはり「冷たい熱帯魚」の頃のキレ・完成度と比べると遠く及ばないのも事実・・今作の中のセリフはまさに園子温イズムそのまま「映画の世界なら何だってできるんだよ。東京駅に爆弾を仕掛ける映画だってできる。世界中の女とセックスする映画だって撮れる。マシンガンをぶっ放す映画だってできるんだ。それも合法なんだよ。映画なら何だって自由なんだ。」、この頃の情熱を持って、焼き直しではない鬼才としてまた新しい時代の扉を開いていって欲しい。。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・考察】

過去作と比べると、終盤のどんでん返しや2重軸などストーリー展開はひねりがあるのは新機軸か、結末は正直微妙だが最後まで「ロミオとジュリエット」として見るなら良いのかも知れない「死をもって完結、死をもって繋がる、悲劇が喜劇に見える」。

映画的なこだわりが感じられるのはさすがだが、今作は画作りや演出がいまいちでセットやセリフの舞台感が強くスケールが小さくなっている気がする。拷問シーンが全然痛そうに見えないのはダメだし、エロさもかなり抑えられていて(おっぱいも少ないしパンチラもなし)興奮度は低し。

元は連ドラの予定だったものが一本の映画に変更になったようで、いくつか編集がおかしい部分もあり、前半は一番良いシーンをとにかくつなげた感が強く、ダイジェストを見ているようだった。洗脳モノは徐々におかしくなって来る家庭の過程が面白いはずなのだが、今作は結構早い段階で壊れてしまっているので、最後まで統一感ある展開もなく伏線回収も甘く最後のカタルシスも弱かった(お金と時間の関係もあるのか)。

 

過去作品からの引用・オマージュ?としては、

女子高生の不安定さや屋上からの飛び降り自殺は「自殺サークル」、ボデーを透明にする解体シーンはでんでんも含めもろ「冷たい熱帯魚」、コインロッカーは「紀子の食卓」、そして自主映画製作は「地獄でなぜ悪い」で特にシンは園監督自身を反映させているとのこと(「ぴあフィルムフェスティバル」でグランプリをとる!)。

また、でんでんに酒を死ぬほど飲ませて歌わせるシーンは「凶悪」、山道で立ち往生している女性を助けるシーンは「ハウスジャックビルト」を想い出した。主題歌は蜷川実花監督の「ヘルター・スケルター」でも使われた、戸川純の「蛹化の女」だし、どことなく寺山修司感もあり、好きなモノを自由に反映できるのは配信ものならではか・・

 

【役者】

定番メンバーはでんでんなど少なめで、新メンバーが多かったのは良かった。

椎名桔平は改めて上手い役者だと実感させられた、普段出来ないであろう役というのもあるが楽しくイキイキと演じているのが伝わってくる。この年齢で可愛い女の子たちとのラブシーンで全然引けを取らないし、キスとセックスもエロ格好よくて抱かれたいと思ってしまった。笑っているのに目だけは笑ってなくてその奥に隠された怪しさが染み出ていて、人当たりの良さで饒舌に相手に取り入り、アメとムチの使い分けで有無を言わさず支配していく様子は本当に嫌悪感しかなく胸糞マックスにさせられた。

満島真之介は全裸監督に続き絶好調、出演する作品みんな美味しい役でちゃんと応えてより存在感を増しているのが凄い。ただ、一番狂った役やらせるのはベタ過ぎて今後は避けた方がいいかも、出ただけでネタバレになりそうだし(笑)。今作も真っ先に疑ったしまった自分がいた・・しかし姉ひかりも含めて満島家とは相性が良い。

あとは、やはり園子温は女優を撮るのが上手い、日南響子はキレイだけど元ニコラモデルとは思えない役柄をこなしていたし、新人の鎌滝えりもヌードまで披露して身体を張っていて良かった。ただ演技的にはそこまで突出はしてなかったが、このぎこちなさも計算のうちのような気もする・・正直「TOKYO TRIBE」の清野菜名もここまでブレイクするとは当時思わなかったので、やはり監督の見る目は確かなのだろう。。

 

 

【(ネタバレ)ラスト・考察】

女性陣は殺されていき、村田とシンが生き残ってラストに対峙するが、死ぬ前の美津子のサイコパス感は最高だった・・「女はみんな処女だと思うな、高校時代からバリバリのヤリマンだ!」は童貞シンへの遺言だし、最後に50円玉を握って死ぬのも印象的だった(ちょこっと愛してたのは本物なのか、なーんちゃってなのか・・)。最後の伏線回収が手紙の朗読なのは少し拍子抜けしたが、ラストの村田とシンの直接対決は見応えあり。

結局、一連の殺人事件の真犯人はシンだった(予想どおりだった)、彼は「ロミオとジュリエット」を常に持ち歩いていたことからも、「死」はこの世の古い体制や価値観からの解放・死ぬことで結ばれる幸せ・新しい自分への再生と信じていたのだろう。おそらく村田に洗脳されきって逃げることが不可能な彼女たちを殺す=「死」をもって自由に解放させてあげたと思っているのではないだろうか。彼女たちにとっては洗脳されていた方が古い自分から解放できて幸せだったのかもしれないが・・

村田は殺すように指示を与えてきただけで、自分では直接人を殺してはいない口だけの男なので、殺人に関しては童貞だった。なので、本物の殺人を犯してきたシンには敵うはずがなく形勢逆転となる。そして、村田は何とか生き延びてヒッチハイクで車に乗り込み、また街へと戻っていく・・混沌とした社会に対する絶対悪として必要な存在ということなのか・・

シンは車で森から去ろうとして、窓から「ロミオとジュリエット」を捨て去るが、途中でエイコの亡霊(生きていたロミオ)を見かけ探しに再び森の中へ消えていく・・空想の小説ではなく本物の人間?を選ぶことで、童貞を卒業する(殺人を止める)のか、より本物の殺人鬼になるのか・・

愛なき世界(森)で叫び続ける限り、洗脳という解放か死という解放か、どちらを選んでも地獄・・弱い愛のない自分で居続ける限り、村田が話しかけて来たり、シンが遠くから狙っているかもしれない。。ラストのセリフ「GO TO HELL」(このダサさが園子温)を選ぶのは、あなたならどちらだろうか?

もしかして園子温にとって今作は、あえて過去の作品を引用・解体することで、古い価値観に囚われている自分を「死」をもって解放し新しいステージに行こうとしているのか?、それとも過去や商業映画に洗脳されたままでいる方を選ぼうとしているのか? どちらにせよ地獄のような道が待っているのだろうが、それが映画の世界ということなのだろう「地獄でなぜ悪い」・・ 

現実に「死」の間際を体験した監督(シンに狙われた?)だからこそ「シン・園子温」で「愛のむきだし」にしてくれるはず、信じて待っていよう!