映画レビューでやす

年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「プロメア」 ★★★★☆ 4.7

すべてが”アツい”全編クライマックスの力技、圧倒的な熱量と勢いで燃やし尽くす"魂レボリューション"鋭い見得を切る歌舞伎活劇のクセが強いんじゃー炎上"上等!

f:id:yasutai2:20191125210940j:plain

天元突破グレンラガン」「キルラキル」(どちらも未見)の今石洋之監督と脚本の中島かずきが再タッグを組み、炎を操る人種「バーニッシュ」と特殊消防隊「バーニングレスキュー」の戦いを圧倒的なハイテンションで描く、巷のアニメとは一線を課す映画。まさかの超ロングラン、5月公開から半年以上たった今でも、リピーターが本当に多く様々なVER・形態で上映され続けている。

自分はわざわざ川崎チネチッタに行って、前日譚付きの【滅殺開墾ハードコアver. 爆音上映】を観たのだが、出来たら4DXや爆音絶叫応援上映にも行きたかったくらい(4DXはひたすら揺れまくってびしょ濡れになりそう)。内容・アイテム的にどう考えても男性向けかと思いきや、かなり女性の方が多かったのにはビックリ、でも最後まで観たらそれも納得だった。

TRIGGER作品らしい圧倒的作画を飛び越えるスピード感と熱量、刺激的なキャラと色彩、ストーリーは粗いが熱すぎるセリフや音楽の合体が「マッドマックス怒りのデスロード」を観た時の感覚に近いヒャッハーした作品で想像を超える面白さ、絶対に映画館の大画面・爆音で観るべき。

 

とにかく最初から最後までクライマックスの連続、後半も終わりかと思わせてからの怒涛の畳み掛けが凄い(緩急なんて邪魔)・・ストーリーは勧善懲悪の二元論では割り切れず、各々が自身の正義を掲げぶつかり合う展開で王道そのもの。ご都合主義でツッコミどころは満載だが、それをはるかに上回る勢いと熱さと面白さに押し切られ、目まぐるしいアクションや中島かずき作品特有の必殺技描写と澤野弘之の劇中歌で、否が応でもテンションMAXに持ってかれてしまう。

独特すぎる映像も色彩的、構図的に非常にオシャレで何回観ても飽きない中毒性あり、3DCG含め派手でごちゃごちゃしていても全体として美しくて目もそこまで疲れず、個性的な色彩やカメラワークが世界観にマッチしている。頭で考えて観るのではなく本能・魂のままに感じる作品であり、各キャラクターの「全力感」を踏まえて、観賞後は知らないうちにもの凄く疲れる一方で100%勇気・元気の子になれる。

最近のリアル描写にこだわるアニメや実写では絶対に出来ない表現と、過激で強引な作風は好き嫌いがはっきり分かれるので万人向けの作品ではない。ハマる人はとことんハマるのも分かるが、ただのオタクコンテンツにしておくのは余りにも勿体ない。あの斬新的な傑作「スパイダーマン:スパイダーバース」に対する日本からの回答とも言えるレベルで世界でも十分に通用するだろう。

 

何よりも制作側のアニメ愛が隅々からビシビシ伝わってくる、主人公たちに負けない「熱量」でのこだわり、大人になってもここまでの興奮を与え続けられるプロとしての意思には感服させられる。「普通のアニメーションの3倍、4倍、5倍手間がかかった」と言うように、スポンサーやお偉いさんのお堅い意見を無視して、今まで見たことのないアニメを自分たちの作りたいものを楽しんで作っていて、更に観客までを巻き込んで盛り上げていく情熱が本当に素晴らしい。

「理屈や忖度とか細けぇことはどうでもいいんだよ、熱く燃えたらそれでいいんだよ!」魂の叫びが響く。「燃えたら消す!」見終わった今でも、心の中の熱い炎はまだ消えることはない、バーニングレスキューに火消しをお願いしなければ!

 

※ここからネタバレ注意 

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

 

【(ネタバレ)演出・考察】

活きてる3DCGアニメ感が出ていて手書きアニメとの切り替わりもすごく自然だった、3DCGアニメが可能とするグイングイン動くカメラワークもクールでカッコイイ(アトラクションに乗ってる感覚にもなるので酔う人は注意)。

パレットで絵の具を混ぜたような透明感のある蛍光色、ビビッドカラーパステルカラーの絶妙なバランスで覆われた画面と、四角と三角の記号であふれ、人口的で無機質な建物などあえて平面的に簡略化された背景とのマッチングが素晴らしい。バーニングレスキュー側は派手めの原色が多く使われ、氷やマシンなど安定のハコ型として「四角形」でカタチ付けられている、マッドバーニッシュ側は比較的落ち着いた色味に抑えられ(被差別マイノリティとして陰のある境遇に合わせている)、炎や火花やバイクなど攻撃的な尖鋭型として「三角形」でカタチ付けられている。その四角と三角の対立構造からてガロとリオが2人で搭乗するデウスXマキナの丸みを帯びた曲線になり、□と△の角が取れて一つの円となり、ラストのガロデリオンから地球・太陽系に向け円環構造になって物語も大団円となるのはもはや感動的。

ピンクの「炎」と水色の「水・氷」はリアルさを追求したCGではなく、幾何学感や無機質感をあえてむき出しにしたような、三角形パッチのポリゴンが変形を繰り返すような人工感、キャラにより髪の毛の色や炎の色を変えたり心情描写として色を変えたりと表現も豊か。最初はそれらの見慣れない表現とあまりの情報量の多さに混乱して見づらいのだが、次第に慣れてきて完全にプロメア世界に入り込んでしまう。

 

アクションも目で追えないほどのスピードとパワー全開でぶつかり合うバトルシーンが迫力満点、バーニッシュフレアというカラフルなエフェクトも相まって、多彩なカメラアングルと合わせてあり得ない動きでカメラを動かしたり、アニメでしかできない臨場感あふれる演出で見どころ満載。更に炎で武器を作ったり、巨大ドリルが出てきたり、巨大ロボットへの変形、終いには地球よりも大きくなったりと物理法則の完全無視も気持ちいいくらいカッコよければそれで良し。

登場人物紹介や必殺技シーンでドーンと出る大袈裟な文字(あえて見づらい)と技の解説もケレン味たっぷりで面白い。単純に必殺技の名前自体も最高で、「滅殺開墾ビーム」(トレンド入りで話題になった)や「絶対零度宇宙熱死砲」「邪王炎殺黒龍波」などどんなセンスだよ。ただ、そのクレイのロボ・クレイザーXの技はあくまでも新しい星の開拓や都市の開発・発展に役立てるため・文明を切り開くために真剣に開発されたものなので、笑いながらもその信念の強さに心打たれる。

 

音楽は「進撃の巨人」も手掛けた澤野弘之、映像とマッチした壮大で見事な劇伴が全編に渡り鳴り響き映画館でサントラを聴いているみたい・・戦闘BGMはかなりテンションを上げてくれて、何よりも曲が挿入されるタイミングが完璧。テーマ曲「Inferno」は最高で熱い気持ちがブチ上がる、最初の「Trails of fire〜…」の讃美歌のような合唱から始まる前奏が随所に使われてビートと歌が入る瞬間が堪らない。今回は爆音上演だったので、チネチッタのライブ仕様のアンプとスピーカーからセリフが聞こえなくなるほどの大音量で流れてくるのが最上級の体験だった。

未見だが「グレンラガン」や「キルラキル」に通じるネタも多いらしく、ファンムービーとしても最高なのだろう、でも何も観てないからこそ全てが斬新に見れて興奮できたのも事実、今作をトリガーtriggerにして他の作品も見てみたく応援していきたくなった。「スパイダーマン:スパイダーバース」でもCGアニメのパラダイムシフトを感じたが、同じ年に公開されるのも何かの縁であり感慨深い、新海作品「天気の子」もいいけど今作のような「元気の子」も一度騙されたと思って観て欲しいところ。

 

【声優】

脚本の中島かずき関係もありまさに「劇団☆新感線」のノリ、劇団員の古田新太、常連の早乙女太一、出演した松山ケンイチ堺雅人が声優として纏まりのある熱量のある演技になっていた。

ガロ役の松山ケンイチは、言われなければ分からなかったほどのクオリティ、叫びや啖呵を切るの台詞が多いものの、場面に応じて変化を感じさせてくれるし、物静かなシーンにおける微妙な感情も表現している。新人であるガロと同じく実力と経験が伴っていない所を勢いと熱いハートで乗り切る感じはプロの声優には出せない魅力だった。

リオ役の早乙女太一は、声質が予想以上に合っていて良かった、静と動の両面においてリオの内面にある怒りや悲しみが感じ取れて、中性的なルックスも含め適役としか言いようがない。

クレイ役の堺雅人は、まさに怪演、キャラを含め出てきた瞬間にどう見ても悪人としか思えなく、声質はそのまんま堺雅人だけど舞台や強烈な役をこなしてきただけに今作の演技力もハマりにハマっていた。クレイが目を見開くときは「リーガルハイの”よっ古美門屋”!」と合いの手入れたくなったし、怒りに震えるときは「半沢直樹の”倍返しだ”!」を付けたくなった。後半の本性が明らかになってからの超ハイテンションは一人で美味しいところを持って行った感もあり「開墾ビィィィィームっ!!!」は応援上映で誰もが叫びたくなるはず。ちなみにマスコット的なネズミ役のケンドーコバヤシは最後まで気づきようがなかった(笑)。

 

【キャラクター】

前日譚はガロ編、リオ編の2本で各6分程度、本編の起こる前の補足的な内容だったので、自然に本編に入り込めて良かった。いきなり本編から入ったら分からないことや各キャラのバックグラウンドが簡単にでも把握できたので、言動がつながった(特にバーニッシュ側は本編に入れた方がいいくらい大事)。それでもこれだけの個性的なキャラ、2時間の中で描くのには限界があるのは仕方ないが、生い立ちや背景など共感できるエピソードがもう少しあると良かったかな。各キャラごとにもっと掘り下げて見てみたいので、番外編として1クールのアニメにでもならないかなあ。

見た目だけだと熱いガロが炎で、冷静なリオが水だけど、実際は逆と言うのが深くて面白い、リオは性別は男だけど完全にヒロインのようだったし。冒頭のガロとリオの邂逅からの戦闘は、前日譚を観ていると熱いものがあり(観てないと大違い)、いきなりテンションクライマックス。

ガロは完全に真っ直ぐ熱血空回り系で実際にいたら間違いなくウザいのだが(「宮本から君へ」の宮本と対決させたい)、単なるバカでなく意外と思慮深く、威風堂々と名乗りあげ、歌舞伎よろしく完璧な見得を切る姿と熱いセリフ(名言ばかり)には心をガッツリ掴まれた。

リオはズルいくらい魅力的であり、冷静沈着ながらボスとしては厳しく優しいツンデレ美男子ぶりが、完全に女子をメロメロにさせるはず、リオが燃え尽きそうになってガロが人工呼吸(炎を注入)するシーン(腐女子対策もバッチリ)、伏線の洞窟の時を踏まえるとグッとくる。

クレイとリオはお互い自分の組織としての正義を信じている者同士だが、ガロだけは組織に属しながらも自分自身の中にある正義を信じ抜いてるからこそ最後まで自分を見失うことなく、リオと組んだりクレイと戦うことに躊躇しなかった。「俺は宇宙一の火消しバカなんだよ!」「カッコイイの怖さはバカじゃなきゃ出来んってこと。だから、カッコイイ!」がしびれる。。

 

【(ネタバレ)ラスト・考察】

流石にここがクライマックスバトルかな?と思わせてからの~更に続く怒濤の展開には興奮を通り越して笑いすら出てくるほど。。ガロとリオが互いに対立する信念をぶつけ合いながら、クレイには協働して立ち向かい、やがて地球の危機を救っていくという壮大な展開につながっていく。

誰もがツッコミたくなる「たまたま偶然に」湖の中に落ちた二人が(そこに落ちなければ地球滅亡)、デウス・プロメス博士から聞かせられるバーニッシュの真相・・平行宇宙に存在するエネルギーの大元「プロメア」の完全燃焼欲求から、バーニッシュを虐げることで地殻内のマグマが暴走し人類存亡の危機をもたらすという構図は、まさに社会風刺とも言えるだろう。

バーニッシュが現代のストレス社会の象徴になっていて、バーニッシュの炎が「怒り」そのものの具現化のように描かれている。ガロが「炎を抑えることは出来ないのか?」と聞くが、どんな理不尽さにも耐え続けるには限度があり(X-MENの苦悩)、リオの「燃やさなければ生きていけない」のは現代の抑圧されている人々にも当てはまる。クレイがバーニッシュを犠牲して選ばれた人間だけを生き残させるのも(サノスの正義)、現代の強者の論理と同じで、いずれ反乱・暴走が起きて人類滅亡につながることになる。怒りを溜め込まず、暴走して戦争にならないためにどうすればいいのか?

そこで、二人は共存のカタチとして「完全燃焼したい」プロメアの声を聞き、「ガロデリオン」に乗り込み(「リオデガロン」からの変化がエモい)、地球どころか宇宙全体までをも燃やし尽くす・・不完全燃焼だったプロメアを完全燃焼させきってから浄化して元に戻すという荒唐無稽さも、魂の消化で昇華させる根性論もなぜか説得力がある不思議さ。ガロの誰も傷つけずにみんなを救うという意思のブレなさが、「燃えたい」破壊衝動のリオを動かし「燃えて消す」救済精神のガロと手を取り合い地球を救っていく姿には、自分自身のストレスとか悩みも一度燃え尽くされて、新しく生まれ変わった爽快感が湧いてきた。

最期のシーン、バーニッシュではなく人間に戻ったリオに向かって「降りかかる火の粉は俺が全部払ってやる」と言葉をかけるガロ、これから新しい世界でテロリストのボスだったリオには大きな試練が待っているはず、そんな非難の声さえもガロは言葉の通り消してくれるのだろう。

 

いつもは考察しがいのある考えさせられる映画が好きだけど、ここまでの熱さと勢いに身を任せて燃やし尽くされる映画は久々だった・・まだ公開してるところもあるので、ぜひ映画館で完全燃焼してみるのも良いのでは!