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「小さな恋のうた」 ★★★★ 4.2

山田杏奈無双…フェンス越しのイヤホン「DON'T WORRY BE HAPPY♪あなたに届け小さな恋のうた♪優しい歌は世界を変える♪」いちゃりばちょーでーバンドやろうぜ!

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沖縄のとある高校を舞台に描かれる青春音楽映画、MONGOL800の名曲をもとに高校生バンドの"出会い"と"別れ"、そこから浮かび上がる沖縄の現実の姿を紡ぐ物語。ただの青春音楽映画ではなく社会問題にまで踏み込んで、沖縄の基地問題をテーマにしながら、高校生たちの「あなたに届け」という真っ直ぐな歌声が国境を越えて世代を超えて心に響く。

インディーズながら280万枚売れたMONGOL 800「MESSAGE」を聴きまくった30代には堪らないだろう、「小さな恋のうた」はカラオケランキングでは平成で最も歌われた男性曲として堂々の1位。曲から生まれたオリジナルなので歌詞に合ったストーリーと元からの楽曲の良さに感極まるはず、改めて音楽から伝わる想い、音楽が人をつなぐ、音楽の力を実感させられた。

予想以上にシリアス感が漂い、少し詰め込み過ぎでツッコミどころも多いが、この手の映画では珍しくきちんと「沖縄」を扱っていて、若手の俳優陣の魅力と名曲が融合した真面目で素晴らしい作品だった。実際にSNSや口コミで評判が広がって、10代20代の若者たちが沖縄問題を少しでも知ることが出来たと思うと、それだけでも十分に価値があるはず。

監督は「orange」「羊と鋼の森」「雪の華」の橋本光二郎監督、一般のキラキラ恋愛映画よりも切なさや儚さを重視していて、特に「羊と鋼の森」のピアノと心象風景描写は素晴らしく、今作の表現にもつながっていた。

 

主演はあくまでも佐野優斗だが、山田杏奈がヒロインの枠を超えて実質主演の役割を担っている、特に後半はとてつもない輝きを放ち見るものの心を奪いとる。兄の思いを受け継ぎ歌により国境を超えて人の心を揺り動かす力や、父親への魂の叫びが心に響いた(唇の震えが本心)。

沖縄の基地問題も描かれるが極度に踏み込むことはしない、ロケは全て沖縄で撮るのにこだわり、沖縄で暮らす人々だけでなく基地の中で暮らす米軍ファミリー側からの視点も描いていることと、沖縄の文化も映画の中に盛り込まれていること、こららのバランス感覚がとても優れている。

沖縄の在日アメリカ軍兵の起こした事故、アメリカ人しか客のいないBAR、父がオスプレイに乗っているアメリカ人の少女、基地内で働く日本人とその家族、アメリカ人の外出禁止令、米軍基地反対抗議やデモ、フェンス越しの沖縄とアメリカから音楽は国境を越えるロミオとジュリエットなど・・基地問題はどちらかの立場に立って論じてしまいがちだが、国と国ではなく、人と人してお互いを大切に思う気持ちに立ち返っているところが見事だった。

 

役者が自ら演奏して歌っているので、ちゃんと彼らのバンドとしての曲になっていて、それぞれのシチュエーションや歌う背景にも違いが出ていて、ストーリーと歌を上手く融合出来ていた。特に屋上でのゲリラライブシーンは眩しくてキラキラして最高にアガる、端々で見え隠れしていた「小さな恋のうた」が一曲丸々演奏されるが、男女3ピースでアレンジして原曲にはないハーモニーで山田杏奈の声も魅力的、すぐに向かいの屋上や渡り廊下などに生徒が溢れ大盛況となるのも納得させられる。自分も高校時代に軽音部に入っていたので、その頃を思い出してバンドをやりたくなってウズウズしてしまった。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・考察】

今年の同じ青春音楽映画「さよならくちびる」と比べると、今作はかなり説明過多なところが多いが、主人公がいい大人ではなく少年少女だし、ターゲット層を見てもこの"分かりやすい"ことも重要なので、合っていたとは思う。

前半の実は死んでいたのは友人の方だったという捻りのある展開(予想できたけど)から後半への流れ、伏線の貼り方や畳み掛けまで脚本は本当に素晴らしい、ご都合主義もあるけど、音楽の力や若さと勢いで押し切られる感じが逆に気持ちが良いくらい。

印象的だったのは、フェンス越しにイヤホンで音楽を聴いている二人に「音楽が国境越えちゃってんじゃん」のツッコミが単純ながらストンときた。あと、舞のギターを父が地面に叩いて壊すシーンから、怒りの魂の叫びと壊れたギターを抱き抱えるところの哀しさが痛いほど響いてきた。

沖縄の親たちの現状を自覚しているセリフも残る、舞の父親が言う「卒業したら外に出るといい、いかに昔から何も変わってないかが分かるだろう」、漁師の父親が息子に言う「お前は跡を継がなくていい」、基地客が来なくなったバーで母親が言う「こんなことはこれまでにも何回もあったのよ」などさりげなく伝わってくるのも良い。

 

まあツッコミどころもいろいろ多いのだが、先ず一番はこれだけ沖縄をちゃんと描こうとしているのに、主人公たちが標準語すぎるところ、周りの生徒たちは訛っているので少し違和感があった(時間的な制約だったのか、あえて若者向けに言葉も伝わりやすくしたのか?)。

高校生にしてはあり得ない作詞・作曲力だけど(MONGOL800の原曲なので当然だが)、彼らの日常生活から何でその歌詞が生まれたのかをもう少し深く描いてほしかった。

出てくる大人たちに分からず屋が多く、特に舞の父親や先生たちはイマドキ厳し過ぎるのでは。。校内のゲリラライブや学祭の参加取り消しなど微妙な止め方に違和感ばかり、世良正則のような良い人がもっといないと彼らだけでの再生は難しかったはず。

 

【役者】

みんなが練習を重ねたであろう生身の演奏がこの作品をより良いものにしている、やはりバンド映画としては、観ている人に「楽器やりたい」「バンドやりたい」と感じさせることが重要。Mステに出演した時も普通にバンドとして魅力的だった。

何よりも山田杏奈、凛とした強い眼力と佇まい、ふとした表情や言葉にのせた感情の表現が素晴らしく、歌も上手くて驚いた(さすがアミューズ)。ギターを弾く女子高生というだけでも百点なのに可愛さも爆発、「さよならくちびる」のハルレオと組んだところを見たくなった。「ミスミソウ」では哀しき復讐者を演じて強烈な印象を残したが、今回も抑圧された無口で表情に出さない役柄で、哀しみを背負いながらも前向きに生きていく・・特に父親にギター壊された時の魂の叫び(唇の震え)と表情は演技を超えた感情の爆発が痛いほど伝わってきて泣きそうになった。

男性陣の二人・佐野勇斗森永悠希は「ちはやふる」でも共演していただけに息もピッタリの安定感(また高校生役だけど)、佐野は歌はそこまで上手くはないけど若さと情熱は伝わってきたし、森永はいろいろと間を取り持つ人の好さが十分に感じられた(「カノジョは嘘を愛しすぎてる」でもドラマーだった)。

米兵の娘役のトミコクレアの美しさと透明感も凄かった、まさにお人形さんみたいという感じでまた観てみたいと思わされた。

何気に久しぶりに見た母親役の清水美沙(美砂から改名)は、ダンナが在日米軍人(結婚当時)ということで出演したのだろうか?、あとちょこっとだけモンパチの本人たちも出演していたので見逃さないように、キヨサクは何の違和感もなかった(笑)。

 

【(ネタバレ)ラスト・考察】

大人が作っているアメリカとの関係性は子供には関係ない、幼児はブランコで一緒に遊ぶだけ、若者は好きな音楽を一緒に聞くだけ、そこに壁はあってないもの。フェンス越しにイヤホンで音楽を聞いていたのが、ラストでは直接ライブで想いを届けるシーン、大人の事情に巻き込まれていた子供たちが自分の力で変えていく姿とリンクしてフェンスが無くなっていくところはグッときた。

国と国ではなく人と人、組織ではなく個としてつながることから始めれば良いのだ。ただし今作では最後まで轢き逃げ犯が検挙されないことは重要なところで、そのことが現実での「曖昧な状況」を示していた。

クライマックスは学祭代わりに行ったライブハウスでの演奏シーンで最後まで盛り上げる、そしてエンディング曲は本物のモンパチの原曲というズルいくらいの締め。誰もが久しぶりに「MESSAGE」を聞き返すことになり、当分リピートしてしまうだろう。。

 

こういう真っ直ぐで純粋な想いは大人になると忘れてしまうのか?、忘れないようにしたいし、今の若者たちの真っ直ぐな想いに寄り添える・理解し応援していけるような大人でありたいと思う。

改めて曲をじっくり聴くと、2時間の映画で伝えようとしていることが、たった3分の曲の中に詰め込まれていた、やはり音楽って素晴らしい!

「広い宇宙の数ある一つ、青い地球の広い世界で、小さな恋の想いは届く、小さな島のあなたのもとへ。ほら、あなたにとって、大事な人ほどすぐそばにいるの、ただ、あなたにだけ届いて欲しい、響け恋のうた。」