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「ロケットマン」 ★★★★ 4.0

◆ぶっ飛んだ人生はロケットマン、見たことのない世界を魅せてくれる、自分らしさを愛することの難しさと大切さ「How wonderful life is while you’re in the world♪」

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グラミー賞を5度受賞したイギリス出身の世界的レジェンド歌手「エルトン・ジョン」の壮絶な半生が描かれるドラマティックなミュージカル映画。家族に愛されず孤独に過ごしてきた少年が名前を変えアーティストとして成功する一方で、精神的にも肉体的にも堕ちていく様子とそこから立ち直るまでを描いている。思っていたよりミュージカル色が強くて辛いシーンが多い、ド派手に着飾り無理やり笑顔を作って、盛り上げようと舞台に立つエルトンが痛々しくて胸が苦しくなる。

ボヘミアン・ラプソディ」とは同じデクスター・フレッチャー監督で、ゲイである孤独な大スターの実話ベースということで比較してしまうが、ベクトルが異なる作品だった。「ボヘミアン・ラプソディ」は音楽ライブ映画としてラストのライブのカタルシスを感じるための展開だが、「ロケットマン」はミュージカル仕立ての人間ドラマ的なストーリー性がより強く感じられ、心情の揺れや人間関係の葛藤が表現されている。盛り上げるため多少の演出は入っているだろうが、エルトン本人が製作総指揮を務めているので、ありのままに近く本人も納得の内容なのだろう。

今作も名曲のオンパレードで夢見心地な気分になり、特に「ユアソング(僕の歌は君の歌)」の出来るところや「ロケットマン」などライブでのパフォーマンスの数々は本当に素晴らしい。クイーンと比べると一般的には有名な結びつく曲が少ないように思えるので、アーティストや曲をどれだけ知っているかどうかでも作品の印象が変わるだろう。が、あまり知らない人でも十分に楽しめる作品だし、今まで触れることのなかった名曲を発見する楽しみだけでも観る価値はあるはず(どこかで聞いたことのある曲は多いはず、メロディの美しさは一度聞けばトリコになるだろう)。

 

愛されたいがために音楽を作り、しかし誰からも愛されずに苦悩と孤独に悩まされながらも突き進んでいくしかない、憧れのアメリカンドリームを叶えても決して満たされることはない。売れ続けるプレッシャー、ドラッグ&アルコール依存、仲間との確執、同性愛、孤独との闘い・・フレディとも同じようにスターには付き物の王道の展開ではあるが、煌びやかな人生のウラにある痛みや辛さが作品の表現に奥行きをもたらす大事な要素でもあるのだろうかとも思う。

エルトンは特に家族の愛には恵まれず(唯一祖母くらい)、父親も母親も自分のことばかりで全く向き合おうとせず余りにも酷すぎた・・「親の愛」を純粋に求めた少年時代で心は止まったまま。また、ゲイとしての苦しみ、パートナーとして愛したものにも裏切り続けられ、たくさん人に愛されても自分が愛して欲しい人には愛されず孤独感を抱え込んだまま(逆に衣装がどんどん派手になっていくのが鎧を着ているみたいで観ていて辛かった)。それでも、音楽の力や周りの優しさに救われながら、アル中・ヤク中を克服して現在もエルトンとして活躍しているのは感動的で、今後も素晴らしい音楽を世界中に届けて欲しいと願う。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・考察】

デクスター・フレッチャー監督はミュージカル映画「サンシャイン/歌声の響く街」を手掛けていて、脚本家のリー・ホールは「リトルダンサー」から今度は「キャッツ」を手掛けているので、ミュージカル映画のノウハウは申し分なく良く出来ていた。ただ全体的にはプライベートとして描ける限界があるのも分かるが、大味な場面をつなぎ合わせたような感じが強く、もう少し深く描いて欲しかったかな。

キャッチコピー「そのメロディは世界中を魔法にかける」はエルトンの曲の素晴らしさは分かるが、今作で伝えたいのはそこではなく、エルトンの内面をえぐり出す人物像なので違和感あり。エルトン自身の歌として改めて歌詞の重みを感じて味わうべき。

エルトン・ジョンと言えばやはり名曲「ユア・ソング」だろう、世界中でカバーもされているし他の曲は知らなくてもこの曲だけは知っているという人も多いはず(マニアックだが菅野美穂主演の1996年のドラマ「イグアナの娘」の主題歌でもあった)。実家でパンツ一丁で起きてきたエルトンが、バーニーが朝食を食べながら書いた歌詞に即興で作曲していく「ユア・ソング」の誕生、いくつか試しながらこれしかない音符を選び結びついていく改めての天才ぶりに感動。日常のワンシーンでピアノを弾き始めて歌い出したり、踊り出したり、あんなに素敵なメロディーがフッと降りてくるのは、楽しいだろうなあと羨ましくもあり。

冒頭から派手な衣装を着たままセラピーに参加しているが、その滑稽さと悲哀感が少し浮いていて良い、話が進んでいくのに合わせて告白も赤裸々になり、衣装も脱いでいって化粧も剝げていく、そして最終的には素の自分になっている演出も上手い。

母親にカミングアウトした時の「孤独な道を選んだことを覚悟して、あなたは誰にも愛されない」というセリフが辛すぎて忘れられない。エルトン本人の絶望たるや、そして最後まで微かな愛情すら示さなかった父親(彼も愛を知らずに育ったのか)、いくらイギリスが階級的で保守的だとしても実親とは思えなかった(「ラブレス」を思い出した)。

エルトンの元マネージャーで元恋人だったジョン・リードは、後にクイーンのマネージャーとしても活躍していて、前作「ボヘミアン・ラプソディ」でも最低なマネージャーとして描かれていたけど、今作ではもっと最低な人物として描かれていた・・さりげない復讐というわけでなく実際に横領して訴えられたし、あながち嘘でもないのかな。

 

タロン・エガートンの役作りには脱帽、光と影の部分を目の表情だけで伝わってくる演技はもちろん、今回は全曲吹替えなしで歌っていて歌唱力も素晴らしい・・元から上手かったのかレッスンの成果なのか。風貌も動きも超イケメンのタロンが別人に見えるくらいちょっと小太りハゲ気味のエルトンになりきっていてビックリ(髪の毛も実際に抜いたのか、次第に薄くなっていく頭頂部の役作りも見事)。

実際にエルトンと共に共同生活を送りながらエルトンのことを学んだという徹底ぶりで、衣装やピアノの弾き方まで改めてエンドロールで本人と比較してもそっくりだった。二人が並ぶと「キングスマン」で一緒に戦ったシーンを思い出してしまうが、エルトンもその時の美少年ぶりに惚れてしまったのだろうか?

 

【(ネタバレ)ラスト・考察】

トラブル続きでアル中・ヤク中にもなり何度もどん底に落ちながらも、復活してやり直せる力や周囲や社会のサポートが素晴らしい(イギリス王室からサーの称号までもらえるという文化の違い、日本では考えられない)。

エンドロールでは衣装の再現度も凄かったが、幼少期のそっくり度合いが一番だったかも、バックで流れる「(I’m Gonna) Love Me Again」のアップテンポで希望溢れる曲が、これからもエルトンが音楽活動を続けていける未来を見せてくれる。

孤高の天才エルトン・ジョンの名曲たちは彼一人では出来なかった、彼の人生に沿って心情を表す大事な曲は全て親友バーニー・トーピンによって書かれた詞ということが改めて二人の絆を感じさせてくれた。遠回りしてしまったが、お金や地位や名誉よりも大切なものに最後にたどり着く・・

音楽、親友、そして、ずっと探していた、忘れよう捨て去ろうとした過去の自分自身を抱きしめること。本当の自分を受け入れ、自分を愛することの難しさと大切さを教えてくれる素晴らしい映画だった。あなたは今の自分を自分でハグできますか?

 

「And you can tell everybody yhis is your song It may be quite simple but now that it's done」

(みんなに君の歌だって言っていいんだよ、とてもシンプルな歌かもしれないけど今出来たからさ)

「I hope you don’t mind that I put down in words How wonderful life is while you’re in the world」

(気に入ってくれるといいな 気持ちを込めたんだ、君がこの世界にいるだけで 人生はなんて素晴らしいんだってね)