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「イエスタディ」 ★★★☆ 3.7

もしもボックスビートルズがいなかったら」世界は大きく変わる、ALL YOU NEED IS LOVE!等身大の幸せが一番、ひたすら曲の良さとリリーの可愛さを堪能すべし

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「もし、自分だけがビートルズを知っている世界になってしまったら…」という音楽をやっている人なら1度は考えたことがある設定を映画にした作品で、ビートルズの音楽がいかに素晴らしいか再確認でき、誰が歌っても曲の持つポテンシャルは不変であることを教えてくれる。

正直、内容的にはこの設定のアイデアそのものが最高地点でストーリー展開は予定調和で面白みは少ない、が基本的にはテンポよくハッピーに溢れていて、お気軽に楽しめる良質なエンターテイメントとして誰にもおススメできる(「ジョーカー」を観た後などがちょうどいいくらい?)。

 

とにかくビートルズが好きな人のための映画で、小ネタや曲をはじめ細かいところまで楽しめるはず、あまり知らない人でも聞いたことのある曲ばかりで音楽映画としても十分に楽しめる。クイーン、エルトン・ジョンと来て、いよいよビートルズという重みもなく、伝記映画ではない新しい方法でさすがダニー・ボイルらしく上手くまとめたなという感じ。

良い人しか出てこなくて展開も都合が良すぎる上に、主人公ジャックの優柔不断にズルズル引っ張られてイライラさせられる、共感は持てなかったが、自分勝手な男の恋愛映画としてはリアリティはあった。多少の欠点はガンガン流れる名曲が全てカバーしてくれて、それだけでテンションも上がって明るくなる、主人公を演じたヒメーシュ・パテルが実際に歌っている歌もむちゃくちゃ上手いのでライブの臨場感で盛り上がる。

途中に出てくるあの人にも感動するけど、本人役のエド・シーランも予想以上に重要な役で多く出ているので嬉しくなる、比較対象として少し損な役回りだけど、やはりビートルズが好きだから出演OKしたのだろう(元々はColdplayクリス・マーティンを想定していたが断られたらしい)。

 

この映画を通して、改めて純粋に曲の普遍性を再確認できるし、今まで馴染みのなかった人たちが、ビートルズに興味を持つきっかけになればいいと思う。観賞後はしばらくビートルズを聞きまくったのは私だけではないはず。

本当にビートルズが存在しなかったら、洋楽邦楽問わず今には存在していないアーティストや曲はたくさんあるだろう。そう考えるとやはりビートルズの存在は偉大すぎる、音楽好きはもちろん、人生に迷う全ての人に力を与えてくれるだろう。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・コメント】

トレインスポッティング」「スラムドッグ$ミリオネア」などのダニー・ボイル監督と「ノッティングヒルの恋人」「ラブ・アクチュアリー」などのリチャード・カーティス脚本の名コンビ、独特のリズムとお家芸の脚本とも言えるラブコメ要素ありの終始クスクスほんわかな空気感が心地良かった。

主人公が目覚めた世界は夢かパラレルワールドか、トゥルーマンショーのような壮大なドッキリ企画なのか・・複雑なSFではなく優しくシンプルな着地。基本的にユーモアを交えほっこりと進んでいくが、主人公はずっと世間を欺いているような罪悪感を抱えながらの葛藤が凄く伝わってくる。

いつこの世界が終わるかもしれないしバレるかもしれないし、事はどんどん大きくなる一方で、自分だったらと考えるとかなり胃が痛くなる。その辺りのポップさと苦悩の見せ方のバランスが良かった。

ビートルズの功績を独り占めできる」と言うより「ビートルズを伝える義務を負ってしまった」と悩むところが、主人公の音楽への愛を感じられる。悩み尽くした主人公が、別の人生を生きているジョン・レノン本人に会いに行って人生のヒントをもらう展開には誰もが胸が熱くなるはず。

そのジョン・レノンの言葉、幸せな人生を送るために大事なのは、「好きな女に愛してると伝える事」と「ウソをつかないこと」にもグッとくる。彼はビートルズとして富や名声は得られなかったけど、その代わりにたくさんのものを得て幸せな人生を送っていたのも感動的だった。

途中また別のパラレルワールドに行ったのかと思いきや、自分以外にもビートルズを知っている人がいたり、タバコも無くペプシはあるがコーラは無い(楽曲「Come Together」に出てくるから?)、ハリーポッターが生まれていない等、有名な人やものが無かった設定になるのは面白かった。なぜ特定のものだけ消えているのかビートルズ絡みの理由がハッキリとは分からなかったのはモヤモヤポイント。

小ネタも探せばいろいろ盛り込まれていて、会話の中にビートルズの歌詞を入れていたり、ジャケットでは「サージェント・ペッパー」はアルバム名が長いだけ、「ホワイトアルバム」はポリコレ問題ありなど現代視点で指摘されたりしていた。

曲はどれもいいが、エドとの作曲バトルでピアノを弾き語りながら歌う「Something」やライブ感あふれる「Help!」、「Yesterday」を初めて歌ってみんなが感動するシーンが好き。家族の前で披露する「Let it be」、誰も歌を聞いてくれないので「ダヴィンチがモナリザを書く瞬間なんだぞ」と怒るシーンも納得。

Hey Jude」の歌詞がしっくりこないからとエド・シーランに「Hey Dude」に変えられたり、エドスマホ着信が「shape of you」なのも良かったがビートルズの存在を確認するとき、オアシスはもちろんだがチャイルディッシュ・ガンビーノを検索していたのがジワジワきた(どのアーティストまで無くなるのだろうか想像するのも面白い)。

最終的に売れたのは、エド・シーランとコラボしたり歌詞を変えたり、現代のマーケティングの力も大きかったのだろう、アーティストよりイメージ戦略の売り方を重要視していたのは現代的で皮肉的でもあった。

いまいちあか抜けない主人公に対し天性の輝きのリリー・ジェームズがひたすら可愛かった、ヘアスタイルも、トリコロールカラーのセーターや花柄のワンピースもパジャマも毎回キュートで見とれてしまった。

 

【(ネタバレ)ラスト・コメント】

最後はエド・シーランを差し置いて舞台で何してるんだ感はありつつも、無事に二人が結ばれてホッとした(もう一人の当て馬感が可哀想だったが)。「人生は映画のように決まらないよね」と言いつつ、このような王道の告白はズルいけど一度はやってみたい。

そしてエピローグで生徒たちと歌う「オブラディオブラダ」の多幸感!も最高、音楽は金儲けのためではなく、みんなを幸せな気持ちにさせるためにあるのだというラストメッセージが伝わってきた(「Yesterday」よりも「TODAY」)。

結局、原因は分からないまま、元の世界に戻ることもなく、音楽もビートルズの曲で得た利益を手放し表舞台から姿を消して、今の世界で愛する人と生きていく。嘘や偽りの自分を飾ることで成功したとしても本当の幸せは手に入れられない、ありのままの自分を認めた上で才能や努力を磨くこと、周りの人たちを大切にすることが大事なのだろう(現代のSNSで着飾った人たちへ)。

金や名声だけでなく何をもって幸せなのか、自分の身の丈に合った日常、普通が一番幸せなのだと気づかされた。「ALL YOU NEED IS LOVE愛する人に愛してると伝えること、嘘をつかず自分に正直に生きること、そんなシンプルなことで幸せな人生を送れるけど、それがとても難しいのが人生なのだろう。