映画レビューでやす

年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

2022年 邦画ベスト

◆2022年もたくさんの映画を観てきました、映画館での新作はもちろん旧作・B級含めレンタルやネット配信(AmazonPrimeやNetflix含む)、テレビ放映など合わせてざっくり500本ほど。

そのうち2022年1月~12月公開の作品の中から、洋画・邦画に分けて独断と偏見で【ベスト20】を選んだので発表していきます(順位はその時の気分で変わるし、残念ながら見逃した作品もあるので見たら更新するかも?)。

 

ちなみに昨年2021年の邦画ベストはこんな感じでした、昨年は完全に濱口監督の年でしたが・・・さて、今年はいかに?

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【第20位】「MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」

ある小さな会社で起こる1週間のタイムループ、ループしてるのに気づいた人が次々に仲間を説得・理解させ協力し合って脱出しようと奮闘するコメディ。社畜たちが常に仕事に追われる似たような日々をタイムループという手法で表現したその親和性の高さに着目した時点でアイディア勝ちだが、82分と上手くまとまってテンポよく分かりやすくかなり笑えるし、社会人なら共感できるあるあるネタで、あっという間の1週間の早さで楽しめる(プレゼンシーンが最高)。

出尽くした感のあるループものを新たな切り口で描く、シンプルな面白さに人間ドラマやアイロニカルな視点も加わって深みが増している。低予算お手本映画としてほぼオフィス内のシーンがメインでスケールが地味ならではの人間賛歌や、すべてに凝った作りでの演出が素晴らしい。上司のマキタスポーツが最高だが、マイナーな役者たちもイメージが無く見れたので良かった。仮に自分だったらと思うと・・繰り返しに思える日々の中にも漸進しているのだ、少しでいい、振り返れば見失っていた大切なものに気づかされるはず。 

 

 

 

 

【第19位】「犬王 

室町時代に実在した能楽師の犬王と盲目の琵琶法師・友魚の友情、湯浅監督にしか作れない独自の世界観で大衆受けは難しいが、今作のクセの強さもかなり人を選ぶだろう。日本古来の音楽「能」とロックの融合(ちょっとロックオペラ色が強すぎたかな、クイーンオマージュ?、もう少し和楽器を強調して欲しかった)、「どろろ」的ミュージカルな展開は予想外だったが、歴史に埋もれ語られなかった者や言葉たちがあってこその今があり、ロックで暴れた男の幕引きと友情が溶け合って歴史の幕が閉じてまた始まるところが染みた。
アヴちゃんと森山未來の力強い歌声は良かった、当時は戦乱の世に魂を揺さぶるロックとして響いたのが実感させられた。京アニの傑作アニメ「平家物語」とセットで見るべし。私たちが知るのは過去のほんの一部であり室町時代にロックは絶対になかったと言い切れない、歴史の教科書が書き換えられているように未来と同様に過去もあらゆる可能性が開けていて、歴史を想う想像力の大事さを伝えてくれる。

 

 

 

 

【第18位】「線は、僕を描く」 

あまり馴染みのない水墨画を通しての和の美しい清々しい青春スポ根ものだが、全編通して「静」の映画で淡々と大きな盛り上がりはない分、水墨画の繊細さや描く筆の音などが際立つ美しく、音楽の使い方も上手い。さすが青春映画の傑作「ちはやふる」の小泉監督、筆の躍動感や迫力が劇伴やカメラワーク、音と光の使い分けでの静と動の表現が素晴らしく青春の輝きの尊さが溢れていた。シンプルな色のない濃淡のみの表現だけに俳優陣の世界観を壊さない演技と相まって深みも出ていた。

原作漫画は読んでいたので横浜流星は最初は違うと思ってたけど上手く演じていたし清原果耶の和服姿や変化もさすが、三浦友和の師匠ぶり、江口洋介がズルいくらいカッコ良すぎた。自分と向き合うことの難しさ、自分を表現する芸術の力、白と黒だけの世界ではない描き手の持つ色、人生そのものが反映される「僕は、線を描く」ではないタイトルの意味も響いてくる。。

 

 

 

 

【第17位】「サバカン  SABAKAN 

1986年の小学5年生の少年の青春冒険友情物語、シンプルでベタな展開だけど監督の演出力もあってグッとくる王道の和製スタンドバイミー。昭和むき出しの古き良き日常、見ながら素直に自分の田舎と小学時代の記憶が呼び起こされてきた。多幸感に満たされる、これをエモいというのか現代っ子にはどう思うのだろうか?

スマホも無いあの頃の夏休み、時代も田舎の感じも世代的に染みてくる・・今思うと無茶苦茶な時代だったけどいい時代だった、子どもの頃の1か月は今の何十倍も長くて濃密でいろんな吸収できる貴重な時間だったとしみじみ。誰もが経験のある友人とのちょっとした冒険やすれ違いの気まずさ、近所のお姉さんやアイドル。番家くん、原田くん子役の二人が本当に素晴らしかった、竹原ピストル尾野真千子の夫婦も最強。子供の頃描いていた未来とは違うけどあの忘れられない夏があって今がある、あの頃の友達に会いたくなるはず。何よりも素敵な言葉「またね!」。

 

 

 

 

【第16位】「夜明けまでバス停で」 

高橋伴明監督の怒りの一撃で粗さも目立つが今の現実を映さねばの想いは伝わってきた。2020年幡ヶ谷でホームレスの女性が突然殺害された事件を元にして人としての尊厳が少しずつ蝕まれて「社会的孤立」に陥っていく、コロナ禍以降、誰でも起こりえるかもしれない状況がジワリと迫ってくる怖さ。かなり脚色しているのでどう受け止めるかで感想は変わってくるはずだが考えさせられるきっかけになる。
正しいがゆえ真面目過ぎるがゆえにどんどん締め出されていく理不尽さ、まだ若い女性が弱音を見せられず誰かに頼れないままホームレスに堕ちていく過程がリアルで辛く重い話でメッセージ性はかなり強い。自己責任と思わせる日本の社会福祉の現在の敗北状況、狙撃事件も重なっての空気感、リアルな前半から笑いを交えた後半からラストの一撃(良い脚本)。全共闘世代の若松プロ色の強い監督ならではの表現やいろいろ詰め込んだせいで焦点が絞り切れなかった感じが惜しいが、描かれたことは見て見ぬふりは出来ない。

 

 

 

 

【第15位】「愛なのに」「猫は逃げた」 

R15指定での城定秀夫×今泉力哉が監督と脚本をそれぞれ交換したプロジェクトの2作品で、こちらは城定監督作品。人間関係拗らせ系のゆるい会話劇の今泉脚本に今泉監督が苦手な?エロ要素(城定監督が得意な)が見事に絡んで期待通りに良い化学反応、面白い下品になりすぎないラブコメディでそれぞれの愛のカタチとSEXとの関係性、最後まで見ると「愛なのに」の意味を考えさせられる。

瀬戸康史の真面目かつエロさ、一途な女子高生の河合優美(今年も何作も出まくりで多様だが上手い)、すっかり女優メインのほないこか(ゲスの極みは?)、毎度だらしない浮気ダメ男が似合う中島歩も良い。愛なのに、愛だから、愛ゆえに、愛を否定するな!

 

こちらは今泉監督作品、夫婦のダブル不倫のグダグダした別れ話は普通ならドロドロのドラマになるところをあっさりラブコメに面白くするのはさすが、ちゃんと猫も主役となって可愛い、猫好きにはたまらないはず。いつも以上にダメダメ男だけど憎めない、クライマックスの4人の修羅場の会話劇の長回しはもはや名人芸、猫はかすがい。
主演の4人が自然体で上手く演じていて、手嶋美憂のエロさにやられるが初めて見た山本奈衣瑠も魅力的だった、何気に猫も演技?もすごかった。愛を語る視点では「愛なのに」の作品の方が良かったかな。

 

 

 

 

【第14位】「さかなのこ」

昔のさかなくんのお話で、すギョく面白くてポジティブで優しい世界、みんな温かくてほっこりクスっとくる沖田監督らしい素敵な映画。海を漂うような心地よさ、純粋に好きを貫くことの魅力と恐怖すごさ、普通はどこかで諦める場面も突き詰める大変さも感じないのは幸せなこと、尊敬と憧れと畏怖を感じる。常に息子を肯定し続ける母親や友人や周囲のみんなが善人だらけで、否定する人が出てこないのがこういう社会だったらなあの理想形をあえて描いているのか(さかなくん本人が演じる別役が現実的なのが上手い)

男とか女とか性別も何もかを関係ないフラットな姿勢で観ること(魚は環境次第で雌雄となる中性な種も多い)、周囲の大人たちの支え次第で、自分もさかなくんにはなれないが支える方にはなりたいと思う。「普通って何?」多様性を認め合う社会にようやく時代が追いついてきたかな。さかなクン役をのんちゃんが演じるセンスとそれ以上に答えるのも素晴らしい、吸い込まれそうな目の澄み具合、天然無垢な感じがハマり過ぎ。好きなものを大事にしていこう。

 

 

 

 

【第13位】「ちょっと思い出しただけ」 

出会ってから別れるまでを6年間のある一日だけを遡っていくストーリーいわゆるエモい系、時系列が入り乱れるが分かりやすい。逆行していくので新鮮で徐々に若々しく楽しくアガっていくのが心地よいが、結末を知ってるだけに切なくもあり伏線が良い味になっている。逆再生で見ている方も主人公のように思い出している感じで、二人の醸し出す自然な雰囲気と会話が最高でリアリティあり、分かるなあ・しょうがないよねと共感しまくり。

池松壮亮と伊藤彩莉も細かい表現での変化が上手い、小劇場演技を舞台に絶妙さも舞台人の松居大悟監督ならではでジム・ジャームッシュ監督作品を見たくなる。誰にでもあるすごく好きな人と過ごした昔の一瞬をちょっと思い出すこと、悪いことじゃない、それが積み重なって今の自分がいるのだし常に明日が待っているのだから。言えるうちに言っておいた方が良いですよ。見るタイミングによっては感傷に浸り過ぎて食らうので注意、ラストのクリープハイプの唄が染みる。。

 

 

 

 

【第12位】「窓辺にて」 

タイトル通り窓辺の外と中を使い分け様々な光の表現が美しい、今作も今泉力哉監督らしい「好きってなんだ」の問いかけをシニカルな笑いと心地よい掛け合いの会話劇の妙を楽しめた。妻の不倫を知っても悲しみも怒りも湧いてこない周りから見れば変人の冷たい人間なのか? ちょっと自分も他人事と思えず共感するところもあり。君はどう思う?常に問いかけられながら、真面目に向き合い過ぎて損な役回りになっていても自分の存在は誰かの役に立っていると思わせてくれる優しくて救われる作品。

大切なものを手に入れること・手放すこと、正直に大切な人と対話すること、感情を理解するのは無理でも人それぞれの考え方や違いを認めて分かり合うこと。感情を表に出さず淡々と優しさは感じられる絶妙なキャラクター、あてがきしただけあって稲垣吾郎だからこそ嘘なく魅力的に演じられたのでは、中村ゆり玉城ティナなど女優を魅力的に撮るのもさすが。無駄なものは最高の贅沢とポジティブに、鑑賞後は絶対に喫茶店で光の指輪をやってパフェが食べたくなるので注意を、パーフェクト!!

 

 

 

 

【第11位】「PLAN75」 

75歳以上の老人が死を選べる制度、高齢化社会で崩壊する日本のすぐそこにある未来、初の長編である早川千絵監督、傍観者ではいられない重い、余白も多く考えさせられるテーマだがシンプル見やすい作品。観客には高齢者が多かったが実際に見てどう思ったのか気になるところ、安楽死の選択肢は必要だと思うが、先ずは全員が同じ不自由なく生きているというスタートラインが同じでなければ、選ばざるを得ない人間が必ず出てきてしまう。

孤独をどう防げばいいのか、死と向き合うのではなく生きるための作品だった、個人的にはせっかく短編から膨らませたなら制度そのものにもう一歩踏み込んで欲しかったが問題提起としては良い作品。若い世代が無関心ばりに淡々と業務をこなしながら人間同士として触れ合っていく中で、迷いや心の揺れをセリフ以外でも繊細に表現していた。自己責任が横行する日本、現実に導入されたら映画より悪い方向に行くのは想像がつく、とにかく倍賞美津子の声、佇まいが素晴らしく、背中から訴えかけるものを考え続けるべき。

 

 

  

【第10位】「流浪の月」 

かつて誘拐事件の被害者と加害者として世間に知られた二人が15年後に再開したことで周囲に波紋を呼んでいく。孤独の形は人それぞれ、世間はその人が見たいようにしか見ないのを改めて実感させられる。恋とも愛とも違う強い感情、ほんの小さな何かを支えに乗り越えていく、心でつないだ手を放さずに流浪すればよいのだろう。役者も素晴らしくこういう影のある悲しみを背負うすずちゃんはさすがだし、ガリガリ松坂桃李の諦めた表情もすごいが、横浜流星のDV野郎のクズっぷりが最高だった(子役の白鳥玉季ちゃんもも見事)。

差別や偏見はそう簡単に消すことは出来ない、SNSを含む現代の生きづらさや不寛容、消えない烙印を背負いながら感情移入することも許されない二人だけの世界。暗く辛く切なくて苦しいけど、パラサイトの名カメラマンのホン・ギョンヒョの映像美やカメラワーク、全員の演技力を見事に引き出した李相日監督が見事。自分自身を正しく伝えることの難しさ、確かなことなんて何もない、答えのない不確かな毎日を生きるだけ。

 

 

 

 

【第9位】「マイスモールランド」

日本での難民認定率は1%、それを生み出す人々の無関心、悪意が無いからこそ簡単に解決しない根強い意識、難民申請が下りず父が入管に入れられ働けずケアを受けられない一家、クルドと難民問題について自然に淡々と残酷に描かれている。これほど人として扱われないとは・・理不尽過ぎて知らなかったことばかりが重くもどかしさがずっと残り続ける、これが美しい国のおもてなしなのか・・入管や実習生の労働搾取も含め現実はもっと酷なのだろう。

川和田監督は是枝組だけあってニュートラルなスタンスでギリギリのラインで描く表現や演出が見事、青春映画としても四宮カメラマンの手持ち映像もさすが。サーリャを演じた嵐莉菜が素晴らしく、本物の父や妹も出演した家族ならではの演技トーンのリアリティ。難民問題の存在、制度の問題や生きづらさや課題提議を訴え知らしめるだけでも価値があるが、そこから具体的に調べたり解決方法まで考えられるか・・無関心よりは良いのだが、人口減少の中、海外から今後増えていく中で国として個人として10年後にこの家族が笑って暮らせるように少しずつでも考えていくべき。

 

 

 

 

【第8位】「ハケンアニメ!」 

アニメ業界のプロデューサーと作り手側との奮闘を分かりやすく面白くテンポよく非常に見やすい胸アツお仕事映画。ブラックな派遣ではなく覇権を争うスポコン系、不器用で愚直な新人監督・吉岡里穂と柄本佑、ワガママで天才な王子監督・中村倫也尾野真千子、キャラ立ちも良くそれぞれの両プロデューサーとのマッチングも完璧。バディものとして生みと制作の苦しみと泥臭さ、劇中の2つのアニメのクオリティの高さ(これ単体でも見たい)や有名アニメのセリフや愛情あふれる引用にもくすぐられた。各アニメのラストも映画のラストも良き。

ゼロからイチを作り出す苦悩、作品を届ける難しさ、それが誰かの胸に刺さることは奇跡のよう、すべての制作陣にリスペクトしたい。モノづくりの根幹である「好き」をいかに貫けるか、ひたむきにがむしゃらに自分のやり方で思いを届ける、創作に本気な作り手や現場に関わる全員の熱量が伝わってくる、明日のお仕事への原動力になる映画。改めて日本のアニメは世界一の優良コンテンツ、誇れる文化としてもっと国を挙げて儲かる仕組みと本当に作家や制作現場への還元をお願いしたい(現場のワークワイフバランスの見直しも重要)。

 

 

 

 

【第7位】「さがす 

さすがポンジュノの助監督を務めた片山慎三監督らしい先の読めないサスペンスとしても見事な脚本、前作「岬の兄妹」と同じく重めのしんどい内容なので人を選ぶヤバい作品。要所に笑いの要素も入れながらシリアスとの高低差、実際の事件も絡めながら人間の深層、業と欲と狂気、グロテスクに生々しく容赦なく訴えかけてくる(R18)。一瞬一瞬の選択の繰り返しの中で、境界線(ネット)を行き来しながら正解はないけど間違いを避けていくこと、そんな理性的になれないのが人間という生き物。
いろんな意味での「さがす」の伏線回収していく展開の二重三重の多重構えから誰が何を探していたのかにつながる永遠に続いて欲しい深い名ラストシーンの後味余韻がすごい。福田組の笑いを封印した佐藤二郎の哀愁漂うシリアス演技(あてがき)や犯人役のサイコがハマる清水尋也(缶ビールに涙)も良いが娘役の伊藤蒼が素晴らしい(毎回薄幸な役に似合う)。心から生きたい人、周りから生かされている人、命の価値とは? 

 

 

 

 

【第6位】「恋は光」 

相変わらず原作からの映画化の上手さが光る小林監督らしさ全開、セリフ回しはいつものアニメチック創作っぽいけど見事な会話劇と4人のキャラ付けやキャストの適材適所ハマり具合が最高。「恋は誰しもが語れるが、誰も正確には語れない」恋の定義付けを見つけるのを一緒になってを体験する、確かに「恋の光」ではなく「恋は光」だと落ち着くラストまで爽やかで大学時代に戻って恋愛したくなる。

悪い人が出ない空気感や距離感のバランス絶妙さ、普通のラブコメ恋愛映画とは違って哲学・文学的だけどゆるく清々しい新しいキラキラ青春映画でおススメ(光ってもファンタジー感はない)。神尾楓珠の絶妙なダサさ、幼馴染・西野七瀬の過去一のはまり役で透明感あふれる自然体での可愛さ、憧れ美少女・平祐奈の浮世離れ感、肉食系・馬場ふみかの色気とタイプの違う3人の女性がみんな素敵で(選べない)それぞれの光が美しかった。岡山のロケーション、映像やカット割り・間合いとリズム、あの映画的なショットはちょっと泣いた。果てして今の自分から光は出ているのだろうか・・

 

 

 

 

【第5位】「こちらあみ子」 

発達障害気味の女の子と巻き込まれる周辺とのハードモードで初監督作品とは思えない、優しさと怖さ、リアルとファンタジーのはざまに感情が揺さぶられる、ただ素直過ぎて純粋なだけで良かれと思い口に出して行動する、誰も悪くはない、おかしいのはどっちだ、お互いの気持ちも分かるが現実的にはどうだ、許容できるのだろうか>? 

あみ子を演じた大沢一菜の生命のエネルギーあふれる存在感なしには成り立たないほど素晴らしい、その瞬間の輝きをこういう子が本当にいるドキュメントっぽくありながら緻密に計算されたショットとの高度な融合。応答せよ、誰かのトランシーバーに答えられる自分でありたい、何事にも理由はあってちゃんと聞いてあげられる親になろうと誓う。誰もがあみ子だったはず、大人になるとはいつかの自分に手を振ることなのか? 大好きな相米監督の傑作「お引越し」を彷彿とさせるクライマックスも生きる力を与えてもらえた。。

 

 

 

 

【第4位】「THE FIRST SLAM DUNK 

もちろん漫画にはハマった世代だが期待以上の大興奮で激胸アツ、手書きが音楽と共に動き出すオープニングから鳥肌で、結末を知っていても観客全員が息を飲んで声を出すのを必死で抑えながらスクリーンを見つめる、その瞬間に立ち会う幸せなこと。漫画原作の映像化の最終理想系、あの山王戦が井上先生の画がそのまま動いている上に本当にバスケをやっているようなリアルな躍動感・臨場感、アニメ映画はド素人の天才作者自らが監督する(桜木とリンク)こだわりとセンスが逆に作家性と斬新なアニメーション表現につながっている。

3DCGも違和感なくスポーツアニメの最高峰での空間芸術、演出やカメラワーク、各効果音も素晴らしく無音との緩急の差、リョータを主人公にしながら適度にメンバー含めた回想シーンの有機的な絡み(ワンプレーの背後に膨大な人生の積み重ねがあること)とテンポ感とタイミング、すべてがバランス良く最高としか言えない。先生、バスケがしたいです・・(昔やってたこともあり)

 

 

 

 

【第3位】「LOVE LIFE」 

題名とは違って重い意地悪い映画で誰にでもお勧めできる作品ではないが、良い人や正しい人が出てこない人間の本質をえぐる相変わらずの深田監督の嫌らしさに今回もハマった。いつもの闖入者からの緊張感と感情の揺さぶり、CDやオセロ盤など小道具や色(黄色に注目)の使い方、部屋の間取りや団地を活かした視覚的な細かい演出などは相変わらず世界レベル。目を合わせるコミュニケーションである手話とそれぞれの視線の位置との対比も唸らせられたが、踊るシーンは痛さを通り越して笑ってしまう人間らしさも突き付けられた。

木村文乃の内に溜め込みつつ芯の強さもあるハマり役で良かったが、実際のろう者でもある砂田アトムの存在感と軽やかな演技にも驚かされた。ここぞの矢野顕子のLOVE LIFE「どんなに離れていても愛することは出来る♩」が流れるラストのロングショットの長回しの意味深さ、これは何の距離で誰の視点なのか? 痛々しい現実がリアルで見ていて辛いが結局人間は本質として孤独な存在だけど、実は意外と救われてるのに気づくかどうか・・守るー守られる、人間とは・愛とはわからないもの。

 

 

 

 

【第2位】「ある男」 

人間のアイデンティティや自分のルーツはどこにあるのか? 国籍や名前なのか、その人の生き様なのか?複層的で重厚感はあるが思ったより分かりやすく良く練られた脚本で大オチまで魅せる、サスペンスよりも人間ドラマがメインかな。彼は何者だったのか?の視点をベースに自分を自分たらしめるものは何か?の答えを炙り出す構成も見事。豪華なキャスト陣の演技合戦が見物、妻夫木らしい仮面の笑顔、窪田正孝の複雑で繊細な儚さ、安藤サクラの自然体、柄本明レクター博士ばりの存在感。

石川慶監督らしい落ち着いた映像トーンに独特の構図アングルからのカメラワークや役者を際立たせる演出も素晴らしい。現実を映す鏡と絵の対比、見事な演出で文芸的に実存主義という主題が浮き出てくる、最初と最後にマグリットの絵画「複製禁止」で映し出される完璧な締め。謎の男Xを一緒に追ってシンクロしていた観客がラストで主人公と混ざり合うカタルシスの余韻、誰もがXになる可能性はあるがリセットして人生やり直すかどうか?

 

 

 

 

【第1位】「ケイコ  目を澄まして」 

やはりボクシング映画は強く外れなし、実在の聴覚障害のプロボクサーの自伝をベースに派手さはなく静かながらも熱く改めて「音」の世界を体感する、劇的な展開は本当に何もないごく普通の人間ドラマ、三宅唱監督らしさがあふれる傑作。ざらざらとした16mmフィルムの少し粗い映像のこだわりが澄んで見える、BGM無しで、聴こえない中での様々な生活・環境音のリアルな響き、セリフでなく画と音で語る映画本来の素晴らしさ、意思表示が少ないながら表情や目、空気感で伝わる感情。何かを見逃すことは生死に関わるから常に鋭く目を凝らしている、その澄んだ目の美しさ、社会や世間へのまなざし。
荒川のありふれた下町の美しい情景と人々のありふれた営み、言葉でのコミュニケーションや目には見えにくい日常に溢れている細かい優しさ、すべての距離感の感じさせ方、コロナ禍でのマスク着用などろう者の状況に気づかされる演出、ラストカットに打たれた。コーチの三浦友和の自然体の演技も見事で、ボクシングを通して対話し心が通じ合っている。とにかく岸井ゆきのの肉体、繊細な演技と目と表情のわずかな変化での表現が素晴らしい(主演女優賞は総なめでも良い)。

  

 

 

 

★【総括】

映画業界としては興行収入も入場者数もコロナ禍前の水準まで戻りつつあるとのことで良かった、とにかく昨年もアニメが強すぎて(毎年だが)で、「ONE PIECE FILM RED」197億円(ハウルを抜いて歴代8位)、「呪術廻戦0」138億円、「すずめの戸締り」131億円、「名探偵コナン」97億円で、邦画で100億超の作品が3本は史上初とのこと(洋画の「トップガン」135億円も入れると4本!)。

邦画の実写一位が「キングダム2」だし、本当に人気漫画原作ものとテレビドラマの映画化が強すぎるのが日本ならではで、良くも悪くも映画文化として根付いてしまった。大手の確実に稼げるアニメへの力の入れ方・プロモーションからして違うし、最近は特に入場者特典を小出しに変えていくのもリピーター増につながっている。「ハケンアニメ!」でも描かれたように作者や現場制作陣の努力に支えられてるのを忘れないで現場にも対価を還元してあげて欲しい。。他にも気づかないだけで素晴らしい実写作品はたくさんあるので、才能ある監督を売れさせて育てないとミニシアターがますます消えていってしまう。


一方で自分のベストだが、昨年は濱口監督が飛び抜けていたけど上位はかなりレベルが高かった、今年は正直前半は物足りなくて邦画大丈夫かと思っていたところ、残り11月にある男、12月にスラムダンクと最後にケイコがドーンと来て追い込んだ感じ。ケイコは昨年のドライブマイカーと同じく見終わって即一位を確信したくらいこれぞ日本映画として世界に誇れる作品かと、もともと三宅監督は「Playback」で注目して「君の鳥はうたえる」で世界レベルになってきたので今後も楽しみで仕方がない。
たまたまなのか?今年はドラマでヒットした「silent」を始め、「ケイコ」や「LOVE LIFE」、洋画では「コーダ」などろう者ものが多かった、声が制限される分、映像や表情などで映画的な要素が強くなるのかもしれない。

いわゆるちょっと変わった子と見られてしまう純粋さの良し悪しを描く5、14、低予算でもオリジナル脚本の面白さ7,11,12,16,20、弱者から社会問題をえぐる9,11,16、愛とは恋とは分からないもの3,6,12,15、懐かしい青春時代を思い出させてくれる4,6,13,17、18、原作をうまくアレンジして独自色を強めた2,6,10,18。
アニメは先述のとおり大ヒット作が多くいつものシリーズもの、その中でもスラムダンクの原作者自ら監督した作家性には期待を超えて感動した。他にも期待していた新海誠監督の「すずめの戸締り」は東日本大震災という現実を描くには中途半端で映像・音楽との親和性や作家性も前回を超えてこなかった。あとは昨年に続きドキュメンタリー映画をほとんど見られなかったのが残念、次点の「部落のはなし」はテーマ的にベストに入れにくいが一番ガツンと突き刺さった、あとはNHKでも特集で見たヤン・ヨンヒ監督の「スープとイデオロギー」は前作から流れも含めて大いに考えさせられた。

 

 

 残念ながらベスト20から漏れた作品にも素晴らしいものが多かったので、以下に【次点】の5作品をあげておきます。

 

【次点】「メタモルフォーゼの縁側」 

BLを通して女子高生とおばあちゃんの交流する設定からいまどきで良い名作漫画の映画化、ほっこり思春期の微妙な心の変化が上手く表現されて、好きなものを好きという勇気m自分の世界に自信が持てない人にぜひ見て欲しい。若さゆえの葛藤を年の離れた友人を通して少しずつ軽やかに乗り越えていく、いい人しか出てこない安心感で丁寧に優しい世界に癒される。

宮本信子の上品でかわいらしいおばあちゃんとちょっと地味で平凡な芯の強さを感じさせる芦田愛菜が本当にいそうなリアルなやりとりの演技が良かった(走り方も最高)。大事なものは大事にしなきゃだめだね、縁側という風通しの良い誰でも気軽に好きなものを語れる場で趣味の話を歳を取ってもできる相手と自分でいたいな・・

  

 

【次点】「神は見返りを求める」 

みんなに愛され有名になりたい承認欲求とお金持ちになりたいYouTuber、夢のような魑魅魍魎の世界に翻弄される男女、出てくる人みんな気持ち悪く嫌らしい。人間の醜さと愚かさ、日常の潜む人間の狂気を描き、少しだけ共感してしまう相変わらず意地の悪い吉田慧輔監督らしさ全開でホラー映画のよう。

多少の優越感や評価を求めてしまうのが普通なので、親密になった分関係が崩れた時の反動は大きいのか。見返りを求めず善意のつもりでもふと利用されているだけと疲れたり落ち込んだり、逆にすぐに人に頼ったり基本的にみんな自分勝手なところはあり。痛々しいしつこい男のムロツヨシはハマり役だし、恩を仇で返す岸井ゆきののかわ憎らしさ、若葉竜也の誰にでもいい顔をして悪口を吹き込む最悪のクズ男も良すぎ。実際に見たYouTuberの感想が知りたい・・。

 

 

【次点】「四畳半タイムマシンブルース」 

四畳半神話体系×サマータイムマシンブルースの悪魔的なコラボ作品、どちらも名作で元々面白い題材の組み合わせがバッチリはまっていた、どちらも初見の人でも楽しめるはず。タイムトラベルの醍醐味も存分に味わえて絶妙なバランスが良い、主人公が繰り広げる妄想劇の脳内ナレーションが癖になり、語彙力高めの言葉遣いや言い回し、個性的な各キャラクターや独特の絵のデザインも最高。

リモコンをとるためだけに過去に戻るくだらなさから伏線回収のオンパレードの気持ちよさ、今作はテンポも良く非常に見やすく構造も分かりやすい脚本が素晴らしい、京都も明石さんも好きだなあ。。未来のことは何も知らないからこそ何でもできる、それが自由ということ、青春したい。。。

 

【次点】「かがみの孤城 

いじめ問題をテーマに少年少女の葛藤と成長をファンタジックに描いた、同じ原恵一監督の「カラフル」系統の作品。題材的に辛いところもあるがミステリー的にも伏線回収が見事で優しく前向きになれる、子供にもお勧めしたい。時間的に全員の境遇を掘り下げるのは厳しいが上手くきれいにまとめられてメッセージは伝わってくるかと(辻村深月の小説は未読)。

子供の時は学校が全ての世界に見える、当時見てたら思いも変わったのかな、いじめた側の反省や不毛さを説くではなくて基本的にいじめは決してなくならないというシビアな現実を踏まえた上で、どうやって周りが手を差し伸べてやれるかが重要な点をきちんと描いていて好感。今作自体がこの城のような場所を必要としている人たちの城になる、君は悪くないよ、無理しなくていいんだよ、確実に誰かの救いになるはず。

  

 

【次点】「私のはなし 部落のはなし」 

何かとタブー視される部落問題をあらゆる立場の人たちの様々な視点から語り尽くした205分の長編ドキュメンタリー、自分は部落/同和問題(この言葉自体が問題)は関係ないところで生きてきたと思っていたが改めて知らないことの多さと怖さを思い知った、これほど真正面から向き合った映像はない。かつて上映直前に抗議が入って拒絶された監督が十数年かけて関係者と改めて関係を築き上げ実名顔出しでの距離感(自然体での会話)と圧倒的な取材量からのエネルギーが溢れ出てくる。
生まれた土地や血筋、差別から逃げるか闘うか、あらゆる差別は無くならない前提の上で考えるべき、対話を重ねて痛みを分かり合い歩み寄っていくこと。現実はいろんな利権も絡んだ魑魅魍魎の世界だが、先ずはその地域の価値観の刷り込みを止めること。「寝た子を起こすな」という言葉の重み、歴史として記憶するべき?わざわざ教える必要があるのか?令和となり良い意味で深く考えない人が増えてそのまま風化するのもありなのか?いや寝てはいないしいつ起きるかも分からない。この映画を見る前には戻れない、知った以上考えるしかない、THE BLUE HEARTSの「青空」に希望を見出していく。

 

 

 

※【2022年 邦画ベスト 一覧】 

① ケイコ 目を澄まして

② ある男

③ LOVE LIFE

④ THE FIRST SLAM DUNK

⑤ こちらあみ子

⑥ 恋は光

⑦ さがす

ハケンアニメ!

⑨ マイ・スモールランド

⑩ 流浪の月

⑪ PLAN75

⑫ 窓辺にて

⑬ ちょっと思い出しただけ

⑭ さかなのこ

⑮ 愛なのに、猫は逃げた

⑯ 夜明けまでバス停で

サバカン  SABAKAN

⑱ 線は、僕を描く

⑲ 犬王

⑳ MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない

 

(次点)

〇 メタモルフォーゼの縁側

〇 神は見返りを求める

〇 四畳半タイムマシンブルース

かがみの孤城

〇 わたしの話 部落のはなし

 

 

※【2022年 邦画 個人賞】 

【主演男優賞】

1.沢田研二「土を喰らう十二か月」

2.妻夫木聡「ある男」

3.松坂桃李「流浪の月」

       稲垣吾郎「窓辺にて」

 

【主演女優賞】

1.岸井ゆきの「ケイコ 目を澄ませて」

2.倍賞千恵子「PLAN75」

3.田中裕子「千夜、一夜」

  のん「さかなのこ」

 

助演男優賞

1.三浦友和「ケイコ 目を澄ませて」「線は、僕を描く」「グッバイ・クルエル・ワールド」

2.窪田正孝「ある男」「マイ・ブロークン・マリコ

3.横浜流星「流浪の月」

  柄本佑ハケンアニメ」

 

助演女優賞

1.広末涼子「あちらにいる鬼」

2.伊藤蒼「さがす」「恋は光」

3.河合優美「PLAN75」「愛なのに」

  尾野真千子ハケンアニメ」「こちらあみ子」「千夜、一夜」

 

【新人賞】

1.嵐莉菜「マイスモールランド」

2.大沢一菜「こちらあみ子」

3.番家一路「サバカン SABAKAN」

 

【監督賞】

1.三宅唱「ケイコ 目を澄ませて」

2.石川慶「ある男」

3.深田晃司「LOVE LIFE」

  吉野耕平「ハケンアニメ」

 

脚本賞

1.向井康介「ある男」

2.早川千絵「PLAN75」

3.深田晃司「LOVE LIFE」

  今泉力哉「窓辺にて」