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2023年 第95回 アカデミー賞(予想 ⇒ 結果)

昨年は3月末3/28でしたが今年は3/13の開催ということで、直前だけど予想しておきます(昨年はウィル・スミスの平手打ちと「ドライブ・マイ・カー」の印象が強すぎた)。
今年はバラエティに富んだラインナップで何と言っても「トップガン」や「アバター」などのいわゆるハリウッド大作系がノミネートされているのが特徴的、今まではどちらかと言うと映画通・批評家好みの地味な作品が多かったが、近年は徐々に分かりやすい作品も増えてきている。
注目は前哨戦をほぼ制してきて勢いにも乗っている本命の「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(長いので今後の表記は「エブエブ」にする)、役者陣も含めてどこまで受賞できるかに注目。とは言え「トップガン」にも作品賞の可能性は十分にあるので最後まで分からないはず。ノミネート数で見ると「エブエブ」最多11部門、「イニシェリン」9部門、「西部戦線」9部門、「エルヴィス」8部門、「フェイブルマンズ」7部門、「トップガン」6部門、「TAR」6部門となっている。
短編やドキュメンタリー以外の主要作品(作品賞は全部)はほぼ観ることが出来たので大体の部門は自分で予想できるが、けっこう固そうな演技賞にサプライズがあるかどうか?、アメリカ以外の海外会員の投票の行方で大きく左右されるので最後まで分からない。あとはインド初のノミネートとなった歌曲賞「ナートゥ・ナートゥ」(RRR)が受賞なるか?含めて現地での高速ダンスで盛り上がるのは間違いない。 

 

⇒結果、「エブエブ」が圧倒的な強さで俳優3部門まで獲って計7部門の受賞となった。前哨戦でもほぼ勝っていて、俳優陣のスピーチでの魅力や勢いにも乗ってそのまま票も流れずに固まった感じかな。ひと昔前ならノミネートすら見向きもされなかっただろうSFアクションコメディのアジア作品が、完全に評価されたことで全く新しい時代に入った証明となるのでは。授賞式の視聴者数も昨年から12.5%アップとここ3年では最高の数値ということで、盛り上がったようで良かった。

トップガン」は残念だったけど、映画館やこの授賞式まで大きく盛り上げてくれたのは間違いない。海外作品でNetflix配信ながら技術関連を中心に「西部戦線」が4部門受賞というのも、一方で昔ながらのアカデミー会員好みの作品もちゃんと獲っていた。「イニシェリン」「エルヴィス」「フェイブルマンズ」がゼロに終わったのは寂しい気もするが、今回の「エブエブ」の前では致し方ないか。

全体的には大きなサプライズは無く、授賞式の進行も含めて大きな問題もなくほぼ順当な結果だったのでは。作品賞は外したけど、個人予想としては「23部門中15部門的中(昨年は19部門的中)」7割弱という結果でいまいちだった・・(また敢えての読みが外れた)。それでもとにかくアジア映画の一員としては「パラサイト」「ノマドランド」「ドライブ・マイ・カー」と続く受賞が、多様性の方向もあるが完全に純粋に世界で認められ安定・確立期に入ったことを喜びたい。引き続き日本映画も頂点に立てるよう期待しつつ。

 

 

本命◎、対抗馬〇、大穴△

 

【作品賞】

 

本命は最多11部門にノミネートされた「エブエブ」だろう、斬新な独創性でカオスながらお下品で笑って泣けるSF家族物語、本来不利と言われるSF&アクション&コメディの3つの要素が主体の作品だけに受賞したら本当に画期的。映画会社A24の最大の興行収入となったが、マーベルと違って同じマルチバースでも低予算でここまで面白い映画が作れること、俳優・制作陣ともにアジア系の人材が多いことにも応援したくなる。多様性の方向性も合致して前哨戦ではほぼ勝ち続けており好き嫌いは分かれる作風だがそこまでアンチが多くないのもあり(ただ昔ながらの古い会員は本当についていけるのか?)

次は「トップガン マーヴェリック」で、世界の映画館や業界を救って大成功しただけにみんな大好きで満遍なく票が稼げるはず(続編という足かせはあるが)、いわゆるエンタメ娯楽大作としてノミネートされたのも珍しくここまで大衆的な作品が受賞すれば(ロードオブザリング3以来?)盛り上がりも最高潮になるだろう、アカデミー賞の視聴率低下までも救えるか?。「西部戦線異状なし」は原作のドイツでのリメイクでNetflix配信作、ウクライナでの戦争の残忍さや無意味さを最高レベルの映画技術で訴えかけてくるが、Netflix作品でドイツ語とオリジナルが作品賞を獲っているのがハンデとなるか。「イニシェリン島の精霊」はさすがのマーティン・マクドナー監督らしい批評家受けは抜群の出来だがm前作「スリー・ビルボード」に比べるとやや暗くて地味で分かりやすくはないので票が割れるかも。

「フェイブルマンズ」はスピルバーグ監督の自伝的ドラマで映画愛に溢れていて映画好きにはたまらない一作だが、意外と複雑な家庭環境が赤裸々に描かれていたのはビックリで興行成績が振るわなかったのが痛いか。「エルヴィス」はプレスリー伝説の裏側を描いたゴージャスな演出で魅せてくれるが男優賞の方に期待、「TAR」はトッド・フィールド監督16年ぶりの新作だけに作家性あふれる傑作だがこちらも女優賞の方に期待、「ウーマン・トーキング」はサラ・ポーリー監督らしい女性の視点でのアンサンブルが見事な会話劇だが脚色賞の方に期待、「アバター2」は圧倒的な映像表現が素晴らしい歴代興行収入3位となる超大ヒットだが話の内容が弱いので技術部門各賞に期待、「逆転のトライアングル」はカンヌのパルムドールを2作連続で獲った格差社会を痛烈に皮肉ったブラックユーモアあふれるオストルンド監督にしては分かりやすい娯楽作だが受賞までは厳しいかな。

 

 『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

 『イニシェリン島の精霊』

 『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

◎『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 『エルヴィス』

 『逆転のトライアングルー』

△『西部戦線異状なし

   『TAR/ター』

〇『トップガン マーヴェリック』

 『フェイブルマンズ』

 

⇒『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
主要部門と俳優部門を獲ってきて残る作品賞の受賞も間違いないと誰もが思っていたはず、票数もダントツだったのでは(古い会員たちがどれだけ入れたかは気になるけど)。ほぼ口コミとリピート客で話題になりZ世代を中心に一気に社会現象化して配給会社A24史上最高のヒットと興行収入と影響力も大きかった。
アジア系移民家族の抱える葛藤やクィアな人や親との世代間の価値観の違いなどマイノリティを始め様々な人に響く内容で、生きる意味や人生の本質と誠実に向き合う監督や役者の魂が伝わってきたのだろう。これからのSFやコメディ映画に大きな道を開いてくれた。「トップガン」は残念だったけど、映画館や授賞式まで大いに盛り上げてくれたのは全員が認めているところ、何とかしてトム・クルーズに受賞させたい想いもより強くなったのでは。

 

 

【監督賞】
 
ここは若手とベテラン対決が見物、ダニエルズはまだ30代半ばの監督コンビで長編2作目にして早くも受賞となるか、デビュー作「スイス・アーミー・マン」もイカれた作風だったが、更に輪をかけてカオスにしつつ低予算ながらアクションから映像センス、家族愛あふれる仕上がりには絶賛しかない、ベテラン俳優陣3名を初めてノミネートさせたのも評価ポイントだろう。対決するのは逆に監督歴50年の巨匠スピルバーグ監督でなんと監督賞ノミネートは2年連続9回目!(2度受賞済)で3度目の受賞なるか?、自らの少年時代を映画愛・家族愛をメインに生々しく振り返りながらベテランらしくエンターテインメントにまとめ上げるのはさすが。
マーティン・マクドナー監督は前作は作品賞と脚本賞だったので監督賞としては初ノミネートかな、故郷アイルランドの荒涼とした何もない田舎町を舞台に繰り広げられる突然の絶交宣言からの展開、各俳優の演技を最大限に引き出した演劇作家らしい会話シナリオと演出力が素晴らしい。トッド・フィールド監督は16年ぶり(寡作すぎる)の今作で初の監督賞ノミネート、オリジナル脚本でこれまたケイト・ブランシェットを完璧に活かした作家性あふれる仕上げが見事。リューベン・オストルンド監督はスウェーデン人でカンヌ常連だが今作は初の英語作品にして監督賞初ノミネート、昨年の濱口監督と言い近年は非英語圏の監督ノミネートが定番になってきたのは喜ばしい。
 

スティーヴン・スピルバーグ 『フェイブルマンズ』

ダニエル・クワンダニエル・シャイナート『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 トッド・フィールド『TAR/ター』

マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』

 リューベン・オストルンド『逆転のトライアングル』

 

ダニエル・クワンダニエル・シャイナート『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
ここも順当でした、監督自身が経験した移民2世としての葛藤やADHDの症状体験も作品のベースとしてパーソナルな思い入れの強さ、それを乗り越えての受賞は喜びもひとしおだろう。基本的にはコインランドリーとオフィスのセットで完結させ低予算でこれだけのクオリティ作品を作り上げたのは映画業界にとっても希望。2作連続でぶっ飛んだ作品でここまで行き着くと、次作は果たしてどんな内容で唖然とさせてくれるのかが楽しみ(大好きなお尻ネタは継続しそう・・)。スピルバーグもやりたかったミュージカルと自伝的な映画を撮り終えて、落ち着くのか(引退はないか)更なるチャレンジを見せてくれるのかも楽しみ。
 
 
【主演男優賞】
 
ここは3つ巴の決戦で難しいところ、直近の前哨戦や勢いからするとオースティン・バトラーが優位か>脇役からの大抜擢に見事に応えた本人なりきり度合いとライブでのパフォーマンスは圧巻、「ボヘミアン・ラプソディ」でのラミ・マレックが受賞したように若き才能の新たなスターとして今回も獲れるかどうか? ブレンダン・フレイザーは昔の「ハムナプトラ」シリーズで有名だが体調を悪くしてセクハラやうつ病で一線から遠のいていたが、今回は体重270キロの肥満男を見事に演じきった怪演での劇的なカムバックを見ると獲らせてあげたい気もする。
個人的にはコリン・ファレルの困り眉好きなので、今作は特にその眉が突然の戸惑いや困惑ぶりに活かされていて説得力が半端なかった、地味だけど田舎の何もないおじさんにしか見えなかった、他にも「ザ・バットマン」「13人の命」「アフター・ヤン」などでの大活躍ぶりも評価したい。前半の前哨戦ではコリン・ファレルだったが、今の勢いだと若手だがオースティン・バトラーになるのかな。
 

◎オースティン・バトラー『エルヴィス』

コリン・ファレル『イニシェリン島の精霊』

 ビル・ナイ『生きる LIVING』

ブレンダン・フレイザー『ザ・ホエール』

 ポール・メスカル『アフターサン(原題)』

  

ブレンダン・フレイザー『ザ・ホエール』
ここは勢いの若手ではなく、奇跡の復活劇が強かった、前哨戦でのスピーチからの流れも出来ていたし、改めて今回の他の3つの俳優陣のただならぬ軌跡を見てもブレンダン・フレイザーが初オスカーに一番ふさわしかったかと。ここに導いたダーレン・アロノフスキー監督の手腕もさすが(「レスラー」でミッキー・ロークを完全復活させたように)。余命わずかな272キロの巨体、体重増加に加え毎回4時間を超える特殊メイクとスーツで40日間の撮影を肉体的・精神的に乗り切ったほぼ独壇場は見事だった。
 

 

【主演女優賞】
 
ここは何としてもミシェル・ヨーに獲って欲しいところ、受賞すればアジア人初の主演賞となり、有色人種としてはハル・ベリーに続いて二人目となる快挙、様々なマルチバースで一般市民から、女優、格闘家、料理人、石ころまで多様なキャラクターを演じきって、その姿が本人の生き様の総決算として重なるだけに感慨深い。ただ、演技力そのもので言えばケイト・ブランシェットの今回の演技は更に高次元でのキャリアベストの出来栄えでとにかく圧倒されて凄いの一言、過去に7度ノミネートされて2度受賞済みなので今回はミシェル・ヨーに譲って欲しいところ・・ 
ミシェル・ウィリアムズスピルバーグ監督の母親役を生々しく演じきっていてさすがの安定感で魅せた、5度目のノミネートで獲らせてあげたい気もするが。アナ・デ・アルマスも見事にマリリン・モンローになり切っていたが作品自体が冴えなかったので残念、アンドレア・ライズボローは作品も本人も知らなかったが口コミ中心にサプライズ選出されたとのこと。
 

 アナ・デ・アルマス『ブロンド』

 アンドレア・ライズボロー『トゥ・レスリー(原題)』

ケイト・ブランシェット『TAR/ター』

ミシェル・ウィリアムズ『フェイブルマンズ』

ミシェル・ヨー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 
ミシェル・ヨー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
アジア系の俳優として初の主演賞受賞となり(助演男優と合わせて2名のアジア人俳優受賞も初)、これまでの道のりも含め感動をありがとう。自分がハリウッドで認められようと続けてきた闘いを反映したようで、女優にも年齢制限なくスーパーヒーローになれる演じられることを証明してくれた。全盛期が過ぎたなんて誰にも言わせてはいけない、諦めてはいけない、世界中の母親がスーパーヒーローなのだ、とのメッセージも素晴らしかった。ケイト・ブランシェットはまだいつでも可能性はあるので今回は仕方なし、ただ演技はまた神がかっているので是非観るべき。
 
 
 
ここは固そうでほぼキー・ホイ・クァンで決まりそうな感じ、ベトナム難民からあの「グーニーズ」や「インディ・ジョーンズ2」での有名子役となり、そこから映画製作の裏方に回って今回30年ぶりに表舞台に劇的なカムバックを果たしたという人生ストーリーが映画級。肝心の演技もコミカルで人情味がありカンフーまでこなす姿に涙、前哨戦でも独走状態で感動的なスピーチも好感を呼んでいて本番でも期待したいところ。ブレンダン・グリーソンとバリー・キオガンの「イニシェリン」コンビもそれぞれ素晴らしかった、票が割れるのが惜しいが、今回は相手が強すぎたかな。
 
キー・ホイ・クァン『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
 ジャド・ハーシュ『フェイブルマンズ』

△バリー・キオガン『イニシェリン島の精霊』

 ブライアン・タイリー・ヘンリー『その道の向こうに』

ブレンダン・グリーソン『イニシェリン島の精霊』

 

キー・ホイ・クァン『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
ここは順当でした、こちらもアジア系俳優としては38年ぶりの受賞、スピーチは慣れていたはずでも本番オスカーでは素直な喜び方とメモも見ないで夢を与える言葉を繰り出す姿にはグッときた。プレゼンターのアリアナ・デボーズが名前を呼ぶ前に涙で詰まっていたのも印象的。そして何より作品賞のプレゼンターがハリソン・フォードという運命、同じ壇上で昔に戻って子供のようにハリソンと40年ぶりに抱き合う姿、会場にいるスピルバーグ監督とともに「インディ・ジョーンズ」の伝説がよみがえる劇的さは映画ファンとして最高の瞬間だった。

 

 
 
ここは難しい>アンジェラ・バセットがここで獲らないとまた白いオスカーと批判されなくないこともあり力が働くかどうか?、ティナ・ターナーを演じてノミネートされて以来、重要な黒人映画に出演・支え続けてきて29年ぶりのノミネート、ボーズマン亡き後の今作では女王役として貫禄のある安定感抜群の演技だった、またマーベル映画としては初めての俳優部門ノミネートというのもポイント、黒人票と海外票がどこまで集められるか?
個人的にはケリー・コンドンが素晴らしくアイルランド人として兄を優しく見守りながら聡明な主人公の妹を見事に演じていたので獲らせたいところ、前哨戦の結果や海外会員票しだいでは獲れそうなだけに。あとは「エブエブ」の二人だが、ジェイミー・リー・カーティスが64歳にして初めてのノミネートで、税務署の職員をユーモアたっぷりに演じていて、最近の前哨戦SAGでの受賞スピーチで流れが来ているので受賞の可能性も高いが、同じステファニーと票が割れると厳しいかな。
 

アンジェラ・バセットブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』

〇ケリー・コンドン『イニシェリン島の精霊』

ジェイミー・リー・カーティス『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 ステファニー・シュー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 ホン・チャウ『ザ・ホエール』』
 
ジェイミー・リー・カーティス『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
直近SAGでの受賞スピーチで完全に流れをつかんだまま特に票も割れず?こちらも「エブエブ」に軍配、64歳の大ベテランが初受賞、俳優一家で父や母(トニー・カーティスジャネット・リー「サイコ」で二人ともノミネートはあり)も成し得なかったオスカーだけに喜びも倍増だろう。ホラー映画「ハロウィン」でのデビューから45年かけて積み上げてきた様々なジャンル映画の関係者への感謝も良かった。改めて「エブエブ」は本当にチーム一丸となっての制作と熱い思いで作られたのがよく分かる。あと、娘役のステファニーも実際にクィアな本人が演じる当事者性での演技力も評価されてノミネートされたことも素晴らしかった。
 
 
脚本賞
 

基本的には作品賞とリンクしていて圧倒的な新しさの「エブエブ」が強いと思うが、かなり独占してしまうのもあり、ここは敢えて「イニシェリン」の方にしたい、劇作家で舞台出身のマクドナー監督らしい大人の会話劇が本当に見事だった。オストルンド監督のオリジナル脚本もタイトルどおり逆転のトライアングルになるかも?

 

 スティーヴン・スピルバーグトニー・クシュナー『フェイブルマンズ』

ダニエル・クワンダニエル・シャイナート『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 トッド・フィールド『TAR/ター』

マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』

リューベン・オストルンド『逆転のトライアングル』

 

ダニエル・クワンダニエル・シャイナート『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
ここは順当で、やはり圧倒的に強い作品賞とのリンクで「エブエブ」でした。今回は敢えてのバランスを考えたものは全て違っていたので素直にいくべきですね。。
 

【脚色賞】

 

ここも固いか>「ウーマン・トーキング」のサラ・ポーリー監督が、2018年の同名小説を南米ボリビアでの連続女性暴行事件をベースに見事に脚色しており、サラ監督自身も熱心な活動家だけにウーマンパワーの結集からの問題提起が素晴らしい。過去に「アウェイ・フロム・ハー」でもノミネートされており今回2度目で受賞となるか。 「西部戦線」もテーマを絞ってオリジナルとは少し変えてきて良かったが受賞までは厳しいかな、「トップガン」は脚色賞(続編ものはすべて脚色となる)にノミネートされたのはこのレベルの作品と認められて凄いと思う。

 

 アーレン・クルーガーエリック・ウォーレン・シンガークリストファー・マッカリー/原案:ピーター・クレイグ、ジャスティン・マークス『トップガン マーヴェリック』

エドワード・ベルガー、レスリー・パターソン、イアン・ストーケル『西部戦線異状なし

カズオ・イシグロ『生きる LIVING』

サラ・ポーリー『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

 ライアン・ジョンソン『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』

 

サラ・ポーリー『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
ここは順当でした、サラ・ポーリーらしいひたすら見事な会話劇の応酬は見ごたえあり。(もう女優業は復活しないのかな)
 
【国際長編映画賞】
 
これは間違いなく「西部戦線異状なし」だろう、前年の「ドライブ・マイ・カー」に続いて、作品賞とのダブルノミネート、技術部門を含め9部門でのノミネートと外国映画とは思えないレベル。「アルゼンチン」もどっしりとした法廷ドラマで見応えあり、あとは未見だが、「EO」はイエジー・スコリモフスキ監督なので早く見てみたい。
 

『アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~』(アルゼンチン)

△『EO(原題)』(ポーランド

 『CLOSE/クロース』(ベルギー))

 『ザ・クワイエット・ガール(原題)』(アイルランド

◎『西部戦線異状なし』(ドイツ)

 

⇒ 『西部戦線異状なし』(ドイツ)
ここは順当でした、他の技術賞含めてここまでの受賞は大健闘だったのでは。

 

【長編アニメーション映画賞】
 

ここは「ピノッキオ」で間違いない、鬼才ギレルモ・デル・トロ監督による新たな切り口でのダークな世界観でミュージカル形式のストップモーションアニメとして異例の完成度、15年を費やしたこだわりはNetflixの資金力のおかげ、「シェイプ・オブ・ウォーター」で作品賞を獲っているのでアニメでも受賞するのは快挙なのでは。「Marcel the Shell with Shoes On」はA24の配給なので気になるところ、「私ときどきレッサーパンダ」も多様性や様々な悩みを吸収した素晴らしい作品だった。 

 

 『ジェイコブと海の怪物』

◎『ギレルモ・デル・トロピノッキオ』

 『長ぐつをはいたネコと9つの命』

〇『Marcel the Shell with Shoes On』

△『私ときどきレッサーパンダ

 

ここは順当でした、とにかくそのオリジナリティ・クオリティに圧倒された。しかし、作品賞とアニメ賞の2つを獲るなんて考えられない・・

 

【撮影賞】
 
ここはてっきり「トップガン」かと思いきやなぜかノミネートされておらず・・この中でいけば「西部戦線」の圧倒的にリアルな現場体験かな。
 

〇『エルヴィス』

△『エンパイア・オブ・ライト』

◎『西部戦線異状なし

 『TAR/ター』

 『バルド、偽りの記録と一握りの真実』

 
ここは順当でした、塹壕から最前線での戦場体験はリアルに入り込んで震えた。
 
編集賞
 
ここはあれだけのカオス要素をよくぞここまで一つの物語にまとめあげたと感心しかない「エブエブ」しかないはず、いったいどれだけの時間をかけたのか?
 

 『イニシェリン島の精霊』

◎『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

△『エルヴィス』

 『TAR/ター』

〇『トップガン マーヴェリック』

 
⇒ 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
ここは順当でした、元ネタいったいどれだけ撮ったのをつなげたのだろうか?
 
美術賞
 
ここは「バビロン」の豪華絢爛なセットが強烈なインパクトを残しているので強いかな、「エルヴィス」のド派手なキラキラセットも凄かったけど。
 

△『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

〇『エルヴィス』

 『西部戦線異状なし

◎『バビロン』

 『フェイブルマンズ』

 
ここは意外でした、広大な塹壕など実際の戦場を作り上げたセットとしては凄かったけど、「1917 命をかけた伝令」などを見てしまっているのでそこまでインパクトは正直なかったので。
 
【衣装デザイン賞】
 

ここは「エルヴィス」のギンギンギラギラ衣装が強いかな。ブラックパンサーもなかなかのデザインだったけど。

 

 △『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

◎『エルヴィス』

 『バビロン』

〇『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』

 『ミセス・ハリス、パリへ行く』

 
⇒ 『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
デザインの独創性でいくと妥当なのかな、結局「エルヴィス」はこのあたりが全然受賞出来なかったのは意外だった。
 
【メイキャップ&ヘアスタイリング賞】
 

ここは完璧に本人を再現したヘアも含めた「エルヴィス」が全体的に優勢かな、「ザ・ホエール」の信じられない特殊大肥満スーツにも度肝を抜かれたけど。

 

◎『エルヴィス』

△『THE BATMANザ・バットマン-』

〇『ザ・ホエール』

 『西部戦線異状なし

 『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』

 
⇒ 『ザ・ホエール』
毎日4時間かけて臨んだ特殊メイクと270キロの特殊スーツを違和感なく溶け込ませるのは確かに受賞に値するべき。
 
【視覚効果賞】
 
これは「アバター」以外に考えられない、映画館IMAXでの3D革新的映像体験はダントツで凄かった。
 

◎『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

 『THE BATMANザ・バットマン-』

 『西部戦線異状なし

〇『トップガン マーヴェリック』

△『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』

 

⇒ 『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
ここは順当でした、500億?かけて受賞できないのは辛すぎるし・・

 

【音響賞】
 

ここはさすがに「トップガン」が獲らないと、映画館での臨場感あふれる体験はまさにこの音響もあってこそ、「西部戦線」も戦争の最前線に立たされている緊張感や激しさが伝わってきた。

 

△『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

 『エルヴィス』

 『THE BATMANザ・バットマン-』

〇『西部戦線異状なし

◎『トップガン マーヴェリック』

 
⇒ 『トップガン マーヴェリック』
ここは順当でした、映画館ならではの音響設計が見事、1部門でも受賞出来て良かった。
 
【作曲賞】
 
ここは「バビロン」が強いかな、作品自体は賛否両論あるも劇伴としては狂騒時代を見事に表現したジャズサウンドで世界観を盛り上げていた、デミアン・チャゼル監督の学友(ハーバード大学!)であるハーウィッツは全作品の音楽を担当していて既に「ラ・ラ・ランド」では作曲賞と歌曲賞を受賞済み。「西部戦線」のハウシュカ(エレクトロニカでも有名)の実験的な音響サウンドでの戦争の恐怖を表現していたのも見事だった。あとは、「フェイブルマンズ」での巨匠ジョン・ウィリアムズ(90歳超え!)の健在ぶりもさすが。
 

 『イニシェリン島の精霊』

 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

〇『西部戦線異状なし

◎『バビロン』

△『フェイブルマンズ』

 
ここは西部戦線でしたか、最前線での不穏さ緊迫感を煽るサウンド設計や特徴的な音が耳に残る感じでした。
 
【歌曲賞】
 

ここでいよいよ「ナートゥ・ナートゥ」の登場、前哨戦や人気具合から見ても大本命で、会場での高速ダンスの盛り上がりが目に浮かぶよう。日本でもいまだ大人気で米国でも映画賞を獲得していて、本来ならば国際映画賞にノミネートされるべきだが何故か母国インドで代表に選出されなかったので(イギリスに配慮した>まさかね)、この歌曲賞のみとなった。ただ選ばれればインド映画として史上初のアカデミー賞受賞となる記念日となるかどうか? あとはリアーナの「リフト・ミー・アップ」やレディ・ガガの「ホールド・マイ・ハンド」は普通に曲として良く聞いた。

 

 『アプローズ』(私たちの声)

 『ディス・イズ・ア・ライフ』(エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス)

◎『ナートゥ・ナートゥ』(RRR)

〇『ホールド・マイ・ハンド』(トップガン マーヴェリック)

△『リフト・ミー・アップ』(ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー)

 
⇒ 『ナートゥ・ナートゥ』(RRR)
ここは順当でした、会場の盛り上がりもさすが、最初の司会の長いスピーチを踊りながら退場させたのは笑った。インド初の受賞でこちらも新しい扉が開けましたね、「ボリウッド」はすでに確立・世界に人気もありますが、これからはどんどんノミネートされていくのかどうか楽しみ。
 
【短編映画賞】
 
唯一観ることの出来た「無垢の瞳」はキリスト教の全寮制学校での厳格な指導のもとで生活する少女たちを瑞々しく繊細に描いていた、監督はアリーチェ・ロルバケルと聞いて更に納得の完成度。
 

〇『アン・アイリッシュ・グッバイ(原題)』

 『イヴァル(原題)』

△『ザ・レッド・スーツケース(原題)』

 『真冬のトラム運転手』

◎『無垢の瞳』

  

⇒ 『アン・アイリッシュ・グッバイ(原題)』
ここは未見なので分からず。

 

【短編アニメーション映画賞】
 
唯一観ることの出来た「ぼく モグラ キツネ 馬」はベストセラー絵本が原作だが、手書きのアニメで原作イラストまんまを動かしていて物語もシンプルな中での深い味わい深かった。
 

 『ガチョウの言う通り、この世は偽物かも アン・オストリッチ・トールド・ミー・ザ・ワールド・イズ・フェイク(原題)』

〇『氷を売る親子 アイス・マーチャンツ(原題)』

 『空飛ぶ水兵 ザ・フライング・セーラー(原題)』

◎『ぼく モグラ キツネ 馬』

△『私のディック時代 マイ・イヤー・オブ・ディックス(原題)』

 

⇒ 『ぼく モグラ キツネ 馬』
ここは唯一観たのがたまたまですが当たりました。

 

 
ここは現在の社会情勢を踏まえても「ナワリヌイ」が優勢かな、ロシア・プーチン政権による毒殺実行により殺されかけた反体制派弁護士ナワリヌイの記録、昏睡状態の病院から密着して犯人を特定する真相究明までの一部始終を捉えた命がけの映像は緊迫感にあふれており、笑顔を絶やさずに前向きに進む姿には勇気をもらえた。未見だが「オール・ザ・ビューティー・アンド」はベネチア映画祭にてドキュメンタリー映画ながら史上初の作品賞を受賞しているので早く見たい。
 
 『ア・ハウス・メイド・オブ・スプリンターズ(原題)』

〇『オール・ザ・ビューティー・アンド・ザ・ブラッドシェッド(原題)』

 『オール・ザット・ブリーズス(原題)』

◎『ナワリヌイ』

△『ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦』

 
⇒ 『ナワリヌイ』
ここは順当でした、いまここにある危機、ダニエル・ロアー監督のスピーチ「プーチン氏の不当なウクライナ戦争の犠牲になっています、我々は独裁者に恐れることなく反対を貫き通すべき」と痛烈に批判。今も独房で禁錮刑に処されているナリヌワイの妻も登壇して「私の夫は真実の言葉を語っただけ・民主主義を守っただけで捕らわれています、私はあなたが自由の身になる日を、そして私たちの国が自由になることを夢見ています、愛してます、強くあって下さい」との呼びかけが少しでも届くことを祈って。
 
 
意外とNetflixYOUTUBEで見られる作品も多く、その中では「エレファント・ウィスパラー」のインドで野生の象の保護活動をする夫婦の物語、親を亡くした小象とのやり取りがグッときた。
 

◎『エレファント・ウィスパラー:聖なる象との絆』

△『ストレンジャー・アット・ザ・ゲート(原題)』

 『ハウ・ドゥ・ユー・メジャー・ア・イヤー?(原題)』

〇『ホールアウト(原題)』

 『マーサ・ミッチェル -誰も信じなかった告発-』

 

⇒ 『エレファント・ウィスパラー:聖なる象との絆』
ここは順当でした、象と人間の絆に感動、小象が可愛すぎて癒されます。Netflix配信で見られます。