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年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

2021年 洋画ベスト

◆2021年もたくさんの映画を観てきました、映画館での新作はもちろん旧作・B級含めレンタルやネット配信(AmazonPrimeやNetflix含む)、テレビ放映など合わせてざっくり520本ほど。

そのうち2021年1月~12月公開の作品の中から、洋画・邦画に分けて独断と偏見で【ベスト20】を選んだので発表していきます(順位はその時の気分で変わるし、残念ながら見逃した作品もあるので見たら更新するかも?)。

 

ちなみに昨年2020年の洋画ベストはこんな感じでした。さて、今年はいかに?

 

 

 

 

 

【第20位】「アナザーラウンド」 

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まさに「酒は飲んでも飲まれるな」を見事に体現したダメおっさんたちのオフビートドラマ、なかなか変わった作品で好き嫌いは分かれそうだが面白かった。お酒の効用・良いところと悪いところ、適用と依存症とのラインなど考えさせられるところも多く、あまりお酒は飲まないけど他人事とも思えなかった。
社会的にはアウトだけど、業務中のほろ酔いでのナチュラルハイ?状態は人や内容によっては効果上がるかも、0.05%キープの絶妙なラインを保つのは難しそうだが在宅ワークの今なら無くもないかも。マッツ・ミケルセンの冴えない中年役はさすがに無理があり、ずっと色気ダダ漏れセクシーで笑ってしまった、元ダンサーだけあって最後のダンスは最高のカタルシス。「重要なのは失敗した後、他者と人生を愛する為に、自分の不完全さを認めること」。

 

 

 

 

【第19位】「アイダよ、何処へ?」 

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スレブレニツァの惨劇という知らなかったジェノサイドの側面、比較的最近のことで更に衝撃、ずっと重く辛すぎる救いようの無い話で、平和ボケした身としてはどうこう出来るわけでないけど先ずは知るべき観るべき作品。ドキュメンタリータッチで息も詰まる画面と緊張が最後まで続く、虐殺される決定的な瞬間は描かれないが噂話と銃声と不安が広がりながら、観る者はこの悲劇の真っ只中に没入させられる。
仲の良かった隣人同士の争い、赦すこころ、様々な葛藤や家族を守るための強さが演じる女性の眼力に表れている。安心と信じ切っていた「国連」という存在の脆弱さ、現在も続くこの地に戻ってくること、このカオスを象徴化しているラストは私たちに何を投げ掛けているのだろうか。

 

 

 

 

【第18位】「マリグナント 狂暴な悪夢」 

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今年のホラー映画はこれ、さすがジェームズ・ワン監督、いい意味でどうかしている、ネタバレ厳禁だが思い付いても作品化したのが先ず凄いし、前半のゆったりホラーから後半のアクション・サスペンスまでエンターテインメントとして一級品。臨場感と恐怖を煽る独特な見せ方が印象的で、ハラハラする展開にそう来ましたか?ツッコミどころや笑いどころも満載で伏線回収もバッチリ、何故か爽快感すら感じるラストまでテンポよく一気に駆け抜ける。

カメラワーク、音楽・演出も良く、R18なのでグロさはあるがコミカル要素や姉妹家族愛など見やすさもあり、往年のホラー・映画をリスペクトしつつ、ジャンル映画をごった煮にして出尽くした感のあるホラーに全く新しい味を作り出したのは間違いない。
  

 

 

 

【第17位】「ドント・ルック・アップ」 

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アルマゲドン」とは真逆のゆるーく観れる地球滅亡映画、とにかくキャストが驚くほど贅沢で配役もピッタリ、この内容をノリノリで演じさせるNetflix恐るべし。最高に笑いながら最低に絶望する痛烈なブラック・コメディでありながら、トランプ政権への皮肉など様々な深読みも出来るウィットに富んだクールな社会派映画としても楽しめる。

世界・人類の危機が迫っている状況で、本来人々を守り真実を伝えるべき国家・メディアはそれぞれに都合の良い楽観的な対応を起こすのみ、描かれるのはまさに今の社会そのもの。ポリコレに偏らない現実的なフィクションとして恐ろしさとおぞましさすら感じざるを得ない。。タイトルの「上を見るな」、上のお偉いさんたちには我々は下を向いてスマホに踊らされていて欲しいのだろう。

 

 

 

 

【第16位】「最後の決闘裁判」 

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事実は一つかもしれないが真実は人の数だけある、3人の視点から語られるいわゆる羅生門スタイル、それぞれの主観で語る真実について丁寧に描かれるため、上映時間は2時間半と結構長めで同じシーンが繰り返されるが、それぞれ演者の微妙なしぐさを汲み取って物語が徐々に別物に代わっていくのが面白い(細かいところまで2回以上見るのがおススメ)。そして最後の「グラデュエイター」っぽい手に汗握る決闘シーンの緊迫感の素晴らしさはさすがリドリー・スコット監督。

一部では男尊女卑描写が叩かれ物議を醸したようだが、最後の真実と断定される妻マルグリットの視点から見える男たちが想像以上に酷くて驚く。 訴えても隠しても地獄、一人の女性の勇気が男の尊厳と大衆の娯楽に踏みにじられる、これは本当に過去の話なのか?、現代にも通じる痛烈なメッセージとしても響く。

 

 

 

 

【第15位】「ザ・スーサイド・スクワット ‘’極”悪党、集結 

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今年のアメコミものはこれ、DC版お下劣お下品なアベンジャーズ、超愛すべき極悪党のはぐれ者たちが活躍するとんでもない予算をかけて真面目にふざけたZ級おバカ映画の最高峰。容赦ないグロさとブラックな小ネタギャグ満載でカッコいいシーンも多くジェームズ・ガン監督のセンスが爆発している、犯罪者集団の悪としてやっていることはメチャクチャでも彼らの考えと行動に納得感があるので不思議と愛着が湧いてしまう。
ヴァイオレンスと悪趣味に振り切った反面、正直ストーリーは盛り上がりに欠けるが、とにかく個性きわ立つぶっ飛んだキャラクターたちが最高。ハーレイクインの安定の可愛さやポップで芸術的なお花畑バトル無双ぶりはずっと観ていたくなるし、サメ男のナナウエも最低で最高だった、社会のネズミも強いのだ、また次の新しいヒーロー?にも期待!

 

 

 

 

【第14位】「フリー・ガイ」 

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今までに無かったゲームのモブキャラが主役という設定が先ず新鮮で、シンプルで分かりやすく観やすく子供も大人も楽しめる王道エンターテインメントの一級品。「トゥルーマンショー」+「レディプレイヤー1」の良いとこ取りで、全て回収し見事につながっていく綺麗な着地の爽快感がたまらない。それぞれキャラが立っていて遊び心満載でコメディ要素も強い、様々なオマージュが盛り込まれていてゲームやマーベル作品の元ネタが分かればより楽しめるはず。
ライアン・レイノルズの表情が本当にモブキャラにしか見えないほどのハマり役。ゲームでも現実でもこの瞬間こそがリアル、
「自分の人生の傍観者でありたくない、ただの良い1日ではなく素晴らしい1日にする」主人公のモブキャラと同じように毎日同じルーティンがちな人は、明日から少し変わったことに挑戦しようと勇気をもらえるかも。

 

 

 

 

【第13位】「ライトハウス 

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これぞザ・A24の映画、登場人物は男2人のみの密室劇、美醜の狭間を彷徨い正気を逸していくサイコスリラー、とにかくクセが強いんじゃーで万人受けしないし、全てを理解するのは無理で好き嫌いがはっきり分かれる作品。正方形に近いアスペクト比の窮屈な画面に、絵画のように美しい寒々としたモノクロ映像(フィルム撮影)、終始鳴り響く霧笛や嵐の音響のおどろおどろしさ、最初から最後まで観ているものを言いようのない不安の渦に巻き込んでいく。
多くのオマージュやメタファー、神話的要素が散りばめられていて観る人によって様々な解釈ができるが、不気味さ不穏さ狂気さを楽しめる余裕は必要かも。ウィレム・デフォーロバート・パティンソン、「不潔なのに品と高潔がある」二人の神がかった演技合戦だけでも観る価値あり。
   

 

 

 

【第12位】「春江水暖」

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大家族から核家族へ地方から都市への変革が同時進行していく中国の富春を描いた映像詩で、山水画のような美しい風景で彩る親子三世代の物語。時代と共に移り行く人や街に対して、自然は年月の風化を感じさせずに「ただ在るのみ」。そこに暮らす大家族の日常は特別な事件は起こらなくても家族には大切な日々の積み重ね。
派手な演出はないが横スクロールが印象的で、緩やかな川の流れの様に進むストーリーはとても心地よく美しい絵巻物のよう。富春江の四季を背景にしたロングショットや長回しで写すことで、一年という歳月だけでなく普遍的な時の流れをも感じさせるような美しさは圧巻。まだ三十代の新人ということで中国の若手監督の恐るべし才能、出演者のほとんどは親類や知人が演じていて、この映画は三部作の第一部に当たるらしく続編が楽しみ。

 

 

 

 

【第11位】「ボストン市庁舎」

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ドキュメンタリー映画の巨匠92歳のワイズマン監督らしい非常に興味深い274分間の唯一無二の映画体験、民主主義制度の面倒くさと尊さが描かれる。全ては理解できないが、壮大なお役所仕事、格差、差別、貧困、ジェンダー、環境、高齢化などの問題が実践的に細分化されていて熱量を持った取り組みに感心しつつ、日本の政治レベルの低さも痛感する。
ナレーションは一切なくテロップも必要最低限で状況を説明する演出もなく、ひたすら市長の演説と市職員と市民の議論などを見ながら想像する楽しさを与えてくれる編集もさすが。理想論だけでなく厳しい現実も突き付けてくるが、「話す力」と「聞く力」が対等な対話として、職員や市民たちがそれぞれ自分で考え、自分の周りの幸せのために何ができて何が必要なのかを常に考える姿勢を見習いたい。 

 

 

 

 

【第10位】「17歳の瞳に映る世界 

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17歳の女の子2人から見えている世界をそのまま写したような作品、望まない妊娠での中絶に向けたロードムービーでシンプルな話だが、二人のリアルで自然な演技を含め惹きつけられる。各国・各州によって中絶は不可能なところもあり、望まない妊娠をした時、女性はいつだって被害者なのか、今作に出てくる男性はみんな最低な男ばかり・・彼女たちを取り巻く環境はおぞましい現実や欲望の影に埋もれていて、淡々とした行き場・やり場のない空気感や圧迫感が漂っている。
必要な背景や説明を削ぎ落として直接的な描写ではなく、ちょっとした間や表情、仕草で観客に想像させる、人の心情に寄り添っている描き方が素晴らしい。原題の「Never Rarely Sometimes Always」この言葉が使われるシーンの重さは必見(この長回しは演技を超えて鳥肌モノ)。今この瞬間にでも同じことが世界中のどこかで起きている現実から目を逸らしてはいけない。


 

 

 

【第9位】「少年の君」 

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過酷ないじめ、受験戦争、格差社会など中国の社会問題を描きつつ、生きる世界の異なる男女の愛と絆を描いた作品。しっかり問題提起した上で、画力抜群の若手二人の素晴らしい演技とワンカットワンショットの美しい映像と巧みな構成・演出で、少年少女の繊細で力強い青春が描かれている、デレク・ツァン監督には今後も大注目。
自分を持つこと、人を無垢に愛すること、美しい風景やクローズアップでの表情から伝わってくる。エンドロールが中国政府のプロパガンダ的に感じるのが残念(検閲?)。この社会は何を守ってるのか?守られるべき者が守られていない現実、人生は試験問題と違って解答なんてない、「君は世界を守れ、俺は君を守る」正しいかどうかは自分で決めるのだ。

 

 

 

 

【第8位】「ラストナイト・イン・ソーホー」 

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エドガー・ライト監督のセンスの良さや幅広さが爆発、ストーリーそのものの面白さ、音楽や衣装などスウィンギン・ロンドンな60年代イギリスへの愛に溢れた世界観の構築も含めエンターテインメントとして楽しめる作品。「007シリーズ」へのオマージュや「サスペリア」的な耽美な学園ホラー/サスペンスも盛り込んで、前作に続き音楽との親和性・連動性もバッチリなのがたまらない。
めくるめく色使いにカメラワーク、眩い映像美、赤や青で分けつつネオンや鏡を効果的に使った魅せ方、散らばった伏線の回収の仕方、女性たちが受ける搾取や抑圧も現代まで亡霊のように存在し続けているなどメッセージの伝え方などが見事。とにかく2人のWヒロイン主演女優がかわいくて、想像以上のホラー展開での表情も見ごたえあり、時代を超えた二人の絆にやられてしまった。

 

 

 

 

【第7位】「パワー・オブ・ザ・ドッグ」 

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ピアノ・レッスン」の名匠ジェーン・カンピオン監督の12年ぶりの新作、壮大なモンタナ牧場を営む兄弟という一見男らしさの象徴のような西部劇だが、その影で昨今のジェンダー問題の男性性に縛られる男性も描いていく社会派ミステリーとも読める。壮大な風景の迫力と雄大な音響、歪なピアノBGM、必要最低限のショットで常に漂う緊張感と不穏さを演出、聖書をベースに偏見や差別や共依存など普遍的なテーマも上手く取り入れている(タイトルもなるほど)。
主要4人の誰を主人公として見るかバランスの良い距離感で淡々と進み、セリフや説明が省かれるので俳優の表情や行間を読む力が必要、通向けだが上質で見応えありと確かにアカデミー好み(Netflix映画として念願の作品賞なるか)。個人的にはラスト含めある程度予想がつく展開だったけど、俳優陣が凄すぎてコディ・スミットはもちろん、カンバーバッチの微妙な心理描写や臭いたつエロさにくぎ付けだった。

 

 

 

 

【第6位】「サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ」 

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AmazonPrimeオリジナル作品で先に配信で見た人も「音」が主役の映画なのでこれは絶対に映画館で観るべき、主人公の主観(=聞こえない世界)と聞こえる世界の描き方が新鮮で、徐々に聞こえなくなっていく恐怖、ノイズを挟み聞こえない世界、まさに聴覚障がい者の人々の生活がよく分かる疑似体験映画としても素晴らしい。

ドキュメンタリーのごとく臨場感たっぷり、引き算の演出で間の取り方やセリフ、細かい動きから心情がしっかり伝わってくる。公園の滑り台と教会の鐘、二つの「メタル」の音の差も示唆的。そして何よりリズ・アーメッドの演技が繊細で素晴らしく、「諦めるじゃなくて受け入れる、その上で新たに人生を構築していく」悩み抜いた選択がもたらすラストショットの穏やかな静謐から聞こえるものとは。。

 

 

 

【第5位】「ファーザー」 

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続いて今作は「認知症」の疑似体験映画でもはや未知のホラーの世界、しっかりと認知症の性質を捉えた脚本に観る側を参加させたのが素晴らしい。とにかくアカデミー主演男優賞も納得のアンソニー・ホプキンズの表現力が自然すぎて逆に怖いくらい、観る側は何が起きているのか理解できず自分も認知症になったのかと錯覚しつつ、現実と幻想を行ったり来たり混乱したまま最後に全てを悟ることになる。
家族や支える側の努力もひしひしと伝わってきて介護する娘側の葛藤も凄く伝わってきた、現代の認知症とその当人・周りの人の抱く感情や問題にうまく両方から寄り添った映画。元は有名な舞台劇で観てはいないが、映像化したことで更にリアリティが伝わってきたのでは。
忘れてしまうことへの恐怖、誰もがその当事者になる可能性があり誰も悪くない中で、自分だったら・・と考えざるを得ないはず。

 



 

【第4位】「DUNE  デューン 砂の惑星 

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今年の映画館IMAX必須作品、映像から音響まで本当に壮大なのでIMAXで観るか観ないかで評価も変わる、過去からの背景含めとてつもない映画化のプレッシャーの中、さすが信頼のドゥニ・ヴィルヌーブ監督、期待以上の作品になっていた。砂の一粒まで美しい圧倒的な映像ビジュアルに重低音の鳴り響くサントラ、想像力を膨らませる壮大且つ緻密な生物や舞台の描写など、どこをとっても一級品のまさに大作と呼ぶに相応しい傑作。
CGありきでなく実写にもこだわりつつ最新の映像技術をもって完璧に別世界(まさに宇宙)に連れていかれたが、ティモシー・シャラメの美しさも別次元で負けていないのが凄い。続編ありきなのでストーリーはかなり淡々とゆったりとした展開で最終評価は続編次第だが、改めてこの物語が後の創作物に大きな影響を与えたことが実感できた(スター・ウォーズからナウシカまで)。

 

 

 

 

【第3位】「プロミシング・ヤング・ウーマン」 

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「蝶のように舞い蜂のように刺す」軽やかな笑顔の裏に狂気と悲しみを見事に体現したキャリー・マリガンのベストアクト、シリアスなテーマで重くなるところを事件の直接的な映像は見せずに、カラフルな色使いとポップな音楽(BoysやToxicの使い方)で描いた劇薬エンターテインメント作品。男の厭らしさの演出が巧み、全男性が同じではないが未だ一定数いるのも確かで傍観者も同じ罪、皮肉をたっぷり効かせた演出含めアカデミー脚本賞も納得。
復讐劇がヒートアップすればするほど、彼女のやり場のない怒りや想いが際立ってきて悲しさが増しテーマが突き刺さってくる、復讐の行き着く先にあるものとは?心に突き刺さるラスト。事なかれ主義や同調圧力で卑劣な行為を容認している社会に対しての告発、キャシーの戦いのバトンが我々に託されたようだ。

 

 

 

 

【第2位】「アメリカン・ユートピア」 

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音楽映画や元々デヴィッド・バーン好きもあるが、トーキング・ヘッズ時代の「ストップメイキングセンス」の完成度をそのまま現代風にアップデートした105分間の至上の総合芸術体験。元はブロードウェイのステージなので出来れば映画館で観て浴びて感じるのがベスト、全員がグレーで揃えた衣裳にシンプルな舞台、優しくて刺激的な演出の中、人生のように時間が流れて感情が揺さぶられる人間讃歌がただただ圧巻。
マーチングバンドを意識した編成、ワイヤレス演奏の意味、不思議な引き込まれるダンス、国籍や人種から選挙の投票率の話など真面目なメッセージとユーモアが程よく織り交ぜながら、普遍的で様々なことを問いかけてくる言葉にアメリカにとってのユートピアとは?考えさせられた。ハイライトのジャネール・モネイのカバーでの演出含めカメラワークなどスパイク・リー監督らしさが冴えわたっていたが、
何より69歳のおじさんが顔色ひとつ変えずに歌い踊りきる圧倒的な歌唱力と肺活量に感動、いつかあの空気感をあの場で一緒に共有したい。

 

 

 

 

【第1位】「ノマドランド」 

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「ホームレスではなくハウスレス」、働き方や住み方など想像以上に多様性に満ちたロードムービー、クロエ・ジャオ監督がアジア人女性初のアカデミー受賞作品。広大なアメリカの大自然の中のノマド生活、全体的に静寂が漂う中で淡々と話が進みエンタメ色は薄いので好みは分かれるだろう。空の白と青とグレーのグラデーションをはじめとした美しい映像美、演技も会話も自然でノマド生活のドキュメンタリーを見させてもらっている感覚になる。
主人公フランシス・マクドーマンドの圧巻の溶け込み演技
、現実味や芯の強さを感じさせつつ亡くした人をかかえて生きる苦しみと、その想いを置いて前に進んで行く姿など何を選んでどう生きるのか?、一人一人の静かなる人生賛歌として素晴らしい。現代の資本主義の限界を描きながら人間をどこまでも信じているような目線があたたかくて染みる「ホームはきっと心にある、"さよなら"ではなくて"またね"の人生」。

 

 

 

 

★【総括】

今年も新型コロナウイルスでいろいろと影響は受けたが、007やマーベルなど延期されていた大作映画も公開されたり(興行面ではいまいちだったか)、昨年よりはまだ映画館で鑑賞できる機会はあって素晴らしい映画に出会えたことに感謝。それでも昨年以上にNet配信の映画(NetflixやAmazonPrimeなど)を見ており、数も質も負けていないレベルだったと思う。一方でミニシアターの苦戦が続き、草分け的存在の「岩波ホール」や「アップリンク渋谷」など地方も含めると閉館が相次いでいるのが本当に残念でならない。
作品的には、昨年のアカデミー賞受賞作を中心にやはり良い作品が多く、音、ノマド認知症など体験映画として(1、2、5、6)、MeTooの流れを汲む未だに残る男女格差や女性搾取をえぐった(3、7、8、10、14)、ホモソーシャル・家長婦性への囚われ(7、13、20)、 大作映画として納得の面白さ(4、14、15)、中国新世代の台頭(2、9、12)などアジア映画の充実、安定のNetflixやAmazonPrime、A24ならではの作品(6、7、13、17)などが目立った。あと、日本映画が傑作ぞろいだった一方で、昨年は1、2位を占めた韓国映画が一本も入らなかったのは意外であり残念だった。

 

 

残念ながらベスト20から漏れた作品にも素晴らしいものが多かったので、以下に【次点】の5作品をあげておきます。2位も含め音楽・ドキュメンタリー映画に良い作品が多く、外国人監督が日本では描きづらい日本の問題テーマを扱った2作品も印象的だった。

 

 

【次点】「MONOS 猿と呼ばれし者たち」 

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コロンビア内戦の特殊な環境で兵士として訓練された少年少女が欲望・狂気のままにMONOS=サル化していく「蠅の王」+「地獄の黙示録」のような衝撃作で明らかに人を選ぶ作品。SF的でサバイバルアクション要素もありずっと緊迫感と不穏感が続き、雲海を望む山脈の絶景やジャングルなど異国の地の大自然の映像と音響がすさまじく、一緒に感覚が研ぎ澄まされ自分も野生化していくよう。
ファーストカットから世界観の示し方が上手く説明不足でも物語に没入できる、何を見せられてどこに連れて行かれるのか?演出が素晴らしい。コミュニティの成立から崩壊まで社会の縮図を見ているようで、彼らの年代ならではの世界の存在自体の純粋さと儚さと脆さが感じられ、価値観の違いと暴力性、人間性とは?を考えさせられた。
  

 

【次点】「MINAMATAーミナマター」 

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現地の大企業に隠蔽された事実、アメリカから真実を発信しようと様々な葛藤と戦う写真家ユージン・スミスの視点から水俣病を描いた作品。授業で習ったはずの水俣病、過去の終わったものではなく今も続いている根深い問題と改めて実感した、今作はアメリカ/イギリス製作だが日本製作ではここまで踏み込めないだろう、それでも賛否両論あり公開も問題視されるのが現実。

患者を撮影する危うさ、踏み入り過ぎない絶妙な距離感で動画ではない写真だから出来る表現、世界に発信された母子の入浴写真は恐ろしさや酷さと同時に生命の美しさも感じられ感情が揺さぶられる。控えめな役作りでジョニー・デップを忘れて観てられる存在感と演技はさすが(制作も務めている)、今作は多少のドラマ性もあり有名な俳優陣なので見やすかったが、同じく水俣病を扱ったドキュメンタリー、原一男監督の「水俣曼荼羅」(6時間)を見て本当の現実に打ちのめされるべき。

 

 

【次点】「ONODA  一万夜を超えて

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戦争が終わってもフィリピンのジャングルで生き延びて1974年に帰還した小野田寛郎さんの実話。存在は知っていたけど改めて体感すると戦争の虚しさ残酷さを突き付けられる。上官から自決するな・死ぬ権利はないとの命令で、終戦を認めようとせず30年も戦い続けたこと、その揺るぎない忠誠心や使命感を生ませる戦争というもの。彼にとって忠誠が信仰で戦争が神のような存在となり失うわけにはいかなかったのだろう。

俳優陣は遠藤雄弥や津田寛治の乗り移ったかのような熱演(見た目もそっくり)を含め全員が素晴らしい、役者は日本人だがフランス映画として中立的な描き方も良い、これが邦画として制作できないのが問題だろう。3時間の長さだがサバイバル術や滑稽さもあり不思議な人間心理に引き込まれる、いったい何と戦っていたのか?、現代からは想像の及ばない恐ろしい作品だが知るべき・観るべき。

 

 

【次点】「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放送されなかった時) 

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ウッドストックが開催された1969年の夏、アポロ11号の月面着率がテレビで話題になる一方で、放映されなかった黒人たちの音楽祭典のドキュメンタリー映画。50年間も地下に埋もれてた記録映像をThe Rootsのクエストラブが監督、レジェンドたちの名曲・名演はもちろん、当時の証言を交えながら黒人の歴史や文化まで政治的な側面からも現代に響かせている(まだ日の目を見ない隠れた歴史もあるはず)。
悲しみも怒りも乗り越えて立ち上げる強さ、己を信じ誇り高く信念があるからこそ、時代や人種を超えて伝わってくる。様々なジャンルの黒人音楽、スティービーワンダー19歳の天才ぶり、スライのカリスマ性、ニーナ・シモンのラストまで怒涛のブラック・パワー、音楽を浴びて感じて欲しい。

  

 

【次点】「チック、チック・・・ブーン! 

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「RENT レント」の脚本家ジョナサン・ラーソンの自伝ミュージカルの映画化、正直この方自体は良く知らなかったけど、この素晴らしい楽曲たちを生み出せたのも納得の生き方だった。題名の時限爆弾のように30歳手前の焦り、夢と現実の狭間でもがきあがいていて似たような経験を持つ人にとって何かしら共感ポイントがあるはず。
様々な曲と語りを織り交ぜることで舞台シーンと映画がシンクロして、全てがつながっていくような脚本が良い、秀逸な構成のミュージカル作品で、人生の意味を肯定してくれるような生き方が美しく感動を呼ぶ。もちろん楽曲自体も良いが、アンドリュー・ガーフィールドの豊かな表情での演技と圧巻の歌唱力、もっと評価されるべきで素晴らしかった。

   

 

 

 

※【2020年 洋画ベスト 一覧】 

ノマドランド

アメリカン・ユートピア

③ プロミシング・ヤング・ウーマン

④ DUNE デューン 砂の惑星

⑤ ファーザー

サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ

⑦ パワー・オブ・ザ・ドッグ

⑧ ラストナイト・イン・ソーホー

⑨ 少年の君

⑩ 17歳の瞳に映る世界

⑪ ボストン市庁舎

⑫ 春江水暖

ライトハウス

⑭ フリー・ガイ

⑮ ザ・スーサイド・スクワット 極悪党、集結

⑯ 最後の決闘裁判

⑰ ドント・ルック・アップ

⑱ マリグナント 狂暴な悪夢

⑲ アイダよ、何処へ?

⑳ アナザーラウンド

(次点)

〇 MONOS  猿と呼ばれし者たち

〇 MINAMATA-ミナマタ-

〇 ONODA 一万夜を超えて

〇 サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放送されなかった時)

〇 チック、チック・・・ブーン!