映画レビューでやす

年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

2023年 邦画ベスト

◆2023年もたくさんの映画を観てきました、映画館での新作はもちろん旧作・B級含めレンタルやネット配信(AmazonPrimeやNetflix含む)、テレビ放映など合わせてざっくり350本ほど、例年は500本レベルなので今年はかなり少なくなってしまった。映画館自体も過去一少なかったのは残念・反省。
そのうち2023年1月~12月公開の作品の中から、新作を中心に洋画・邦画に分けて独断と偏見で【ベスト20】を選んだので発表していきます(順位はその時の気分で変わるし、残念ながら見逃した作品もあるので見たら更新するかも?)。

 

ちなみに昨年2022年の邦画ベストはこんな感じでした、昨年は後半の追い込みで全体的にレベルが高かったですが・・・さて、今年はいかに?

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【第20位】「リバー 流れないでよ」 

脚本・上田誠、監督・山口淳太の劇団・ヨーロッパ企画お得意の定番タイムリープものだが、2分間を繰り返し続ける斬新な設定、毎回よくネタが尽きないと感心しながらそれでも一定の面白さを確保するのは凄い。全員が巻き込まれてその設定を共有していて全員がループ前の記憶は引き継がれるので、前作の「ドロステ」よりも分かりやすく誰もが心地よいほっこりした時間で楽しめるはず。

ひたすら2分間(実際の長回し?)の連続で飽きずに話が持つのか?との心配も何のその、効果的な見事な展開でアイディアの勝利、90分間の時間もテンポもちょうど良く低予算の独立系が成功するお手本のような作品。登場人物のキャラも良く役割がしっかりありそれぞれの思いでの行動に引き込まれていく。カメラワークも良く笑いあり恋ありの設定を活かした完成度の高いコントが続く感じでオチ着くまでエンタメ満載。

2分間のループで何をするか?で盛り上がるのが微笑ましく、普段は出来ないことに挑戦するのは良かった、どうせみんな忘れてしまうのだから失敗を恐れないのは現実でもメッセージとして響く・・止まったままにならないようにしなければ。

役者陣は劇団メンバーが多くキャラにもピッタリ、京都でのロケ・貴船が舞台だが温泉旅館(なんと主演の藤谷理子の実家)や階段や鳥居に雪のシーン含めみんな行きたくなる観光映画としては満点、次作のネタも楽しみにしてます。

 

 

 

 

【第19位】「アンダーカレント」

毎年必ずベストに入ってくる今泉力哉監督の伝説的漫画の実写化、突然失踪した夫の行方と謎の男との共同生活で浮かび上がっていくものとは?、嘘や矛盾を抱えて生きる人間の多面性をゆったりと淡々と描く。漫画の静謐さや穏やかさ、ロケーションや音と色の演出も見事、長回しや間の取り方はいつもの今泉印だが等身大のくすっと笑える会話劇は控えめで静かで重めの雰囲気。

原作のコミカルさをもっと入れても良かったと思うが新境地も悪くない、深層心理で深いところに潜っていき、多くを説明せず間で読み取る作品。真木よう子は凛としつつ憂いを帯びた表情で振り回される役は新鮮、瑛太井浦新コンビはさすが(福田村事件も)リリーフランキーの探偵キャラが良いフックになってた。

本音で語れない夫婦の喪失感、心の奥底にある何が本当で嘘なのか?ありのままの自分とは?人を分かるとはどういうことなのか? 自分も相手も全て理解できるなんて傲慢であり過去も未来も分からない、その瞬間を切り取った積み重なりだけ。一緒にいたいから一緒にいる、せめて知ろうとすることを止めないでおこう。オリジナルのラストも原作のその後に寄り添った人生賛歌で胸が熱くなった、近くの銭湯に行きたくなる。  

 

 

 

 

【第18位】「市子 

戸田彬弘監督自身が主宰する劇団の舞台劇の映画化、プロポーズした翌日に失踪した彼女を探す過程で多面的に伝えられる壮絶な過去とは? ずっと重くて辛いが実は世界の至る所で現実に起こっている問題として訴えかける作品になっていた、点が少しずつ繋がっていくミステリーとしても面白い。

子供は生まれる環境を選べない、不運と済ませていいのか救いは無いのか自分ならどうするのか?彼女の生きてきた時間を想像すると苦しいが大切に思ってくれた・愛してくれた人がいたその時は幸せだったと願いたい。ラストは委ねる系だが余韻が続いて「にじ」の鼻歌を歌ってしまった。

弱い悲劇な面だけでなく力強くしぶとい面まで演じきった杉咲花ちゃんが圧巻のベストアクト、笑っているようでずっと泣いているあまりにも自然で市子という存在そのものだった、いくつかは女優賞いけるはず。物語の進行役の若葉竜也も相変わらず素晴らしいが、子供たちの演技が若干残念だったかな。制度から零れ落ちた人たちが救われる社会になって欲しい。。

 

 

 

 

【第17位】「花腐し」 

荒井晴彦脚本・監督らしい昭和感あふれる哀愁漂う無骨な作品、同じ女を愛したダメ男二人の後悔話がダラダラと続くのだが語りからいろいろと分かってきて引き込まれる。古き良きピンク映画への憧憬と鎮魂歌、前作の「火口のふたり」につながる飯と生(性)と死、何もかも消費されて腐っていく心と映画の世界と男と女の関係に引き込まれる。

雨のシーンが多くしっとりと湿度は高めで煙草もくもく、R18の生々しい濡れ場も堂々と様々なシチュエーションでたっぷりエロい(いつものコンプラ上等)。落ちぶれた現在がモノクロで夢や希望のあった過去がカラーが逆に良かった。リアルな演出で自身が脚本した「Wの悲劇」の名ゼリフや映画ネタもありユーモアもあり。

中盤からラストは意外な展開で見る人によって解釈が違ってくるはずでエンドロールまで余韻が残る。鮮やかな過去と色あせた現在、どうしようもないクズな男を色気溢れる綾野剛柄本佑がm揺れ動く繊細さをさとうほなみが見事に演じていた。お互いに何を求めていたのか?あの頃には戻れない、腐ってしまわないよう水分や養分は重要。

 

 

 

 

【第16位】「窓ぎわのトットちゃん」

戦禍が子供たちの日常をジワジワと侵食していく、敢えて多くを語らない描かない演出、感動的になるところを子供の目線で訳も分からないまま突然日常が変わる恐ろしさ、ラストの疾走シーンにつながっていくのが素晴らしい。黒柳徹子さんがこれまでずっと拒否してきた映像化を許可しただけあって、90歳の戦争経験者からのメッセージをよく噛みしめたい。小さいころ読んでた記憶が思い出された。

傑作「この世界の片隅に」と同様に戦争を直接は描かず、当時をただ純粋に生きた子供の目線での景色を描くことでよりじわじわと日常の生活に侵食してくる戦争の残酷さが際立つ。富裕層ですら貧しくなっていく様、途中退場など説明を敢えてしないなど演出も良かった、背景やディテールの造り込みも見事(プールのシーンが良い)。温かみのある作画でファンタジー感もあり、アニメならではの表現がトットちゃんには合っていた、まっすぐな言葉や行動、彼女なりの心の言葉で戦い、心の中までは誰も奪えないと想像の世界で手を取り合うところにグッときた。声優陣もハマっていて素晴らしく、また本人のナレーションも意外と良かった。

戦前とは思えない素敵な学校トモエ学園(裕福だから通えた・自由な教育が成り立ったのもリアル)、あの時代に個性を伸ばす方針があるとは、小林校長の考え方含め全教員に見習うべき。最後まで話を聞く、最後までやらせてみることの徹底が素晴らしい、終盤の怒涛の畳みかけが辛かった、その後どうなったのかは気になる

 

 

 

 

 

【第15位】「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」 

やさしすぎて生きづらさを抱え苦悩する大学生たちのサークルが舞台の青春ドラマ、ぬいぐるみに話しかけるぬいサー。それを否定する人がいないのは設定だが、恋人や友達を作るキラキラを求めなくてもいい、いるだけで落ち着く場所は重要であり今まさに必要とされているのでは。優しすぎるが故に相手の気持ちが分かってしまい相談したりできずに抱え込んでしまう、全てを自分ごとにするのは息苦しく窒息してしまう悪循環。

傷つくことを前提に大多数が思う普通に身を委ねることが楽だと割り切る方が生きやすいはず、優しいところにいたら打たれ弱くなるのも事実で、打つ方が悪いのだが社会とはそういうもの。。刺さるセリフがたくさんあって多くの人に見てもらいたい。細田佳央太や駒井連も役にピッタリで、とにかくぬいぐるみのサークル部屋が可愛すぎた、ぬいぐるみのようにただ黙って聞いてくれる人にも光あれ。

自分と世界の見え方が違う人との関わり合い方、話すこと、聞くことの難しさや大切さ、優しさとは何ぞや(無関心?)を改めて考えさせられる。サークルで唯一中立で俯瞰していた白城の最後のセリフが響く、誰かと関わる以上、加害者にも被害者にもなる、たとえ全てを理解できなくても共に尊重し合うことが重要。現実から逃げろとも立ち向かえとも言う訳でもなく優しく包み込む物語なのでSNSや対人疲れの人に見て欲しい、自分は大雑把なので改めて意識しながら寄り添い繋がるための「対話」をしなきゃと。

 

 

 

 

【第14位】「キリエのうた」 

待望の岩井俊二作品ですずちゃんとアイナという好きが集まった岩井ワールドの集大成的な作品。故郷の仙台、東京、大阪と場所や時間を入れ替えながら(若干分かりにくいが)震災という長年取り組んできたテーマを真正面から描いていく覚悟と凄さ、3時間だが時代や3人の人生をそのまま見ているようであっという間の叙事詩だった。

アイナのためのアイナしか演じえない脚本で見事に演技含め応えていたのはさすが、とにかく歌の説得力、路上でも誰もが惹きつけられる唯一無二の歌声と存在感。重いメンヘラ的なのに儚く愛おしく思わせるキャラも凄い、あえての一人二役も意図は分かるが微妙なところもあったが。ルカの福音書や名の通りキリストのように表現した演出(重い十字架)、過去の自作ネタを意識的に盛り込んだのも楽しめた。変わらず変態性を隠そうともしないアイナの撮り方・構図・演出のこだわりよう、エロさはいいのだが、個人的には地震時の風呂場の下着シーンだけはどうしても必要性を感じられなくて受け付けず。

すずちゃんも衣装や髪色の七変化どれも似合ってさすがの美しさと安定感、松村北斗も予想以上に役にピッタリで苦しみ続ける後悔と弱さの表現と相変わらず声が良い、そして子役も素晴らしく教会での涙シーンは白眉。主題歌含めどの歌も小林武印で間違いなくカバー曲もアイナに合っていたが、演出とは言えきちんとキレイに聞かせてくれないのが音楽映画としては若干ノイズだった。

 

 

 

 

【第13位】「ゴジラ-1.0」

シン・ゴジラ」の後のプレッシャーに負けぬ王道のエンタメ映画として一級品で世界でも大ヒット(アメリカでは日本の実写映画で歴代一位)、日本生まれのザ怪獣を世界に改めて知らしめた成果は大きい。山崎貴監督作品は正直ほぼ合わないのだが今作は良かった、アカデミー賞視覚効果賞に初ノミネートされただけあってVFX特に海上でのシーンなどは素晴らしい出来で、今までの面目躍如、得体のしれないゴジラの恐怖と絶望感は見事。ハリウッドに憧れて積み重ねてきたVFXが安い予算でも本場を唸らせるほど評価されたのは感慨深い。

ヒューマンドラマ分が大きいが個人的にはもっとゴジラパートが見たい、恋愛・子供パートや特攻の表現、戦後トラウマの克服など脚本は薄くなりがちで、お得意のお涙頂戴・感動のためのご都合主義はやはり今一つ。役者は悪くはないが演出なのか過剰なくどいセリフやオーバーリアクションが気になった(海外では気にならないのだろうが)、浜辺美波の昭和顔感やサザエさん髪?は良かったが。

あとやはり「ほかげ」や「おきく」と比べると戦後の汚さや臭いが無さすぎる。とは言え万人に見やすくて迫力らんまんを楽しむには間違いなくベストに選ぶ人も多いだろう、世界に通じるエンタメコンテンツとして続編?も楽しみにしたい。

 

 

 

 

【第12位】「BLUE GIANT 

人気の傑作ジャズ漫画の映画化、漫画でも十分に頭の中で音楽が鳴っていたが、ジャズが好きなので実際どうなるのか心配と楽しみ半々で観た、上原ひろみが曲を書き一流ミュージシャンの演奏がとてつもなく本物のジャズで最高に説得力あり、後半からは本当のライブを見ているようで絶対に映画館で観るべき。ジャズ初心者でもそのカッコよさや青春スポ根ものに心奪われるはず。

王道のストーリー展開で(ちょっと駆け足なのは止む無しか)剥き出しの熱さや情熱に恥ずかしさも吹き飛ばされる、映画オリジナルのラストも良き。凡人の自分は初心者ドラムの頑張る凡人の玉田に感情移入、天才との狭間でダメ出しからの努力と結果が刺さる、ここまで一つのことに全身全霊を傾けられるのは羨ましくもあり、それでも誰もが成功するわけでもなく。
演奏中のアニメーションの演出も素晴らしく、色彩、アングル、躍動感、主役である音楽の一音一粒のきらめきや熱が伝わる表現(CGには賛否はあるだろうが)、音と映像の相乗効果に感動した。声優も山田祐貴もハマっていて間宮祥太朗岡山天音は気づかなかった。続編も楽しみにしつつ、先ずはとにかく、ブルーノートに行きたい!

 

 

 

 

【第11位】「愛にイナズマ」

石井裕也監督オリジナル脚本、滑稽で憎めない少し不器用な大人たちが人間味あふれていて喜怒哀楽むき出しで感情を揺さぶられる家族と愛と希望の物語。映画監督を目指すハナコが自分の作品が理不尽に奪われていくもどかしくムカつく前半と、家族の前では別人級に代わって言いたいことを叫ぶ激しい後半とのGAPも含め先の読めないストーリーで最後まで楽しめる。

消えた母親を映画にする軸を通して家族とぶつかりながら明かされていくネタと深まっていく家族愛、オチにまで愛だろ、愛。業界なり社会の「常識」として何事にも意味や理由を強いられるが、囚われるのは本質ではない、何かを決めるのに理由は必要なく心のままに生きる勇気が大事。嘘なく本音で話せる関係、カメラを向けられると演技をするがその演技はその人の真実を現すこと、見てくれるから強くもなれるのか。レンズ超しの再構築、家族を描くのは血でつながったゆえの葛藤や囚われの過去、自分の奥底を掘り出す苦しさだけど無かったことには出来ない。

松岡茉優は前半後半さすがの振り幅の演技で改めて上手いわ(キレ芸は随一)。窪田正孝池松壮亮若葉竜也佐藤浩市の家族陣の豪華さとハマった演技力がみんな素晴らしい、本気で嫌な奴にしか見えない三浦貴大MEGUMIも良かった。「ハグって存在の確認だろ」今ここにいることを実感しよう。

 

 

 

  

【第10位】「王国(あるいはその家について)」 

今年のインディーズ系枠は今作、あまりに実験的で挑戦的な作風だがその試みは上手く成功していると感じた。役者が役を獲得していく身体の変容とその朗読劇「密度の濃い時間に囚われた」サスペンス?、演劇の稽古のようでドキュメンタリーのようでもありフィクションがノンフィクションの中で進んでいくような新しい不思議な映画体験。

映画製作や役者を少しでもやったことがある人、特に濱口竜介監督が好きな人には堪らないはず。150分という長さもあり間違いなく万人受けはせず、ひたすら同じセリフのループに大抵の人は途中で飽きると思う。今作のほぼ9割を占めるのがリハーサル室で繰り返される3人の役者の脚本の読み合わせ、良く見ていくと2回目からはカメラの捉える人が変化したり、テンポや言い回しやテンションが少しずつ違っているのに気づく。毎回ニュアンスや声のトーン、表情のわずかな違いでの空気感が代わり、回を重ねるごとに演技の質も上がっていくのが分かり、映画の終わりも見えてくる。

シーンごとの声の変化も音として組み込まれていく、役者と役/キャラクターの間で揺れながら役に近づいていく(役者が消えていく)過程を楽しむ。オリジナル劇中劇の脚本も良く、一見難しそうだが印象的に出てくる「王国」のモチーフは共感する空間であり家、台風とその目、暗号回線、その王国を読み解くことが劇中劇のポイント、我々が想像で映像を補填する王国。こういう作品が出てくることに新しい映画のカタチ・映画の可能性や希望を感じた。

 

 

 

 

【第9位】「エゴイスト」 

原作者の自伝小説を松永大司監督が映画化、服を鎧のように着こなす青年と美しく健気な若者の真心と欲望と痛みが入り混じる関係、前半は生々しいベッドシーンが多く美しいゲイ映画かと思いきや後半からの展開がタイトル通り(利己主義者)ヤバくてぶっ刺さった。どこまでがエゴでどこからが愛なのか?、愛とは?エゴとは?についてじっくり考えさせられる。
他人が測るものでなく当人たちがどう受け取るか、自分が愛だと思っていても相手がそう思ってなければエゴでしかないし、エゴと分かって相手にしてあげたいことをやっても相手が愛だと思って幸せならそれで良いのでは・・愛は身勝手なものだから。梨を買うシーンだけでこの映画が伝わる凄さ、アップを多用したカットと絶妙な距離感、音楽BGMもほぼ無しでドキュメンタリーのような質感のリアルさ。

色気あふれる鈴木亮平の目線や仕草は演技を超えていた、コミュニティでの自然で楽しそうな感じや普段の生活がリアル(TOKYO MERと同じ人とは思えない、主演男優賞獲るべきだが役所広司が強すぎるか・・)、ゲイ役の多い宮沢氷魚の透き通るような純粋さと儚さ、難しい役を演じきった阿川佐和子もベストアクトの素晴らしさ。見終わって大切な人を改めて大切に思えた、思いや行動を与え与えられる相手がいることの幸せさを噛みしめて。

 

 

 

 

【第8位】「ほかげ 

塚本晋也監督5年ぶりの「野火」「斬、」に続く戦争3部作、待ってた映画ファンに応える出来。戦後の荒れ果てた混迷の中、戦争で未来を奪われ心に傷を負って生きる人たち、直接的な戦争描写はなく小さな個人視点から浮き彫りにしていく。エンタメ性や分かりやすいメッセージ性を省き生々しい傷跡を見せていく反戦映画。

心は死んでただ惰性で日々を送る、寡婦、売春、孤児、傷痍軍人などPTSDや後遺症もあり社会で守られてなかった人たち、生きてるのに死んでいる、終わったのに終わってない、苦しみから逃れるのはこの世から消える時なのか。「ゴジラ-0」のぬるい戦後描写とは比べ物にならない辛さ・汚さ、敢えて見せない演出、塚本作品ならではの不安にさせる音楽の使い方。役名がないのは他にも同じ苦しみを抱えた多くのオンナとコドモとオトコがいたからであろうか・・

ほかげ=火影=戦争の裏・闇であり、新しい希望の火の光であると祈りたい、戦後を生き抜くことは決して綺麗ごとでは無かった、ラストをどう捉えるか? 役者陣は、何と言っても趣里の素晴らしさ、死んだような前半から子供との交流で取り戻していく憑依演技が圧倒的だった(朝ドラとは別人、主演女優賞第一候補)、子役の塚尾くんの大人たちの死んだ目とは違った生命力あふれる目力も素晴らしかった。「戻って来れなかった兵隊さんは怖い人になれなかったんだよ」 

 

 

 

 

【第7位】「せかいのおきく

うーんこれはモノクロで良かった、江戸時代に排泄汲み取り業の二人の男と身分の違う元武家の娘の青春物語で時代劇とは違うかも、本当に予想以上にうんこだらけなので注意は必要、昔のぼっとん便所を思い出す(「PERFECT DAYS」が現代のトイレだけに)。これほど映像から臭いが感じられるのは凄いし、あえて前面に出して作って映画館で公開した阪本順治監督はさすが(糞映画であってクソ映画ではない)。

声を無くしても恋することで広がるせかい、汲み取り売買の単調な日々の循環するせかい(排泄物が肥料になり作物を食べまたその栄養に代わるサイクルはまさにSDGs)、まだ本当のせかいの意味を知らない若い3人の愚直でひたむきで純粋な関係がこれからのせかいでどうなっていくのか?。役割とは役を割ってそれぞれの役割を生きること、生きるとはうんこを出し続けること、魚眼レンズのラストもせかいが円環であることなのか・・汚いけど美しい。縦書きの冒頭ロール、一章ごとにカラーの1カットで締め、美しい構図とモノクロ、音楽も含め黒澤映画を感じさせる。

黒木華はさすがの演技で可愛すぎる、昭和の大女優さんみたいな美しさ、寛一郎(父親に似てきた)も池松壮亮も見事。仕事や身分に差別はあってはならないが、いつの時代も生きるのに欠かせない仕事を下に見てしまう人もいるのも事実、この仕事から抜け出してもがいて不況下で仕事も選べない現代にも残る問題でもあり(うんこ知新?)いまだにクソみたいな世の中は情けなし。

 

 

 

 

 

【第6位】「君たちはどう生きるか 

7年ぶり自分のやりたいように作れた宮崎ワールド満載の新感覚のアートフィルム、宮崎駿の心象風景を旅するような体験、ノスタルジーでありながら現実の人生を問い直される感覚。一見冒険活劇のようで見た一人一人の感性に問いかける神話、生と死の間、輪廻転生、世界の連鎖や循環、抽象的な表現も多くよく分からない人も多いのでは・・元から理解してもらうことは求めてないのだが。

のちにNHKで放送されたドキュメンタリーとセットで観るべき、天才たる所以と芸術家の狂気に圧倒され、今作がより響くので。また、公開初日まで情報を一切公開しない挑戦的な宣伝手法も結果を残した功績も大きい。過去のジブリ作品のネタも多く集大成であり、ジブリ王国との決別、全てのクリエイターに対するメッセージとして響く。13個の積み石は自分の過去作品でありギリギリのバランスを保ちつつ、それを崩して全く一から積上げていくのか?、崩れそうでもそのまま継続していくのか? 

鈴木(あおさぎ)に騙され支えあいながらも超えられない壁である高畑勲(大叔父)への嫉妬執着心を露わにしながら葛藤して解き放たれることを祈りつつ、俺のマネ・跡を追いかけず自分の想像で作り上げることを伝えつつ。時代で形を変えてく様々な愚かな人の悪意の中、虚構の世界ではなく生と死は隣り合わせの厳しい現実を生きていく、友だちを見つけること、自分で選択して決めていくこと。

 

 

 

 

【第5位】「福田村事件」 

ドキュメンタリー映画の雄・森達也監督の初の長編映画、100年前の1923年の関東大震災の混乱の中で実際に起こった日本人による日本人への虐殺事件を映画化、タブーとされた歴史の闇を明らかにした、この時期にこの題材を作る意味はさすがのらしい衝撃作。分かっていても胸糞MAXで相当喰らうので覚悟は必要、後半の福田村の人々が洗脳されたようにヒートアップしていく畳み掛けはもうどうしようもなく、映画を見ている自分も観てるだけで何もできないし怒りや悲しみの矛先が無いのが本当に辛い。

プロパガンダによる洗脳、差別をタブーとして区別に代わり同調圧力で正義すら馬鹿にされ、噂レベルでの判断から集団心理に向かう怖さ、都合によって国のせいにしてお偉いさんは何もせず、個人も流されてしまう。戦争含め歴史から何も学ばずに現代も変わってないのが更に辛い、SNSでの誹謗中傷など形が変わっただけ。そして様々な問題に対してただの傍観者でいることの罪も問われている・・自分もその場にいたらどうしたのか? 

136分あるが事件に至るまでを個人レベルの事件に絡ませる見せ方や伏線など脚本も良くラストに結集していく、ただ一部冗長的なところも歪めなく特に荒井晴彦らしい脚本を入れたことで男女の性や主張が濃すぎるところもあり。初監督なのでベテランの支援・作品の担保は必要だったとは思うが、ぜひ次作は一人だけで完結した作品を見てみたい。役者陣もこのテーマに出るだけの覚悟あってみな熱演、ルサンチマンの塊・水道橋博士も段々とハマっていったし、東出はこういう役はピカ一。この事件がなぜ長い間封印されていたのか?先ずは事実を知る一歩として今作を良い機会になったのでは。

 

 

 

 

【第4位】「正欲」 

社会や物の見方・視点はさすがの朝井リョウ原作、映像化が難しい題材を見事に岸善幸監督が映画化、多様性がもてはやされる中、その多様性からも排斥される人に焦点を当てた作品。正直自分の想像できる範疇を超えていて、当事者じゃないと分からない葛藤を見てる間もその後も喰らってずっと考えさせられている。

自分が普通と思っていることをあり得ないと否定し世間の価値観を押し付けてくる残酷さ、多様性って言ってれば安心できると思うなよ、理解されないと怖い思いしながらひっそり生きざるを得ない人(明日生きたくない人)が確かにいるのだ(ただ他の人を傷つけるのは絶対ダメ)。展開も全く読めずずっと引き込まれて衝撃が重なっていく、ラストシーンも切れ味抜群でメッセージも強烈で皮肉で終わらないように。

マイノリティ、普通、本当の意味で理解してくれる人、いなくならないでねと言えるほど大事な人と出会えることは奇跡でありとても幸せなこと、改めて感謝の気持ちを送りたい。俳優陣も素晴らしい、あえて挑戦したガッキーも一皮むけたのでは・・死んだ目で別人のよう、今作でも磯村勇斗は言うまでもなく素晴らしく、稲垣吾郎もこういう正論頭でっかちの役はピッタリ、教室での告白シーンには圧巻だった東野絢香はこれから注目。自分の感情は自分のものであってはならない感情などこの世にはない、どんな人であってもこの映画が味方してくれるはず。

 

 

 

 

【第3位】「月」 

今年一番の大問題作、相模原の障害者施設で起きた元職員による大量殺人事件をモチーフにした原作小説を石井裕也監督が映画化、実際や小説とは設定も変えられていて(宮沢りえの役は登場しない)、社会の暗部や人間の現実をまざまざと見せつけられた。作る意義・見る意義はあるが、とにかく重い・暗いので相当の覚悟が必要だし評価もしづらい。公開まで相当な苦労があっただろうが、スターサンズ河村プロデューサーの最期の作品としても見逃せない。

犯行前の口論シーンがどちらともに共感できてしまうのが本当に辛くて難しい、見ている自分自身が責められているような綺麗事じゃ何も片づけられなくて見ているだけじゃ何も出来なくて本音を抉られて怖くてたまらなった・・洋子と同じく認めないとしか返せないかも。意思疎通の出来ない方のお世話を毎日毎日、理屈では上手くいかない想像を絶する時間、割り切れればいいのか真摯に考えて向き合うほど壊れてしまうのも分かる。

画面が暗すぎるのと施設が怖すぎる、負のカットのホラーチックな演出は敢えてだろうが少し抑えても良かったかな。俳優陣は出演承諾しただけに覚悟の熱演、磯村勇斗はこの役に向き合った精神力・役者魂が本当に凄い(助演男優賞は総なめだろう)。二階堂ふみも困難な役に見事に憑依していた(こちらも助演女優賞いけるはず)。不要なものと決めつけ無かったことにする・・どんな理不尽や怒りがあろうとその線引き含め向き合っていかねば。あなたは心がありますか?

 

 

 

 

【第2位】「怪物」 

メッセージ性は強いけど是枝監督作品として一番エンタメ、坂元裕二脚本の影響が大きく、様々な登場人物の視点から物語の裏にある真実が徐々に明らかになっていく「羅生門」スタイルの展開でいろんな違和感や伏線が解消されてく脚本賞も納得で最後まで面白かった。巨匠とも言える安定度と完成度、細かい演出やセリフやカットの意味深さ、視点によってコロコロ変わる悪、観客の想像力を掻き立てる見応えのある作品、最後となった坂本龍一の音楽も五感に染み渡る。

悪気のない悪、個人や価値観や偏見、ゆがんだ正義感や同調圧力、視点を変えれば誰もが怪物になりうるし、観ている自分も怪物だったと実感させられるはず(本当の意味での怪物は父親だけだろうが)。子供二人のクィア(そもそもこの年代での決めつけは危険)が主題ではなく、母親と担任と校長(学校)と子供たちの4つの視点のレイヤーが順番に進んでいき、それぞれは明らかに違う世界が見えている驚き(彼らにとっての真実)から終盤で重なり合ったレイヤーを俯瞰するというミステリーとしても圧巻だった。そしてたどり着くラストシーンの素晴らしさ、観客の想像に委ねられるがどう捉えても成り立つ作りがまた凄い。

さすが是枝印のメインの子役二人が完璧にハマっていて自然体の演技が見事だった(今回はシナリオを渡していたのも正解だったのでは)、安藤サクラのモンペの安定感に瑛太のやるせなさ、田中裕子の最期まで善人とも悪人とも底の見えない虚無のやばさが強烈。「誰かにしか手に入らないものは幸せとは言わない、だれでも手に入るものを幸せというの」

 

 

 

 

【第1位】「PERFECT DAYS」 

12月最終の公開のためギリギリ滑り込みでの傑作、ヴェンダース監督作品なので邦画の括りでいいのか迷うところだが(対外的にも邦画扱い)。トイレ清掃員の起きてから寝るまでの毎日の変わらないルーティンをしみじみと丁寧に描く、特別大きな展開や出来事はないのでエンタメ性はない、視聴する年齢や経験によっても感じ方が大きく変わる作品。

主人公・平山は無口だが不器用でもなくコミュニケーションは取れていて、慈愛に満ちていて日々の小さな幸せを見つけて噛みしめるしなやかな生き方を持っている。一見何も変わらない日常の繰り返しだが、毎日写真に収める木漏れ日と同じように全く同じ画になることはない、必ずどこかに小さい変化はあり、そのわずかな変化の美しさが日々を彩り愛おしくてたまらなくなる。見終わって外に出て木漏れ日を眺めるとなんて豊かで素晴らしい世界なのか、日常の大切さを改めて実感させてくれた。
今の東京を切り取った映像も美しく、日常の営みを光・音・画角など自在に操って切り取った手腕は圧巻で、カセットテープで聞く音楽も音楽映画も多い監督のさすがのセンスが良すぎて最高。今作はほぼ主演の役所広司の演技がすべてと言っても良い、日本初のカンヌ主演男優賞は言うまでもなく、ほとんど話さない演技、平山そのものでしかない。空気感・表情・些細な所作一つ一つがセリフ以上の情報を与えてくれる、ラストの長回しの表情の雄弁さは圧巻、今年の各主演男優賞は総なめしかない。仕事や生活に追われたりSNS疲れの人たちにこそ見て欲しい、自分の気持ちに正直に寄り添った等身大の幸せを大事にしたくなるはず。外に出て空を見て微笑み、一日の眠りにつく時に今日もいい日だったと思えるように過ごしたい、日々の尊さに感謝「今度は今度、今は今」

  

 

 

★【総括】

今年は日本映画ここにあり、世界での評価がより進んだ、アカデミー賞では視覚効果賞に「ゴジラ-1.0」、長編アニメ映画賞に「君たちはどう生きるか」、国際長編映画賞に「PERFECT DAYS」がノミネートを果たし、カンヌでは「怪物」や「PERFECT DAYS」が受賞している。

国内興行収入では前年比で総人員102.3%、収入103.9%とコロナ禍から回復した昨年を上回る好調さ、うち邦画67%、洋画33%といまだ邦高洋低の傾向は続いている。1位は昨年からのロングラン「THE FIRST SLAM DUNK」158.78億、2位は安定の強さ「名探偵コナン黒鉄の魚影」138.8億、3位に復活の宣伝無し「君たちはどう生きるか」と上位3作品は3年連続でアニメーションが独占とまずますアニメ王国になっている。実写では昨年に続き大作シリーズ「キングダム運命の炎」56.0億、まだ公開中で世界でも伸ばし続けている「ゴジラ-1.0」56.0億、人気テレビドラマの劇場版「ミステリと言う勿れ」48.0億、「TOKYO MER」45.3億とシリーズ定番が強かった。 

特徴的だったのはなぜか11月以降、戦中・戦後を描く作品が立て続けに公開されたこと・・ゴジラ、鬼太郎誕生、ほかげ、せかいのおきく、あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら いずれも時代やアプローチは違うがヒット・注目されたのは意味があるのでは(あの花の若者へのヒットは良くも悪くも考えさせられるが)。

また同じく秋から年末に実際の事件をモチーフにした「福田村事件」「月」、ちまたの多様性や見て見ぬふりの問題に活を入れる「正欲」「市子」など社会的なテーマを扱った作品が公開、どれも高評価を得たのが印象深い。娯楽作だけでなくこれだけテーマや描写で攻めた作品が、口コミなどの熱が広がってちゃんと話題となりヒットしたのも良かった、企画・スタッフ・キャストと今後も文化として根付いていって欲しい。

 

一方で自分のベストだが、今年は「怪物」で決まりかと思いきや12月終わりにに「PERFECT DAYS」が飛び込んできて最後まで悩んだ結果、シンプルで温かい気持ちが続いている最近の方となった。ヴェンダース監督は大好きだけど最初は短編企画で始まった映画が、結果的に自由さ気楽さもあったのか初期の原点に戻ったかのような傑作となったのが嬉しい限り。

改めて月と福田村はコンプラや忖度、同調圧力を超えてよく切り込んで公開できたなあと思う、問題作に取り組み闘ってヒットさせてきたスターサンズの河村社長が亡くなったのが残念だが、その意思を継いでこういう作品を世に出して言って欲しい。ゴジラは日本の技術やコンテンツが世界に十分に通じることを証明してくれて、昔の王道ハリウッド大作映画のように受けたのが感慨深い(分かりやすいエンタメ感も大事)、これを機に一気に攻勢をかけたいところ・・日本の政府の後押しは期待できないけど。

一方で王国みたいな新しい視点・映画の枠を超えた作品があり、宮崎駿監督の理解を求めない狂気の作家性のパワーに引き込まれた。ゼロから1を作り上げるオリジナル原作、まさに命をかけて生み出しているすべての芸術家・作家に尊敬と感謝を捧げたい、自由や権利が守られ穏やかに見守っていける世の中になりますように。

 

 

 

 残念ながらベスト20から漏れた作品にも素晴らしいものが多かったので、以下に【次点】の5作品をあげておきます。

 

【次点】「春画先生」 

独特の不思議な世界観、春画(R15だが初の無修正公開)の研究者を中心に嫉妬や性癖も交え溺れていく四角関係?愛憎劇の偏愛官能コメディ、ベテラン・塩田明彦監督ワールド満載のオリジナル怪作。映画が変態性をまといながら春画化していくという後半のぶっとび展開含め良くも悪くも焦点があやふやで当然万人受けは絶対にしない。春画自体は思ったより出てこないのでそれ目的?の人には少し退屈かも。

谷崎潤一郎江戸川乱歩っぽい文学作品の感じ、みんな変人・変態だけど真面目なだけに俯瞰で見るとすごくシュールで笑えて来る。惹かれ合っていても春画を介した男女関係、絶妙な隠され具合に興味が掻き立てられ、隠されたものを暴くべく奥へ奥へ進んでいき、お互いの心も暴かれていく、一枚の絵に込められた物語や作者の思いやこだわりを知ると更に面白い。

良くも悪くも日本の性・エロはおおらかで笑えるもの、少しずつ失われつつあるのはやはり寂しい。体当たりの役者陣は内野聖陽の渋さ・色気、偏屈な柄本佑安達祐実のフェロモンも良し、喜怒哀楽全開で演じたヒロインの北香那は今後も注目。ラストのセリフ「感性を磨き思い込みから解放されよ、精神と肉体を解き放て、幸福とはその先にあるもの」

  

 

 

【次点】「ほつれる」 

前作「わたし達はおとな」に続き劇団・加藤拓也監督によるリアルにこだわった恋愛映画というか不倫の行方、静かに淡々と進みつつ感情的に壊れかけた夫婦の張り詰めた緊張感に引き込まれる。いやーな感じが本当にあるあるでカップルで観るのは進めない、こんなん結婚したくなくなるはず、完全に心がないのでここまでならさっさと離婚すればと思うが、高給取りの旦那の元での専業主婦もあり金の踏ん切りもあるのか。

長回しの会話、自分を守るための嘘のつき方、言葉の出てこなさやタイミング、言葉に出してしまうと嘘くさくなる感じ、一度ほつれた糸は戻せないのか。男と女それぞれの嫌な会話のリアリティが凄すぎる、旦那がとにかくねちっこく自己正当化論理ばかりの際立ちでキモくてたまらないが、少し自分の身にも覚えがあって苦しいところもあり・・この監督は前作と言い自己中理屈男が得意なのか。

画面が4:3での窮屈感、カメラワークも照明もセンスあり乾いた感じ、音楽も機械の動く音のような不穏で不安定な感じ、エンドロールの無音も良き。役者陣はみんな自然体で知り合いを傍で見ているよう、門脇麦はあの子は貴族の時と同様少し金持ち役が似合う、冒頭の染谷将太の魅力、とにかく不快感・嫌悪感たっぷりの田村健太郎のハマり具合と実際にいるいる感じの存在感が際立っていた。  

 

 

【次点】「少女は卒業しない」 

今年の青春映画はこれ、前作「カランコエの花」が傑作だった中川駿監督の長編デビュー作、取り壊しの決まった校舎で4人の高校3年の女子高生の卒業式前日と当日を描いた群像劇。原作がこれまた朝井リョウなので淡々と進みつつも前半のセリフや伏線からの後半の展開が見事(何となく読めてしまうが)。

4人それぞれのキャラの分け方も良く、抱えた悩みや友人恋人関係などリアルな会話で、特に卒業式のわいわいムードが苦手な人は共感できるはず、みんながキレイに迎えるわけでない地獄のアディショナルタイム、でも今作を見て少しだけ勇気をもらえるかもしれない。人はみな日常生活を演じてるが、特に思春期は過剰になりがちで楽しく謳歌している人がいる一方で地獄のように感じている人もいるが、何かしら後悔や思い残しがあって、いずれにせよ卒業が終わりであり始まりでもあり、ケリを付けて一歩踏み出して大人になるのはみんな同じ。

役者陣は出演作外れ無しの最強若手・河合優美に売り出し中の若手が多かったが自然体でリアルで良かった。改めてあの頃は学校が全て世界だった、この狭い空間に多くの人生が詰まっていてかけがえのない時間だと思わされる、卒業前二日間だけでこれだけ良い作品になるのだから。卒業しないでまだまだ学生生活を続けられたら・・と振り返られるだけでも幸せだったのかな。  

  

 

 

【次点】「雑魚どもよ、大志を抱け! 

脚本家でもある足立紳監督らしい笑いと優しさあふれる青春映画、家庭環境に問題のある田舎の小学生4人組の和製スタンドバイミー。ストーリーは王道で2時間20分と長めだが、それぞれのキャラ立ちも見事でモデルガン少年やカツアゲ伝説先輩の面白さ、昨年の「SABAKAN」と似た設定で、昭和の田舎の誰かの少年時代に戻れる見終わってハートフルな気持ちになる。イタズラの度が過ぎる感はあるが(生き物・猫好きは注意)、クソガキとしてエネルギーの余ったふざけた日常での遊びはリアル。

主人公は普通の家庭だが他は家庭問題ありで追い込まれて自ら解決していくことで人生の辛さを知り大人になっていく。親みたいにはなりたくない、、普通に生きたいことに憧れて普通であることがどれだけ幸せなのか。子供にとっては学校と友達が全ての世界、友情、裏切り、素直になれない勇気を出せない様々な苦悩や葛藤が染みてくる。少年たちの初々しい自然体の演技も良く、主人公と親友の隆造のDV後の本音をぶつけ合うシーンなど素晴らしかった。

 

 

 

【次点】「鬼太郎誕生  ゲゲゲの謎」 

よくある映画化とスルーの予定だったが、余りの口コミ評判が気になって見たら完全に大人向け、鬼太郎誕生前夜のオリジンを描いたダークホラーミステリーで面白かった。人間だった頃の目玉おやじと水木という二人の男が邪悪な一族と対峙する話だが(鬼太郎や妖怪はあまり出てこない)、キャラ設定も魅力的でリアリストと浮世離れ人の正反対ながら底では傷を負ったもの同士共鳴して徐々に仲が深まっていく王道のバディものとして完成度が高い。

オリジナルなので初見でも楽しめるし、犬神家の一族など横溝正史作品を彷彿とさせるミステリー展開にPG12だけあってグロテスクな描写に精神的にも絶望を味わさせてくる。妖怪より人間の方が断然怖いという胸糞おぞましさ注意、とは言え世界観は崩さず原作へのリスペクトも感じられる満足の作品(墓場鬼太郎の予備知識があるとより楽しめる)。そして戦中から戦後の日本の反映、戦争の理不尽さや排他的選民思想、不条理な世界ながら人を愛することの素晴らしさが響く。実写のようなカメラワークや演出、作画の美しさも見事で真っ赤な血桜や戦闘シーンなど迫力見ごたえあり、低予算のアニメとしてお手本となるはず。「そんなもんかよ、つまんねえな」「目で見ようとするから見えない、片方の目くらいがちょうどいい・・」  

 

 

 

【次点】「Winny 

記事公開後に鑑賞して印象深かったので追加、もう20年も前になるのか世間を騒がせたWinnyのソフトウエア開発者である金子勇、東大で教鞭もとっていた不世出の天才が不当逮捕されて、世のプログラマーたちのために闘い、全力で自身の無罪を勝ちとろうとする物語。リアルな裁判シーン含めドキュメンタリーのようだがエンタメ映画としても面白い、相棒である壇弁護士と共に容疑者でありながら名探偵となるバディ物、ソフトウェアは手段か?目的か?、第三者が正しく利用すれば世界は良くなり、悪用すれば悪くなる、それだけのこと。包丁で刺した人の逮捕は当然だが包丁を作った人が逮捕されていいのか?

プログラミングは先ずはいったん完成公開させバグを修正し続ける破壊と再生のサイクルをほぼ無限に繰り返す芸術、Winnyが持つ脆弱性に対処すべく「あと2行コードを書き換えるだけで…」のセリフに彼の目的や慧眼と修正させなかった国家権力の愚かさが滲み出ている。 最初に違法アップロードの悪用があるが、終盤で逆に警察の犯罪を告発する目的など社会に役立つ例も出てくる皮肉、国家が逮捕して止めてまで防ぎたかった理由とは?

結局、無罪まで7年かかり大天才の可能性を無駄にし、その半年後42歳で亡くなるという大打撃、日本がネット世界で頂点を取れていたかもしれないのに・・彼が守りたかった技術開発者の生き様を応援してやること、恐れず大胆なチャレンジを見守り失速させないこと、この悲劇を繰り返さぬよう金子勇を忘れずにその意思を受け継ぐこと、一緒に両手を拡げ、勇気をもって翼を深く強くバンクしよう! 人間臭くて純粋な主人公に東出昌大が見事に成りきって、相棒弁護士の三浦貴大と共にこの映画への強い情熱・思いが伝わってきた。

  

 

 

 

※【2023年 邦画ベスト 一覧】 

① PERFECT DAYS

② 怪物

③ 月

④ 正欲

⑤ 福田村事件

君たちはどう生きるか

⑦ せかいのおきく

⑧ ほかげ

⑨ エゴイスト

⑩ 王国(あるいはその家について)

⑪ 愛にイナズマ

BLUE GIANT

ゴジラ-1.0

⑭ キリエのうた

⑮ ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい

⑯ 窓ぎわのトットちゃん

⑰ 花腐し

⑱ 市子

⑲ アンダーカレント

⑳ リバー、流れないでよ

 

(次点)

春画先生

〇 ほつれる

〇 少女は卒業しない

〇 雑魚どもよ、大志を抱け!

〇 鬼太郎誕生、ゲゲゲの謎

Winny

 

※【2023年 邦画 個人賞】 

【主演男優賞】

1.役所広司「PERFECT DAYS」「ファミリア」「銀河鉄道の父」

2.鈴木亮平「エゴイスト」「TOKYO MER」

3.内野聖陽春画先生」

  光石研「逃げ切れた夢」

さすがに今作の役所広司はちょっとレベルと次元が違うのでダントツの一位で異論ないはず、本場アカデミー賞でもいつか獲って欲しい。鈴木亮平も本当に素晴らしく普段なら一位レベルだったと思う、内野聖陽の色気と渋さ、光石研のあてがきハマりっぷりはさすがだった。

 

【主演女優賞】

1.趣里「ほかげ」「零落」

2.杉咲花「市子」「法廷遊戯」「大名倒産」

3.黒木華「せかいのおきく」「キリエのうた」「ヴィレッジ」

  菊地凛子「658km、陽子の旅」

最後まで迷ったので同率一位でも良いが作品全体と今年の顔(朝ドラとのGAP)として趣里にした。杉咲花も繊細ながら意思の強さ逞しさを秘めた演技は今作で一段ステージが上がったのでは、黒木華のモノクロに映える可愛さ、菊地凛子のコミュ障極まり具合も見事だった。

 

助演男優賞

1.磯村勇斗「月」「正欲」「渇水」「最後まで行く」「波紋」「東京リベンジャーズ2」

2.永山瑛太「怪物」「福田村事件」「アンダーカレント」

3.佐藤浩市「愛にイナズマ」「せかいのおきく」「春に散る」「ファミリア」

  水道橋博士「福田村事件」

今年はやはり圧倒的に磯村勇斗の年だった、誰もが躊躇するテーマや作品に積極的に取り組んできて、これだけ幅広く演じ切ったのは驚愕。瑛太も難しい2作品での演じ切りはもっと評価されるべき、佐藤浩市の年ならではの安心安定感、水道橋博士の上手くはないが必須の存在感も良かった。

 

助演女優賞

1.二階堂ふみ「月」「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて」

2.阿川佐和子「エゴイスト」

3.田中裕子「怪物」

  さとうほなみ「花腐し」

施設職員の同僚として日常の介護作業、事件の発生までの関りを通して揺れ動く心境を巧みに演じた二階堂ふみが一位、役への相当な覚悟は報われるべき。阿川佐和子は主人公の人生観に大きな影響を与える役を自然体で演じた、田中裕子はまさに怪物だったし、さとうほなみは脱ぎの極み乙女はピカ一。

 

【新人賞】

1.アイナジエンド「キリエのうた」

2.塚尾桜雅「ほかげ」

3.黒川想矢「怪物」

  柊陽太「怪物」

あてがきのようにアイナでしか成り立たない作品として圧倒的な歌と2役を演じた表現力は天性のプロミスザスター、役者としても更なる飛躍を期待。2位は8歳の塚尾桜雅で死んだ目をした大人たちとは対照的な力強い眼差しに撃ち抜かれた、怪物コンビの二人も難しい役を繊細かつ胸を打つ演技で唯一無二の存在感だった。あとは、「正欲」の東野綾香、「渇水」の山崎七海もこれから期待できる良さがあった。

 

【監督賞】

1.石井裕也「月」「愛にイナズマ」

2.ヴィム・ヴェンダース「PERFECT DAYS」

3.是枝裕和「怪物」

  森達也「福田村事件」

石井監督は忖度なしで諦めずに表現と戦った「月」とオリジナリティあふれる「イナズマ」とテイストの全く違う対照的な2作品において脚本も演出も見事だった。日本大好き・小津を敬愛するヴェンダースは今の日本を切り取って日々の幸せを思い出させてくれた、是枝監督は坂元脚本を高次元で映像作品化、森監督も劇映画への初挑戦と次作への期待を込めて。

 

脚本賞

1.坂元裕二「怪物」

2.阪本順治「せかいのおきく」

3.荒井晴彦佐伯俊道、井上淳一「福田村事件」

  石井裕也「月」「愛にイナズマ」

怪物はたった1人の孤独な人のために書いたという3つの視点での羅生門形式での緻密な構造・セリフ・ラストまでのつながりは繰り返し見て改めてその完成度に驚く。阪本監督30作目で初の自身での脚本は時代劇ながらまさに今のテーマも描く新境地、福田村事件は個人の積み重ねから事件が起きるまでの構成が見事、石井監督の2作品は共に監督もこなして言わずもがもな。。