映画レビューでやす

年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

2021年 邦画ベスト

◆2021年もたくさんの映画を観てきました、映画館での新作はもちろん旧作・B級含めレンタルやネット配信(AmazonPrimeやNetflix含む)、テレビ放映など合わせてざっくり520本ほど。

そのうち2021年1月~12月公開の作品の中から、洋画・邦画に分けて独断と偏見で【ベスト20】を選んだので発表していきます(順位はその時の気分で変わるし、残念ながら見逃した作品もあるので見たら更新するかも?)。

 

ちなみに昨年2020年の邦画ベストはこんな感じでした。・・さて、今年はいかに?

 

 

 

 

 

【第20位】「護られなかった者たちへ」

f:id:yasutai2:20220111210348p:plain

震災後の生活保護の不正受給と受給拒否の社会問題をエンターテイメントに落とし込んでいる良作、瀬々監督がこの時代を描き切った渾身の社会派ドラマ。内容を詰め込みすぎたせいで駆け足気味でミステリーとして見ると少し肩透かしかも、そして瀬々監督らしく途中まで良くて後半からラストが今一つなのは毎度のこと。重くて辛い内容だが震災後の生活保護の実態の現実を伝えるきっかけとしては十分で観るべき作品。
俳優陣は佐藤健も良かったが、やはり清原果耶のモネとは違った演技が素晴らしく助演女優賞いけるはず。コロナになって孤独になり生きる為に必死な状況が増えている中、目の前に助けるべき人がいて口先だけでなく、本当に助けることができるのだろうかと問う、「護る」とは? 

 

 

 

 

【第19位】「子供はわかってあげない 

f:id:yasutai2:20220111212036p:plain

女子高生が幼い頃に別れた実の父親に会いに行く傑作マンガの映画化、家族愛や親子愛、甘酸っぱい恋愛などまさに青春の一ページ、一生残るひと夏の思い出が瑞々しく描かれる。沖田監督らしい空気感で、日常の中にある小さなユーモアやオフビートな人間模様を描写するセリフ回し、紡がれるシーンの一つ一つにクスっとさせられる細かい演出が冴え渡る、ラストの屋上での告白のシーンは誰もが胸キュンするはず。
俳優陣は上白石萌歌の純粋無垢な感じ、少女と大人の間を揺れ動く可愛すぎるルックスと成長の変化が素晴らしい、そして豊川悦司の元教祖の絶妙すぎるお父さんのハマり具合、登場人物全てが愛すべきキャラクターで悪い人が一切いない設定と、そのキャラクターを俳優から引き出す手腕もさすが。

 

 

 

 

【第18位】「まともじゃないのは君も一緒 

f:id:yasutai2:20220111212108j:plain

大好きな清原果耶ちゃん目当てで気軽に見たら予想以上に良かった恋愛手前の会話劇コメディ。とにかく主演2人の自然体で漫才のような掛け合いがテンポ良くクスッと笑いながらラストまであっという間でほっこり爽やか気分間違いなし。今年も活躍した成田凌のいい感じの気持ち悪さ変人ぶりと、また違った清原果耶のコメディエンヌぶりが見事で本当に何でもこなせて上手すぎて末恐ろしい。。
二人は確かに一見変わっているように見えるけど、改めると「まとも」って何が普通で何が普通じゃないのか考させられる。個人的で価値観の違う者が共存している中、誰も否定せずにあらゆる人を肯定することが「まともで普通」なことだと胸を張って言える世の中になって欲しい。

 

 

 

 

【第17位】「BLUE  ブルー」 

f:id:yasutai2:20220111211934p:plain

毎年傑作が続くボクシング映画だが、今年は吉田監督のオリジナルの今作にノックアウトされた。三者三様の生き様を挑戦者側である青コーナーの目線から描くことで新たな側面が浮かび上がる構造が面白く、青春の葛藤が丁寧に描かれていて、切れ味抜群のラストシーンまで爽やかに駆け抜ける。俳優陣は松山ケンイチは言わずもがな東出昌大も役にハマるとやはり素晴らしい。
上手くいかない自分への苛立ちや隠しきれない相手への嫉妬心、夢は夢で持ち続けるための人生への折り合いの付け方に誰もが共感できるはず。人生生きてれば負けることは誰にでもある、その中で誰かを笑顔にしたり勇気づけたり、戦い続けることの強さ・尊さに心動かされる、明日の自分を立ち上がらせる作品。

 

 

 

  

【第16位】「いとみち」 

f:id:yasutai2:20220113211400p:plain

津軽弁と三味線とメイドカフェ、一見アンバランスなこの組み合わせで、青森出身の横浜聡子監督と駒井蓮を主役とした青森愛溢れる青春映画。津軽弁ガールの「いと」と周りの人達との飾り気のない素朴なあたたかさが胸にゆっくりと沁み込んでいく、主人公の成長や家族愛・郷土愛を地味な感じで控えた演出ながら、名セリフや名シーンも多く力強く1歩を踏み出す勇気の出る作品。
本編でのやりとりがほぼ津軽弁のため、半分以上何を言っているか分からないのに見ているとだんだん心地よくなってきて、気持ちが伝わってくる不思議さ。ご当地映画らしく歴史や文化について触れているのも良い。俳優陣は駒井蓮の自然な演技と静かな存在感、1年の猛特訓でものにしたという開脚スタイルでの三味線演奏も素晴らしい。初回はそのまま、2回目はDVDの標準語字幕付きで見て、けっぱれ!

 

 

 

 

【第15位】「茜色に焼かれる 

f:id:yasutai2:20220111212817p:plain

日本における格差、コロナが与えた影響、女性の生きづらさ、性産業の問題など現在日本の抱える問題を凝縮している作品、ルールという言葉が雇用主や力を持つ者に都合よく使われ馬鹿正直に守る人ばかり損をする社会がリアルに響く。理不尽な不幸の連鎖で詰め込み過ぎ、女性の描き方や脚本の粗さ、始終優しいピアノ劇伴や肝心のラストの敢えての合成など正直、映画としての完成度は高くはない。
が、池袋の暴走事故やコロナ禍の実態、社会への怒りやメッセージを荒削りでいいから先ずは作品化して伝えたい!というキャスト・スタッフの想い・熱量にグッときた。最近の石井監督は初期の頃の原点に戻った作家性あふれる感じで嬉しいが、合わない人も多いだろう。とにかく尾野真千子のために作ったと思えるハマり具合、飄々としつつ苦難を耐え忍び小刻みに震えるあの表情、熱怪演が素晴し過ぎた(今年の女優賞は総なめだろう)、同僚を演じる片山友希も良かった。「まあ頑張りましょ」が報われる社会になって欲しい。。

 

 

 

 

【第14位】「孤狼の血 LEVEL2」

f:id:yasutai2:20220111212236p:plain

昔の任侠ヤクザ映画を現代に持ってきて大ヒットした前作の第2弾、コンプラを無視した挑戦や俳優陣の熱量溢れる演技が今回も見応えがあった。正直、役所広司をはじめ前作が良すぎたのでインパクトや完成度は薄れるのは仕方ないが、松坂桃李の定着ぶりはもちろん、鈴木亮平のとてつもない狂気、極悪非道の悪魔ぶりという強力なキャラクターに全部持っていかれた感じ(助演男優賞は総なめかな)。

警察と極道の絶妙な関係性や登場人物の信念を見事に描写していた前作に対し、今作は人間ドラマとしては物語に厚みが無く、ひたすらバイオレンス重視の鈴木亮平のための映画になっていたのが少し残念。それでもこれだけの俳優陣をノリノリで極上の極道エンターテインメントに仕上げるのはさすが白石監督、次作LEVEL3?も楽しみ。

 

 

 

 

【第13位】「ヤクザと家族」 

f:id:yasutai2:20220111212258p:plain

今年はヤクザものが多いが、今作は切り口が変わって3つの世代で時代と共に変化するヤクザの姿とその家族の話がメイン、すっかり変わってしまった現代の生きづらさまでを描く。藤井監督らしい色彩と要所要所で海や煙などのショットや演出が冴えわたり、人としての描き方が凄く丁寧で染みる、俳優陣は綾野剛の繊細ながら一貫した生き様の変化、舘ひろしの貫禄と渋さの極みが素晴らしい。
ヤクザを肯定は出来ないが、暴対法と世論に締め付けられる姿は切なくて苦しい、守りたいものを守れない葛藤、更生してもそこにしか居場所のない人もいるのも事実、改めて5年ルールは考えさせられた。現代におけるヤクザにとっての家族の話だが、家族でも友人でも姉弟関係でもどのコミュニティでも当てはまる「愛」の話とも言えるのでは。

 

 

 

 

【第12位】「サマーフィルムにのって」 

f:id:yasutai2:20220111212138p:plain

高校生の映画製作を中心にSFを絡めてきた新鮮な一作で、評判に違わぬ映画愛あふれる爽快さ。各キャラも際立って魅力的、時代劇へのリスペクト、SF要素、友情、恋、映画づくりへの情熱、ものづくりへの情熱が眩しくて尊くて美しい。一切大人が出てこない全体的に纏う青臭い感じや、相手への想いを斬り合う名ラストシーンをはじめ新たな青春映画の金字塔。
高校生にしか見えない25歳・伊藤万理華(元乃木坂46)はじめ若い俳優陣もみんな弾けていて瑞々しい、ビート板・河合優美も良かった。こんな仲間がいたら映画好きとしては学生時代に戻って映画を作りたくなるはず。今の動画配信を見ても短いコンテンツしか残らない未来はゾッとするけど、映画はスクリーンを通して過去と今と未来を繋いでくれる、これからも映画が存在していけますように!


 

 

 

【第11位】「映画大好きポンポさん 

f:id:yasutai2:20220111212210p:plain

今年のアニメも豊作だったが、これまた映画製作を描いた本作がベスト、タイトルと絵柄からは想像できない、映画好きはもちろんいわゆるモノづくりに関わっている全員に響くであろう大人向けの傑作アニメ。特に中でも埋もれがちな編集という作業にスポットを当てて、映画づくりのプロセスからプロデューサーの重要さを学びながら、一緒に作り上げた気分になるラストまで最高の90分間。
キャラの絶妙なデフォルメ感、名セリフ満載のテンポの良い脚本と圧巻の編集作業シーンを山場に持ってくる構成や演出が素晴らしい。取捨選択の人生と映画製作(特に編集の要素)をかけてダブルミーニングなセリフがグッとくる、色んな才能の集合体を取りまとめる監督やプロデューサーの凄さを改めて実感させられる。とにかくラストのカタルシスや必見。

 

 

 

 

【第10位】「ベイビーわるきゅーれ」 

f:id:yasutai2:20220111212324p:plain

今年の低予算の自主映画枠はこれ、ギャルと隠キャの女子高生殺し屋2人組が卒業後にオモテは“社会人”として生きていくために社会適応する苦悩を描く。アクションかコメディか青春ドラマか?、一見VシネB級感も漂うが、公開されて口コミで絶賛されていったのも納得の面白さ。主演2人が最高に可愛くて魅力的、現代っ子らしい二人のゆるーい会話劇からキレッキレの超ハイレベルなアクションとの温度差、キャラ設定や話も引き込まれラストまで駆け抜けて多幸感ばっちり。
流れるようなオタク同士の会話でありながらサブカルネタや時事ネタをさりげなく盛り込んでるあたりもポイントが高い。ラストバトルのハイスピードかつ痛そうでリアルな肉弾戦はファブル・岡田准一もビックリ、シリーズ化できそうなので期待するしかない。

 

 

  

 

【第9位】「シン・エヴァンゲリオン 劇場版」 

f:id:yasutai2:20220111212352p:plain

社会現象となったあの時代から25年間という歳月、まさに大団円にふさわしい最終作。今までの3部作からの不安を抱えつつ、従来のエヴァとは一線を画する悩みぬいたであろう誰もが納得できて幸せな気持ちになる完膚なきまでにエヴァを終わらせるための見事な着地。良くも悪くもこんなに綺麗に終わるとは・・
庵野監督自身の生活の変化を反映しつつ、いよいよ到達したカタルシスや驚き、製作者全て観客含めて時を経て成長したという感慨深さ、宇多田ヒカルのエンディングで更に極まる。ぜひ庵野監督のドキュメンタリーを見た後で鑑賞するのがおススメ。終わってしまった喪失感はあるが、アニメという文化にエヴァが残した功績を振り返って庵野監督にありがとうを、エヴァにさようなら、そして、すべてのチルドレンにおめでとう!

 

 

 

 

【第8位】「花束みたいな恋をした」

f:id:yasutai2:20220111212420p:plain

外れなしの坂元裕二脚本での映画化だけど期待を超えてくるのはさすが、何気ない日常から普遍的な男女の考え方の違い、出会いと別れまでのリアル感あふれるシンプルなストーリー。本当に言葉の言い回しが天才的で、誰もが経験したことあるシーンをこと細かに切り取っていく。一つ一つのセリフのつながりと2度見て更に演出の素晴らしさも際立つ。はじまりはおわりのはじまり、始まりと終わりのファミレス場面の対比、言葉に出さず目線一つで恋の終わりを悟っていく。
個人的にはサブカル好きとしてはたまらない固有名詞のラインアップに悶絶、ましてや有村架純ちゃんと同じ趣味なんて惚れて舞うやろ。人それぞれの経験により様々な意見があるので色々と聞いてみたくなる。「しょうがない」と言うしかない余裕がなくなっていくところは自分も実感できた、恋人というより一人で観ながら過去の自分を悔いる作品かも。


 

 

 

【第7位】「あのこは貴族」 

f:id:yasutai2:20220111212445j:plain

ここまでの貴族社会は知らないが日本の階級社会、確実に存在する格差や家柄の違い、女性の生きづらさだけでなく住む世界が違うということ、生まれ育った環境を払拭することの困難さ。これらを善悪で切り分けドラマチックに断罪するわけでもなく、抑え気味の演出と優しいまなざしで登場人物たちを眺めてみせる。決して悲観的にも楽観的にもならず、淡々としつつエグってくる絶妙なバランス感や二人の関係の描き方が素晴らしい。一言一言のセリフや写真・席順など細かい描写も見事、特に自転車に二人乗りしてるシーンや手を振るところはグッとくる。
俳優陣は門脇麦の品のある話し方や立ち振る舞いのお嬢様ぶり、水原希子の秘めたる野望から絶妙な変化ぶり、それぞれの友人役の石橋静河山下リオの描き方や演技も良かった。周りの言う普通や幸せが自分にも当てはまるわけではなく幸せの尺度は人それぞれ、気軽に話せる人がそばにいてくれるだけでも十分なこと。

 

 

 

 

【第6位】「街の上で」 

f:id:yasutai2:20220111212507j:plain

今年も多作で安定の今泉監督らしい会話劇、面倒くさい人間関係や不完全な日々がちょっと愛おしくなる、心に沁み渡る上質なコントを見ているような面白い群像劇。特別なことは何も起こらず、長回しのオフビートなリアル過ぎる会話が続く心地よさ、この何でもなさを映画として見せられるレベルに持ってくる脚本と演技力が凄いところ。
個人的にも大好きな下北沢という街映画としても完璧、下北沢の映画館で鑑賞し、ロケ地も全部分かるくらいドハマりした。いつもながらの女性陣の可愛さとチラチラ出てくるサブカル満載さも好み。俳優陣は一人一人が魅力的で、常に溢れる取り留めもない場面を同じ温度で演技とは思えないナチュラルさ、言葉のタイミング、表情、行動、リアルな距離感すべてに素晴らしい。今住んでいる街の上でこれから誰とどこに繋がっていくのか・・何気ない日常が尊く輝いて見えてくる。

 

 

 

 

【第5位】「由宇子の天秤」 

f:id:yasutai2:20220111212537p:plain

ヘビーな衝撃作、マスコミや社会を皮肉ながらも自分が当事者になってしまった場合の葛藤ややりきれなさを容赦なく描いている。全く展開が読めない脚本と構成で、最初から最後まで続く緊迫感と漂う不穏感で観ている方も天秤にかけられっぱなしで、サスペンスとしてもエンタメとして楽しめる傑作。
一切BGMは無くドキュメンタリー制作者の由宇子を追ったドキュメンタリー風の構造に取り込まれる。全編に渡って主人公目線なので出っぱなしの瀧内公美の演技はさすがで、特にラスト7分にわたる長回しは圧巻(賛否はあるだろうが)。
正義感に基づいて人の数だけある真実をたどり事実という目的地まで辿り着く、誰もが直面した時に出る本当の人間性、人は自分を守るため都合の良い方に解釈する、最後にそのレンズを向けられるのは誰なのか?自分に向けられたらどうするか?、否が応でも考えさせられるはず。

 

 

 

 

【第4位】「空白」 

f:id:yasutai2:20220111212602p:plain

吉田監督のオリジナルもう一作、これまた衝撃作でズドンと来る、一つの事故によって生まれた"空白"、愛娘を失い暴走する父親とそれに関わる全ての人間のモラルが試される。トラウマになるであろう事故シーンから最後までずっと重くて辛い、どの人間も多面的に描かれていて自分を誰の立場に置き換えても人として壊れてしまう怖さ、あえて描かない空白の部分を残すことで更に感情が揺さぶられる。
俳優陣の演技が見事に全員素晴らく、多くを言葉で語らず演技や演出で魅せる、狂気のモンスターとしか言いようのない古田新太の顔面から迫ってくる言葉と実行の容赦なさ。受けに回る本音の読めない松坂桃李もさすが、ある意味一番恐ろしい寺島しのぶ、一瞬ですべてを変えた片岡礼子も素晴らしかった。確実な"悪"がない中、白黒つけようとするから対立が対立を生み空白が埋まらない、どうやってそれを埋めるのか?折り合いつけるのか?、人を救うのはやっぱり人なんだと信じたい。

 

 

 

 

【第3位】「すばらしき世界」 

f:id:yasutai2:20220111212626p:plain

待望の西川美和監督、実在の人物をモデルに初めての原作ものだが、やはり傑作に仕上げてきた。殺人を犯した元ヤクザが出所してからの生き方や彼を取り巻く人々の思いやつながりを描きながら、今の日本が抱えている問題を凝縮させたような作品。何よりも役所広司でしか成り立たない演技が圧巻、怖さと優しさと不器用さの同居とその切り替え具合、繊細な感情の機微が1つひとつの表情や背中から感じ取れる。間に立つ語り部として仲野大賀の助演ぶりも素晴らしかった(二人とも各男優賞は固い)。
社会的弱者として生きづらさを抱える人々と不寛容な社会との接点、現在もこれからも続くであろう問題を容赦なく炙り出し、他人事ではいられない。誰もが必死で中流であることにしがみつき、そこから外れることを何よりも恐れる今の世の中、自分の立ち位置を守るために自分よりも弱い立場の人間を徹底的に叩く。生きていく上で色んなことを見て見ぬふりして私たちは生きている、人それぞれのすばらしき世界、綺麗な花や青い空を素直に綺麗だと言える社会に。

 

 

 

 

【第2位】「偶然と想像」 

f:id:yasutai2:20220111212647p:plain

短編集で短く比較的分かりやすいので濱口監督の初心者は先ずこちらからがいいかも。まさにエリック・ロメールの「パリのランデブー」を意識した3作品だが、どれも濱口メソッドの活かされた完璧すぎる会話劇、脚本、撮影、演技設計・演者の素晴らしさ、編集、照明、音楽まで全てがハイレベルの世界基準。
淡々とした会話劇だけど、リズミカルで絶妙なテンポで相手との距離を探りながらコミュニケーションを図っていく。俳優の瞬間的反応、セリフのタイミング、カメラ位置などあらゆる要素が計算づくで(ホン・サンス的ズームは驚いたが)、今日も東京のどこかで生きてる誰かの一日を覗いたような気分にさせられる。「偶然」でシンプルな裏切り・緊張を作りながら「想像」でその中に細かなユーモアや驚きを盛り込んでいく、3作品の順番・流れまで細かい演出も冴えわたり特に3つ目が印象的で多幸感あり。新鮮な若手から安定の常連組の俳優陣も全員はまり役でお見事! この短編集は続くとのことで次回作も楽しみで仕方がない。

 

 

 

 

【第1位】「ドライブ・マイ・カー」 

f:id:yasutai2:20220111212715p:plain

昔から敬愛する濱口監督の今年の世界を代表する一作、村上春樹をちゃんと感じさせつつ全くの新しい濱口作品として期待を超えてくる完成度の高さ。3時間の長さを感じさせない必要な時間だったと思わせる脚本、細かい演出や撮影はもちろん、長年テーマにしてきた身体性、言葉のコミュニケーション、演劇・チェーホフ等との融合、多言語の読み合わせから役者の輝かせ方まで世界中の評論家に絶賛されるのは当然。
練りに練られた会話、一つのセリフに3つぐらいの意味を含ませる多声的で重層的な構造を持った一分の隙も無い作品。見る側の素養や鑑賞力が試されるので一般受けはしないだろうが、こういう映画が日本でヒットしないのが残念で邦画の未来への課題。俳優陣は西島秀俊もハマり役だが、車中の岡田将生のゾクゾクする会話シーンの秀逸さと寡黙ながら繊細な変化を魅せる三浦透子も素晴らしかった(助演取って欲しい)。アカデミー賞の国際長編映画賞はほぼ決まりだろうし(作品賞も期待)、国内の映画賞(作品・監督・脚本)も独占するのは間違いない。

  

 

 

 

★【総括】

今年も新型コロナウイルスの影響で多くの作品が影響を受けて、昨年ほどの大ヒットはないものの、ますますNet配信(特にNetflix)が勢いを増して、数・質ともにレベルが高かった。そんな中でもカンヌにベネチアにアカデミーまで制覇する勢いで、今年は間違いなく濱口監督の年だったと言っていいだろう、自ら書く脚本に合わせた演出、独自の演技設計など元から世界基準で評価は高かったが、アメリカでここまで賞賛されるとは驚いた。
個人的には長年追ってきて毎回ベストに入れてきたのでようやく世界が追いついた・見つけられた嬉しさはあり。決して一般受けはしないが、これを機会に日本でも観る人が増えれば何より。
他も含め全体的に本当に邦画の当たり年でレベルが高く、普通ならどれも1位でもおかしくない、特に脚本の素晴らしさや役者を最大限に引き出すものが多かった。低予算でも十分に面白いシンプルな会話劇映画、今の時代なのか悪い人が出てこないペコパの漫才のような青春映画、ものづくりへの情熱が眩しくて尊くて美しい映画が光っていた。昨年は韓国映画に完全に押されていたが、日本映画も全然負けてはいないことが示された意義は大きい、もっと国を挙げて上手く世界のコンテンツにしていって欲しいと切に願う。
作品的には、違った作風ながら濱口色が染み込む圧巻のワンツーフィニッシュ(1、2)、なぜか良作の揃ったヤクザもの(3、13、14)、正しさとは?社会問題を問う(3、4、5、20)、映画製作・映画愛を描いた(6、11、12)、爽やかでラストカットのキレの良い青春映画(8、12、16、17、19)、低予算ながらの会話劇の面白さ(2、6、8、10、18)、最高の街(下北、東京)映画(6、7)、アニメも素晴らしく命がけの情熱あふれる次点の2作品と特に一つの時代の終わりと寂しさを感じるエヴァンゲリオンが感慨深い。残念ながらドキュメンタリー映画をほとんど見れなかったが、原一男監督の「水俣曼荼羅」(6時間強)を見ていたらベスト10に入っていたかもしれない(見たら更新するかも)。

 

 

 残念ながらベスト20から漏れた作品にも素晴らしいものが多かったので、以下に【次点】の5作品をあげておきます。音楽ドキュメンタリーとアニメが4作品と固まった。

 

 

【特別枠】「映画  フィッシュマンズ 

f:id:yasutai2:20220111212755p:plain

リアルタイムでライブで浴びたまさに自分の青春の一つだったバンド、それだけに思い入れも強く舞台挨拶と爆音上映で更に熱くなった最高の体験映画。佐藤伸治という天才ならではの苦悩から急逝、関係者がバンドの歴史を語る現在の映像と貴重な過去のライブ映像を挟みカットバックで繋いだドキュメンタリーで3時間があっという間。
バンドとして成功しながらもメンバーの脱退が相次ぎ何かを失っていく様子、繊細なギリギリの心身バランスの上で魂を削りながら命懸けで向き合っていたのが良く分かる、それ故の素晴らしさなのだろう。当たり前の日常を簡単な言葉で響かせる歌詞、曲の良さ、歌はもちろんドラムとベースのリズム隊の上手さ、どれもが唯一無二の音楽として突出していて、永遠のカリスマとしてフィッシュマンズの音楽はこれからも欣ちゃんを中心に続いていく・・

  

 

【次点】「JUNKHEAD」 

f:id:yasutai2:20220111211905p:plain

まさに狂気、執念としか言いようのない、本業は塗装業の日本人が独学でたった一人で7年間かけて作り上げた圧巻の出来映えに驚愕。この手のストップモーション映画がまさか日本で作られるとは。。SF・スチームパンクディストピアものが好きなら問答無用で刺さるはず(結構グロいけど)。
話の内容はそこまで深くなくシンプルで単調ではあるが、滑らかなコマ撮りの表現力と、キャラクターや背景美術のディティールの細かさがハンパなく、映像を見ているだけでも十分に楽しめる(冒頭10分のみYouTubeで無料公開)。エンドロールで更にヤバさが分かるのもたまらない、三部作の第一弾ということで続編がいつになるやら?だけど期待して待つしかない。

 

 

【次点】「トゥルーノース」 

f:id:yasutai2:20220111211959p:plain

監督が10年もの歳月をかけて脱北者や元看守たちの証言を元に北朝鮮強制収容所の過酷な実態を描いた3Dアニメーション作品。何よりも今も実際に起きているという現実に衝撃を受ける、実写だと正視に耐えないあまりにも辛すぎる残酷な内容だけど、リアル過ぎない粗目のタッチでアニメとして描かれるのが絶妙。
極限の地獄と絶望の中で人の醜さと気高さの両方を感じながら、それでも生き抜いていくことの意味とは・・TRUE NORTHとは「北の真実」と「決して変わらない目指す方向(生きる意味)」のWミーニングが深い。この映画自体も命がけで作ったのが実感できる、もっとたくさんの人に観てほしい知るべき作品。

 

 

【次点】「アイの歌声を聴かせて」 

f:id:yasutai2:20220111212944p:plain

SF×青春×ミュージカルというありそうでなかった高校生の青春アニメ、人とAIの絆を高らかに歌い上げた快作、二転三転するストーリーはかなり王道だが設定自体面白く比較的誰でも楽しめる、評判になる理由も納得の出来。作画、演出、声優の演技(特に土屋太鳳の歌とAIっぽい演技が思いのほか良かった、器用だなあ)すべてが高いレベルにあるのはもちろん、後半の伏線回収とAI(愛)の展開プロットのクオリティも非常に高く、ファンタジーの中にも論理的で説得力があるのが良かった。
歌唱も含めてロボットの絶妙な人間味の無さが、ミュージカルという突然歌い出すのに違和感のある人にも受け入れられるのも面白い。AIの未来はまだ見えないが、みんなが誰かのことを「幸せにしたい」と想う世の中を担って欲しいと改めて思う。

  

 

【次点】「クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園 

f:id:yasutai2:20220111213008p:plain

やはりクレしん映画、子供向けとは侮れない、たった100分で、SF、青春、サスペンスミステリー、スポーツ、バトル、恋愛、親子愛、友情、多様性、格差社会問題までバランスよく盛り込んで、誰もが楽しめる非常に完成度の高い一作。いつも通りのてんこ盛りギャグと全編ボケだらけで進めつつ、その中に後に生きてくる伏線が貼られていたり、感動の布石が仕込まれていたり、ミステリの推理劇としても叙述トリックが散りばめられていて本当によく出来ている。
やりすぎた成果主義や合理主義の管理社会を風刺しつつ、後半は青春ドラマ全開で友情ものとしてベタだが、なぜかしんちゃん映画だと気にならずに熱くなれるのが強みか、大人も悩む問題を5歳児たちが全力で励ましてくれて元気や勇気をもらえる。「青春の答えはひとつじゃない」、あの大傑作「オトナ帝国」へのアンサーとして、近年のクレしん映画の大人向けベストでは。

 

 

あと、今年は近年では稀にみる出来の大好きなドラマが2つ、ジャンルは違えどどちらも脚本や撮影に演技や音楽など映画レベルの完成度の高さに驚かされた。久々にドラマで〇〇ロスになってしまった・・

 

【ドラマ】「大豆田とわ子と三人の元夫」 

f:id:yasutai2:20220201202105j:plain

設定はリアルに程遠いけど、そう感じさせない坂元裕二脚本と松たか子はじめ3人の夫の演技力の魅力が爆発、軽快ないつもの会話劇に細かい日常あるあるネタを盛り込みクスクス笑いながら、一つ一つのセリフの深みと2回見て気づかされる言葉の意味や伏線回収の素晴らしさ。

ファッションや細かい演出などおしゃれ感満載で、何よりもエンディング曲のセンス、大好きなSTUTSのトラックに毎回変わる豪華ラッパー陣と3人の夫たちとその回にまつわる歌詞のコラボに悶絶。幸せも愛し方も人それぞれ、どんな人生にも必ず意味があるという個々の価値観の全肯定に元気づけられた。

 

 

【ドラマ】「おかえり モネ」 

f:id:yasutai2:20220201201248j:plain

震災からの10年間に真正面から向き合ったこともあり、朝から暗い・重い・曖昧で言葉少ないと従来の朝ドラからは敬遠されたが、震災の当事者、非当事者それぞれの痛み、傷を負った人たちがどうやって再び前に進んでいくのかを半年に渡って丁寧に紡ぎ出している。

そんな映画的な安達奈緒子の脚本をはじめ、俺たちの菅波も良いが、清原果耶や蒔田彩珠など繊細な感情の変化を行間や表情だけで魅せる俳優陣が本当に素晴らしかった。分断と対立が広がる今、あなたの痛みは分からないけど分かりたいと思う気持ちの大切さと自然も人も全てがつながっている優しい世界に希望が見えた。

 

 

 

 

※【2021年 邦画ベスト 一覧】 

① ドライブ・マイ・カー

② 偶然と想像

③ すばらしき世界

④ 空白

⑤ 由宇子の天秤

⑥ 街の上で

⑦ あのこは貴族

⑧ 花束みたいな恋をした

⑨ シン・エヴァンゲリオン 劇場版

⑩ ベイビーわるきゅーれ

⑪ 映画大好きポンポさん

⑫ サマーフィルムにのって

⑬ ヤクザと家族

孤狼の血 LEVEL2

⑮ 茜色に焼かれる

⑯ いとみち

⑰ BLUE ブルー

⑱ まともじゃないのは君も一緒

子供はわかってあげない

⑳ 護られなかった者たちへ

(特別枠) 

〇 映画 フィッシュマンズ

(次点)

〇 JUNKHEAD

〇 トゥルーノース

〇 アイの歌を聞かせて

クレヨンしんちゃん 花の天カス学園

(ドラマ)

〇 大豆田とわ子と三人の元夫

〇 おかえり モネ