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「マスカレード・ホテル」 ★★ 2.2

「姉さん、事件です」「ちょ待てよ」、動悸息切れが酷いフジテレビ王道のスペシャルドラマ風ミステリー「有頂天ホテルHERO」、キムタク印の仮面は外せないが、長澤まさみに接客されたい・・

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殺害が起こるであろうホテルに潜入した捜査官がその教育係であるフロントと一緒に、ぶつかり合いながらもお互いのプロ意識で、次々と訪れる怪しい客たちの中から犯人を見つけ出していく。。登場人物がとにかく豪華なオールスターキャストの中で、良くも悪くもキムタクは相変わらずキムタクとしての安定感で魅せてくれて、いつもの東野圭吾作品として複雑で難しい展開もなく気軽に観られる。

監督は「世にも奇妙な物語」や「HERO」などテレビドラマから知名度を上げた鈴木雅之監督(あの歌手とは違う違う、そうじゃない♪)、「プリンセストヨトミ」や「本能寺ホテル」と同様に、今作も人気作家の原作をいたって普通に2時間スペシャルテレビドラマ化。「HERO」のキムタクや松たか子などキャラクターのキャストが被り過ぎだが、いかにキムタクを上手く魅せるかはさすが熟知している。

東野圭吾原作なのである程度の面白さはあるはずだが(「ラプラスの魔女」や「疾風ロンド」など映画として酷いのもあるが)、個人的に東野作品は展開やトリックはいいけど殺人動機が弱いのがいつも気になるところ。

 

人を疑うのが仕事の刑事が、人・お客様を信頼するのが仕事のホテルマンとして潜入捜査するという、本来なら絶対にありえないギャップありきの設定は面白かったのだが・・次々に姿を現わす犯人候補のいかにもな珍客たち、見た目もしょぼいし、演技も大げさ、それぞれのエピソードがテンプレート化されて似たような人情話が積み重なっていくので途中で息切れして退屈(なぜか良さげなBGMで終わる)。

というか、ホテルマンとして「最高のおもてなし」ではなく、トラブルを避けるため、単にクレーマー客の言いなりになっているようにしか見えず(普通に相当ヤバい奴が多過ぎるホテル)、特に生瀬勝久のエピソードはダラダラ酷すぎて最後など笑うしかない。

各エピソードの絡みも薄く、これらミスリードのシーンに尺を当てすぎて、肝心の連続殺人事件の時間が短く盛り上がりにかける。重要な説明は、映像ではなく会話で示され、最後に犯人がベラベラと動機を語る日本のドラマのお決まりのパターン・・ミステリーとしての謎解き・トリックもお粗末で、「最初から調べておけよ」と言いたくなるレベル、そして今作もやはり犯人の動機が酷く狙われた方も観る方も正直たまったもんじゃない。

話完結エピソードのドラマを無理やり2時間にまとめた感じなので(この話の内容で133分は長すぎ)、普通の連続テレビドラマの方が良かったかも・・それか、もっとエピソードを絞って重厚にするか、逆に三谷幸喜のように軽快なコメディにしても良かった。

まあ、キムタクと長澤まさみの違ったタイプが対立しながらも徐々に認め合って協力していくバディもの・成長ものをメインとした分かりやすい推理ものとして、また、ホテルマンやサービス業の大変さや素晴らしさを教えるものとして、家族みんなで気軽に鑑賞するにはおススメのいたって普通の映画。

 

【演出】

監督お得意の?役者にカメラ目線で演じさせるというテレビドラマ演出、観てる方に語りかけてくるから入りやすいのだが、映画的な面白みはゼロ(撮る工夫もいらないし)。引きのカメラワークが強引で、ぐるぐる回転や真上からのショットは、あまり意味付けがなく効果を感じられなかった。

プロのホテルマンなのに、ロビーやお客様のいる前で普通に2人でおしゃべり(ましてや事件の話など)しているのはおかしいのでは。

ウェスアンダーソン監督の「グランド・ブダペスト・ホテル」のシンメトリー構造など意識してるのだろうが、到底はるかに及ばないので、見ていていたたまれなかった。。マネじゃなく圧倒的にセンスの問題。

前田敦子をストーカーしてる役が勝地涼なのは面白かった。友情出演で明石家さんまがどこで出てきたのか全く分からなかった・・フロントで宿泊手続きをしているハットをかぶった「大竹」笑という男性らしい。

このホテルの舞台モデルである「ロイヤルパークホテル東京」には行きたくなったが、劇中では高級ホテルとしてロビーや受付が狭く感じた、混雑ぶりに人がぶつかりそうだったし(明らかにセット、役者に金をかけ過ぎたか)。

改めてポスタービジュアルを見たら、犯人が分かってしまうのではと思った(あの人がいない・・)。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)ラスト・考察】

犯人に関しては全く意外性もなく予想通り「松たか子」のままで拍子抜けだった、もうひと捻りあると思ったし欲しかった。最初におばあちゃん老婆が出てきた時点で、完全に変装バレバレで怪し過ぎだし、マスクの下と声で松たか子っぽいし(映画「来る」の怪しい霊媒師の印象もまだ強い)、そもそも主役がキムタクと長澤まさみなので、相応レベルで考えると松たか子がふさわしいし。演技自体はさすがに見事な怪演だったが、それだけ恨み続ける圧倒的な狂気が足りない(演出の問題)、軸となる計画自体が無理があり過ぎであまりにもリスキーで詰めが甘過ぎ、トリックも情報が少なくヤラれたという爽快感なし、動機もありがちで新鮮味がなく、かなり逆恨みでただの自己中な人にしか見えなかったのが残念。

ただ、長澤まさみを助ける時のペーパーウェイトのロゴ位置の分かりやすいほどの伏線は良かった(キムタクが自身で重しを調整する成長)。

事件解決後の続きとして、最後の仮面舞踏会は必要ないカット、無理やりタイトルのマスカレードにつなげたいのか・・お客様は仮面をかぶっていることは十分に描かれているのに、わざわざ画として見せたいのか、こういうところがテレビドラマのセンスなのか。。

二人の中途半端な恋の予感?も感じさせていたが・・いっそのこと実は長澤まさみが本当の黒幕で、ここから「コンフィデンス・マン」のダーコに変身してキムタクをコテンパンに騙していく展開にして欲しいくらい。。

 

”最高のサービス”に決まった答えはない。良かれと思った行為で傷つけることもあれば、距離を置いた対応が心地よく感じることもある。だからこそ常に“相手を思ったサービス”を考えなければならない。信じることと疑うこと、どちらだけに偏るのではなくて、両方があって関係が成り立つ、人を見極められるのだろう。

「ホテルでは「お客様」もホテルマンも仮面をかぶって舞踏会に参加している」、非日常・ハレの場である高級ホテルでは、日常を忘れ仮面を被り楽しむことが目的なのだろうが、個人的にはやはり”ありのままの自分をさらけ出して、我が家のようにくつろげる空間”として旅館の方がいいなと改めて思った。。

どちらにせよ、長澤まさみにわがまま言い放題いって接客されたい・・