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年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「ギャングース」 ★★★ 3.3

◆てえへんだ、てえへんだ、生まれた時からタタキ上げのサバイブ~普通に牛丼が食える幸せを噛みしめて・・ギャング+マングース

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犯罪者をターゲットにして金を盗むタタキ稼業(石川五右衛門的な義賊)に手を染める少年院上がりの三人組のクライム青春映画。原作:肥谷圭介によるマンガ、原案:鈴木大介によるノンフィクションということでリアルな少年たちや犯罪手口の実話をベースにしている。

監督は地方都市の閉塞感・闇を描かせたら右に出るものはいない入江悠監督、貧困や虐待などの社会問題、底辺のギャングと特殊詐欺の犯罪を描きながら、青春エンタメ作品にしているのはさすが。

まともな親も教育も金もなく犯罪歴があるのみ、まともに働きたくても現実は厳しくタタキ稼業でしのいでいるが、抜け出すために誰もが恐れる詐欺集団を標的に一攫千金を狙っていく・・やっていることは敵と同じ犯罪なのに主人公側に共感してしまう背景と魅力的なキャラクター、暗くなりがちなところを牛丼屋のシーンなど印象的なショットやセリフで魅せてくれる。

マンガは16巻もあるので2時間弱でどこを切り出すか、マンガの内容を知っている人は途中の絶望感や仲間との絆など思いの深さはケタ違いだろうが、自分を含め未読の人はどこまで入り込めるかがポイントとなる。

 

全体的に見ると、面白そうな素材が揃っているのに十分に活かしきれていないのが残念、ストーリーも前半のテンポが悪くて時間が掛かったせいか後半の展開が性急すぎて、ラストのカタルシスも薄味になってしまった。個人的にはもっとハチャメチャに疾走感を重視しても良かったかな。

何よりその人物の持つ背景が深く描かれていないので表面的に感じてしまう、なぜ少年たちは危険な裏社会で命を懸けて戦うのか、そこに行き着くまでの凄惨な過去と彼らが目指す未来が上手くつながってこない。

カズキの過去のみ語られるシーンはあったが、小学生のカズキをそのまま加藤諒が演じているので面白さの方が強く、虐待もハードさが足りないため、リアルな凄惨さがあまり伝わってこないのが致命的。カズキの人格形成に影響を与え、最底辺の生活から抜け出せずもがき苦しむ原因となる最重要ファクターなのに・・他の二人は過去の描写がほとんど無く、マンガそのままの描写やセリフだけではリアリティが薄いし、アイデンティティの葛藤も必要だったと思う。

また、タタキ実行の際に出てくる作戦も戦略性や説得力が弱く(特にラストの作戦は普通に成功するとは思えない)、爽快感や達成感がないし、例え成功したとしても結局、その上の組織に狙われ続けるだけのような気がした。でも、そもそも学校にも行かず知識や学が無いので緻密な作戦を立てるのは無理・・ということを強調したいのか。。

おばあちゃんがオレオレ詐欺に騙されるのを遠くから眺めて、その後お金を奪うのだが、結局おばあちゃんに返すわけでもないので、自分たちがオレオレ詐欺しているのと同じ、むしろ直接やらないで横取りしているだけいう構図、本当に気付いているのかいないのか・・(吉本闇営業にも通じる?)。

前作「ビジランテ」では地方都市の様々な問題を炙り出した真面目な社会派ノワール意欲作、その後に更にそれをエンタメに昇華させた今作を作り上げたのは素直に素晴らしいと思う。「22年目の告白 -私が殺人犯です」のエンタメ大作でしっかりヒットを稼ぎつつ、「サイタマノラッパー」のような原点を忘れない入江監督には今後も期待していきたい。次作「AI崩壊」はエンタメ大作だが、若干怪しい不安もありつつ。

 

【役者】

主人公3人組、マンガと比較すると厳しいけど頑張っていたのでは。高杉真宙はやはり髪型変えてぶっても良いところのお坊ちゃん感が抜けなくてキレイに見えてしまった。加藤諒インパクトは強いけれどキャラを器用に演じきっていた(小学生役をそのまま演じられるのはさすが)。渡辺大知も最初誰か分からないほどビジュアルの崩し具合にビックリも寡黙ながらの存在感は見事。

それよりも今作は悪役2人が際立っている、MIYAVIの完全にイっちゃってる目の感じは本気で恐ろしく気持ち悪かった(アンジェリーナ・ジョリーの「アンブロークン」の渡邊軍曹を思い出した)。金子ノブアキは定番の役柄だが、部下を鼓舞するため振り込め詐欺を正当化する演説の長回しシーン、ホワイトボードでの熱弁は必見、日本の社会・金の搾取構造の実態が見事に分かりやすく説明されていて、学校の授業でやるべき、政治家が聞くべき内容。これにヤクザ手下の般若も入れると音楽畑の俳優たちが4人となりみんな魅力的で芸達者。

篠田麻里子は闇社会でしたたかに生きるオンナ役が板についてきた、前作「ビジランテ」が良すぎたのか、今作は薄味すぎでもっと暴れないと・・玄米だけでは厳しいのか・・次回は脱がないと厳しいかも。虐待されてたヒカリ・子役の伊東蒼ちゃん、「湯を沸かすほどの熱い愛」に続いて幸薄い役が本当に上手い。あと、斉藤兄弟がめちゃチョイ役で出ていたのと、今泉力哉監督の存在感とおっぱい!には笑ってしまった。

せっかく役者が頑張っているのに、いつもながら声が聞き取りづらいのは何とかならないものなのか・・音声?編集?監督?

ポスターとか内容だけ聞くと、品川ヒロシ監督作品っぽくもあり、しかしR15にレイティングするのはおかしいのでは、むしろ観るべきは10代なのでは・・

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)ラスト・考察】

ラスト、青臭くて作戦が軽すぎないかとも思うが(後先考えず突っ走る若さが良いのだが)、クライマックスの車で突っ込んでからの倉庫の中の戦い、ラスボスMIYABIと3人ががりで戦うシーンは完全にジャッキー映画へのオマージュで楽しめた(「プロジェクトA」に捧ぐ)。

金子ノブアキの死に際の演説もグッとくるし、最後の最後に大金を取り損ねて報われない展開も良かった(このまま犯罪で幸せになるのはおかしい)。

ラストカット、小さな定食屋?で3人の横にいたサラリーマン連中が言う「結局、甘えなんだよ、誰だって生まれた時は平等だし、虐待受けてたヤツがみんな犯罪者になるわけじゃない。環境が悪かろうと運がなかろうとそこから這い上がるための努力をしないやつはクソだ。俺たちはよっぽどブラックな会社で働いている。」・・この発言は一般社会での認識としてもっともだし、彼らも何とか努力して社会とつながっているのも事実。

それでもこの映画を観てきた我々は、そんなに軽々しく納得することは出来ない、資本経済は「金」、金がなければ生きていけない「人生は平等じゃない、スタート地点で既に差がついてるし、一度転落すると這い上がれない。」金子ノブアキの演説も現実。更に「環境」、大人のせいで人生台無しにされる子供も確実にいる、よほど恵まれているか、よほど過酷な環境に生まれなければスタート地点の違いなど結局のところ理解できないのではないか・・

 

 

世間にはびこる悪を倒しても世間にも知られることもないし、苦しい生活も何も変わってないし、今後真っ当に働ける保証も何もない。それでも、どんな境遇でも共に笑える仲間や家族がいること、自分次第で前向きに強く生きられることを学んだ彼らには希望のヒカリが射すだろう。

ラストで店から徐々に引いて上空に上がりながら街を見下ろしていくカメラ・・「この店を一歩出れば、これを観てるみんなの中にも側にもこういう貧困な子供たちは隠れているのだ」という決して他人事ではないメッセージがズンと響いてきた、素晴らしいラストカットだった。