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「ビブリア古書堂の事件手帖」 ★★ 2.4

◆太宰と漱石なのに薄っぺらい雰囲気重視の誰でも分かるミステリー、それから後半のグダグダの笑劇は生まれてすみません

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原作は大人気シリーズ640万部のベストセラー「ビブリア古書堂の事件手帖」(TVドラマ月9では主人公が剛力彩芽でファンから叩かれていたようだが未見)の映画化。監督は三島有紀子、「幼な子われらに生まれ」が素晴らし過ぎたので、逆に少し不安を抱きながら鑑賞。

古書屋の女店主が豊富な本の知識と推理力で、持ち込まれたおばあちゃんの本の秘密と希少本を狙う謎の人物探しに迫るミステリー。夏目漱石の「それから」と太宰治の「晩年」の本の秘密、その2冊が結ぶ過去と現在の悲恋のストーリーが並行で進んでいくのだが、残念ながら話としては普通で特に盛り上がりもないツッコミどころ満載の先が読める作品だった。

ミステリーとしては構成も含め弱すぎて、時を超えるつながり・醍醐味が伝わってこない、演出もドラマ的で安っぽく人物の掘り下げも中途半端に感じた。せっかくの太宰なのに薄っぺらく雰囲気重視のラブミステリーといった感じ。

ただ黒木華は可愛かったし、過去パートの東出昌大夏帆の演技は良かったし、本好きなら分かる小ネタや夏目漱石太宰治の作品が物語のキーになっているので本好きの方にはおススメ。

 

【演出】

鎌倉のフォトジェニックな風景(海街diaryを思い出す、古いものが様になる)と人物を詰め込んだフィックスショットが中心で淡々と進んでいく(鎌倉が舞台だけど実は撮影は伊豆が多かったらしい)。

三島監督の作品は小説の世界観を意識した自然な映像と音響が素晴らしい(「少女」「しあわせのパン」「ぶどうのなみだ」など)が、イメージ的には「縫い裁つ人」が近いかな。特に、東出と夏帆が抱き合う海辺で左右から波が斜めに混じり合う描写や、切通坂で本を持って抱きしめ合うシーンは本当に美しかった。

前半は文学的香りのする良い雰囲気だったが、後半は別の監督が撮ったのかと思うほど急に展開が無茶苦茶になり、最後の追走劇のグダグダといったら笑劇!(前作「幼な子・・」が傑作だったのは荒井晴彦の脚本の力だったと証明されてしまった・・)

見た人だれもがツッコミたくなるであろう、何故そっちに逃げる・・とにかく先ずは110番しようよ(警察の存在ゼロ)・・前半とのギャップもありイライラが止まらなかった。

他にも、おばあちゃんの秘密を1冊の本から解き明かせる推理力がありながら(絶対に探偵になるべき)、見ている観客の方が誰でも分かる犯人になぜ気付かないのか・・、 大輔(野村周平)が本を奪われておいての逆ギレ、ギブアップ、「俺を信用してくれてないんですか?」のセリフ(そりゃそうだろう)・・、おばあちゃん、いくら大事な秘密の本でも4歳の孫にまじビンタ2発は無いわ・・などなど。

ただ、エンドロールの演出は三島監督らしさが溢れて良かったし、サザンの主題歌(原坊なのが「鎌倉物語」を思い出す)もハマっていた。

 

役者陣は、黒木華(栞子)は、本の話でスイッチが入った表情のギャップが上手い、黒眼鏡と朗読する声と話し方が心地よくて分からなくてもずっと聞いていたい。個人的には「スイッチが入った栞子」が描き足りなかったのが残念、この細かいうんちく話が、この小説の「キモ」なのだから。

野村周平(大輔)は、少し頼りなく真面目でイライラさせる感じは演技含めてツッコミやすいのは狙いなのか。

東出昌大(嘉雄)は、太宰治かぶれの文学青年、昭和時代の男役が良く似合って絵になる(「菊とギロチン」でも昭和明治時代の文学青年を演じていた)。

夏帆(絹子)は、定食屋のおかみさんだけどどこか色っぽくて、相変わらず薄幸そうな美人役がよく似合う。

 

※ここからネタばれ注意 

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【(ネタばれ)ラスト・考察】

おばあちゃんの秘密は、おばあちゃん(夏帆)と不倫相手(東出)の間にできたのが大輔の母で、東出は大輔(野村)の実のおじいちゃんで、同じく稲垣(成田)の実のおじいちゃんでもあった。自分が知らない男の孫だったとかその男の同じ孫同士で殴り合うとか普通に考えたら衝撃過ぎる・・。

希少本を狙う犯人は稲垣(成田凌)、「スマホを落とした…」の後で観たこともあるが、まあ誰が見ても犯人と分かってしまう(完全に狂気のイッタ目のホラー演技が再現されてたので笑ってしまった)。それも、仲間があっさり自供して判明するという・・

ただ、犯人の動機・なぜそこまでして「晩年」を奪いたかったのか?の表現が薄いので分かりにくい、本棚の下敷きになって無傷の復活が早過ぎ?、そこまで「晩年」に執着してるなら落ちてすぐ海に飛び込むだろう・・いくら本好き同士で少しは同情したとしても、階段からの突き落とし(いや下手したら死んでたし)や最後の襲われ方を考えても警察に突き出すべきだろう(原作ではちゃんと捕まっていた)。

そして、最後グダグダ盛り上がりに欠ける中、大輔の「僕にはあなたが必要です」のセリフにドン引き、そこでいい感じになるか? このためにわざわざ警察にも行かず防波堤の方に逃げ込んだのか・・

 

「それから」を語り口に使った時点で不倫話となるのは明確で、このおばあちゃんの恋愛にどこまで感情移入出来るかで変わってくる。映像を含め綺麗な思い出として見えるけど、明らかに不倫には違いない、好きな人ができたんだから仕方がない割り切り感もあるので、旦那さんの方に感情移入する人も多いだろう。「お腹の子は俺の子」(なんで自分の子ではないと明確に分かったのかは?夏帆なのに〇〇〇レスだったのか?)と言った時の背中の哀しさ、これをそれでも愛するが故の寛大さと捉えるか、子供をそばに置くことでの復讐と捉えるか・・

 

見終わって、かつ丼を食べたくなったのと太宰治夏目漱石を読みたくなった。

※実際に、かつ丼に梅干しを置いて食べてみたが、特にマッチしてないし微妙だったことを付け加えておきやす。。