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2019年 洋画ベスト(個人賞)

◆2019年 洋画ベストの中から個人賞(監督・脚本・主演男優女優・助演男優女優)を選んだので発表していきます。

ちなみに昨年2018年の洋画ベスト(個人賞)はこんな感じでした。さて、今年はいかに? 


 

【監督賞】

【第1位】アルフォンソ・キュアロンROMA / ローマ」

商業主義とは程遠いこのアート色満載の地味で半自伝的なテーマを、Netflixで挑戦しアカデミー賞まで受賞したエポックメイキングで完璧な作品を作り上げた。

脚本や演出の完成度はもちろん、過去の記憶に色を付けて美化したくないと全編モノクロにこだわり、超高性能カメラで自ら撮影し画面の隅々のドラマまで芸術的に奥深く表現し、どこを切り取っても絵として成立するほど美しい無駄のない技術も素晴らしかった。

 

【第2位】スパイク・リー「ブラッククランズマン」

アカデミー賞会場での怒りも黒人を代表する監督の立場で異議を唱えたことは納得・評価できるし、実際に今作を見ればそれだけ本気で怒る理由・熱量を感じるはず。

黒人側と白人側の両面から自覚の無い差別意識や集団の過激化の怖さまで丁寧に描いていて、ラストの直接的な表現での明確な怒りとメッセージには傑作「ドゥ・ザ・ライト・シング」から約30年の変わらぬ信念と覚悟が伝わってきた。

 

【第3位】トッド・フィリップス「ジョーカー」

あの「ハングオーバー」を撮ったコメディ出身の監督が今作を作ったのには驚いた、一人の男アーサーが狂っていく様・負の連鎖と悪のカリスマの誕生を丁寧に描いていて、何故か彼の誕生を祝福してしまう不思議なカタルシスが生まれるのが恐ろしい。

アメリカの歴史や銃社会への批判、人間の本質などいろんな要素が盛り込まれていて倫理的な影響を超えてあらゆる世界や世代に共感させてしまう力を持っていた。

 

(次点)ナディーン・ラバナー「存在のない子供たち」

監督が3年かけてリサーチした執念と実際の難民の奇跡的なキャスティングで、ほぼドキュメンタリーのようでエンタメとしても完璧。

重い内容だけど希望も感じられ、誰かを糾弾するわけでもなく、ただ今起きている事実を明らかにすることで、世界は変えられなくても何が今できるのかを考えるきっかけをくれる作品、遠い国の話のようで身近な物語にも感じさせる普遍的な問いかけも素晴らしかった。

 

(次点)マーティン・スコセッシアイリッシュマン」

派手な殺しや暴力は抑えて地味な会話劇が中心となって淡々と進んでいき、いろんな時間軸からの回想が交差しながらも混乱させずに3時間半にまとめる円熟味。

じっくりと炙り出す人間関係からのラストは今のスコセッシや役者でしか出せない演出・演技で、老いや孤独、後悔や虚無感などがリンクして感じられマフィア映画としてもスコセッシ映画としても集大成。彼がいたからこそ「ジョーカー」も生まれた。

 

 

脚本賞

 

【第1位】ノア・バームバック「マリッジ・ストーリー」

いつの間にか相手を傷つけ自分も傷つき周囲からの介入もあり、どんどん悪い方向へ進んでしまう。相手を思いやる思慮と自分の意志との葛藤、その過程を妻と夫の両側から丁寧に描いていて、愛し合っているのに噛み合わない切なさがリアルに胸に迫ってきた。

冒頭からラストまで手紙・家族写真・散髪などの対比や生々しい台詞を通して、日常空間だけで表現する計算し尽くされた構成・展開が見事だった。

 

【第2位】イ・チャンドン、オ・ジョンミ「バーニング 劇場版」

映像化が難しい村上春樹作品の本質を理解し血肉化した上で、現代の韓国を舞台に置き換え若者の失業や格差などの社会問題とミステリーの要素を膨らませて、30ページほどの短編を2時間半の長さに仕上げる完成度の高さは驚愕。

哲学的な会話でこの世界の不確実性を表しながら、主要登場人物3人それぞれの視点から見た物語は、観る人によって結末含め何通りもの解釈を可能にする作りが見事だった。

 

【第3位】クエンティン・タランティーノ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

脚本に5年を費やしたと語るように些細な出来事で運命が変わるストーリーテリングの妙、終盤まで淡々と進みながら男二人とシャロン・テート事件(事前予習必須)の二つのストーリーがどこで絡んでどう繋がるのか?と引っ張られる。

1960年代アメリカ映画業界の空気感を再現しながら、歴史を改変し「映画を使って復讐する・夢を見る」という映画の力を信じるからこそ、純粋なお伽話として成り立っていた。

 

(次点)アリーチェ・ロルバケル「幸福なラザロ」

何があっても変わらない聖人ラザロを通して私たちを取り巻く世界がどれだけ異なっているか?、奇想天外ながら実話ベースに基づいて過酷な現実とファンタジーとの境界線も曖昧に、観る人の育ってきた環境や考え方によって解釈が変わる。

中世⇔現代、社会主義⇔資本主義、農業⇔産業と対比的に語っていく構成も見事で、2回ある死やオオカミ・絶対的な善の存在や幸福の意味を深く考えさせられた。

 

(次点)ラース・クラウメ「僕達は希望という名の列車に乗った」

ベルリンの壁の建設直前という時代背景に、生徒たちの青春と友情・葛藤と後悔、親たちの子供の未来を願う思いなど人物の隠された設定・心情が絡み合う脚本は心理サスペンスとしても素晴らしい。

信念を貫いて反抗するか?身近な人を守るために従うのか?何が正義で何が間違いなのか?、誰の立場に立つかで物事の見え方は変わるし、最後には自分で考えて答えを出し決断する大切さが響いてきた。

 

 

【主演男優賞】

 

【第1位】ホアキン・フェニックス「ジョーカー」

実績から見ても凄いのは予想されたが相当のプレッシャーや期待に負けない自分なりのジョーカーを見事に作り上げていた。

背骨や肋骨が浮き出た身体に絞って後ろ姿だけで全てを語れる凄み、口の動き、落ちくぼんだ瞳の光、指先から髪の先まで全神経を尖らせた細やかで繊細な表情と動きと間、笑い方だけで感情を使い分けるのも見事。階段での覚醒、変化のダンス、ラストの舞いまで神々しさすら感じた。

 

【第2位】アダム・ドライバー「マリッジ・ストーリー」「ブラッククランズマン」「スターウォーズ

ホアキンとは全く違うアプローチでの演技だが甲乙つけがたい出来、ややとぼけた味わいを前面に出しながら、為すこと全て空回り・悪戦苦闘する姿が可笑しみと哀しみを共感させる。終盤で名曲「Being Alive」を歌唱するシーンもその感情の高ぶりに誰もが引き込まれるだろう。

「クランズマン」では白人から差別されつつ黒人側にも付けないユダヤ人独特の複雑さ・哀しさ・諦め感を自然体で演じていた。

 

【第3位】マルチェロ・フォンテ「ドッグマン」

無名ながら身長の低さや線の細さの風貌、常にヘラヘラおどおどしているような表情、お人好しでうだつの上がらない感じと普通にしてても不幸や不運を招きそうな病神的な雰囲気が素晴らしい。

時おりのぞかせる娘や犬と接するときの優しさや喜びから、怒り・諦め・どうすることもできない途方に暮れた虚無感など繊細な表情の変化も見事。ラストの長回しの表情は彼以外には成り立たないだろう。

 

(次点)ゼイン・アル・ラフィーア「存在のない子供たち」

本物の難民として苦労してきた存在感、幼くして現実の厳しさを知った者にしか出せない表情の素晴らしさと説得力は、ドキュメンタリーや演技を超えたリアリティを持って迫ってくる奇跡のキャスティング。

脚本を与えず自分の体験からの言葉を紡がせた監督の演出により、完全に映画の中で自分の人生を演じていて、怒りと悲しみの表現力が圧倒的で、空虚な諦めと絶望の目が強烈で忘れられない。

 

(次点)レオナルド・ディカプリオ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

力の抜けた自然体のメリハリのある演技で、落ち目の俳優として外向けには傲慢に振舞って見せながら、感情が高ぶるとすぐ泣いたりセリフが飛んだり自己嫌悪ばかりの情けないシーンが見事にハマっていた。

日常の中あえて一貫して「大げさで情熱的な映画スター」を意識的にぎこちなく演じて見せているが、ふと女の子役の前で泣き崩れてしまうシーンやリカバリーしてからの会心の演技も最高だった。

 

その他、実際に歌っているタロン・エジャトンロケットマン」や、実際に太って髪を抜いたクリスチャン・ベールバイス」などの成りきり度合いも素晴らしかった。

 

 

【主演女優賞】

 

【第1位】オリヴィア・コールマン女王陛下のお気に入り

不健康な生活で醜く太ってメンタルの破綻した女王、憎たらしいだけでなく尊大さや威厳のウラにある圧倒的な孤独感とコンプレックス、時には可愛らしさまでを多面的に演じていた。

ただのオーバーアクトやコメディー演技に落とし込まず、コロコロと変わる一貫性のない表情を悲哀やユーモアを醸し出しながら微細な表情の変化だけで表現しきっている、40代半ばでこの貫禄の怪演はまさに絶品だった。

 

【第2位】スカーレット・ヨハンソン「マリッジ・ストーリー」「アベンジャーズ エンドゲーム」

アダム・ドライバーとの10分間にわたる一発撮りでの大喧嘩のシーンも圧巻だが、弁護士に心境を吐露する長セリフ・長回しのシーンで、感情を言葉にするのが苦手ながら微妙な変化をドラマチックかつ繊細に表現していて心を激しく揺さぶられた。

ドアの前で一瞬見せるためらいや、眠っている子供の背後で交わす視線を通して壊れゆく現実への不安や前に進んでいいのかの葛藤が痛いほど伝わってきた。

 

【第3位】ルピタ・ニョンゴUs アス」

マネキンの様な薄気味悪い表情のドッペルゲンガーと恐れおののく普通の女性という一人二役の演じ分けが素晴らしく、独特のしゃがれ声で終始不安な気持ちにさせながら、目つきやしぐさも本当に別人が演じているようだった。

一目で恐怖や不安を感じさせられる立ち振る舞いや表情、圧倒的な存在感、その内側に秘められた悲しみや怒り、そして終盤に明かされる秘密にいたるまでの説得力が見事だった。

 

(次点)エヴァ・メランデル「ボーダー 二つの世界」

体重も増加させて元の素顔を見ると本当にビックリするくらいの変身ぶり、本物の皮膚にしか見えない特殊メイクをしながらの細かい表情の演技には目を見張った。特に息遣いが素晴らしく、臭いを嗅ぐ時のわずかな鼻の動かし方や激しく息をする時などシーンによって微妙に使い分けていた。

アイデンティティが揺れる中で本来の姿で初めて共有できた時の感情が爆発するシーンには心を揺さぶられた。

 

(次点)ヤリッツァ・アパリシオROMA / ローマ」

監督の名前も作品も知らなかった演技未経験の幼稚園教諭で、妊娠した姉に代わってオーディションを受けに行ったら主役に抜擢されたらしい。

台本を一切渡さずシーンごとに役者と話し合って撮影を進めた演出法もあってか、芝居を超えた自然なリアクション、セリフはけっして多くないのに彼女の揺れ動く心情がリアルに伝わってきた、深く考え過ぎず入り込まずシンプルに演じる良さを感じられた。

 

 

助演男優賞

 

【第1位】ブラッド・ピット「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」「アド・アストラ(主演)」

これまでの主役級のスター性を完全に消し黒子に徹していて、一見優しそうに見えるけどイザと言う時の圧倒的な強さや肉体美とのギャップ、引き立て役としての引きの演技が素晴らしかった。

ディカプリオとの距離感や流れに任せて生きる空気感も良く、「自分が何者か」を動作や表情で説明しないで周囲に合わせるだけで観客を共感させていく、50代なのにナチュラルでセクシーでカッコ良すぎだった。

 

【第2位】ジョー・ペシアイリッシュマン」

スコセッシとデニーロがタッグを組んだ映画には無くてはならないメンバとして、映画界を引退していたのを数年かけて説得して見事に復帰。

これまでの作品と違ってデニーロを操るマフィアのボスに大出世して雰囲気も全く別人になっていて、久々とは思えないハマりぶり。老人特殊メイクで甲高い声の存在感はガタイこそ小さいものの静かな凄みと迫力があり、多くを語らずも醸し出す狂気はさすがだった。

 

【第3位】マハーシャラ・アリ「グリーンブック」

お坊ちゃま育ちで気取り屋ではあるが凛とした美しさの中に秘めた絶対的な孤独、黒人差別に対する忍耐力、実際に自分で弾いているピアノの情熱的な演奏、ナイーヴで繊細な所作や抑えた演技の中で醸し出す繊細な表情や佇まいが素晴らしい。

雨のシーンで車から降り「完全な黒人じゃなくて完全な白人でもなくて完全な男でもなかったら一体私は何者なんだ?」と叫ぶシーンは胸に迫ってきた。

 

(次点)アル・パチーノアイリッシュマン」

今作がスコセッシ作品初参加とは思えないくらい馴染んでいて、相変わらずの圧倒的な迫力と怒号でだれかれ構わずブチ切れる。スゴみがありながらもカリスマ性と愛らしさが備わり、横暴で無秩序すぎるのに憎めないが、権力にとりつかれ裸の王様となりながら破滅への道を歩んでいく。

組合員を前にしてノリノリで演説するシーンの圧倒的なオーラと話しぶりは選挙に出たら当選間違いなしレベルだった。

 

 

 助演女優賞

 

【第1位】ローラ・ダーン「マリッジ・ストーリー」

ハリウッドセレブ御用達の離婚弁護士らしく180センチのオシャレ番長でひたすらしゃべりまくるグイグイ系、女性差別への怒りを最優先にスカヨハの視線なんて全く気づかずに突進していくインパクト大の濃いキャラをさりげなく見事に演じている。

無邪気と邪悪の紙一重でいて、知的なのになんかズレているキャラにどハマりしていて、この弁護士でドラマシリーズを作って欲しいくらい。

 

【第2位】レイチェル・ワイズ女王陛下のお気に入り

女王と昔から一緒にいて政治的にも友人関係的にも性的にも女王を支配している立場、誰に対しても引けを取らぬ威厳と裁量、フェロモンを漂わせ男勝りな姿がカッコ良くイケメンすぎる安定感のある演技は説得力あり。

女王のことを一番対等の人間として見ているのも本当であろう、冷静沈着ながら時に大胆な人物として誇りと信念が宿っていた。

 

【第3位】エマ・ストーン女王陛下のお気に入り

最初はただの優しい世間知らずな少女が次第に本性をむき出しにしてくる(育ち方なのか気質なのか)変わり身が面白く、男を手玉に取る様子も自然で上手い。

権力構造の犠牲になり続けてきただけに、知性やずる賢さを内に秘めながら溜め込んだ怒りを社会に対して仕返しする姿が、可愛くてワイルドで意地悪で、表情豊かに伸び伸びとした演技には天性の才能を感じられた。

 

 (次点)マーゴット・ロビー「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」

ゴージャスでエレガントな美しさをたたえ旦那に愛され生まれてくる子供や自分の未来にワクワクする姿が何とも愛おしい、彼女にはもっとまだ知らない多くの幸せが待っていたことを思わせることで現実の事件の残酷さを際立たせる。

特に映画館に自分の出演している映画を観に行くシーンは、史実を知っているとグッとくる、観客が湧くと思わず涙をこぼしながら喜ぶ姿にはこちらも泣きそうになった。

 

(次点)レジーナ・キング「ビールストリートの恋人たち」

愛する娘を優しくも力強く支え、夫の無実を証明するために奔走する母を熱演、周りの人たちにとっては力強い存在だが、それゆえ自身に負荷をかけ脆弱な部分を悟られまいとしている。

息子のためにとある行動をとるシーンがあり、そこにすべてが集約されていて、綺麗ごとは語らず、そこにある問題を偽りなく対処する姿にも大きな愛を感じられた。