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2019年 邦画ベスト(個人賞)

◆2019年 邦画ベストの中から個人賞(監督・脚本・主演男優女優・助演男優女優)を選んだので発表していきます。

ちなみに昨年2018年の邦画ベスト(個人賞)はこんな感じでした。さて、今年はいかに? 


 

 

【監督賞】

 

【第1位】藤井道人デイアンドナイト」「新聞記者」

2作品とも挑戦的なテーマでエンタメとしても完成度が高い。

デイアンドナイト」は善と悪と言う究極の問いに対して、あらゆる出来事を二律背反として強調しながら観る人に考えさせる構成が見事。映像もセリフも全て「善と悪」「光と影」を徹底的に対比して曖昧な二つの関係性を示し出していた。

「新聞記者」は緊張感を煽るカメラワークや構図など演出、何より今の日本でギリギリ攻めた内容で公開させたことが素晴らしい。

 

【第2位】真利子哲也「宮本から君へ」

原作の熱量そのまま不器用でエモーショナルにソリッドな演出や時間を行き来する考え込まれた構成で、エンドロールまで一切だるみなく興奮させられっぱなし。

非常階段でのケンカ・暴力・ベッドシーンなど逃げの演出を挟まずコンプライアンスや忖度なんぞ関係なし。巷にあふれる凡庸なテレビドラマの安易な映画化とは格・覚悟が違う、スタッフ・役者すべてがこの映画のために全身全霊こめて作っているのが伝わってきた。

 

【第3位】山戸結希「ホットギミック ガールミーツボーイ」「21世紀の女の子」

映画文法を無視しまくった演出は自由な感性のまま撮っているようで計算され尽くしていて、舞台劇のようで映画的である新しい映像感覚が凄い。

写真や静止画も盛り込んだ膨大なカットが秒単位で切り替わり、流麗なワンカットや長回しはシーンごとに意味を持たせて使い分け、心象風景に合わせた色彩や配色や音楽にこだわり、今自分が撮りたい感情の動きを優先するカメラワークまで美の追求・完璧主義への労力に恐れ入った。

 

(次点)石川慶「蜜蜂と遠雷

映像化困難と言われていた小説の音世界を、雨音のサラウンドと拍手の重なり、月明かりのピアノ、海で見た雷、黒い馬、黒いドレスなどの演出を挟みながら、余計な説明を入れずひたすら演奏シーンと奏でる音楽だけで背景や心情を表現したのが素晴らしい。

こだわりの構図と色使いと光の入れ方、多彩なアングルで撮るカメラワーク、繊細なのにダイナミックな手先の動きを捉えた演奏など音楽を心から楽しんでいるのが伝わった。

 

(次点)深田晃司「よこがお」

徐々に現実と幻想が混濁していく現在と回想シーンの構成が巧みで、演技の上手さもあり今まさにこの人の中で何かが壊れてるのが伝わる怖さ、普通の生活から転げ落ちる気持ちの変化が手に取るほどに分かるのが素晴らしい。

昼と夜の公園での二人の対峙シーンのショット、その時の背景や心情やを見事に表現した様々な色や音響の使い方からラストへの展開、特に音が登場人物を追い詰めていく過程はまさに圧巻の演出だった。

 

あと、今年も白石和彌監督は「凪待ち」と「ひとよ」というクオリティの高い2作品を仕上げてきたのは流石としか言いようがない。「麻雀放浪記2020」で息抜きし過ぎたので次点かな。

 

 

脚本賞

 

【第1位】深田晃司「よこがお」

時系列が複雑に入れ替わり進むストーリーは「なぜ彼女がこうなったのか?」というミステリーを軸に進んでいくが、介護やマスコミなどの社会問題もさりげなく盛り込み、一人の女性の絶望と復讐の物語と同時に人間心理の奥底に潜む得体のしれないものがエグられていく(愛と憎しみは紙一重)。

ほんの少しのズレで被害者・加害者になる可能性があり、ある側面から見たとき誰でもその二面性を持ちうるということが恐ろしかった。

 

【第2位】石川慶「蜜蜂と遠雷

原作の500ページもある大長編の群像劇を主に栄伝亜夜の母の喪失からの成長物語に収束し、ストイックな作りで2時間にまとめ上げ、原作の本質を映画にしか出来ない表現で魅せてくれた。

原作が「言葉で音楽を聴かせる」のに対し今作は「音楽で物語を魅せる」、天才と元天才、完璧型と努力型、天才と呼ばれる人たちなりの苦悩やそれを乗り越えた先の世界を感じることができ、4人の見事な絡み合いで音楽の世界に入り込めた。

 

【第3位】今泉力哉「愛がなんだ」「アイネクライネナハトムジーク

登場人物の会話やキャラ設定がリアルで人間くさく、友達でも恋人でもなくそれ以上踏み込めない葛藤、男と女のズルさ・ダサさ・醜さ・甘えが容赦なく描かれている。

それぞれの想いがすれ違いながらダラダラした関係が淡々と続いていくゆったりとした会話劇に仕立て上げ、鑑賞する人によって、どれだけ人生の中で恋愛に重きを置くか?誰に共感できるか?で古傷がえぐられる人もいたり感想・評価が変わっていく作りが見事だった。

 

(次点)片山慎三「岬の兄妹」

障害、差別、失業、貧困、売春、犯罪、絶対にメジャー映画で出来ないタブーな題材に挑戦し、金銭面での貧困だけでなく障がい者としての社会的弱者の貧困をも描き出していて、更に一歩踏み込んだ現実の生々しさや厳しさから人間の本質を炙り出していく。

最後まで苦しい展開の中に挟み込まれるユーモアに笑っていいのか分からなくなり、彼らの犯罪行為を正当化してしまう自分の価値観や倫理観がひたすら試されるのも見事だった。

 

(次点)小林啓一「殺さない彼と死なない彼女」

4コマ漫画というフォーマットを映画に落とし込むお手本を見せてくれたような見事な脚色で、原作に無いシーンを追加し時間的にも空間的にも断絶していた3つの物語を1つのセリフに収束させて、違う一本の物語と感動が生まれてくる構成が見事。

キラキラ淡く儚く痛くもある10代の全て、狭い世界と少ない人生経験の中で死という選択肢があることを、個性豊かな不器用なキャラたちに共感しつつ哲学的に考えさせられた。

 

 

【主演男優賞】

 

【第1位】池松壮亮「宮本から君へ」 助演:「よこがお」「町田くんの世界」「リトルゾンビーズ

ホアキン・フェニックスに対抗できるレベルの成りきり度、バカで無様すぎる真っ直ぐさに共感は出来ないが、宮本のあらゆる感情が目やちょっとした動き一つで手に取るように伝わってくる。

血だらけ・鼻水・よだれダラダラ、前歯抜けのふやけたセリフ回しにかすれ声を徹底して違和感なく演じる凄みに、いつの間にか「宮本負けるな」と感情移入し、映画史に残るプロポーズに至るまで最後には自分も宮本になって咆哮していた。

 

【第2位】山﨑努「長いお別れ

昨年の「モリのいる場所」の偏屈老人に続き、認知症の高齢者をこれほど完璧に演じ切れるのはこの人以外に考えられない。

緩やかに失われていく記憶、衰える運動機能、話し方や歩き方や食べるのもたどたどしくなっていく様子は演じてる感が全くなく本物の認知症かと思わせる。家族のことを完全に忘れているようで、それでも心のどこかでは家族を認識している絶妙な立ち振る舞いと表情が見事。妻役の松原智恵子も素晴らしかった。

 

【第3位】松坂桃李「新聞記者」「居眠り磐音」

昨年の「娼年」「孤狼の血」に続き今回も攻めた役で、事務所含めよく出演させたなあと心配になるが(日本の女優が断ったからシム・ウンギョンになった)、更に幅も広がりこの年代ではトップクラスなのは間違いない。

怯え、怒り、後悔、覚悟など様々な心情の変化と弱さと強さの揺れがとてもよく伝わってきて、やはり目の演技は素晴らしい。ラスト横断歩道の向こう側の表情・目に滲むものには誰もが心をつかまれ考えさせされるはず。

 

(次点)香取慎吾「凪待ち」

ジャニーズ時代なら絶対にやらなかったであろうギャンブル依存症のクズ男、その大きな体・背中から漂う色気と哀愁、無精ひげのやさぐれたどうしようもない男の負のオーラをまといながら、己の弱さとの闘いに必死にもがき葛藤する姿が胸に迫る。

クズ過ぎるのにどこか放っておけない・許してしまえるのは、本人の持つ”人懐っこさ”や"末っ子感"といったイメージが上手く作用しているのか、キャスティングも見事だったと思う。

 

(次点)菅田将暉アルキメデスの大戦」
(次点)笑福亭鶴瓶閉鎖病棟

 

 

 

【主演女優賞】

 

【第1位】松岡茉優蜜蜂と遠雷」「ひとよ」

正直3位までの3人みんな一位のレベルで選べないが、2作品の演じ分けのギャップが一番激しかった松岡茉優にした(他の二人は過去に一位にしたこともあり)。

「蜜蜂」はセリフや表情、仕草だけでなくメイクや衣装、佇まいや姿勢すべてに意識して、揺れ動く心情を揺れる髪の毛一本一本で、死んだ目と笑ってない笑顔、決壊する感情とクルクル変わる表情で複雑で繊細な天才ぶりを完璧に表現していた。ラストの何かが憑依したかのような圧巻のパフォーマンスも見事。

「ひとよ」ではガサツで人情味のある田舎のお水ヤンキーで、怒ったり笑ったりどこか諦めた脱力感を感じさせ4人をつなげる緩衝材となっていた。

 

【第2位】蒼井優「宮本から君へ」「長いお別れ」、助演:「ある船頭の話」

「宮本」単作だけなら一位にしたい、ほぼスッピンであえて少し崩している表情、言葉と表情が合ってないまま目まぐるしく変化する感情の起伏の激しさ、内面に忍ばせ溢れ出る憎悪、狂気の沙汰とも思える振り切れ方を見せながらも時おり見せる愛らしさやエロさの配分に女優としての円熟味すら感じた。

「お別れ」では進行役の狂言回しのように立ち廻り、男運もなく器用に生きられない女性を見事に演じていて、山崎努とのユーモア溢れる絡みも最高だった。

 

【第3位】筒井真理子「よこがお」、助演:「ひとよ」「愛がなんだ」「洗骨」

深田監督の当て書きのように彼女の魅力が前作以上に引き出されていて、圧倒的に自然な佇まいの中、目の動き、息づかい、姿勢や歩き方、話し方、すべてが神経の先まで張りつめていた。

普通のおばさんからの七変化が圧巻で、絶妙な塩梅で親近感を持たせながら繊細さと危うさが崩壊してからの全く違う雰囲気の醸し出し方は完全に一人二役で、ラストの慟哭の表情も絶品。美しいヌードを披露した58歳の美魔女ぶりも讃えたい。

 

(次点)和田光沙「岬の兄妹」

驚異的なまでの鬼気迫る熱演でドキュメンタリーを見ているかのような錯覚に陥る、自閉症の方に見られる目の動きや手の動きといった行動が全く違和感がない。

まさに体当たり演技で臨んだ迫真のセックスシーンは、激しく、泥臭く、美しくは見えない身体のラインも少しだらしなく、リアルで生々しい性への欲望のむき出し感も素晴らしい。善悪の判断が難しいと思われる中で、本能のままに行動している無垢な感じもよく出ていた。

 

(次点)岸井ゆきの「愛がなんだ」

彼女のための映画と言えるくらい彼女の魅力が全開で、キャラ的には大袈裟で嘘くさくなりがちなところを、絶妙なバランスで、かわいさ、健気さ、イタさ、コミカルさと生々しさを見事に表現していた。

見ていて全く共感出来なくてイライラするけど応援したくもなり、実際には結構こういう子いるよなあと思わせる感じも上手く、ラブラブでイチャつく嬉し恥ずかシーンのあるある畳み掛けやモヤモヤラップシーンなども良かった。

 

 あと、「火口のふたり」の瀧内公美の身体を張った演技も素晴らしかった(震災・裸のテーマが続くけどちゃんと脱いで表現できるのは貴重)。

 

 

助演男優賞

 

【第1位】成田凌「愛がなんだ」「さよならくちびる」「チワワちゃん」「カツベン!」「人間失格 太宰治3人の女」「翔んで埼玉」

今年いった何本出たのか?いい意味で数で勝負もあり、正直演技自体はそこまで上手くは無いのだが、様々な役柄に挑戦し演じ分けているのは良いし、役によってハマった時の雰囲気は彼ならではの魅力が爆発している。

基本的に見た目イケてるけど中身スカスカな役が似合い過ぎ、クズでイライラするけどどこか憎めなくて母性本能をくすぐられる笑顔は男でも惹かれてしまう。「愛がなんだ」の追いケチャップのアドリブは反則技。

 

【第2位】柄本佑アルキメデスの大戦」「居眠り磐音」、主演:「火口のふたり」

「大戦」では最初は嫌々ながら菅田将暉に徐々に打ち解けていく変化を絶妙の表情で演じながら、掛け合い漫才のように息ぴったりで推理や計算をする様子はシャーロックとワトソンみたいなバディになっていくのが心掴まれた。

年上で堅物の部下として漫画では表情一つ変えずに仕えているのにこんなに萌えキャラになって「一線を越えてしまった・・」など笑わせてくれた。クズエロの「火口の二人」とのあまりのギャップにも驚くしかない。

 

【第3位】松坂桃李蜜蜂と遠雷

周りがピアノだけで生きてきた中で唯一庶民的で生活の音を大事にしている、天才3人との対比を浮き彫りにされながら、みんな1番感情移入できる人物を見事に演じていた。

ピアノが好きな気持ちは人一倍で、亜夜にとっても最初の救いとなる存在、彼自身も家族から影響を受け、音楽を完成させているのが良く、個人的には彼の「春と修羅」が彼のキャラが全て詰まっているようで「生活者の音楽」が表現されていて一番グッときた。

 

(次点)若葉竜也「愛がなんだ」「台風家族」

「愛がなんだ」では顔が絶妙で苦笑いが上手い、弱々しいのに強さも感じる、気持ち悪いのにかっこよくも見える2面性が魅力的で、どれも笑いと切なさあふれる場面が多い。

深夜に葉子の写真を撮る、葉子の実家でのテルコとの会話、別荘でのスミレとの会話、個展での葉子との再会、特に夜のコンビニ前のテルコとのやりとりは屈指の名シーン。2回出てくる映画流行語大賞の名セリフ「幸せになりたいっすね」のニュアンスの使い分けと表情は絶品。

 

(次点)田中哲司デイアンドナイト」「新聞記者」

両作品ともに主人公が対する一番の敵役を本当に憎くて嫌になるほど見事に演じているが、彼にも守るべき家族があり信念があるので単純に悪として憎み切れない。

デイアンドナイト」の極寒での泥だらけ迫真の決闘も凄かったし、「新聞記者」では人間の感情を排したようなキャラクターで、笑っても怒っても表情が変わらず、最小限の言葉と動作で追い詰める、何も見ていないようで全て見透かされているような眼差しが恐ろしかった。

 

その他、「半世界」「閉鎖病棟」「リトルゾンビーズ」の渋川清彦、「閉鎖病棟」「楽園」の綾野剛、「ホットギミック ガールミーツボーイ」「殺さない彼と死なない彼女」の間宮祥太朗、「洗骨」の鈴木Q太郎も完璧なハマり役で素晴らしかった。

 

 

 助演女優賞

 

【第1位】小松菜奈「さよならくちびる」「閉鎖病棟 それぞれの朝」「サムライマラソン

「さよなら」ではナチュラルにコケティッシュな魅力全開で自由奔放なカリスマアーティストを演じているが、実際の透き通った歌声や演奏も素晴らしく当たり前の日常をドラマチックに変えられる空気感と雰囲気力は彼女ならでは。

対照的に「閉鎖病棟」では義父から壮絶なDVや性的暴行を受けトラウマを抱えた重い役で、悲しさと悔しさが入り混じった役が乗り移ったような叫びとラストの魂から絞り出したセリフが圧巻だった。

 

【第2位】前田敦子町田くんの世界」「マスカレード・ホテル」「コンフィデンスマンJP」、主演:「葬式の名人」「旅のおわり世界のはじまり」

 「町田くん」では並み居る大物ゲストの中でも圧倒的な存在感で制服姿のスレた高校生役を演じているが、「もらとりあむタマ子」で魅せたようにこういう役は最高にハマっている。

常に仏頂面でシニカルに妄想を膨らませながら毒づき、荒っぽく励ましていき、いちいちコメントが最高で笑いを一人で全部持って行った独壇場。「青春やべえー」「唐揚げ棒食ってる場合じゃねえな」とか、AKBは嫌いになってもあっちゃんを嫌いになるわけがない。。 

 

【第3位】市川実日子「よこがお」「はつこい お父さん、チビがいなくなりました」

「よこがお」は、この手のコミュ障・メンヘラ系の役はお得意ではあるが、実年齢41歳にして20歳前半の役柄でのジャージ姿もハマっていた。

愛情の裏返しのような嫉妬がエスカレートして、結局好きな人を傷つけてしまうモヤモヤさ、内面に複雑な心情を抱え込んだ単純でいて非常に難しい心情を垣間見せないといけないキャラクターを見事に演じていた。昼と夜の公園で筒井真理子と対峙するシーンで醸し出す感情のスリリングさも堪らなかった。

 

 (次点)清原果耶「デイアンドナイト」「いちごの唄」「愛唄 ―約束のナクヒト―」

ちはやふる-結び-」「透明なゆりかご」での存在感も良かったが「デイアンド」でのハマり度合は完璧で、「正しいって何?」「普通って何?」一言一言軽く聞いているのに凄く重みがある。

儚いとも危ういとも言い表せない独特で圧倒的な存在感、あの年頃ならではの時折見せる少女の一面と理不尽にぶつかっていく姿、繊細な感情で完全なる光と闇の二面性を演じている。特に目力が素晴らしくこれだけ目だけで語ることが出来る子はいないのでは。

 

(次点)池脇千鶴「半世界」

3人の物語をしっかり支えつつ終盤はまさに彼女の独壇場になっていき相変わらずの安定感。くたびれた主婦のイメージが定着した感もあるが、今作は田舎の普通のおばさんとして妻として母として、可愛さと強さと弱さのバランスを見事に表現していた。

ちゃんとエロいセックスシーンもいつも通りだし、本当に幅広く欠かせない素晴らしいバイプレイヤーに成長してきた。

 

あと、「台風家族」「ひとよ」のMEGUMIや「凪待ち」「新聞記者」の西田尚美すごく良かった。