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「スパイダーマン:スパイダーバース」 ★★★★☆ 4.8

DOOP&COOL!動くコミック+3Dアニメ表現の映像革命を映画館で体験せよ、誰もがヒーローになりえる時代を受け入れる覚悟と勇気とは?

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アカデミー賞長編アニメーション受賞作で各方面でも大絶賛されているが、正直これほどまでに素晴らしいとは思わなかった、コミック、実写、アニメの斬新な融合と共に才能、センス、技術、テクノロジーが高い次元で昇華した圧倒的映像体験を味わえる革命的な傑作アニメーション。4DXのアトラクションを加えれば更に新感覚の没入感まで得られる。

ストーリーも王道の展開で胸熱シーンが盛りだくさん、悪の組織により時空が歪み、異なる平行世界からそれぞれの特徴を持つスパイダーマン達が集結・結託し、時空を戻すため戦う! そこに成長や葛藤、自己犠牲、親子の確執、大切な人の死などが盛り込まれた気持ち良いほどのヒーロー作品。

スゴイものを作ってやろうという製作陣の情熱が暑苦しいくらいに伝わってくる、ストーリーも映像も全てがセンスの塊…グラフィックの細かな工夫も楽しくてパラパラとページをめくる感覚が凄い。エフェクト、キャラの動き・タイミング、音楽、色彩設計、全てがイケてる。日本のアニメーションからの影響も随所に見られて馴染みやすかった。2Dと3Dアニメの融合という点では、1つの答えにたどり着いた感じ。これ以降、映画やテレビの表現が変わっていく歴史の分岐点になりうるかも。

「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という根源的なテーマを普通の少年の視点で掘り下げて、誰もが成りうる「スパイダーマン」という運命を受け入れることを描いている。過去何作か作られてきたスパイダーマンシリーズ、予習しなくても最大限楽しめる作りになっているので、これまで見たことがないという方も安心して見られます(もちろん細かい設定やオマージュを楽しむには知識はあった方がいいが)。

ただし、圧倒的な情報量の映像を楽しむには字幕読んでる場合ではないので、出来れば最初は吹替版(全員プロ声優で完璧)がオススメ。見れば見るほどその凄さが増していくので、2回目はIMAX3Dで堪能するのも良いのでは。

 

SFではおなじみ平行世界(パラレルワールド)、いま自分がいる現実以外の世界が異次元に無数に存在している、会うはずのない別世界のスパイダーマンたちが集まって一緒に戦うという醍醐味。実写だと仮面ライダーウルトラマンなどでクドイ感じもするが、アニメだと違和感なく入っていける。

その6人のキャラも素晴らしく、お腹もたるんだおっさんだけど芯はしっかりしたパーカー、少し年上姉御肌のクールビューティーなグウェン、モノクロで色の判断出来ない(けど最終的にルービックキューブを完成させる)ハードボイルドなノワール、日本の萌えカワイイ未来から来たペニーと使いのロボット、カートゥーン世界から飛び出してきたタッチが違うハム、そして何よりも大きな成長を見せる主人公マイルス。人種、性別、年齢、体型、人間さえも超えて誰でもヒーローになって共に戦うのが社会風刺的でもあり。

ピーター・パーカーを中年に設定したのが面白く、同年代?として大いに共感してしまった。いまだ自己を確立できずに歳を重ね、現実問題にうまく対応できないで葛藤しているが、マイルスを育てながら一緒に成長を遂げていく。

マイルスもヒーローになることに葛藤して、自分の能力に自信を持てず一歩を踏み出せない。「無理だよ、できるか分からない、また失敗しない保証ある?ないよ、信じて飛べ、必要なのは勇気だけ」。努力を繰り返し、自分を信じ、困難に立ち向かう覚悟を決めれば、新しい世界が開ける。

身の丈に合わないスーツも、それに見合う人間になろうとすれば、いつか自分に見合ったものになる。だからこそ、ついに高層ビルから跳躍し、初めて高所からウェブ・スイングする、一人の少年が自分の人生を選び取る瞬間に胸が熱くなるのだ。

 

【映像】

まさに映像革命!、これぞ現代の技術で至り得る最前線のアメコミ+3Dアニメ表現の極地。CGアニメなのに手書き、 2Dでありながら3D、各キャラがカートゥーン調、アニメ調、ノワール調、日本の萌え調など絵柄の違う者同士が一緒の画面に収まっている、その世界観の中に多様なアニメーションを共存させている凄さ。

トーンで粗く塗られたような画面の色彩であえてドット感を強調したり、印刷の版ズレに見える色収差をあえて活用したり、ビデオの色ノイズ、手描きの多重線、「カクカク感」など様々な工夫で、本当にそのままコミックが動いている表現が驚異的。

まるで画面がアメコミの1ページであるかのように、マンガのコマのように割られ、キャラクターの心情や効果音が文字として表示され(吹替版だと日本語なのでアメコミ感が少し薄れるかな)、かつ物語や心情とのつながりを色彩、明度、構図に至るまで徹底的に計算されていた。

作中に配された様々なウォールペイント、ヒップホップなどのストリートカルチャーとも合流し、音楽ともがっちりハマっていて世界観への没入度合いが半端ない。

ちなみに、コンピューター・アニメーションに手書きタッチアップをブレンドする非常に手間と時間のかかる技法(ソニーが特許申請)ゆえ、1秒仕上げるのに1週間かかるそう(初めの10秒を確立するために1年かけた)、作り上げたスタッフには本当に頭が下がる。

 

【演出】

サムライミ監督版へのオマージュとしては、第1作からはメリージェーンとの逆さまキスシーン、第2作からはあの電車を止めるシーン、第3作はピーターのダンスシーンなどが見つけられた(他にも多くあるはず)。

いたるところにニューヨークのストリート・カルチャーが満載、ナイキのエアジョーダンのハイカットスニーカー、グラフィティ・アート、チャンス・ザ・ラッパーの「Coloring Book」のポスターやweekndのポスターなどが街中に溢れていて、現代のアメリカのリアルな世界観とマッチしている。合わせてヒップホップ愛の溢れるサントラも、劇中ひたすらお腹にズンズンと効果的に流されて、主人公の成長と共に10年代HIPHOPアンセムが変移していく演出にはしびれまくった。

グラフィティとは黒人発祥の文化であり、反抗や抵抗の象徴でもあるので、マイルスがグラフィティに執着しているのは、自分を認めてくれない父親への「反抗」の表れとも見れる。父親は息子のためを思って進学校(名前がvision、自分の未来・理想像を反映)へ通わせ、息子の趣味とスパイダーマンを嫌っていたが、終盤になって息子を応援し、スパイダーマンを受け入れる。一連の家族の物語としても素晴らしい。

その他、印象的だったのは

・オープニングロゴの出方、アメコミ色強めにMARVELのタイトルが流れるのがカッコよすぎる。

・重力から解放されたような縦横無尽のカメラワーク、ラストバトルの目まぐるしさ、同じシーンを3つの角度から見せていく演出が効果的。

・ペニーパーカーのロボが「痛い」「愛」と映しながら壊れていくシーンや、敵役キングピンの過去が鉄道の中に映し出されて、もう妻と子供はいないと分かっていながら幻影を追って駆け出すシーンが泣ける。

・マイルスがキングピンを倒す時に、アーロンおじさんから習った伏線の「肩ポン」をあえて使うのが染みる。

 

日本語吹替版のキャストもすごく良かった、宣伝のための素人タレントやアイドルがいなくて全員プロの声優なので、全く違和感がなく、見事にキャラを演じ切っていた。この人以外いないカッコよさノワール大塚明夫、頼りなさから次第に力強さが増していくマイルスの小野賢章おちゃらけてるけど芯は強く優しさ溢れるピーターの宮野真守、クールなツンデレさがたまらないグウェンの悠木碧など、みんな完璧で映像に集中できた。

 

【4DX】

今回は、かなり評判も良かったので、アニメでは初めての4DXを体験。

アクションシーンでは全身や背中への打撃?(ボコッと押される)や上下左右に大きく揺れる座席と振動、特に恒例の高層ビルからのスイングのシーンは、全身に感じる前方からの風と、糸発射と同時に座席からプシュッと放出されるエアーが完全にリンクして、一体となってスイングしている気分で最高だった。

ヒップホップの重低音と音楽や効果音に合わせた振動が響きまくり、吹き出しでの光やストロボでコミックを見てる感覚が強調されたり、雪のシーンで実際に雪が降ってきたりと、完全に世界に入り込んでいた。

ただ、2時間強あるので、終わった後はドッと疲れます。。遊園地乗り物に慣れてない人は、映像に集中できないで酔う可能性もあるので注意が必要。

出来れば、近いうちにIMAX3D(吹替版が無いのが残念)でも見たい。

 

※ここからネタばれ注意 

 エンドロールが終わるまで席は立たないで!

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【(ネタばれ)ラスト・考察】

エンディング曲は、ありがちの日本公開版限定、「凛として時雨」は嫌いじゃないが、オリジナルのままで良かったのでは。

エンドロール後のシーンは、最古のスパイダーマンと最新のスパイダーマンが邂逅して、67年当時のアニメのワンシーンを再現しているということ。(通でないと分からないが、何となくそんな感じで微笑ましく終われます)

 

本作はヒーローの意味を教えてくれる、ヒーローの条件とは人気やビジュアルや能力で決まるものではなく、自分がヒーローを名乗る覚悟があるかどうかだ。自分の個性を生かし、誰かの為に勇気を出して飛ぶこと、その勇気が大勢の人に伝達して「みんな一人じゃない、どこかでつながっている」と思わせることが大事なのだ。

マイルスのラストのセリフにあるように、我々は「誰でもヒーローになりえる」、マスクや全身を覆うスーツで性別も国籍も人種も関係なく一緒に同じ目的に向かっていける。みんながスパイダーマンであり、誰かのヒーローであり、本当の自分であり、自分を救えるヒーローなんだ。

自分やあなたも別の世界ではスパイダーマンになっているかもしれない、さあ勇気を出してマスクを被って一歩を踏み出して飛んでみよう!

 

昨年この世を去ったスパイダーマンの生みの親、スタン・リーに向けて、エンドクレジットで綴ったメッセージ「ありがとう。僕たちは一人じゃないと教えてくれて」

最後まで完璧で泣けた・・