◆2020年もたくさんの映画を観てきました、映画館での新作はもちろん旧作・B級含めレンタルやネット配信(AmazonPrimeやNetflix含む)、テレビ放映など合わせてざっくり600本ほど。
そのうち2020年1月~12月公開の作品の中から、洋画・邦画に分けて独断と偏見で【ベスト20】を選んだので発表していきます(順位はその時の気分で変わるし、残念ながら見逃した作品もあるので見たら更新するかも?)。
ちなみに昨年2019年の洋画ベストはこんな感じでした。さて、今年はいかに?
【第20位】「ウルフウォーカー」
アイルランド版もののけ姫、自然への畏敬と共存、人間と自然だけでなく文化や価値観の違うもの同士のぶつかりあいと交流を2人の少女を通して丁寧に描く。
滑らかで大胆な描線の使い分けや構図、繊細で温かい色使いなど美しい独特なアニメーション、スピード感溢れるアクション、世界の残酷さと美しさの両方を際立たせた作劇はまさに美しい絵本がそのまま動いているような世界観。ラストも今の時代に合った様々な受け取り方が出来る最高の着地。
【第19位】「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」
高校最後の一日で全力で青春を取り戻そうとする二人、この関係性が素晴らしく、マイノリティー含め登場人物すべてが主人公でありいい奴ばかりでアメリカらしい派手なパーティ三昧が羨ましくもなるが、誰もが笑って共感できる最高の青春映画。
この圧倒的な肯定感でイケてないからと劣等感で自分を傷つけることはしないで、笑いのテンポも一切ダレずに絶妙、おセンチにさせようとしておいてさせないバランスの良さも見事。
【第18位】「在りし日の歌」
文化大革命と一人っ子政策という中国国家の時代に翻弄された夫婦の30年間をじっくりと3時間かけて感情を映し出す人間ドラマ。長尺でセリフも多くなく地味で重い内容だが、丁寧で穏やかな時間を共有しながら人生の重さを感じられる。
賛否ある分かりにくい時系列シャッフル編集も効果的な面もあり、ごく普通の普遍的な家族、どこにでもいるような夫婦を演じた二人の抑えた演技が絶品、日々の暮らしをがむしゃらに生きるということ。
【第17位】「シカゴ7裁判」
ベトナム反戦運動での実話をベースにしたNetflixらしい法廷映画。50年前の物語に描かれるデモ隊と警察と人種差別、理不尽で不当な裁判や自分たちの利権を守ることしか考えていない政府、権力の側からの扇動といったモチーフは、まさに今起こっている映像そのもの。
判事や裁判の酷さがあまりにも際立つがそれ故にラストが響く、セリフの応酬をはじめ脚本や豪華な俳優陣もさすが。平和のために争いが起こるのはなぜか?その価値観を改めて見直すべきなのかも。
【第16位】「Mank マンク」
あの傑作「市民ケーン」のスタイルを借りつつ1930年代のハリウッドを舞台に、皮肉屋でウィットに富む脚本家マンクの目を通し、虚飾の街ハリウッドを描き出す、そこに見えてくるのは現在のアメリカ。
凝った構成と革新的な技術、圧倒的な情報量ながら複雑な人間関係と機微を理路整然としていて面白く、モノクロの味わい深さと美しさを感じさせてくれる映像は圧巻!Netflixならではのフュンチャー版ワンハリ。
【第15位】「凱里ブルース」
恐るべし新鋭・ビーガン監督、見終わった後でも夢から覚めないで余韻がずっと残る、過去現在未来がミックスされた世界は夢なのか現実なのか必然的なのかも分からない。
詩的な白昼夢の40分の長回しや独特のカメラワーク、時間の感覚や物語から解放されて身体ごと浮遊するような心地よさ、いろいろな新しい試みを取り入れ時間を映像で表現している。過ぎゆく時間や永遠に留まる場所、日々の暮らし、捉えどころのないまさにブルース。
【第15位】「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」
こちらの試みは後半から3D仕様での60分ワンカット映像、残念ながら2Dでの鑑賞となったが儚い耽美的で退廃的な雰囲気での映像と長回しは前作同様で更に進化している。
洗練された分、前作の方が粗削りな分良かったかな、難解なのは確かだがアート系の括りで敬遠されるには勿体ない、次作でどう化けるのか楽しみ。好きな人と苦手な人にハッキリと分かれるが夢幻(無限)の世界をぜひ体験あれ。
【第14位】「娘は戦場で生まれた」
内戦が続くシリア最大の都市アレッポでスマホを使って映像を撮り始めた一人の女子学生が見た5年間の戦場の記録ドキュメンタリー映画。過酷な日常が続く中、彼女は妻となり母となり生き抜いていく。
今この瞬間こういう世界と人間が存在すること、それを知ることの大切さを容赦なく突き付けられる。あまりの凄惨さと生々しさに目を背けたくなる光景、とてつもない緊迫感、これが俳優や演技だったらいいのに、相当の覚悟が必要だが観るべき作品。
【第13位】「ソウルフルワールド」
これまでのピクサーでもっとも大人向けの作品、映像・音響など映画館で見るべきだけどディズニー配信でしか見られないのが残念でもっと多くの人に見られるべき。
3DCGアニメだからこその現実世界とソウル世界の対比がクオリティ含め世界最高峰。子供向けのギャグや冒険物語としても楽しめるが、ピクサーの描いてきた夢への向き合い方のラストが説教くさくならず、自分のきらめきとジャズる心ソウルに向き合い、この瞬間を生きることの大切さが今こそ誰の心にも響いてくる。
【第12位】「1917 命をかけた伝令」
今年度最高の圧倒的な映像と音響、まさに映画館での体験映画として圧巻、どうやって撮ったのか練りまくったワンカット風のカメラワークに唸らされる。
主人公と一緒に次に何が起こるか分からないスリル感で戦場を進んでいくRPG感覚、昼から夜のパートに移り変わる瞬間や最後の壮大な走り抜けるカットなど興奮しっぱなし。シンプルな話でありながら戦争と人間の本質を実感させてくれる。
【第11位】「レ・ミゼラブル」
同名作のユーゴーが19世紀初頭を舞台に描いた格差と社会分断の悲劇は、形を変えて世界中で今も繰り返されていてこの負の連鎖は止められないのか・・ここでは正義感や倫理観は無力であり悪役もヒーローもいない。
この悲劇を止めるためには正しさを怒りや力やで押し通すのではなく、子供の見本となるべき大人が変わらなければ未来はない。社会派映画であり同時にエンタメとしてもよく出来ていて、終盤の展開とオチに考えさせられること間違いなし。
【第10位】「TENET テネット」
今年を象徴する今年唯一の超大作映画として映画館を救ってくれたノーラン監督。CGに頼らないIMAXならではの映像と、時間の逆行と順行を新たな視点で実際に映像化して今回も今まで見たことないものを作るという徹底したこだわりに度肝を抜かれた。
脳みそフル回転でも1回だけでは決して理解不能ながら、矛盾と混乱すら感覚的な面白さで魅せてくれる、ようやく自分の頭の中でつながった時の爽快感ったら。
【第9位】「ペイン・アンド・グローリー」
過去と向き合いながら映画製作の再起を図る監督の半自伝的内容。回想と現在を行き来しつつ流れるような美しい構成、ラストの伏線回収、いつもの原色使いの色彩感覚はもちろん衣装、絵画、小物いたるまで70歳アルモドバル監督の傑作更新中。
痛みと栄光の両方を知ってるからこそ生まれてくる圧倒的なセンス、アントニオ・バンデラスの表情だけで魅せる深淵な渋すぎる演技が強烈で枯れ専の新境地開拓か。
【第8位】「ジョジョ・ラビット」
コメディタッチで描く優しい眼差しと可愛さの中の狂気、ヒトラーを空想の友達とする洗脳された少年の成長を通して戦争をあぶり出す。子供目線だからこそ違和感なく日常に溶け込む戦争にハッとさせられる。
恋を知り人間の一番強い力である「愛」の意味を学ぶことで戦争を肯定から否定し愛で立ち向かう、監督・脚本・出演をこなしたワイティティ監督にしか描けない物語。ママ役のスカーレット・ヨハンソンと友人役の少年が素晴らしい。
【第7位】「フォード vs フェラーリ」
車好きだけでなく利益やメンツを優先する幹部との闘いや不可能に挑むモノづくりの仕事映画としても見ごたえたっぷり。
レースを再現させる細部にまで行き届いたこだわり、圧倒的なエンジン音やスピード感がどんどん加速していく演出。現実社会でも味わうかのような過酷な試練、トライアンドエラーを繰り返しながら、それでも夢とプライドと命を懸けて突っ走る男たちの熱い魂にやられる、いぶし銀の熱血バディドラマ。
【第6位】「ミッドサマー」
燦々と降り注ぐ白夜の陽光の下で展開する世にも恐ろしい奇祭を描く鬼才アリ・アスターの大怪作。ホラーの形式をとりつつ完全なる恋愛映画でもあり、なぜか怖いながらも共感できてしまう究極の失恋からの立ち直り映画として、話題性もありヒットしたのも恐ろしい。
自分の価値観から見ると狂気の蛮行だが、見方を変えればこの上なく美しい至福の時でもあり、いろいろと脳みそを揺さぶられる・・ラストの新世界への扉もなぜか爽快!
【第5位】「異端の鳥」
この画のような陰鬱な仕打ちが、どこへ行っても異質と見られる少年にひたすら続く地獄めぐりの150分。ダウナーになりつつも圧倒的なモノクロ映像美と、どこを切り取っても成り立つ構図に不思議と引き込まれて時間を忘れるほど。
独自性のある唯一無比の作品、骨太な反戦・反差別のメッセージ性も強いダークファンタジーでもあり、誰もが持つ異質への不安、人間として集団としての恐ろしさがえぐられる。
【第4位】「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」
アカデミー賞を獲るのも時間の問題、グレタ・カーヴィグ監督が描く何度も映画化されてきた古典文学の新解釈。基本的プロットは原作に忠実ながら、四姉妹の物語を現代的に特殊な構成で語り直すことで女性の生き方や幸せの意味が描かれる、全ての人に届くメッセージが生まれた傑作。
複数の時制を交錯させながら、繊細な心情の移り変わりを描いていて、同じ物語というメタ構造で結末はいくつもの解釈ができる開かれたものになっている、脚本も4姉妹の演技も素晴らしい。
【第3位】「燃ゆる女の肖像」
実質同率2位でもいいくらい、繊細な心象風景と映像美に引き込まれ心が震えた作品。女性同士に留まらない恋愛ドラマとしても当時の社会状況を反映しながら、少ないセリフでひたすら映像で語っていて、ここぞという時の音楽の使い方も素晴らしい。
視線のドラマでありお互いを見つめ合う双方の眼差しの交錯によって感情が語られる、あの力強い今年一番のラストカットは身体の震えが止まらなかった。
【第2位】「はちどり」
デビュー作とは思えないほどの風格があり完成度の高さは衝撃的、エドワード・ヤンや小津・是枝などにも近い感覚。14歳という多感な時期の繊細過ぎる描写、多くを語らないで表情だけでの表現など、主人公のたたずまいも素晴らしい。
今よりも女性が生き辛かった時代の思春期の揺れ動く心をリリカルに描いている。1人の少女が自分と家族を含めた社会との関係を発見してゆく物語と、韓国激動の時代の社会の物語をリンクさせていく手腕が圧倒的、普遍的で温かく生きる勇気をもらえる。
【第1位】「パラサイト 半地下の家族」
結局、年初に見たこの作品を超えるものは無く、アカデミー賞受賞も納得のどれをとっても一級品。何度も見ても発見できる細かい脚本、演出、構図、カメラワーク、美術、そしてソン・ガンホをはじめとする役者陣の素晴らしさ。
裏・万引き家族として社会格差も十分に盛り込みながら何よりもエンターテインメント性があり、オチまで考えさせられる要素も多い。デビュー作から追い続けたポン・ジュノ監督、映画界の歴史を変え世界の頂点まで極めるとは感無量。
★【総括】
新型コロナウイルスの影響で多数の海外の大作映画が公開延期となり、映画産業自体が未曾有の危機を迎えている中、それでも素晴らしい映画にたくさん出会えたことに感謝。
映画館自体に行く機会も少なくなった分、昨年以上にNet配信の映画(NetflixやAmazonPrimeなど)を見ることになった。通常の映画も敢えて配信のみや両方での公開など、地方含め普段アクセスする機会のない作品に出会うチャンスが増えたのは良かったのかなとも思う。
映画館を救うべく「テネット」の公開に踏み切ったノーラン監督の心意気には胸を打たれたし、映画や映画館もサステナブルな方向にシフトしていくのか?その存在意義について考えさせられる1年でもあった。
作品的には、昨年のアカデミー賞受賞作を中心にやはり良い作品が多く、年初に見た「パラサイト」の総合的な完成度を超えるものは無かった。2位の「はちどり」と韓国映画が1,2フィニッシュは初で羨ましいほどの充実期に入っているのでは。
あとは女性の生き方と社会背景をリンクさせ現代を問う作品(2、3、4、6、16)やいろんな角度からの反戦映画(5、8、12、15)、中国新世代の台頭(14、18、次点)などアジア映画の充実、Netflixならではの作品(16、17)などが目立った。
残念ながらベスト20から漏れた作品にも素晴らしいものが多かったので、以下に【次点】の5作品をあげておきます。
【次点】「バクラウ 地図から消された村」
全く予測不可能な展開で本質は王道のウエスタンながら見事に狂っているブラジル産ホラー怪作。ハリウッド映画の裏返しのようなまだまだ尽きない映画の可能性を見せてくれた。
前半の全く読めない展開から社会風刺も込めながら後半に爆発するバイオレンスも容赦なく、スターウォーズから黒澤映画までを取り込む作家性は見事。ポスターはミスリードだけどカルト感は強くハマる人にはたまらないはず。
【次点】「ブルータル・ジャスティス」
カルト的人気を集める気鋭のS・クレイグ・ザラー監督の重厚で激渋でクールなクライム・バディ映画。長尺でゆったりとしたテンポの遅さが持ち味なので好き嫌いが分かれるろうが、長ったらしい会話劇の無駄なシーンこそ登場人物の人間性が少しずつにじみ出てくる面白さよ。
バイオレンスシーンの残虐さも秀逸でショッキングなシーンを淡々と挟むことで緊張感が途切れなくて全く飽きない。メルギブソンの渋さや音楽のセンスも最高。
【次点】「透明人間」
今まで使いされつくしてきたネタを現代に置き換えた超低予算ホラー映画だが、脚本の秀逸さとその演出力と映像の完成度の高さは圧倒的。
犯人の頭の良さからの絶望感、様々な怪奇現象を誰も信じてくれず人間関係が崩壊していく姿、DVに遭っている者がどんなに声をあげようとも寄り添うのは暴力だけという現実問題を透明人間に例えたセンスに拍手!そして虐げられ、搾取されてきた主人公の痛烈な復讐劇に思わずガッツポーズ。
【次点】「鵞鳥湖の夜」
中国アンダーグラウンドで生きる底辺の人間たちを描いた濃厚で湿度の高いノアール映画。前作「薄氷の殺人」に続き全体的に古臭い感じが懐かしい往年の映画の雰囲気を漂わせながら、細かな演出やスタイリッシュなショット・映像のセンスがとにかくカッコいい。
退廃的な街並みに映える淫靡なネオン、臭いまでリアルな生活感やチンピラ描写が斬新かつリアルで怖く、逃避行する男女の刹那に生きる美しさと奥底にある人間性にやられた。
【次点】「リチャード・ジュエル」
実話を基に作られた安定のクリント・イーストウッドらしい作品。誰にでも起こりうる冤罪の恐怖、あえて今のSNS時代に考えさせられるメッセージ、映像もストーリーテーリングも洗練されていてスムーズな構成や演出がやはり上手い。
世の中、マスコミ、FBIなどの影響力に振り回されるアメリカの闇は今の世界にも続いているが、誠実な人々が報われる世の中であって欲しいと強く願う。キャシー・ベイツの母の演説やサム・ロックウェルの弁護士が素晴らしかった。
※【2020年 洋画ベスト 一覧】
① パラサイト 半地下の家族
② はちどり
③ 燃ゆる女の肖像
④ ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語
⑤ 異端の鳥
⑥ ミッドサマー
⑦ フォード vs フェラーリ
⑧ ジョジョ・ラビット
⑨ ペイン・アンド・グローリー
⑩ TENET テネット
⑪ レ・ミゼラブル
⑫ 1917 命をかけた伝令
⑬ ソウルフルワールド
⑭ 娘は戦場で生まれた
⑮ 凱里ブルース、ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ
⑯ Mank マンク
⑰ シカゴ7裁判
⑱ 在りし日の歌
⑲ ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー
⑳ ウルフウォーカー
(次点)
○ バクラウ 地図から消された村
○ ブルータル・ジャスティス
○ 透明人間
○ 鵞鳥湖の夜
○ リチャード・ジュエル