映画レビューでやす

年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「半世界」 ★★★★ 4.2

◆「あれから僕たちは何かを信じてこれたかな♩」、世界は一つでもあり個人だけの世界の集合体でもあり、二等辺三角形じゃない正三角形なんだ不器用な男たちの半世界

 f:id:yasutai2:20191016095507j:plain

三重の南伊勢を舞台に家業を継いだ炭火焼職人の紘(稲垣吾郎)と光彦(渋川清彦)のところに、自衛隊の海外派遣先から瑛介(長谷川博己)が帰ってきた、その再会をきっかけにそれぞれ自分自身を見つめ直す姿を描いた物語。「人生半ばに差し掛かった時、残りの人生をどう生きるか」、諦めたり悟るには早すぎて焦ったり冒険するには遅すぎる39歳の中年・・四十にして惑わず・・自分も含めてなかなかその境地に達するのは難し過ぎる、何にも変わらないと思っているのは自分だけで、確実に身体は衰え環境も変わり別れも多くなってくる。

全体的に地味で田舎あるあるのリアルな設定だが、その葛藤と家族や友人との絆、新たな希望を豪華なキャストの絶妙なアンサンブルで描いている。地方の狭い範囲では人間関係は固定化し仕事も大きな変化もなく、家族を含めこのままでいいのか悩むところは、すべてのアラフォー世代には響いてくるはず(20代では感じ方が違うだろう)。

監督・脚本は阪本順治監督、近年は「人類資金」は最悪だったが「団地」や「エルネスト」で持ち直しつつあり・・今作は監督のオリジナルでキャラクターは役者をあて書きしただけに見事にマッチしていて確かな演技力で作品を支えていた。終盤には驚くような展開があるものの、淡々と日常生活の機微を描きながらクスッと笑えるところもあり、リアルな人間ドラマとして見応えがあった。

 

南伊勢の美しい景色と炭火の焼かれる音とシーンが丁寧で美しく、煙の香りが漂ってくるようだった。

二等辺三角形じゃなくて正三角形なんだ」色んなことから逃げ続けている中途半端な紘、色んなことに真摯に向き合い過ぎて壊れてしまった瑛介、お調子者を演じながら実は一番手堅い人生を送っている光彦・・一人は他の二人より短い辺で、他の二辺を近づけていくことで正三角形にしていく関係ならば、短い方は誰なのか?

瑛介が戻ってきて紘に対し「おまえは世界を知らないんだよ」と告げる、田舎でも自衛隊でもその環境に身を置かなければ、その世界を知ることは出来ない。人は自分が経験してきた幸せや苦労の範囲だけが自分の世界だと思ってしまうが、他人から見ればそれは世界の全てではない・・戦地で過酷な体験をすることが故郷で家業を継いで苦労するよりも偉いわけでもなく、どちらも本人にとっては世界であり第3者から見ればどっちも世界の全てではない「半世界」ということなのだろう。

他人は外面しか見えないけれど人それぞれ苦悩があって、誰かの小さな言葉や行動がいろいろと世界に影響を及ぼしている・・自分の知らない世界を知ろうとする気持ちや努力は大事なことで、自分の半世界を広げていくことが出来るのだろう。人生の折り返し地点=半分まで来ている世界をゴールを目指して走り続けていくのだろう。

 

【役者】

稲垣吾郎は役者として新たな挑戦の意気込みは感じた、セレブ貴族な普段のイメージとはかけ離れた田舎の所帯染みた生活感が出ていて、職人らしく少しワイルドながら情けない一面もあり、息子への関心をはっきりと出せない不器用さなど微妙なところなど上手く演じていた。

ただやはり元の品の良さが隠しきれなく、炭焼き職人としてはキレイ感が強いし、長回しのワンカットでの重要な息子との対話シーンもセリフが浮いている感が強かった。それでも、元SMAPの3人が「凪待ち」「台風家族」「半世界」と33様それぞれ新しい挑戦で頑張っているのは嬉しく応援したい。

長谷川博己はトラウマゆえの凶暴や闇の部分と脆さを上手く演じて分けていたし(突然の覚醒ぶりが似合う)、渋川清彦はこういう少しふざけたおっさん役は専売特許の安定感でそれぞれ安心して観ていられた。

そして何よりも池脇千鶴が相変わらず上手くて魅せてくれる、男3人の物語をしっかり支えつつ終盤はまさに彼女の独壇場になっていく。くたびれた主婦のイメージが定着した感もあるが、今作は田舎の普通のおばさんとして妻として母として、可愛さと強さと弱さのバランスを見事に表現していた(秋刀魚の日はケンカしない)、ちゃんとエロいセックスシーンもいつも通りだし、本当に素晴らしいバイプレイヤーに成長してきた。

 

※ここからネタバレ注意 

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

 

【(ネタバレ)ラスト・考察】

絋が息子・明とようやくちゃんと向き合おうとした最中で突然死してしまうのはさすがに驚いた、冒頭のタイムカプセルにつながるのか。天気雨のように突然何が起こるか分からないのが人生、だからこそ何気ない一日を大切にどう生きていくのかを考えさせられる。

ラスト、明が炭釜に来て母の弁当を机に置いて、父の作業着を羽織り釜の匂いを嗅いだ後、ボクシンググローブをつけてサンドバッグを打ち続けて終わる(結局ボクシングかよってツッコミたくなったが阪本順治監督だから仕方ない)。親から子へ、父から息子へ受け継がれていくこと、親の背中を見て育つことで自分の人生が終わっても何があってもつながって続いていくのだ・・

「お前の事はお前より知ってるよ」、おっさんになっても本音を言い合えてケンカして助け合って、共に酒を飲みながら歳をとっていく仲間がいることは人生の宝だなあと改めて実感させられた。夜の海で寒い寒い言いながら3人で毛布包まるシーンはグッときた、大人も本当は大人ぶってるだけでいつまでも子供なんだよなあ。

「こんな人生になるとは思ってなかった」、振り返っても戻れはしない、自分の描いた通りの人生になる人なんて少ない・・明日どうなるか分からないから大切に今を生きていく、自分の世界はいつまでも半世界として続いていくのだ。。