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「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」 ★★★★☆ 4.6

昔々ハリウッドで・・ブラピとディカプリオの最高のブロマンスがありましたとさ、映画の力や未来を信じれば歴史は変えられる!優しいロマンチックなタラちゃんです~

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タランティーノ監督のハリウッド映画への愛情が伝わってくる彼らしい彼にしか作れない作品。キャリアのピークを過ぎ落ち目の俳優リック(レオナルド・ディカプリオ)、軍役帰りのスタントマン兼付き人クリフ(ブラッド・ピット)、隣家に住む巨匠ポランスキー監督の妻シャロン・テイトマーゴット・ロビー)・・

この3人を軸にチャールズ・マンソンのカルトファミリーによる「シャロン・テート殺人事件」にスポットを当て、タイトル通り「昔々ハリウッドで、もしあのとき隣人にこんな奴らがいたら・・」というフィクションと実話が交錯する不思議なおとぎ話。間違いなく事件を含めた当時の背景の知識はあった方が良い、というか知らないと今作の意味合いが分からないので事前予習は必須。

 

1969年当時のハリウッドの雰囲気を見事に再現していて、街並みや建物、服装から小物などディティールまでこだわり抜いた演出も見事だが、とにかくブラピとディカプリオのカッコよさと素晴らしい演技を見るだけでも十分に価値がある。

いつものタランティーノらしい映画オタク愛あふれる引用の全てはフォローできなかったが、分かる人や探し当てるには最高に楽しいはず。ジュリア・バターズ演じる8歳の天才子役(可愛い上手い)のセリフに、生粋のハリウッド映画ファンとしての本音が透けて見えたし、自分が生まれる前の華やかなアメリカを体験させてくれているようで、登場人物の日常やたわいもない会話さえも飽きることなく楽しめた。

物語的に前半の蛇足感は拭えないけど、後半の怒涛の展開も含め2時間30分という長さは全く感じることなく、「イングロリアス・バスターズ」や「グラインドハウス」など「このパターンね」といういつもの構成・展開なので落ち着いて観られる。タランティーノにしては暴力・流血・グロシーンが少ないので普段は敬遠してる人にも観てもらいたい、とは言えクライマックスはタランティーノ節全開の悪趣味さなので期待している人もお楽しみを(ちゃんとエグイので注意)。個人的にはPG12指定留まりだけに表現・描写が物足りなく感じてしまったが・・。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・考察】

パルプフィクション」と同じく些細な出来事で運命が変わるストーリーテリングの妙、終盤まで淡々と進みながら男二人とシャロンの二つのストーリーがどこで絡んでどう繋がるのか?と引っ張られる。結局シャロン殺人事件がメインとなるわけではなく、この事件がいろんな人の人生に絡んでいて時代にも影響を与えていたという感じにしたのは良かった。

シャロン・テート殺人事件(1969):新婚で妊娠中の女優がヒッピーたちに惨殺され、アメリカ世論の潮流がフラワー・チルドレンの明るく自由な景色から、一気に暗く冷たい保守派へ回帰していったという文化史的な重要度も大きい。

CG嫌いの監督らしく、1969年のハリウッドを完全再現すべく特別な許可を得て、通りを貸し切って当時の街並みを再構築し、看板や標識など細部にもこだわり抜いて制作しただけにそのクオリティに圧倒され観ていて全く退屈することもなし。

相変わらず度を越した映画オタクにしか拾えないオマージュも満載で、見終わった後に解説記事を読むところまでセットで楽しむのがタランティーノ映画。Bウェスタンの魅力がいっぱい詰まっていて、スティーブ・マックイーンブルース・リー(あの扱い方はブルース・リーの娘が怒るのも無理ない、好きなはずなのになぜ?)のソックリさんその他有名人の復活も楽しく発見しがいあり。

 

ディカプリオ(45歳)は一見傲慢な役者に見えるけど、裏では落ちぶれていく苦悩があり泣いたりする情けなさ、ブラピ(56歳)は一見優しそうに見えるけど、喧嘩になると圧倒的な強さや肉体美を見せつけるなどキャラのギャップが良かった。二人のドライブシーンも多く、相変わらずかかるBGMもいいし、ドライバーのすぐ後ろにカメラを置く運転映像などで臨場感があって一緒に乗り込んでいるみたいで、ずっと二人のブロマンスを見ていたくなるはず。。ディカプリオのロケバスの中の笑える一人芝居は全部アドリブらしい。

ディカプリオ演じるリック・ダルトンは、バート・レイノルズやジョージ・マハリスなどをモデルにしているらしく、揺れ動く時代・映画業界に身を置き、不器用ながらもベストの演技を追求する姿は滑稽で魅力的で、その演技への純粋な想いに胸を打たれる。

この数年すぐに泣いたり吠えたり情緒不安定な役回りが多かったディカプリオだが、今作も同様に様々な表情・感情の変化を楽しめる・・スーツ姿で踊ったり、火炎放射器をぶっ放したり、落ち込んで自虐してメソメソしたり、天才子役とのやりとりから名演技を確信した時の表情など見事で堪らない。

マーゴット・ロビーが旦那に愛され生まれてくる子供や自分の未来にワクワクする姿が何とも愛おしい、彼女にはもっとまだ知らない多くの幸せが待っていたことを思わせることで現実の事件の残酷さを際立たせる。特に映画館に自分の出演している映画を観に行くシーンは、史実を知っているとグッとくる、自分がブルースリーと共に稽古して臨んだシーンで観客が湧くと思わず涙をこぼしながら喜ぶ姿にはこちらも泣きそうになった。

シャロン・テートというカルト集団による殺人のシンボルとなってしまった女優を、映画の世界へと引き戻し、スターになることに憧れ、映画を純粋に愛する1人の女性として再構築したところにタランティーノ監督の映画愛を感じられた。

 

タランティーノは、ハリウッドでの恩人であるワインスタインのセクハラ行為を目撃していたが口出しできず見て見ぬふりをしたと語っていて、またポランスキーの少女わいせつ事件でも彼を擁護するような発言をしており、それらについて謝罪している。ワインスタイン騒動で「Me,too」の流れになるまで多くの「暴力」「淫行・セクハラ」が隠蔽されてきた、その「古き悪しきハリウッド」への決別を意思表示するためにも今作を作らざるを得なかったのかもしれない。

今作の中でクリフが車に乗せたヒッピーの女の子に年齢確認して「未成年との淫行」を拒否するシーンを入れたのも意識的だろう。と言いつつ、足フェチとしてのサービスショットは相変わらずで、映画館のマーゴット・ロビーの体勢からの足裏には苦笑してしまった。。

 

【(ネタバレ)ラスト・考察】

シャロン・テートはいつどのタイミングでどう殺されるのだろうかと思いながら、まさかのラスト、こんなに優しい話で終わるとは逆に衝撃。事前にシャロンテートの殺人事件を扱った映画ということで勝手にバイオレンス映画だとミスリードさせられていたとは。

ラスト、狂ったチャールズ・マンソン信仰のヒッピー3人組がシャロン宅ではなくてリック宅に押しかける(西部劇映画の中で殺していたので問題ないという理不尽な理由で)が、リビングにはラリッているクリフがいて逆に叩きのめす、リックもプールで火炎放射器を使うなどして倒す・・

最後にして一気にエグイくらいに3人組をやっつける爽快感(今までの映画での国際的マフィアやナチスや黒人差別と比較すると小物感が歪めないが)。しかし、ここでのプラピが渋くて死ぬほどカッコよかった(今年はアド・アストラと言い渋すぎ)、喉を鳴らして犬を呼ぶシーンからのプラピ無双は、このシーンのために今まで観てきたのかと思わせるほどの迫力だった。

 

史実ではマンソンファミリー事件の「被害者」として無残な最期しか語られてこなかったシャロン・テート、そんな彼女にも女優としての顔、1人の女性としての人生が確かにあったのだ・・せめて映画というフィクションの中では幸せになって欲しいと救ってみせたタランティーノのロマンチックな愛。

実際にシャロンが殺された理由は、前にシャロンの家に住んでいた人物にチャールズ・マンソンが恨みを持っていたという完全にとばっちりのようなものだった。人違いがきっかけで起こった事件だからこそ、人違いで逆に犯人たちの方が殺されるという皮肉さも見事。

歴史を改変し「映画を使って復讐する」というのは映画の力を信じる彼らしい純粋なやり方でありつつも、お伽話であるからこその淋しさ哀しさも残される。ラストカットでは、事件を心配した隣のシャロン家に招かれ、ようやく隣人・友人になるところで終わる。西部劇というジャンルを牽引し映画界を支えドロップアウトしかけている「老いぼれ」たちが、シャロン・テートという映画の未来を守って仲良くなるという展開に熱くならざるを得ない。

 

次の作品で引退と公言しているタランティーノ監督、まだ56歳なのに残念で仕方がない。今作は監督自身のアイデンティティと向き合ってフィナーレに向かってるような作品なので、終わって欲しくない気持ちがより強まってしまった。ブラピもプランB等の裏方業務に回る方に徹するかもとの情報もあり、今作自体がハリウッドの一時代が終わろうとしている象徴になるのかもしれない・・