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年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「フォードvsフェラーリ」 ★★★★☆ 4.5

ジェイソン・ボーンバットマンの対立と友情からのロマンあふれるプロジェクトX、7000回転オーバーのエンジン音と池井戸潤的サラリーマン物語に大興奮倍返しだ!

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ル・マン24時間耐久レースでフェラーリ社に勝つための車を開発し、カーレースに人生を賭けた熱い男たちの挑戦の物語。芸達者なマット・デイモンクリスチャン・ベイルの共演でカーレースものと聞いて面白くないわけがない。予告編のエンジン音だけでクルマ好きは絶対に観たくなるし、普段あまりモータースポーツに興味や知識のない自分でも興味をそそられる・・実際に観たら映像だけでなく表情や音などあらゆる要素でスピード感たっぷりで興奮しまくっていた。

タイトルからはフォード側とフェラーリ側の男がレースで競い合う物語かと思いきや、蓋を開けてみるとどちらもフォード側の男同士の対立と友情を描いていて、加えてプロジェクトX的な様々な障害とそれを乗り越える現実味溢れる実話ベースの話だった。

才能も実力もあるのに妥協できない性格で周囲から煙たがられるマイルズ、ル・マンで優勝した経験ありも心臓の病で引退した過去の挫折を味わっているシェルビー、お互いができないことを補うように対立しながらも勝利に向かって協力する男の友情に何度もグッとくる。

 

レースシーンはどれも圧巻で、レーサー同士の駆け引きやエンジニア達の土壇場の強さ、観客の熱狂と全てがリアルで熱がスクリーン越しに伝わってくる臨場感が半端ない。レース視点や音響へのこだわりは是非IMAXなど環境の良い映画館での鑑賞がおススメ(4DXはどうなんだろう?)。

ひたすらレースに勝つための思いをぶつけていく現場と会社のイメージアップやマーケティングを重視する会社側上層部との相容れない対立、ライバルである絶対王者フェラーリを倒すためにどれだけ時間や工夫を凝らすかなど、車というフィルターを通して全ての働く人たち(特にモノづくり)に共感させる作りとなっていた。

監督は少し枯れた男の戦いを描いた映画「3時10分、決断の時」や「ローガン」、トム・クルーズ&キャメロン・ディアスのアクション映画「ナイト&デイ」などのジェームズ・マンゴールド監督、こういう骨太なドラマも撮れるとは幅の広さに驚いた。

とにかく、車で映画を見に行く人は、見終わった後は間違いなくレーサー気分でスピードを出し過ぎるので、帰りの運転は絶対に注意すること(笑)

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・コメント】

ストーリー展開に合わせた映像と音響が見事にマッチした臨場感が凄い、爆音のエンジン音響とクリアな映像の没入感によりオイルの匂い、タイヤの擦れた感触がまさにそこに居るかのようにダイレクトに感じられた。CGに頼る事なく当時の車を再現したり(事故シーンも本物)、エンジンを録音スタジオに直接持ち込んで録音したり、ストップウォッチ、ヘルメット、レースプログラム、道具に対しても忠実に再現していて、作品作りへの愛と情熱が伝わってくる。

そして、レースシーンのカメラアングル、どこにカメラを置いてどういう動線で動かして撮っているのか?、ドライバー主観でも車間を縫うような視点でも俯瞰でも臨場感あふれるカメラワークがまるで自分もレースに参加してるかのよう。実際のレーシングカーにカメラを搭載して実測で写すことを徹底したらしく、200kmの世界は体験したことないけど周りが遅く見えるのを体感してみたい(あの乗せられた社長のように叫ぶだろうな)。

当時60年代のレースは常に死と隣り合わせ、車の構造として燃料のタンクは外にありガソリンに囲まれてる状態の危険さ、救護班もおらずセーフティカーも出ない過酷な環境で、関係者は毎日祈る思いだったのだろう。今みたいにシステムで調整できる時代でなく、ドライバーの感性が車の開発に直接影響していく時代だったからこそマイルズの凄さが際立つ。

アチェンジしてクラッチ踏んでって7000回転を超える未知の領域への挑戦、この時代のレーサーの精神忍耐力と運転技術力には頭が下がる。伝説のF1レーサーのライバル関係を描いた「RUSH プライドと友情」という作品を思い出したが、F1とはまた違った24時間耐久というイカれたレースぶりも面白かった。

 

基本的にフォードVSフェラーリよりもフォード内の現場VS上層幹部の戦いの方が激しく、自由に走らせてもらえないレーサーや支えるチームの葛藤に加え、むしろフェラーリよりも悪人に見える幹部にイライラさせられた。レーサーのことを駒としてしか見ておらず、スポーツマンシップに反することばかりのクソっぷりにフォード社に対するイメージが悪くなってしまったが大丈夫なのかな?。

会社や金の事しか考えず部下を奴隷のように扱うトップと 命さえ顧みず汗をかいて働く現場との温度差は、現在の会社にも通じるものを感じた。だからこそ、そんな理不尽な世界では有無を云わさぬ圧倒的な実力を持つことが重要であり、全てを振り切ってただ速さを極めるレースシーンでの痛快さと爽快感が気持ちがいいのだろう。

ただ、やはり150分は少し無駄に尺が長い印象もあり、冒頭を含め説明不足すぎて脚本が少し分かりにくいのが残念、実話ベースと言ってもどこまでが本当なのか、あそこまで汚い大人たちだったのかどうか?。アメリカ企業VSイタリア企業としてアメリカびいきになるのは仕方がないが、実際にフェラーリ側(イタリア)はこの映画をどう見ているのかも気になった。

 

役者としては、マット・デイモンの安定感は言わずもがな、相変わらずのクリスチャンベイルの作り込み度もさすが、エンドロールのモデルの写真見てビックリの寄せ具合。太った「バイス」から一転して激痩せでの鋭い眼光、一瞬の勝負で見せる表情の変化など上手いの当たり前なので、過去の凄まじ過ぎる役作りに比べると普通の印象に見えてしまい、アカデミー賞までではないのかな(どうしてもハードルが上がってしまう)。

それよりも、マイルズの妻・モリーを演じるカトリーナ・バルフが役柄も含めて良かった、夫の気持ちを汲み取りつつも家族の事を考えて欲しい葛藤をレーサーの妻らしく車を運転しながらケンカごしに伝えたシーンなど最高、1番近くで支えている存在として誰もがあんな奥さんが欲しいと思わされるだろう。

何気に息子は「ワンダー」の友達、「クワイエットプレイス」の息子を演じた子なのだが可愛くて上手い、テストコースに車を止めて父と息子で夜景を見るシーンは素晴らしかった。

 

【(ネタバレ)ラスト・コメント】

実話にあるように、1966年のル・マン24時間レースでフォードのレーサーが1、2、3位を独占する偉業を達成した時、フォード社の上層幹部がトップを独走していたマイルズにわざとスピードを落として3台のフォード自動車で同時にゴールするように命じていた。

ろくに家庭も顧みずレースに命をかけていた男が、ラストランで苦渋の決断に迫られながら、最終的に家族への想いや関係者への感謝もあったのか自分の意志を曲げてスピードダウンしたところ(表情の演技も見事)には悔しさと尊敬で泣いてしまった。エンジン7000回転の時間と空間を移動する世界であれだけの速さを極めると無の境地に達したのかもしれないが。

そして、主人公たちは優勝も出来ず、最終的にはマイルズは愛する家族を残してレース場ではなくテストドライブ中に亡くなってしまう、実話ベースだけに現実の残酷さが染みる(閉じ込められてドアを叩いたりブレーキが壊れたり様々なトラブルと共に、何となく死への雰囲気は漂っていた)。

 

原題は「Ford v Ferrari」で”vs”ではない、この“v”は”Victory”を意味するのだろう、「誰が勝利したのか、勝利とは何だったのか?」。シェルビーもマイルズも一度は夢を諦めながらも、再び挑戦の場に立ち全力で戦っていた、フェラーリに勝利することは目標ではあるが、本当に車がレースが好きで仕方が無いのだ・・ル・マンの優勝を逃してもすぐに車の改良点を話し始め次に向かっていく。

自分のメンツや出世、敵に勝つことが全てではない、自分の好きな信じることに真剣に全力で取り組み、生き抜いていくことが「本当の勝利」なのではないだろうか?、その生き様は息子にも観客たちにも確実に伝わり幸せな気持ちにさせてくれる。

印象に残ったシェルビーのセリフがある「やるべきことが分かっている人間は幸せだと。幸せかどうかは分からないが、やることが分かっている人間は、どんな困難でも、とことん突き進む」、熱い漢たちの熱い戦いに負けないように、自分も人生での勝利に向け頑張っていこうと思った。