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年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「ジョジョ・ラビット」 ★★★★☆ 4.7

◆日常から狂気の世界で臆病なウサギが生き延びるため「愛とユーモアと少しの嘘と」ライフ・イズ・ビューティフル、踊りたい時に自由に踊れる幸せ、Shall We Dance? 

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戦争の訓練でウサギも殺せない10歳のジョジョは、空想相手のヒトラーを崇拝・尊敬していたが、母が秘密に匿っていたユダヤ人の少女との出会いや戦争を体験しながら自分の中の何かが変わっていく・・子供の目線からみた戦争ということにこだわり抜いて作られた作品。戦争映画だけどポップでお洒落で笑えて、純粋な少年から見た戦争の恐ろしさや悲惨さ・愚かさが伝わってきて、ユーモアと切なさを感じる場面のバランスが素晴らしい。

全般的にジョジョの一人称で進んでいき、戦争の悲惨な場面はあまり出てこない、訳も分からないまま時代の流れに巻き込まれてしまった半年間の話だけど、周囲との関わりの中で様々な愛を”経験”して「愛することの大切さ」を教わり、人として男として強く成長していく。

 

ナチス大好きの反ユダヤ主義者の男の子、純真無垢な子どもに「ハイルヒトラー!」と言わせてしまう大人の愚かさ、この狂った状況を客観的に普通に見せてしまう上手さ、ユダヤ人少女と関わっていくことで徐々に自分の偏見に気付いていくのが分かりやすい(現代の移民差別問題も皮肉っている)。

緊迫した状況にあっても市民は普通に生活をしていて、たくさんのありふれた普通の子供たちが明るく過ごしている、この映画のようなことは本当に起きていたのだろうし、経験していた人たちも多いはず・・どことなく「この世界の片隅に」をも彷彿とさせる。平穏とユーモア溢れる中で徐々に浸食し突然訪れる残酷な現実が一層悲惨さを際立たせる。

タイカ・ワイティティ監督のセンスあふれる世界観は魅力的で、ヒトラーを監督自身(ユダヤ系)で演じるのにもある意味強いメッセージを感じる(チャップリンの「独裁者」も思わせる)。ぜひジョジョと同年代の小中学生にも鑑賞して欲しい、こういった子供が見てもトラウマにならないような戦争映画がもっと増えて欲しい。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・コメント】

ファッション、インテリア、カメラワーク、色彩、カッチリとした構図での会話劇、特に衣装ファッションが素晴らしくポップな印象を受ける一因となっていて、全体的にウェス・アンダーソンの世界に近い可愛さを感じた。後半の戦争シーンになるとザラザラとした粒子感ある画面で手持ちのスローモーションなどに変わるのも見事。

母親の死を知るシーンのあえて顔を見せなくても何が起こったのか一発で分からせるところは鳥肌が立った。軽快にステップを踏むお母さんの靴、足元のクローズアップが多く何度も印象的に映されていたのが、まさかあんな風に繋がっていくなんて・・残酷な部分を見せないことでよりその残酷さが際立つという演出、戦時中を感じさせないカラフルな衣装や美術、主人公の日常描写。

屋根の窓の冷たく見下ろすような目のカタチが、ジョジョの目で描かれていた子供らしい日常が終わりを告げることを示唆していて、後半からの戦争という現実が足音を立てながらじわじわと迫ってくる。最初は緊迫感のない子供の兵士だったのに、最後はすぐ近くで戦争が起きていて実弾を使って子供に殺しをさせる世界になってく、「アメリカ兵に抱きついてきなさい!」と子供に爆弾を持たせて送り出す狂気と、それを躊躇なく受け入れる子供たちに衝撃を受けた。

大人に言われるまま社会や周囲に流されるままナチスに浸透し戦争に向かっていく空気感は、今の世界の危うさにも近いものを感じる。一度立ち止まって自分の弱さと向き合って考えを見直してみることが大切なのだろう。

ドイツの話なのに、登場人物がほとんどアメリカ人で英語を喋っているのに違和感を感じてしまう人もいるだろうが、ファンタジックな要素もありドイツ映画としては出来ないであろう演出が効いていて良かった(今のアメリカや万国の話としても成り立つということ)。

 

【役者】

ジョジョ役のローマン・グリフィン・デイビスは映画初出演、とにかく可愛くて初々しさがあり、ジョジョに心情が変化していく演技も良かった。

そして何よりアカデミー賞助演女優賞にノミネートされただけあってスカヨハの母親役がめちゃくちゃ素敵だった。いつも決めたファッションでワインを飲みながら(反ナチスを匂わせていた)子供には明るくユーモアたっぷりに接していて決して否定せず、さりげなくアドバイスして最後には自分で気付くよう周りが見えるようになるまで待っている。アゴに白い灰を付けて父親役をやるところなど惚れてしまうやろ、まさに大人の女になるというのはその人を信じられること、「マリッジストーリー」と同じく靴紐かぶりには驚いたけど。

サム・ロックウェルはさすが絶好調の演技、ゲシュタポのガサ入れ時に全てを分かっていながら見逃してくれたり、子供たちの未来を考えてくれたり、最期のジョジョを助けるところまで父親的な役割で大人の男としてのあり方・カッコよさをジョジョに教えてくれた。最初から負け戦と言っていたのでジョジョの母親とシンパシーを感じていたのかも。何気にキャプテンKとフィンケルの関係を怪しんで見ていたが、明確には示されていないがやはりゲイなのかと感じた、最期のド派手な軍服を着て戦っていたのも象徴的だったし。ナチスは同性愛者も強制収容していたのでそれにも皮肉を込めていたのかも。

ヨーキー役のアーチーくんも丸メガネのコロコロした終始笑わせてくれる最高のキャラで、どんなときでも変わらないヨーキーに何より癒された。変わりゆく世の中の流れを常に淡々と素直に受け入れる力は素晴らしく、最後は死ぬのかなと思わせつつ最終的に助かるのがまたこういうタイプならでは。

 

音楽もビートルズで始まりデヴィッド・ボウイで終わるところが反戦映画らしからぬポップな印象で良かった。冒頭のビートルズのドイツ語バージョンの「I Want To Hold Your Hand」がまるでナチス党の熱狂をビートルズの熱狂に重ねているようで、ラストもボウイのベルリン三部作(壁崩壊直前に録音)の代表曲でもある「ヒーローズ」を持ってくるセンスが素晴らしい。

 

【(ネタバレ)ラスト・コメント】

ラスト、市街地が完全に占領されて次々とドイツ人が捕まって処刑されていく中、ジョジョはギリギリのところでキャプテンK(この銃殺も音だけで見せないのが良い)に助けられて生き延びる。自宅に戻りエルサには真実を伝えられずも(エルサと離れたくない)、最終的には自分の間違いを認めヒトラーとも決別し靴紐を自分で結んで、ママと同じ言葉を使って二人で外の世界へ旅立つ。ドアの前で向き合う二人、「自由になったら何する?」「踊るわ」と話していた通り、ゆるいビートでダンスするエルサ、それに応えるジョジョ、キレの良い暗転での終わり方も完璧だった。 

ウサギも人も平気で殺せて戦争で戦うことが強いわけではなく、ジョジョのお母さんのように周囲に流されず自分の信念を持って、大切な人を守れることが本当に強いということなのだろう。どんな苦境にあってもユーモアを忘れず子供を励ます母の姿は「ライフ・イズ・ビューティフル」の父親を思い出す。

人生は美しく楽しく過ごすという真の強さ、全てを乗り越えるのは「愛」であり、ダンスとちょっとの嘘があればいい。空想の友達もいいけど目の前の友達や家族と話そう、そして靴紐をしっかりと結んで新しい扉を開けよう、踊りたい時に自由に踊れる世界のありがたさを感じながら希望を持って生きていくのだ。

エンドのリルケの詩も素晴らしい「全てを経験せよ 美も恐怖も 生き続けよ 絶望が最後ではない」