昨年は3/13でしたが今年は3/11の開催ということで、直前だけど予想しておきます。昨年は「エブエブ」の強さとミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ブレンダン・フレイザーの復活劇やコメントが印象的だったが、今年はいかに?
今年もバラエティに富んだラインナップで全作ハイレベル、大ヒット・大作からミニシアター、配信系まで国も人種も満遍なくより多様化は意識した流れになっているかと。今年より選出ガイドラインが施行され世論(白すぎるオスカー批判)を反映して「これまでは多様性と平等性に欠けている」と書かれており、その恩恵で?更にアジア系ノミネートが増えてきている。特に日本の作品が何と3作品もノミネートされているのが史上初の快挙で嬉しい限り、初の視覚効果賞に「ドライブ・マイ・カー」以来の国際長編映画賞、「千と千尋」以来の長編アニメーション賞とどれも可能性があるのが本当にすごい(どれも競合が強くギリギリまで読めないのが更に面白い)
注目は前哨戦をほぼ制してきてかなり固いと思われる大本命の「オッペンハイマー」が圧倒的に強く最多受賞も確実、役者陣も含めてどこまで受賞できるかに注目、「スラムドッグ」以来の8冠の期待大。「哀れなるものたち」もチャンスはなくはないが今回は逆転劇は難しそう、作品賞以外の受賞数でどこまで迫れるか? ノミネート数で見ると「オッペンハイマー」最多13部門、「哀れなるものたち」11部門、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」10部門、「バービー」8部門、「マエストロ」7部門、「ホールドオーバーズ」、「落下の解剖学」、「関心領域」、「アメリカン・フィクション」が5部門となっている。
短編やドキュメンタリー以外の主要作品(作品賞は全部)はほぼ観ることが出来たので大体の部門は自分で予想できるが、正直「オッペンハイマー」でかなり当たるのではと見ている、あとは俳優陣の受賞にサプライズがあるかどうか?、アメリカ以外の海外会員の投票の行方で大きく左右されるので最後まで分からないところはあるが。とにかく、日本の3作品の受賞や現地での様子・コメントが楽しみで仕方がない。。
【作品賞】
大本命は最多13部門にノミネートされた「オッペンハイマー」だろう、芸術性と商業性を両立させたノーランキャリアベスト作、前哨戦では中盤以降はほぼ独走状態、マンハッタン計画の原爆の開発リーダーから反核・追放されるまで激動の人生をノーラン監督お得意の複数の時間軸を交錯させながら描き出す。3時間の長尺ほぼ会話劇がメインで科学や政治の難しい内容で時間軸も複雑、各キャラクター像や時代背景、様々なドラマを多層的に構築、濃密な情報盛りだくさんで一回だけで全てを把握するのは不可能なくらい。
監督こだわりのIMAX仕様フィルムでの撮影による臨場感と迫力ある映像と音響、飽きさせない編集など映画としての総合完成度も圧倒的、贅沢な俳優陣の見事な演技アンサンブルを含めR指定の大人向けだが、興行収入も「バービー」と共に「バーベンハイマー」として商業的にも大ヒットしたのも意義深い。
対抗は「哀れなるものたち」で誰もが認める変態監督ヨルゴス・ランティモス5年ぶりの新作はフランケンシュタインの女性版、大人の身体で赤ちゃんの脳で復活した女性の冒険談。社会に出て知恵を吸収しながら男たちの束縛管理からの解放、独創的で美しい世界観のセットや衣装は圧巻、エマ・ストーンの予想以上の体当たり演技も見事だがクセが強すぎて作品賞はやはり厳しいか。
大穴は「ホールドオーバーズ」で、嫌われ教師、問題児、料理長の3人がクリスマス休み中の全寮制学校で帰省せずに過ごす地味ながら温かい名匠アレキサンダー・ペイン監督らしい人情喜劇。それぞれ抱える問題や悩みを笑いと涙でお互いに理解を深めていくちょっと懐かしい青春映画のよう、誰もが共感できる親近感と幸福感で万人受けは一番なので大逆転の可能性があるとしたら今作かも。
「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」は巨匠マーティン・スコセッシ監督が先住民虐殺の内幕をアメリカの黒歴史としてえぐり出した超大作、生々しく緊張感あふれる愛憎劇で3時間30分飽きさせない。常連のキャスト陣もディカプリオは外れたが・デニーロの静かながら内なる凄みの安定感、新星グラッドストーンの凛々しさも見事、16回目のノミネートでどこまで獲れるか?
「バービー」は有名な人形の世界をグレタ・カーヴィグ監督独自の解釈で初の実写映画化、大胆な風刺たっぷりのブラックコメディとして世界中で社会現象を巻き起こし世界興行収入トップとなった。ピンクの世界でユーモアあふれるポップさの中、直球なフェミニズムだけでなく製造元や物欲主義、父権主義などバランスよく皮肉たっぷり、俳優陣のビジュアルの完璧度、セットや衣装、音楽までレベルが高い。
「落下の解剖学」は夫殺しの容疑をかけられた女性小説家が裁判の過程で夫婦間の確執などが明らかになっていく息詰まる法廷サスペンス、フランスのジュスティーヌ・トリエ女性監督の共同脚本が緻密でリアルな会話・法廷劇・夫婦の本質に迫る人間ドラマとして最後まで観客を揺さぶってくる。ザンドラ・フーラの圧倒的な演技に加え主要部門ノミネートで欧州の票が集まってくるかも(カンヌ・パルムドールも国際映画賞ではなぜかフランス代表にならず)
「アメリカン・フィクション」は黒人小説家がやけっぱちで書いたステレオタイプ的な黒人社会をテーマにした小説が話題に売れてしまう混乱ぶりを描く風刺コメデイ、表層的な人種平等への皮肉やウィットに富んだセリフ、ベテランのジェフリー・ライトのキャリアベスト演技が見どころだが、さすがに作品賞には地味過ぎるかな。
「パスト・ライブス/再会」は今年のA24が推すインデペンデント映画で、幼馴染の二人が韓国からカナダに移住した女性とソウルに留まった男性が24年を得て再会するロマンス劇。忘れぬ思いと運命のはざまに揺れる絶妙な距離感と心理描写、人生の移り変わりを静かで繊細な会話で描く見事な脚本で新人監督とは思えない完成度、A24は昨年のエブエブで独占したので今回は遠慮かな。
「関心領域」はイギリスの鬼才ジョナサン・グレイザー監督の10年ぶりの新作でアウシュビッツ強制収容所の隣に住む所長一家の淡々と生活するというありそうでなかった設定。幸せな暮らしの隣にある塀の向こうの悲劇は一切映さず音だけで想像力を喚起させる強烈なコントラストと長回しの固定ショットに撃ち抜かれた、批評家受けは抜群だが国際長編賞での受賞が固いかな。
「マエストロ:その音楽と愛と」は世界の巨匠レナード・バーンスタインの伝記、同性愛者ながらチリ人女性と結婚し華やかな仕事や私生活ぶりを一筋縄ではいかない夫婦関係とともに描く。「アリー」と同じくブラッドリー・クーパーが主演・監督・プロデューサーも務め、妻役のキャリー・マリガンとともに演技の面では別人のようになり切って素晴らしい、Netflix一押しだが物語としては凡庸なので本人そっくりの特殊メイクでの受賞のみかな(おなじみカズ・ヒロ氏)
『アメリカン・フィクション』
『落下の解剖学』
『バービー』
△『ホールドオーバーズ』
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『マエストロ:その音楽と愛と』
◎『オッペンハイマー』
『パスト ライブス/再会』
〇『哀れなるものたち』
『関心領域』
3強かと思うが、やはり一歩抜け出ているのは「落下の解剖学」か、法廷ミステリーと夫婦の複雑な関係をリアルに徐々に浮かび上がらせて観客を揺さぶる緻密で本当に感心する脚本で2回目見ると更に新たな発見もある素晴らしさ、共同脚本でトリエ監督は監督賞にもノミネートされているが獲るならこちらか。
「パストライブス」もセリーヌ・ソン監督が自ら脚本を手掛け、12年ごとに再会して36年後の二人とも大人でパートナーがいる状態での忘れられない想いを斬新につないでいて良い脚本だった。「ホールドオーバーズ」のデビッド・ヘミンソンは元はテレビドラマ用の脚本だったのを監督から採用されたという経緯で、自身の全寮制学校のリアルな体験だけに説得力もあり。「メイ・ディセンバー」は唯一ノミネートされた部門だけに見事な出来、「マエストロ」も悪くないが飛び抜けてはないかな。
ここは大接戦で難しいところ、作品賞とセットで考えると「オッペンハイマー」が本命なのだが、敢えてチャレンジングな方で。「バービー」は世界中で親しまれているバービー人形の世界を独創的かつ大胆な解釈で現代にアレンジして風刺を効かせつつ誰もが共感できる物語として完成されていた、グレタ・ガーウィグ監督と夫のノア・バームバックの最強コンビ脚本だけにバービーとしてはここで獲りたいところ。
「アメリカン・フィクション」はテレビドラマの脚本家のコード・ジェファーソン監督が初めて映画用に書いて監督も務めて、表面的な平等主義をウィットに富んだ皮肉っぷりで面白い物語。「オッペンハイマー」もピュリッツァー賞を受賞した伝記の原作をノーラン監督自ら見事に自分の世界観に落とし込んでいた、前哨戦でも接戦でこの3作品はどれになってもおかしくない。あとは「哀れなるものたち」はヨルゴス監督に染まり切った感あり、「関心領域」も設定は良いが展開含めてアートよりになった感あり。
『イオ・カピターノ』(イタリア)
〇『PERFECT DAYS』(日本)
△『雪山の絆』(スペイン)
『ありふれた教室』(ドイツ)
◎『関心領域』(イギリス)
ここは日米対決の激戦、アニメの表現・自由度はどちらも最高峰レベル、「君たちはどう生きるか」は宮崎駿監督の10年ぶりの引退撤回作として世界中のファンからその復帰を大歓迎されて歴代ジブリでも最高の興行収入としてアメリカで大ヒットしたのも大きい。滑らかで独特の絵や背景の美しさのクオリティはもちろん、難解なストーリーが海外でどこまで理解できるかは?だが批評家たちも大絶賛で前哨戦でもかなり勝っていることもあり、個人的にも千と千尋以来20年ぶりの受賞に期待したい(ジブリ映画としては7回目のノミネート、宮崎駿監督としては2015年に個人として名誉賞を受賞)。
対抗は「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」で2019年に受賞した「スパイダーバース」の続編ということで、前作もコミックがそのまま動き出した映像や各キャラの異なる作風とCGの融合などアニメ表現の新次元を切り開いた。が、今作も更に上回る映像の衝撃、マルチバースで多数のスパイダーマンと対峙するエンタメとしての面白さもありこちらも前哨戦含め評価は高く最後までどちらになるか全く分からない。前作が受賞済みで続編もので終わり方が次作へのつなぎもあり、今回は復活したレジェンド宮崎駿へ票が流れることを祈りたい。。
その他の「マイ・エレメント」のピクサーらしい完成度で多様性も良い塩梅の描き方で良作、「ニモーナ」もNetflix作品でこちらも多様性あふれるチャレンジングな作品、「ロボット・ドリームズ」も地味ながらオリジナリティあふれる温かい作品だった。
ここもこの2強で悩ましいところ、「バービー」のピンクの世界やリアルな着せ替え人形感を醸し出すポップでキッチュな衣装は作品に大きな彩りや影響を与えていたし、「哀れなるもの」も独創的なオリジナリティあふれるデザインは相当なインパクトがありこの世ではない世界観に溶け込んでいた。美術賞もこの2強なので分け合うか両方取るか?難しいけど今回は衣装の方は「バービー」にかけてみたい。
ここは「マエストロ:その音楽と愛と」が強いかな、ブラッドリー・クーパーを巨匠レナード・バーンスタインに本人そっくりに変貌させ、青年から高齢期までも見事に表現していて最後のしわを含めほぼ違和感なしで誰もが驚いたはず。手掛けたのが今のハリウッド界の第一人者・日本出身のカズ・ヒロ、ノミネートは5回目で過去に「スキャンダル」と「ウィンストン・チャーチル」で2回受賞済みだが今回も是非獲って欲しい。「哀れなるものたち」もオリジナリティあふれる世界観での統一が見事だったので可能性はあるが。
ここもやはり「オッペンハイマー」が抜けているか、会話劇では控えめながら不穏な効果音を散りばめつつ、核への恐怖・不安感を煽っていく、実験時の鳴り響く衝撃も含めリアルな音響が迫ってきた。「関心領域」も本当に素晴らしく音がもう一つの主役なだけに、壁の向こうの見えない悲劇を様々な音だけで見事に想起させされ伝わってきた。「ミッション:インポッシブル」や「ザ・クリエイター」も視覚効果賞に続きノミネートされているが今回は厳しいかな(昨年は「トップガン」が受賞したけど)。
ジョン・ウィリアムズ『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
〇ロビー・ロバートソン『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
◎ルドウィグ・ゴランソン『オッペンハイマー』
△ジャースキン・フェンドリックス『哀れなるものたち』
ここは「バービー」の2曲が強く固いかな、特にビリー・アイリッシュの「What Was I Made For?」が私は何のために作られたの?という物語の本質である存在意義を完璧なタイミングで流れて問いかけてくる、心に染み込むボーカルとメロディーの美しさはさすがでグラミー賞でも楽曲賞と映画挿入歌賞を獲っているので大本命。同じくライアン・ゴスリング自らが歌う「「I'm Just Ken」も物語のもう一つの主人公ケンの心情を見事に表現しているが、今回はビリーの楽曲に譲る感じかな。あとの3曲も印象深いのは間違いないが、やはりバービーの2曲が強すぎる・・
「The Fire Inside」『フレーミングホット!チートス物語』
〇「I'm Just Ken」『バービー』
△「It Never Went Away」『ジョン・バティステ:アメリカン・シンフォニー』
「Wahzhazhe (A Song for My People)」『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
◎「What Was I Made For?」『バービー』
△『彼方に』
『Invincible(原題)』
〇『Knight of Fortune(原題)』
『Red, White and Blue(原題)』
◎『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』
〇『Letter to a Pig』
△『Ninety-Five Senses(原題)』
『Our Uniform(原題)』
『Pachyderme(原題)』
◎『WAR IS OVER! Inspired by the Music of John and Yoko(原題)』
◎『The ABCs of Book Banning(原題)』
『The Barber of Little Rock(原題)』
『Island in Between(原題)』
〇『ラスト・リペア・ショップ』
△『世界の人々:ふたりのおばあちゃん』