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「ジェニミマン」 ★★☆ 2.5

◆ヌルスミス対決、ヤングウィルに追われるベテランウィル!脚本ストーリーはヌルいが映像革新のヌルヌルさだけを楽しむ技術実証映画、ドルビー映画館で観るべきだった

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見たまんまウィル・スミスVSウィル・スミスを楽しむ映画、政府のウラ仕事をしてきた腕利きのスナイパーが引退を決意したのに突然自分とそっくりなクローンに襲撃されていく・・最強の敵が自分のクローンという斬新な設定で、経験豊富でも老いた自分と勢いMAXでもまだ未熟な若い自分の対決と面白くなりそうなはずが、CG技術とウィル・スミスのカッコよさを感じるだけのありふれた普通のアクション映画にとどまっていた。

いろいろな要素が盛り込まれてはいるがメッセージ性もかなり薄味で全体的に既視感が満載、決してつまらないわけではないが、とにかく脚本が雑で話の展開がありふれ過ぎていて盛り上がらず。オチについても想像できる内容でインパクトも無し、総じて予告編が一番面白かった・・実際に全米や中国でも大コケで80億円の赤字。

 

プロデューサーがジェリー・ブラッカイマー、監督が名匠アン・リーだけにB級ではなくて本格的な布陣、「ライフ・オブ・パイ」などアン・リー監督は映像技術に相当のこだわりがあるので、今回も新しい試みが施されている。今作最大の見どころといえば、なんといってもフルCGで蘇らせた23歳の若きウィル・スミスと51歳の現在のウィルとの絡みであり、ヤングウィルはウィル自身が演じてモーションキャプチャした上にフルCGで加工している。

確かに凄い技術だなと感心はするものの、凝視しないと意外と差が分かりにくかったりもする、ウィルが元々若く見えるのもあるし、同じような若返りは「アイリッシュマン」でも既に見ているので正直そこまで目新しくもない(90年代に観ていたら度肝を抜かれただろうが)。

 

ジェリー・ブラッカイマー印の大味アクションもレベルは高いが既視感ありで斬新さも特になくバイクアクションがピーク、バイクチェイスはハイスピード&アクロバティックな攻防でかなり興奮させられる、カメラワークにも工夫がありFPS視点になったり長時間背後からバイクチェイスを追ったりとスピード感と臨場感が味わえた。

今作は中国資本が大量に入っていて基本的には新技術を披露する試験的作品との位置づけなので、話よりも技術を分かりやすく万人に伝えるのが目的であれば十分なのだろう。中国のハリウッド進出には目を見張るものがあるが共通して言えるのはやはり脚本が伴っていないこと、単なる模倣ではなくそろそろオリジナリティを確立していかないと今後の本格的展開は厳しい気がする。今作のアン・リー監督は新技術を試したい雇われ仕事と割り切るしかない。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・コメント】

映像については高解像度が撮れるカメラを採用していて、ハイフレームレート撮影なので120fps(1秒間に120フレーム)という通常の24fps(1秒間に24コマ)の5倍という別次元の滑らかで新鮮な映像が撮れるとのこと。ただ残念ながらこの機能を充分に引き出せる映画館は日本ではドルビーシネマ3館のみで、実際に見ないと意味なし、ブルーレイで観たので正直あまり分からず。

確かに精巧なCGは一段上のレベルで全編に渡って使うのは凄いとは思う、CGヤングスミスのナチュラルな表情で泣くシーンも違和感なく、人間離れしたアクション動作も見応えはあった。とは言え結構CGだと分かる箇所もまだまだ多く安っぽさも感じてしまう、スタントマン使って顔だけ変えればいいのに全身フルCGだとやはり動きがおかしくなる。今作はちょうど「ターミネーター ニューフェイト」と公開もレンタル時期も重なっているので、映像技術はお互いに被ってつぶし合っている感もあり残念。

 

話もせっかくのクローンというタブーを扱っているのに、クローンによる生命倫理的な問題には全く触れられず、結構すんなり受け入れられていて、予想できる範疇を越えないのが物足りないところ(初めてクローンと対峙するシーンが一番のピーク)。ただ、ウイル・スミスの自分とクローンの二役の違いわけの演技はさすがで、見た目だけじゃなく喋り方の些細な違いを出してCG以外の点で魅せていたのは良かった。

タイトルの「ジェミニ」は「ふたご座」なので、2人の似たような男を意味しているのだろう、一流のアクションスターはみんな「自分VS自分」を戦って来ているが一度はやりたいことなのだろうか(笑)、シュワちゃん、ヴァンダム、ジャッキー・チェンジェット・リーなど。

そもそもウィル・スミスのクローン役なら実子ジェイデン・スミスで十分ではとも思ったが(「幸せのちから」と「アフター・アース」で共演済)、この企画自体は1997年より前からあったようで技術的な問題がクリアになるのを待っていたらしい。。

 

【(ネタバレ)ラスト・コメント】

悪の総結社を倒すクライマックスの射撃戦は見応えはあったが、ヒロインのメアリー・ウィンステッドとのコンビだったので、ヤングスミスとの連携がなく二人のコンビでの無双をもっと見たかった。彼女は可愛かったがとても出来る感じには見えなくて銃などの取り回しやアクションシーンもこななれておらず残念。

観ていないが吹替版の菅野美穂がそうとう酷いらしく、全然緊迫感もなくキレがなく声量も足りないとのこと、やはり演技の上手さとは別物なのか、やっつけ仕事だったのか。ウィルの吹替は江原正史と山寺宏一の対決なので聴き応えありそうだけど。

ヤングスミスの心変わりが割とあっさりすぎたのでもうひと工夫欲しかったし、3人目が出てきて軍隊を作ろうとするのもありきたりで最後も簡単にやられてしまうので盛り上がりに欠けた(いっそのこと3人目は年寄りのスミスにするとか、3人目がオリジナルで現スミスもクローンだったとかの設定でも良かったのに)。

ラストは、いつもの家族オチでヤングスミスも大学に通って普通の生活を満喫するハッピーエンドだった。お互い自分の複製が存在してるといった不気味な感覚がありそうだけど、ヤングスミスの気持ちやこれまでの人生を思うとこれからは幸せな人生を送って欲しいので特に気にしないでいいのかな。

 

昨年末の紅白歌合戦AI美空ひばりはかなり不評だったが(新技術の挑戦番組ならいいけど、歌合戦で本人として出るのはおかしい)、今作のヤングスミスを観るとやはり制作費が違いが明らかで映像のクオリティ・ヌルヌルさのレベルがケタ違いだった。

これを見せられると過去の素晴らしい役者たちを蘇らせたくなる気持ちも分かるが、個人的には故人の当時でしか出来ない演技を無視することはやはり反対せざるを得ない。しかし、もっと安く普及してくると本格的に下手ないらない役者はCGに取って代わられそうだな。。