★【総括】
2018年の邦画は豊作でレベルが高くベストはかなり悩んだ。1位から5位まではジャンルが違うので比較が難しく、実質どれが1位でもおかしくない。
それでも①「万引き家族」は社会的テーマを軸とした脚本・演出・役者あらゆる完成度が総合的に高かった。③「カメ止め」は素直に面白くSNS時代(⑫も口コミで拡大)と映画館での一体感の良さを改めて感じた。
新しい現代的なセンスの恋愛映画②⑨⑪、暴力や権力/弱者のコンプラに挑戦した⑥⑧⑩⑭、女の子の百合要素や音楽の力を表現した④⑬⑰、喪失からの再生・成長を描いた⑤⑦⑫、青春への圧倒的な熱量の⑤⑩⑯⑱、どれも見応えがあった。
ただ、樹木希林さんと大杉漣(教誨師を見損ねた)さんの作品を今後もう見られないことが残念で仕方ない。
①「万引き家族」
世界共通の普遍的な深いテーマ、見えない人達をしっかり浮かび上がらせた脚本、自然体を徹底的に追求した演出、それに呼応した子役含め全俳優陣の想像力あふれるアンサンブル等、どれをとっても稀に見る一級品で是枝監督の集大成。
食事シーンの重要性や生々しい性(ソーメンからの流れ最高)やスイミーの演出、汚さ含め細かい美術のリアル感、父から子への継承、母性の変化、血縁と家族の再定義、いろいろと考えさせられる。
海や見えない花火シーンの多幸感から後半の現実的な崩壊と成長、尋問室の安藤サクラの泣きなどとにかく必見!
②「寝ても覚めても」
長年追い続けた濱口監督の商業デビュー作、人は人のどこに惹かれ何を愛するのか? 本能と理性、理屈ではない愛の衝動をスリリングかつ繊細な人間描写で訴えかける。
会話劇と強度の高いショットは健在で終盤の美し過ぎるロングショットからラストの余韻までカメラワークや演出、脚本、すべて冴えわたり、tofubeatsの曲・詩も秀逸。
共感できない人も写真や戯曲の意味、海と川、日常と非日常、自己と他者、水平と垂直、震災前後など対の演出、余白の深い考察で楽しめるはず。
③「カメラを止めるな!」
流行る前情報なしに見て、前半の37分ワンカットに感心・違和感を感じつつ、後半の爆笑の畳み掛け・涙のエンドロールに興奮・感動しまくり。
キャストやスタッフ全員の想いや映画愛・親子愛、組織で何かを作り上げる素晴らしさを実感させられ、映画館の観客全体での一体感・多幸感は最高だった。
何より映画を愛する者として、アイデアや情熱があればヒットし世界に通用することを示した日本映画希望の光となったのが嬉しい。
④「リズと青い鳥」
前作「聲の形」に続き監督山田尚子と脚本吉田玲子の天才コンビ二人によるアニメの枠を超えたとんでもない傑作。
緊張感を保ちつつ二人の繊細な感情の動きをセリフに頼らない足や目線の動き、音楽で語るなど細かい描写で演出、音響も素晴らしい。
絵本と抽象世界と連動しながら終盤の演奏シーンからラストへの関係性の変化、青春の愛しさと残酷さなど、一つ一つのシーンの情報量が多く見るたびに発見があり鳥肌もの。
⑤「ちはやふる-結び-」
間違いなく青春映画の金字塔、漫画も終わってない3部作完結編として本当に完璧。
キャストの演技も前回からの成長踏まえ全員すばらしく、競技かるたのゲーム性を適切にスムースに説明する手際の良さ、コメディ演出の切れ味、何より高3という時期の人生・将来への葛藤と瞬間のときめきを見事に切り取った大傑作。
「一瞬を永遠にとどめる力」、かるたでありこの映画であり今を全力で生きる人たちへ応援歌。
⑥「孤狼の血」
往年のヤクザ映画の復活としてはベストでコンプラ無視の気合十分、監督お得意のバイオレンスは様々なグロシーンを盛り込み、主役二人を含め役者陣も真に迫った迫力で見応えあり。
ストーリーもお互いの真意が明かされたその答えに気付いた際の涙と嗚咽までの展開、何が正義で何が悪なのか、強者と弱者の差が明確な現代社会にも鋭く突き刺さる。
昭和60年ごろの美術・雰囲気の再現も見事で続編も大いに期待。
⑦「鈴木家の嘘」
監督の実体験を元に家族の自殺を受け止めるという重いテーマ、残された人たちの葛藤や罪悪感などの心情に丁寧に寄り添い、じわじわと心を揺さぶってくる。
コミカルとシリアスの使い分けの緩急、とにかくカットの積み重ねが丁寧で、様々な伏線の回収含め構成の仕方が上手い。
ベテラン役者陣や妹役の木竜麻生、Akeboshiの音楽も素晴らしく、橋口亮輔(影響あり)などのベテラン助監督だけに初作品にていぶし銀の完成度。
晩婚/差別/格差などの社会問題と出口の無い閉塞感の中、みな常軌を逸して歪んで痛々しく共感できる余地などないのに、真っ直ぐで不器用な愛の形に引き込まれる。
交わらない愛の不合理/不条理性を生々しく下世話に笑いと性と暴力の地獄絵図で強烈に描く、木野花の鬼婆ぶりが圧巻。
同位でもう一つの吉田恵輔監督オリジナル作品。家族という呪い、一番身近な他人である兄弟姉妹の面倒くささや喧嘩のメカニズム、愛憎を丁寧に描く。
何もかも違う2組をカットバックで常に対比し、あるある共感と爆笑の連続で全く退屈させないで全ての感情が爆発する終盤への展開・ラストも良い。
4人のキャスティングも見事にマッチして完璧。
⑨「きみの鳥はうたえる」
人生の中のモラトリアムな時間の心地よさとかけがえのなさ、いつかは変化し終わってゆく事の切なさ、ノスタルジックな世界と現実との境界線をスムーズに融合させている。
夏の儚さ・刹那的な空気感の表現、光の入り方、照明や音楽のセンスも抜群。永遠に続くようなクラブのシーンが圧巻で染みる。
3人の距離感・関係性の絶妙な描写、現代的曖昧さをもった3人の演技のリアルさ・ラストカットが素晴らしい。
⑩「菊とギロチン」
瀬々監督の構想30年の壮大なる骨太自主映画で役者スタッフ含め圧倒的な熱量で、主張は強引ながら青春群像劇としてもあっという間の濃密な3時間。
フェミニズムとアナーキズム、理不尽な社会を変えようとする人たちはいつの時代も力強い、権力・弱者差別・生きづらさなど少し当時と同じ空気感が漂ってきた今語られるべき内容も多い。
⑪「生きてるだけで、愛」
「生きてるって疲れる」躁鬱メンヘラ過ぎてイライラと辛さ・共感は見る人を選ぶが、ギリギリのエモーションが心に響き、一緒にいることの意味を考えさせられる。
16mmフィルムのざらついた寒々しい都会の片隅を表現した映像は美しく、分かり合えないからこそ、瞬間でも分かり合えたことの奇跡が愛おしくて毎日必死に生きていられるのかもしれない。。
とにかく趣里の体当たりの憑依演技がすごい。受けに徹した菅田将輝もさすが。
⑫「若おかみは小学生!」
子供向けアニメと舐めたら痛い目に合う、喪失からの再生、出会いと別れ、生と死、赦し、鎮魂など重いテーマを、小学生の女の子が酷すぎる試練を真摯にひたむきに働く様子を通じてシビアに描き、受け入れるまでの成長を温かく映す。
日常的なモノやキャラの動きなどアニメとしての完成度も高く、無駄なシーンが全くない90分の奥深さ、さすがの吉田玲子脚本。
いい子過ぎるのが今後心配になるが・・小林星蘭やボラン千秋など声優陣も良い。
吃音に音痴のコンプレックス、学校という窮屈で小さな世界の小さな話で、切実に何かをつかみ取ろうともがいて、その若さゆえの健やかな必死さが気恥ずかしくもまぶしい。
エゴのぶつかり合いで苦しい展開も、自分を認めてあげる強さと柔らかさをもつ大切さを感じさせる。二人の今しか撮れない演技も良い。
音楽の力、演奏する曲(ブルハとミッシェル)もツボだし、リアルでありつつラストの展開も好み。
⑭「斬、」
どこをとっても塚本監督の映画、前作の「野火」から現代に通じる「暴力の連鎖」を描く。時代劇でありながら主人公が人殺しの道具としての刀で人を斬るバイオレントな殺し合いだけに特化している。
演出も全てそのためにあり、殺陣のシーンの撮り方や音響(音楽と効果音)は時代劇らしからず、緊張・切迫感が独特。
池松壮介の色気と蒼井優の泣き声、題に付く読点には見終わって納得させられる。
⑮「日日是好日」
淡々としたストーリーの中に、奥ゆかしい時間の流れや人の一生の儚さ、何気ない日々の大切さ、特別なことがなくてもいい、そんな当たり前のことをお茶を通して静かに語られていた。
改めて茶道の奥深さ、所作の美しさ、庭木、和服、日常の音、わび・さびの空気感と日本の素晴らしさを確認でき、五感を使って全身でその瞬間を味わっていきたいと思う。
希林さんの言葉すべてが染み込む、ありがとうございました。
⑯「止められるか、俺たちを」
ぶっ飛び若松組のあの時代の熱量がビンビンに伝わるが、若者の何かをしたいがその何かがわからない葛藤や悶々としている世の中は今も変わらない。
映画を観るのと撮るのは180度次元が違う、エモな放尿シーン含め反骨魂は白石監督が継承か。男らしい門脇麦と成り切り井浦新が良い。
⑰「ミスミソウ」
攻め切ったバイオレンス描写(グロいけど痛みは不思議と感じないで爽快感が勝る)、田舎の閉塞感、キャラ立ち、真っ白な雪の中での赤いコート・血など色の演出、主人公の凛とした美しさと存在感が際立つ。
原作からラストの改変で復讐・暴力の後とその先にあるものをきちんと描いたのも見事。
⑱「アイスと雨音」
74分ワンカットで1か月を描くのはカメ止め以上のレベルで斬新な構成、舞台を観ているような感覚に陥り、虚構と現実が曖昧になる瞬間も、瑞々しく、痛々しいほどに真っ向勝負の監督・役者の熱量が半端ない。
馴染みの下北、MOROHAの歌語り、主役の演技、終了カット後の自然な抱き合いに感動。
⑲「ペンギン・ハイウェイ」
ポスト宮崎駿として新しい才能、この摩訶不思議な世界観・想像力の映像化は見事。お姉さんとおっぱいとペンギンと海・世界の果ての謎に挑む少年のひと夏の冒険成長SF。
アニメの表現力、深い考察も楽しく、知的探究心と答えを見つけるプロセスと行動することの大切さを思い出させてくれた。
⑳「来る」
中島哲也監督らしいポップで早いカット割りの悪趣味演出と現代社会が抱える病巣への嫌悪など、やりたい放題詰め込んだホラーエンターテイメント。
前半の霊的というより人間の怖さ醜さから終盤の大祈祷バトル祭のぶっ飛び展開にアガった、豪華俳優陣も楽しんでたが柴田理恵がハマってた。