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「初恋」 ★★★☆ 3.9

三池崇史の原点回帰で何でもあり「トゥルーロマンス」、日本のハーレイ・クイン、ベッキベキのベッキーを観るべっきー、ワンナイトカーニバルで生き残るのは誰だ?

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ザッツ・三池崇史エンターティメント!、最近は何かと実写化作品「テラフォーマーズ」「ジョジョ」「ラプラスの魔女」などで失敗続きだが、いつもの三池監督であり良い方の三池監督の原点回帰的な作品だった(個人的にも「DEAD OR ALIVE」「ビジターQ」「極道恐怖大劇場 牛頭 GOZU」など初期のぶっ飛んだ作品が好き)。

良くも悪くも職業監督としてはブレが無く、どんなものであろうと断らずオファー順に仕事を受けて希望どおりの内容で予算内・期限内にきっちり撮り切るのは凄いし、最近では子供向けの「秘密戦士ファントミラージュ」までも手掛ける幅広さ。

今作は東映孤狼の血」プロデューサーの肝煎りで三池監督に”好きに撮らせろ”とオファーしただけに、昔ながらのやりたい放題でポップ、ユーモア、任侠アクション、キャラクター全てに魅力的な要素が揃っていて、本気になればさすが海外含め高評価されるエンタメ作品となっている(カンヌ正式出品)。

 

ストーリーは単純で、余命宣告された孤独なボクサーが道端で偶然救った女と共にヤクザの抗争に巻き込まれていく一夜の出来事を描いている・・寡黙なボクサー、仁義に厚い武闘派ヤクザ、組織の裏切り小物、暴走するキレ女、中国人マフィアに悪徳刑事が入り乱れ、それぞれ己の欲望のまま突き進み殺しまくる。

とにかく全員のキャラクターが魅力に溢れていてクレイジーなので重くならず、テンポよく話が進んでいき、初期タランティーノ映画にも通じるバイオレンスと笑いのバランスも絶妙、結構残酷な場面でも思わず笑ってしまう演出と役者陣の熱量に引っ張られて最後まで楽しめる。

主演の窪田正孝はもちろんだが、染谷将太の虚勢な間抜けぶりとベッキーの純粋な怪演ぶりが最高すぎて異次元世界に入り込んだ感じ、三池作品らしく大量に人も死ぬしグロいシーンもあるので合わない人はダメで万人向けではないが、何も考えず楽しめるエンタメ作品としては見事。

それでもこの手の「韓国映画」には敵わないし、展開も読めるし令和の新しい時代性は全く感じないけど(20年前なら傑作だったかも)、ラブストーリーを成立させるためにヤクザものを絡ませた唯一無二の恋愛初恋物として・最上級のB級映画として観るべき。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・コメント】

キャラクターは多いけど全く話が渋滞しない作りで、巧妙なプランがひとつの歯車の狂いで破局に向かっていく前半、惜しむらくは中盤が少しダレるが、終盤に向けた激闘までノンストップで分かりやすく駆け抜けていくのは見事。

全体の構図を見せる引きのカットが多く、カメラも固定されたカットが多いので、暴力的で残虐なシーンが派手に展開するわりには落ち着いて観られる。

三池作品に付き物の悪趣味なギャグも、今作ではまあ引かない程度に抑えられていて、どちらかと言えばオフビートなギャグの方が冴え渡っていたかも、特に電車の中でパンツ一丁のセクハラ父さんがエイサーを踊り出すシーンのシュールさには爆笑してしまった。ここの沖縄民謡といいディジュリドゥといい無国籍な音楽もキマっていた。

いかにも古風な昭和ヤクザや、高倉健に憧れる中国系マフィアの女性(仲間由紀恵にしか見えない)、一方で昔のヤクザをバカにしたように振舞う現代キャラを入れることで、荒々しく雑多な東映感やVシネマ感も引き出されていた。ツッコミどころは言えばキリが無いしリアリティについては最初から割り切っているのでエンタメに徹したと思えば気にならない(そこを気にする映画ではない)。

個人的にはバイオレンス描写がもっと過激でも良かったし、ベッキー染谷将太の死に方ももっと面白くできたはず、組のボス同士の戦いの背景が弱いので途中から「何でここまでして闘っているのか?」と思ってしまったのが少し残念。

 

【役者】

とにかくベッキーインパクトが凄かった、元々目が大きくクリクリなので、ひん剥いた時の完璧にイッちゃている感が怖いし、夜の歌舞伎町をボロボロになりながら裸足で疾走する姿には、これまでの鬱憤を晴らすかのような怨念も感じられた。特に服で首を締め一本背負いからの「てめえ人のパンツに血ぃ吐いてんじゃねぇよ!もう履けなくなるだろうが!!」と叫びながら頭をガンガン踏み潰して刀で首を切り落とすシーンなど最高。前作の「麻雀放浪記2020」のロボットよりも断然今作のバイオレンス&クレイジーの方が良くて、これからが楽しみな女優になったかもしれない。

そして、染谷将太もかなりキャラが濃くて美味しいところを全て持っていく怪演中の怪演で絶品、淡々としてるヤバイ奴感ありありで、一見知的で腹黒い策士のようで失策続きで行き当たりばったりで運よく逃げ延びる様が面白かった。この狂言回しとして物語を引っ掻き回す見事な小物ヤクザ感は彼にしか出来ないだろう。

この二人が目立っている分隠れてしまっているが、窪田正孝の「普通」を醸し出す演技も見事、無気力で情けない様から徐々にカッコよく熱くなっていく様を目などセリフ以外で語っている。そして何よりスリムな鍛えられた肉体美は男でも惚れてしまうセクシーさ。

ヒロインは新人の小西桜子で、体を張って頑張っていたが飛び抜けたものは感じられず、まだこれから、パッと見は前田敦子佐津川愛美に見えて仕方なかった。

ダブルのスーツに日本刀を振り回す「ザ・ヤクザ」な内野聖陽はしびれるほどにカッコよく凄みと存在感もさすが、最後の不死身感もなぜか違和感なく美味しいところをさらっていった。

その他、大森南朋のあたふた小物感や、ディーンフジオカの妹・藤岡麻美も良かった、アウトレイジ最終章では死にそうだった塩見三省が組長代理で復活してたのもグッときた。

 

【(ネタバレ)ラスト・コメント】

全員集結してのラストバトル、だだっ広いホームセンター(ユニディ狛江店)を血みどろの舞台にするのもナイスだったが、せっかくいろんな道具が置いてあるのに武器として活用しないのは残念だった。銃と刀にこだわったのだろうが、金づちや電動ドリルなどの殺しのパターンも見たかった。

そこから警察も駆けつけての脱出はさすがにどうするのかと思っていたら、まさかのアニメーション展開には驚いた、まあ予算的なものもあり賛否両論あるだろうが、クレしん映画のクライマックスなどアニメならでは出来る表現になっていたので悪くは無かった。

二人を降ろして内野聖陽が一人乗った車が海上ハイウエイを朝日を浴びながら抜けていくシーンは美しく、「最後の極道に日の出は似合わねぇな」のセリフと共にウルッときた。まあ、それを追いかけるパトカーの数も多さや、その前の白い粉ヤクを撒き散らしてパトカーをまくシーンには笑えたけど。

長い一日のすべてが終わった朝、公園で血を洗い流す二人・・死んだように生きていたレオがモニカと出会って巻き込まれて、死ぬ気で守っていく中で一筋の光を見つけられた、自分の利益だけを追って争った奴らは全員死んで「仁」を持って人のために尽くしたレオは生き残ることが出来た。

そして、レオはプロボクサーとして再起するため、モニカはヤクを断つためお互い必死で戦う戦友となり、ラストでようやく普通に二人でぼろアパートの部屋に帰っていく、そう恋人としてここから新たな物語が始まるのだ。

このラストショット引きの画の美しさと情感の素晴らしさ、まさに「初恋」の甘酸っぱい気持ちを思い出させてくれた。人生の生きる意味を知って自分の人生にも初めて恋をしたということだろうか・・エンドロールも最後までカッコよかった。