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「コーヒーが冷めないうちに」 ★ 1.2

◆【酷評注意】酷い出来に「4回泣けます」、2回じゃダメなんですか? 怒りが冷めないうちにタイムリープして見なかったことにできるかな・・

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本屋大賞2017の候補になるなど川口俊和のベストセラー小説とその続編を基にしたファンタジーテイストの人間ドラマ。ある席に座ると自分の望む時間にタイムリープできる不思議な喫茶店を舞台にしたオムニバス形式のヒューマンドラマ。

 

ここ数年キャッチコピーは「あなたは必ず騙される、このラストに感動する・涙する」とか映画の紹介ではなく、観客の感情を煽動したり決めつけるものになっていて、本作の「4回泣けます」で、とうとう泣く回数を指定されるようになった(3回は不十分?5回は泣きすぎ?)。

この手の宣伝に頼る映画は大抵スベるし、個人的には嫌い、当たり前だけど個人の感想なんて人それぞれ違うので分かるはずがない(本当にタイムリープして確認してきたのなら分かるが・・)。

なので、嫌な予感はしていたが、見た結果、4回どころか1回も泣けず。全体的に作りが甘すぎるのはもちろん、問題は独自ルールを多く設定しているのに、それが物語を運ぶための都合のいいルールに変わっていくこと。矛盾だらけでドラマとして見ても完成度は低く、TVドラマ的泣かせ演出のごり押しや過剰な音楽に泣くどころかドン引き。4話のオムニバス(1話ずつ泣いて4回)なのだが、まだ何とか2話だけは役者の力もあり見られたレベル。監督は塚原あゆ子TBSドラマ「アンナチュラル」の演出は冴えてたのに・・やはり映画となると厳しいのか。

 

本作の肝であるタイムリープのルール「過去に戻って、どんな事をしても、現実は変わらない」、これはタイムパラドックスを生じさせないための設定として重要。確かに起こったことは変えることができないが、人の思いを変えることは出来る。そして現在と未来はまだ開かれていて、自分の力で作り上げていくことができる。それぞれの登場人物が過去や自分と向き合い未来に向けて前に進み始める、その姿に感動し明日を生きる勇気をもらえる映画となるはずだったのだが・・見始めたらコーヒーが冷めないうちに気持ちが完全に冷めてしまった。

 

【演出】 多少は目をつぶっても、突っ込みどころ満載

・コーヒーを飲んで定期的にトイレに行くだけの幽霊って・・普通に幽霊を見ても大して驚かない客たち。そもそもメインキャスト以外の一般の客がほとんどいない。カフェのマスターいとこのお兄さんも役割が薄い。

・コーヒーがあまり美味しくなさそう、天井から垂れてきた水滴が落ちてコーヒーに入って時間が過去に戻るという・・・

・光が指す水の中に人がゆっくり美しく落ちていく・・画的に「シェイプ・オブ・ウォーター」そのまんま。

・役者に対する演出不足、活かしきれず下手に見える、特に若手俳優は台本の台詞をそのまま読んでるだけ、表情・間の取り方など酷かった、ベテランとの差が激しい。

・場面と合ってない壮大な音楽を使っていて、ここで流しておけば気持ちが盛り上がって「泣くでしょ」感が露骨すぎ、「笑うところ」の音楽のセンスの無さは逆に笑える。

・基本カフェ内の撮影が多く空間の広がりがない、それでもカメラワークを工夫すれば良いのに、ひたすら俳優のどアップばかりで、テレビドラマと同じ。

・中途半端に笑いを取りにいったギャグ?が本気でつまらない。喪服を着て反り返って「マトリックス!」と叫ぶ、シェーのポーズをして「口から出まカフェ!」とか役者も心入らずかわいそう、いったい誰が笑うのか・・

・何年も経っているのに、有村架純、吉田羊、波留、石田ゆり子の女優陣をはじめ、みんな全然変わらず老けていない。

・大学の仲間たちが意味不明、誰一人キャラも名前もなく顔すらちゃんと写さず。有村架純伊藤健太郎が恋人になるまでが雑すぎ、何で有村架純はいかにもそこの大学生みたいに振る舞ってるのか?サークル仲間に普通に入ってるのか?

 

※ここからネタばれ注意 

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【(ネタばれ)ラスト・考察】 各パート

①波留:幼馴染で友達以上恋人未満の男との恋の話

関係がセリフでしか説明されないため、お互いの背景・心情の変化が全く分からず。お互い恋人はいるけど意識はして本音を言い出せないありがちの展開。よく分からない男女の恋には何の感情移入もできないのに、コーヒー飲んで過去に戻って最終的にしたことが「LINEで気持ちを伝える」!? 見てる方はLINEで告白されても何も盛り上がらないし、これで本当に泣ける人がいるなら出てきて欲しいくらい。。自分の方がおかしいのか知りたいので、いやほんと何で泣いたのか教えて下さい。

 

②吉田羊:死んだ妹と仲直りしたい話

何故あんなに妹を避けていたのか全く分からないし、手紙も読まないとか酷すぎるし、不慮の事故で死んでしまってから後悔・反省している、と言われても、同じく背景・心情が分からないため、ただ妹がかわいそうと思うだけで吉田羊には全く感情移入できず。死んだ人に思いを伝えられず後悔していたり、もっと一緒に過ごしたかったという気持ちは分かるけど、これも泣けない。

 

松重豊薬師丸ひろ子認知症の妻を介護する話

良い話ではあるので、一般的に泣けるとしたらここかな(4回泣くならここで2~3回稼ぐしかないはず)。ただ、これは演出としてではなく、あくまでも「役者の演技力」での感動。松重豊の表情が非常に繊細で、特に強がって大丈夫と言ってる表情が笑ってるのに堪えきれない絶妙な感じが素晴らしい。薬師丸ひろ子も淡々とした認知症度合いを、表情や声でうまく表現していた。「今出来ることをちゃんとやる」人生後悔しないためにも当たり前のことが難しい。

ストーリーとしては矛盾あり、現在に戻ってきた松重豊は「過去」で受け取った薬師丸ひろ子からの手紙を持って帰ってきていて、間違いなく過去が改変されてる。手紙を受け取れなかった過去が、手紙を受け取ることができた過去に変わってしまっているのだが・・

 

有村架純:母にもう一度会いに行く話

まあ正直、座っている幽霊(石田ゆり子)が母親なのは何となく気付いてしまうが。それよりも突然ここにきて都合のいいように、タイムリープできるのは過去だけでなく未来も可能などという完全にこの話のために設定した新ルールが登場。本作のテーマは「過去は変えられないけど、未来は今の自分を見直すことで変えていける」だと思っていただけに未来へ行けるとは何のことやら??

時をかける少女」のように有村架純・数と伊藤健太郎の娘(未来と書いてミキ、未来のミライ!じゃん)が未来からやって来て、数のためにコーヒーを淹れて、彼女を母親と過ごしたクリスマスの時間まで戻してあげる。そして数はようやく自分の過去を清算することができたのだが、これは「過去が変わっている」ことになるのでは? そもそもどうやって、娘が来て席に座れる日時をぴったり合わせることができたのか?

数の母親は、数が「今」を生きていないことの表れであった。彼女はずっと過去に囚われていて、今を生きることができていなかったが、タイムリープによって「今」そして「未来」という時間を取り戻した。だからこそラストシーンで、母親の姿は喫茶店から消えてしまったのであろう。

個人的には、母親が未来に行ったのが共感できず。自分がいなくなって心配なのは分かるが、普通に考えれば会ったら子どもが泣いて引き留めることぐらい分かるだろうに。。

 

そしてラストのラストで、今までの登場人物たちが新しく変化した生活とともに現れるのだが、それぞれが観客にカメラ目線で語りかけてくる。

「過去は変えられないが、未来に向けて今をしっかり生きよう」、この映画のメッセージをあろうことか役者を使って言葉でベラベラと話していくのには唖然とした。。最後の最後まで全てのものが薄っぺら過ぎた。。

「この映画を見た過去は変えられないが、未来に向けて今をしっかりと受け止めよう」

実際には泣いたという人が多いのも事実なので素直に見れば良かったのだ、有村架純は可愛かったし、松重豊薬師丸ひろ子の演技は良かったので、これでいいのだ!