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年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「ハードコア」 ★★★☆ 3.5

◆「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ、ポイズン♪」間違ってることは間違ってるって言って何が悪いんだよ-NGT48-「きっと今は自由に空も飛べるはず♪」

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30年前に書かれた狩撫麻礼原作の伝説の漫画を、プロデューサーも兼ねる山田孝之山下敦弘監督のお気に入りで企画し、向井康介脚本の久しぶりのタッグで映画化。シュールとシリアスの間をゆるーい雰囲気で進んでいく、笑えるかどうかエロシーンの多さや終わり方も含め好き嫌いは分かれる作品。

あまりにも純粋過ぎて不器用で世の中では通用しない男たちのリアル、自信がないことを世の中のせいにしながらハードボイルドを逃げ口にごまかす。間違っているのは彼らか?世の中か?

原作がその辺りの時代設定なのか埋蔵金に衛星電話、ブリキなビジュアルのロボットと90年代感が強く、そのころの邦画によくあったなあって懐かしいチープな感じで「ザ・昭和の男」には響くはず。

本気でケンカしながらもセリフや態度からわかる右近・左近の兄弟愛、右近が牛山を大切に思う雰囲気、そこに加わるロボットのロボ男の関係性がとても良く、山田孝之佐藤健荒川良々というキャストもハマっていて顔芸・キャラ芸は見どころあり。

ただ、深夜ドラマのノリとテンションはいいのだが、ストーリーに抑揚がなさすぎて終始盛り上がりに欠ける(ロボ男が出てきて話が進み出すのに30分もかかる)ので、もう少し突き抜けてぶっ飛んだ作品にして欲しかった。結局いまいち右翼団体のメンバやその娘の存在意義とテーマもあまり見えてこなかった。

 

「間違ってることを間違ってるって言って、何が悪いんだよ」「間違ってるのが世の中。その中で要領よく生きていくしかねぇだろ」「俺はちゃんと生きたいんだよ、間違っているのを正したいだけなんだ」・・・間違っていることを間違っていると言ってしまうと孤立してしまうこの世の中で、リア充でも無い人間にはチャンスが巡ってきてもうろたえるだけの厳しく悲しい現実、幸運の神はつかめる人間だけにしか微笑まない。

世間の底辺にいるどうしようもないダメな人々をシュールなオフビートで映していくのは、山下監督の初期の作品に近く、「どんてん生活」や「ばかの箱舟」を思い出した。右近も気持ちは強いが信念というほどでもなく行動に移せないダメダメ人、ゆえに愛くるしく思ってしまう面もある。

下ネタ・エロシーンは思った以上に多く、特に山田孝之テレフォンセックス長回しは最高で、相手役・石橋けいのエロい事エロい事…電話口でいやらしい音をたてるのは演技?を超えていて、劇場だと笑いをこらえるのに必死だったかも。

あと、佐藤健が夜のオフィスで夜窓に映る自分を見ながら虚無的に女と立ちバックするシーンは、なかなか貴重だしファンには衝撃なのでは。夜の貴婦人セット、3万7千円も気になって仕方ない・・

 

【役者】

右近・山田孝之のキャラクター造形は相変わらず楽しく、死んだような目と狂気を奥に秘めた目の使い分けが素晴らしい、こんなダサくてカッコよい役は、山田孝之にしかできない。

左近・佐藤健は実際の人柄はこの役に近いのではないかと思うくらい力の抜けた演技が良く、優男や冴えない男より合ってる気がする。

牛山・荒川良々も少ないセリフながら笑いを一手に引き受ける存在感バツグンで得意分野、彼以外にやれる人いるんだろうか?ってぐらいのハマり役。他にキャラがかぶる人がいないのは本当に強み。

あと、松たか子も出てくるのだが、まさかの無駄遣い感にビックリ、カラオケ「今すぐKiss Me」もっと聞きたかった。

 

※ここからネタばれ注意 

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【(ネタばれ)ラスト・考察】

水沼にはめられた右近と牛山は、警察に包囲されたが、プログラムに無い感情に目覚めたロボオがある答えを導き出す、二人のような純粋な存在はこの世界で生きていても苦しむだけだと、2人を抱え空へと発射し爆発して粉々に。そして結局、左近は死んではなく、埋蔵金の現金化に成功して戻ってきたがそこに2人の姿は無かった。これでいったん「完」となる。

そして、更にこのあと原作にはない映画オリジナルのラストがあり、右近と牛山はどこか南の島にいて、牛山と原住民との間にできた子供のお産に立ち会い無事に産まれ、その横には壊れたロボオが横たわっていた。。

世間の一般的価値観と相いれない右近たちが最終的にたどり着くのが、どこかの孤島での原始的生活、資本主義社会からの解放という意味ではありだが、果たしてそれが本当の救い・未来につながるのか? 個人的には原作のまま問いかけで終わった方が良かったかな。

それとも、やはり「完」で終わっているので、その後はもう一つの並行世界か夢想した世界を描いているという解釈でもいいのかな。

エンディング曲はおしゃれなovall ♩、ぜんぜんハードコアじゃないのは狙いなのか?

 

AIや量子コンピューターなどの人知を超えた力でも全ての最適解を出すことは難しい、NGT48のように本当に正直な人間が生きていけないなんて悲し過ぎる。必ず一人ひとりの近くにいる「ロボオ」を見つけて、自分らしいハードでコアな部分を持つことで「間違っていることは間違っている!」と普通に言える世の中にしていかねば!

 

エンドロールで「特別協力 深田恭子」とあり、思い出したら部屋に深キョンのポスターが貼ってあったところかと納得。