映画レビューでやす

年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「チワワちゃん」 ★★★★ 4.1

青春の自爆テロ!エモいパリピたちの華々しさと儚さ、刹那的に輝く一瞬の先にある普遍性、「ああ無常」「限りなく透明に近い薄っぺらいブルー」

 f:id:yasutai2:20190710181138j:plain

「へルタースケルター」から「リバーズ・エッジ」ときて「チワワちゃん」、岡崎京子の30ページ程の短編を二宮健監督が映画化。原作では1996年のギャルがアイコンとして成立していた時期の裏原宿の全盛期を描いていたが、今作は岡崎京子ワールドを現代若者に変換させて、今も変わらぬ青春の儚さを独特の映像表現で描いている(でも個人的にはやはり岡崎京子は90年代の空気感がベスト)。

全体的に人間関係も話の内容も薄っぺらく、バラバラ死体で発見されたチワワちゃん、誰も知らなかった彼女の本当の姿を各人との対話から探っていくことで、自分の青春も振り返っていく。

昔も今もチワワちゃんのような子は存在するし、ただ何となく仲間内で楽しんで集まって流行りにのって…今が楽しければOKだけど、そんな楽しい時間は長く続かない、必ずパッと弾けた後がある。今作はそんなチワワちゃんとその周りで踊っていた・踊らされた若者たちの一瞬の眩しさとキラキラ感、その裏にある刹那的で破滅的な孤独感と虚無感を共有できるようになっている。

この世界は実際には東京の限られた一部の若者がメインで、地方の田舎や一般的には、絶対に関わりたくないけど、こんな青春も楽しそうという憧れのようなもの。現実には真剣に恋愛したり夢に向かって頑張っている若者の方が圧倒的に多いはず。

 

チワワちゃんは最初からヤバい感じ全開で美男美女だらけのパリピな若者たち(3日で600万円を使いきってみたい)、最初は共感できないと思いつつ、各人からそれぞれ異なるチワワちゃん像(バラバラ死体のように)が語られるところは面白く、何だかんだみんな彼女のことが好きなのは、彼女が何か仲間や愛に飢えている部分があり、裏表なく素の自分で生きていたからだろう。

何者かにはなりたいけど、何を目指せばよいのか分からず、空っぽの世界でイケてる仲間とイケてる自分を演じる。寂しいが故に集まってくる人たちの薄っぺらい友情とも愛情とも呼べないようなつながりが唯一の安心感だったのかもしれない。

あんなに一緒にいても結局、相手のことを何も知らなかった、知ろうともしなかった。本名も知らず、SNSでしかつながっていない関係・・ああそうか、よく知らないからこそあれだけ何も考えずに馬鹿な盛り上がりが出来るのか・・本当の親友だったら出来ないのでは。

だからこそ、ラストの港のシーンは本当に美しく物哀しい、飾ることなくありのままの自分でのビデオレターは誰に響いているのだろうか?、これが最後の別れの集まりになるのか、「じゃ、またね」と言っても、どこまでが本音なのだろうか?

 

監督の二宮健は91年生まれの新進気鋭、BiSHのMV監督として有名なように、映画もいい意味で壮大なミュージックビデオのよう。

前作「THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY」も、クラブで乱痴気騒ぎに興じる若者たちをスタイリッシュなMVのように撮る演出や都会の風景の美しさが目をひく作品だった。この色使いと照明・光の入れ方は唯一無二の二宮ブランドになっており、テンポ良くバンバンカットを割っていく編集、抜群のタイミングで入ってくる音楽などのセンスは本当に素晴らしい。得意のクラブシーンなどでの色彩と音楽の洪水に襲われてる感・トリップ感は凄いし、主題歌:Have A Nice Day「僕らの時代」や挿入歌:Pale Waves「Television Romance」なども最高!、あとスマホの魅せ方も秀逸。

脚本家のセンスも持っているのか、原作のたった34ページから拾い上げた「チワワちゃん」を見事にキャラクター化し、2時間の映画に膨らませてまとめ上げたのも見事。

監督がこの映画は「アマデウス」、「市民ケーン」、「スプリング・ブレイカーズ」をイメージしたと言っていたが、なるほど納得。あとキャラは違うけど映像や編集などは中島哲也監督「渇き」や、やはり昔の「トレインスポッティング」などを思い浮かべた。

 

映倫区分がR15になっているが、個人的にはもっとハードにしないと中途半端な印象。過激な性描写を描こうとしてるのに、今作では誰も脱いでいないのは致命的、せめて胸は出そうよ(見たいだけではなくて作品的に)。新人には厳しいとしても、門脇麦はすでに脱いでいるので問題ないはずだし。

ただ、終盤の成田凌門脇麦を襲うシーンはリアル、全力手〇ンから、中折れして必死に取り繕うシーンが生々しくて印象的(下半身は嘘をつかないのだ)。

チワワ役の吉田志織はほぼ新人だが、まさにチワワちゃんそのもので、はまり役すぎ、逆にチワワちゃん以外できるのか今後が心配なくらい。

門脇麦は誰にもなれない誰かを演じるのが本当に上手いし、村上虹郎の純朴さも適役でエモい、玉城ティナも異次元に可愛くてチワワちゃんとのプールでのキスシーンは最高にたまらなかった。成田凌は今作もかなりぶっ飛んでいるが、クズ男を演じさせたらいま誰もかなわないほど飛び抜けている。

 

チワワちゃんは登場人物一人一人を表していて、同時に観客の我々をも表しているのかもしれない。

圧倒的情報量の現代社会、知っているのはほんの表面的な部分で精一杯なのか、最後に流れるニュースのように世の中のニュースの大半は、人が死んでもすぐに過ぎ去って新しいニュースに移っていく。結局誰も本音を語らず、誰も本質を知ろうとしないで、本当に大事なモノは失ってから気付く、言いたいことも言えないまま。

代わりなんてこの世の中にいくらでもあるからと逃げないで、いま大切な人と面と向かって本音で語り合うことが、人生においてかけがえのないものであるはず。

以下のセリフが印象に残る。。「私たちって、これからもずっと会い続けるんだろうな」って思った時が、きっともう会わなくなるサインなんだよ」、 「女の子は気を遣って疲れるし、男の子は消耗する」、「男とは価値観を共有できて、女とは距離感を共有できる」